広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。
ちょっと一話あたり短くします。
読んでくださる方、お気に入りに入れてくださる方本当にありがとうございます!今後もよろしくお願いいたします!


広西大洗奮闘記 6 向かうは

「今日だね。」

「はい。」

角谷と小山はあの電子音を待っていた。今日は大洗使用済み燃料再処理施設の使用が出来るか分かる日である。その結果によって大洗の運命は大きく変わる。朝の配給から2人はその音を待っていた。

「会長さん、配給終わりました。」

そこに華が戻ってきた。どうやら朝の配給は無事に済んだようだ。

「それで……連絡はありましたか?」

「いや、まだだ。」

「それでは、私は日本に関する提案についてまとめておきますね。」

「ああ、よろしく。」

華は自分の席でパソコンの電源をつけ、しばらくしてキーボードを叩き始める。

「それで、もし安全性に問題が無かったら日本にはどう言いましょう。」

「元々日本政府には何も言ってないんだし、何も言わなくていいんじゃない?」

「長期的でなくとも少し物資などは貰えませんか?」

「交換であげられるものがない。大洗の学園艦には相手から物資を得るにふさわしいものが無い。情報とかはすでに知波単が伝えてるだろうしね。それは知波単に対しても一緒だ。」

「確かにそうですね。」

「それに補給を受けちゃうとルール上倹約体制解除しなくちゃいけないから、1回解除してもう一度発令したら次は暴動が起きるよ。逆に解除しなかったら風紀委員が何を言ってくるか……」

「ああ……」

「これを使うようになるとしたら、交渉大変そうですね。」

「……」

かなりギリギリの文言を画面に表示させながら華がつぶやく。学園艦への長期的な食糧の援助と引き換えに保有している食糧全て、研究者として教師陣を派遣、戦車道履修者の陸軍入隊、その他諸々である。

とにかくあの西条が言ったスッカラカンが現実になるような文言だった。

「……これからどれを差し引いて日本が認めてくれるか、ですね。」

「厳しいだろうね。日本には負担を背負ってもらうんだ。そう易々と行くはずがない。」

「ですよね……」

彼女らは無線機の向こうから聞こえてくるであろう言葉を信じた。話をやめた華は再びキーボードを叩く。

小山は配給を今朝貰わなかった人の資料を他の生徒会の者から受け取り、再配給と日数増加分の計画を立てている。

「……この調子だと2日分くらい余りそうですね。」

「……2日か、そんなものだろうね。」

「やはり日本以外に行くとしても一月強で安定供給受けられる場所を探さないと……」

「うーん……」

「やはり、アジア圏から抜けるのは厳しいのでは?」

「そうだね、だったら前挙げた国の中から選ぶしか無いね。」

 

そう答えたその時、彼女らの耳にあの電子音が入って来た。3人の唾を飲む音が重なる。角谷がゆっくりと席を立ち、隣に向かう。ヘッドホンを耳につけボタンを押すと、声が入って来た。

「こちら船舶科の井上です。」

「どうも、角谷です。」

「先日仰っていた再処理施設の件ですが、」

いつの間にか隣から2人も集まっている。祈るように手を組み、成り行きを見守る。

「動かせます。問題ありません。」

「本当に?」

「稼働するのは問題ありませんが、そもそものウラン核分裂反応の効率が悪いです。」

「まあ、この船も古いからね……修理計画はバブル崩壊の時に延期になったって聞いたことあるし。」

「ウラン燃料の再処理にも力を入れますが、再処理燃料だけでは稼働できないですし、廃校騒ぎの時に学園艦から出て行った際に、エンジンの核分裂運動を収束させるようにしていたようで……やはり長距離の運行は厳しいです。」

「あの文科省の役人、嫌な爆弾残してったね。それで、どこまで行けるかい?」

「それは現在計算中です。ですが恐らくフィリピンくらいが限界かと……」

「……分かった。その結果を聞けてよかった。計算で結果が出たらよろしく。」

「分かりました。」

角谷はボタンを切り、ヘッドホンを取り外しふぅと大きく息をはいた。

「会長、それで……」

はいた分を大きく吸い込んだ角谷は部屋で叫んだ。

「大洗学園艦は、西に進路をとる!」

「……はい!」

その小さな部屋で、角谷は南西にこの学園艦の希望を託すことを宣言した。2人は祈りの形の手を力強く握りしめて返事を返す。

「それぞれそれに基づいて行動してね。」

「まずは中国ですね。」

「中国語を話せる人を呼ばないとね、誰かいたかな?」

「次の配給の時に募集かけときます!」

「りょーかい。えっと、他には、風紀委員呼んでくれる?」

「如何したんですか?」

「これから航海も長くなるから、暴動とかを抑える為に夜間行動を制限したい。」

「なるほど。」

「確かに原子力発電の力に現在の発電はそれなりに頼っていますから、節電出来れば航行できる距離が伸び、助けてくれる国の選択肢が増えるかもしれませんね。それに加えて治安維持に繋がるなら尚更です。」

「じゃあ夜7時から船舶科以外夜間行動禁止。それと節電のキャンペーンやろう。」

「7時、というのは?」

「その頃ならもう先生も学校出ているだろうしね。」

「ですが仕事で遅れることもあるかもしれませんし、先生を禁止から外すとか時間を遅らせるなどを行った方がよろしいのでは?」

「うーん、余り例外は作りたくないんだよね……じゃあ、一律で8時でどうかな?」

「8時なら大丈夫だと思います。」

「じゃあそれで、五十鈴ちゃんさっきの作業止めて、誰かに休み時間に風紀委員呼ばせといて!」

「はい。」

「小山は中国語を話せる人を探せるように準備よろしく!」

「分かりました。」

 

 

3時半、赤レンガの倉庫前

その前に立つ阪口桂利奈の前に灰色の鳥が舞い降りた。

「良かった。ここで合ってたか。」

「よく時間分かったね、鳥さん。」

「近くの家のベランダから見せてもらった。」

「なるほど……」

「早速だが、生徒会長の所に案内してくれ。他にやることはない。」

「良いよ。で、どう来る?」

「どう、とは?」

「このまま飛んでくるの?」

「ああ……肩を借りてもいいか?」

「爪立てないでね。」

「分かった。」

一連の会話を終えると、ヨウムはそっと舞って阪口の差し出した右肩の上に止まり、ほおに気をつけながら羽を畳んだ。

「それじゃあ、案内するね。」

「よろしく頼んだ。」

 

阪口が歩き出そうとしていたその時、そのレンガの倉庫の陰から五人の少女が、いや一人を除いてそれを覗いていた。

「桂利奈、何しているのかな?」

「なんかお話ししてるみたい……」

「でも鳥しかいなくない?」

「鳥と話せるってなんかそれ夢の世界みたーい。桂利奈ちゃんすごーい。」

「……」

上から順に澤梓、大野あや、山郷あゆみ、宇津木優季、丸山沙希だ。彼女らは戦車道で同じチームの仲間だが、いつも終礼のあと教室でチームの者や他の友人と雑談に興じている阪口が急いで出て行ったので気になってついてきたのだ。

「あ、移動するみたいだよ。」

「どうする?付いてっちゃう?」

「秋山先輩みたいにスパイしちゃうー?」

「いいかもそれ!」

「……」

まあ、ノリの良い連中である。

「……まあ、桂利奈だし大丈夫でしょ。」

「じゃあ、偵察訓練開始ー。」

常識人の部類に入る澤もそれに同調し、ウサギさんチームによる偵察訓練が開始された。

「そういえば、」

「んっ?どうしたの?」

彼女らと逆に向かいながら肩の上のヨウムは阪口に声をかける。

「さっきお前を尾行しているらしき奴らがいたぞ。」

「えっ?尾行?」

「なんか4.5人いたな。いいのか?」

「……まあ、いいんじゃない。何かあるわけでもないし。」

阪口は気にすることなく生徒会室に向かうことにした。何棟も並ぶ校舎の間を縫って進み、何人かの人に振り向かれたものの特に何もなく生徒会室の前にたどり着いた。

「ここって、生徒会室だよね。」

「桂利奈、何か生徒会に用があるのかな?」

「でもだったら何で鳥を連れてったのー?」

「うーん……」

「……」

「え、沙希、どうしたの?」

「……」

「アニメ見せて欲しいって頼みに行った?」

「桂利奈ちゃんならありえるかもー。」

「でも、鳥が何故いるかはわかんないよね。何でだろう。」

「鳥、鳥、とり……」

「うーんわかんない!とにかく出てきたら聞いてみようよ。」

「それじゃあ偵察訓練にならないよ。」

 

5人がごたごたしていた頃、作業中の角谷達の所に一人の生徒会の者が入ってきた。

「失礼します。」

「どうしたの?」

角谷はこなしていた書類のチェックを一旦止め机に置く。

「会長にお会いしたいと言うものが来ているのですが。」

「誰?」

「高1の阪口、という方です。」

「阪口ちゃん?ウサギさんチームの?」

「何のご用でしょう?」

キーボードを叩いていた小山も1回手を止め話に加わる。

「えっと、この学園艦の将来に関する重要事項をお伝えしたいので中に入れて頂きたい、と。」

「それって、本当にそう阪口ちゃんが言ったの?」

「いえ、正しくは彼女が連れていた……」

その生徒会の者は言葉を詰まらせ、左右をチラチラ見る。

「どしたの?」

「鳥が、鳥がそう言ったんです。」

「鳥?」

「はい、鳥です。」

「ふーん……入ってもらって。」

「会長、いいのですか?」

「まあ、面白そうじゃん。」

「分かりました。」

すぐに阪口とその方に乗った鳥が案内のもと部屋に入ってきた。

「会長さん、こんにちは。」

「どうもよろしく。」

阪口は浅く礼をし、ヨウムもそれに合わせ首を倒す。

「……本当に鳥だね。」

「そうだが。」

「で、お話があるそうだけど。」

「ああ、君は済まないが外に出てくれ。」

ヨウムは阪口の方を向いて言うと、肩から地面に飛び降りた。

「鳥さんの話よくわかんないからいいや。」

あっさりと阪口もそれに従う。そして、阪口が外に出たあと扉の鍵を華が閉めた。

「さて、重要事項ってのは何だい?」

ヨウムは知っていることを洗いざらい話した。この世界のこと、将来のこと、そしてこの世界に飛ばした張本人について、ヨウムの出身も含めてだ。その告白を受けた3人はただ呆然と立ち尽くしていた。

「……こんなものかな。」

「まさか……あの辻さんが……」

「あいつ……まだ諦めてなかったか。」

「帰れるのが13年後…ですか。」

「ああ。現在が1935年で、帰れるのは1948年の最後の日だ。」

理解が済むと、怒りが3人の中に沸き起こってきた。

だがしかしその怒りを相殺しかねないほどの絶望が彼女らを覆っていた。

「そういえばさ、この世界に知波単学園が居たんだが、何か知らないかい?」

角谷が鳥の目を見据える。

「この世界にはあなた方と同じ境遇にあっている船が他に7隻いると聞いたことがある。その1つかもしれないな。」

「知波単がいて、私達を含めて8隻……」

小山はすぐに答えにたどり着いた。

「……大学選抜との試合に参加してくれた学園が、」

「えっと、黒森峰、聖グロリアーナ、プラウダ、サンダース、アンツィオ、知波単、継続……7校です。」

華が指を折って数える。

「それらかもね。どう、鳥さん。」

「船の名前までは聞いていないから判断はしかねる。」

「ですが、他にあの役人が送りたい学園艦はないでしょうし、おそらくこの7校かと。」

「だろうね。鳥さんは今後どうするよ?」

「この船のどこかを飛んでいるよ。他に言うこともないうえに私に出来ることなんて他にないだろうし。」

「分かった。情報ありがとね。」

「失礼する。すまないが窓を開けてくれるか?」

「あ、はい。」

たまたま窓の近くにいた小山が窓を開け、ヨウムはそこから大空へと飛び出し、帰っていった。部屋に残された5人は余りに突然伝えられた多くの情報に立ち尽くす。

「会長、あの鳥の言っていたこと、信じられますか?」

「私は信じるよ。そうじゃなければいくら何でも詳しすぎる。」

口調はいつも通りだが、神妙な顔で答える。

「そうですけど……でも私達が13年も親に会えないって…」

「信じたくないんだろ?」

「はい……」

今までの絶望、2度の廃校の可能性は1年だった。廃校になろうとなるまいと一年先にはどれだけつらく後悔した状態だろうと終わっていた。

しかし今回の絶望は文字通り桁が違う。13年、その頃には小山と角谷は30歳近い、そこまで私達はこの学園艦を残さなければならないのだ。おまけにその期間は第二次世界大戦を挟んでいる。厳しい、という言葉で片付けられるものではない。

「私も、頑張るしかない、とか何とかなる、とか無責任なことを言う気はないよ。

だけどただ絶望して何もしないというのは間違いだと思う。少なくともこの学園艦を受け入れてくれるところが現れるまで私はこの学園艦を導く必要がある。これは全校18000の生徒から選ばれた私の義務だ。

だから私は例え一人になっても、そして西住ちゃんを脅した、とかとは比べようのない悪事を働いてでも、この学園艦を残す。」

目線の先には向かいの机に乗った書類、パソコンしかない、が角谷はそれらではなくもっと遠い、目に見えないものを睨みつけていた。

「……確かに、あの役人の思うままになるのも面白くありませんし、私は会長さんに全力で協力します!」

華が胸の前の拳を握りしめながら言い表す。

「……小山、ここから先のことはお前を一生苦しめ続けるものになるかもしれない。ここでお前が引くとしても私は止めない。」

「……いえ、私は会長がそこまで覚悟を決めていらっしゃるならば、この身を学園の為に捧げましょう。」

小山は決心したように背筋をすっと伸ばした。

「じゃあ、やるぞ。それぞれ作業の続きをやってくれ。あと次の配給はどうなってる?」

「えっと、もう手配は済んで各配給所への輸送を行っているはずです。」

「じゃあそのまま頼んだ。」

阪口が生徒会室から出てくると、外にはウサギさんチームの仲間が全員並んでいた。

「あれ?みんなか。」

「桂利奈、生徒会室に用でもあったの?」

挨拶より前に澤が聞いた。

「いや、昨日家に来た鳥さんがここに来たいって言ったから連れてきただけだよ。」

「しゃべる鳥?」

「オウムみたいな感じ。」

「それで、鳥さんは何の用だったの?」

「なんか昨日いろいろ言ってたけどわかんない。厨二病みたいなこと言ってた。」

「ネットが使えない理由知ってたらよかったのに……」

「そういえばさ、あゆみ。なんか映画のDVD貸してくれない?テレビがつかないせいで録画のアニメ見飽きちゃって。」

「いいよ、この後家来て。」

「というか、また上映会しない!」

「さんせー!」

「沙希も来るって!」

「帰りお菓子買ってこ!」

「お店閉まっちゃってるから無理だよ。それより映画何にする!」

山郷の家で映画を見ることにした彼女らの間では、そのまま鳥の話は立ち消えになってしまった。

 




HOI2民「ねえねえガルパンってどんな学校が出てくんの?」
ガルパン民「まず、学校それぞれが個別の国をモチーフにしているんだけど、」
HOI2民「ふむふむ」
ガルパン民「浸透強襲のイギリスと人海戦術のアメリカと機動重視のイタリアと火力重視のドイツ、ドイツ曰く電撃戦らしいけど。あとソ連はなんて言ったらいいか分からん。」
HOI2民「は?」

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