主「元からぶっ飛んでる設定だから、大丈夫だ問題ない。」
アキ「そんなことよりここ学園艦が冬の北海道向かった時より寒いんだけど…」
オリキャラ注意
(杏。)
誰かが角谷を呼んだ。それが誰かはすぐに分かった。
(……お母ちゃん?)
(お前どこ行ってたんだい!)
角谷の視界の前に、母の姿。間違いない、母だ。
(お母ちゃん!)
彼女は真っ直ぐにその人に飛びついた。あの懐かしい匂い、暖かさが顔を包む。
(心配したんだよ。そろそろ大学に行くから一旦家に戻るっていうのにどこか言っちまって。)
(よかった…本当によかった……)
(全く、今後は気をつけるんだよ。)
「お母ちゃん!」
角谷の上半身は飛び起きた。息が荒れ、目の前には先程までいた母の姿はない。背中のヒンヤリとした汗が嫌悪感を誘う。彼女の視界には電気が消された真っ暗な生徒会室が広がる。
目が慣れてきて辺りを見渡すと、机の上に乗った山のような書類と自分の席の隣でぐったり垂れ下がる優勝旗、そして小山と華が布団を並べていた。
「はぁ……」
頭を抱え、嘆息する。悪夢、ではないだろうが気持ちの良い夢でもない。この残された虚無感はどうにもしがたい。まるで麻薬のような夢だ。
荒れていた呼吸は落ち着き、混乱しつつあった頭もなんとかなってきた。
「……シャツ変えよう。」
角谷は布団から抜け出し、倉庫に置いてあった自分のカバンの中から新しい自分のシャツをとり、音を立てないよう気をつけながら着替えていく。1つ伸びをしたのち彼女は再び布団の中に戻った。
時間は起きるにはまだまだ早い。疲れを残さないようもう一眠りしようとした矢先、彼女の耳に嗚咽が入ってきた。その音のする方へ耳を傾けると、小山が体を震わせていた。
「……お母さん……うぅ……」
「小山……」
角谷はもう一度身を起こし、小山の背中をゆっくりとさすった。それをしばらく続けていると、落ち着いたのだろうか、嗚咽が止み、柔らかな寝息が聞こえてきた。それに安心して角谷も布団を被る。
「……本当に、いつになったら帰れるんだろうな……」
角谷は今日何度目かの自問を繰り返したのち、眠りの世界へと戻っていった。
次の日、学園の授業は休みだった。だがしかし先日から続いている倹約体制により、殆どの学生の食事は食堂での配給に頼られていた。
仕組みは簡単。朝の配給の時に学校で食べる旨を伝え加工費200円支払えば、その分の食料が食堂に回され食堂で調理されたものを食べられる、というわけだ。言ってしまえば給食である。これは食堂の方々の雇用の維持も兼ねていた。
みほと沙織もここに来て席に着いていた。彼女らのトレーには他の者と同じメインのカレーに付け添えのひじきと大豆の煮物が乗っていた。彼女らにはちょうどいい量である。まあ、五十鈴華にとっての0.何人前かは考えないことにしよう。
「……やっぱり少ないよね。」
皿の上のものをスプーンで掬いながら沙織が声をかける。
「そうかな、私にはちょうどいいけど。」
「いやみぽりん、これ配給1回分だからね。」
そう。これは配給1回分である。つまりこれが半日分であるのだ。
「昨日夜ごはんでみんなの1回分使っちゃったから、朝ご飯ほとんど無くて困っちゃったよ。本当にもっと配給多くくれないかなぁ……学園艦に住む人全員に1月配れるだけはあるんでしょ?」
「確かに1か月補給が無いことはないと思うけど……他の住民の方も我慢しているんだし、私達だけが貰うわけにはいかないよ。生徒会の方も考えがあるんだろうし。」
みほはパンドラの箱を開けまいと沙織を宥める。
「廃校のことも隠してたしさ、何かある気がするんだよね。そういえばさ、次の寄港日も無期限で延期されたんだよね、掲示板にあったけど。もー折角の彼に会えないじゃん……」
(確か、カレー屋さん、だっけ?)
「ま、まぁ、彼なんてそうそういなくなるものでもないから……それに麻子さんもあまり深入りしない方がいいといってたし。」
「そうだといいけど……まあ、確かに私達だけで出来そうな問題じゃなさそうだしね。」
彼女らは残っていたカレーを食べ終わると共に家に帰っていった。その後、この日1日2人はこの話題に触れず、いつも通りのたわいもない話を続けた。考えれば考えるほど何があり得るのか分からなくなり、疑うことは気持ちの良いことでもないのだから。
夕方 女子寮の一室
少女が1人、テレビの前のソファに座っていた。彼女の前のテレビで流れているアニメはエンディングソングの導入が流れ始めている。その画面に白い歌詞が並び始めると、彼女はリモコンの停止ボタンを一瞬の躊躇の後に押した。
「はぁ。」
彼女にとってアニメ視聴は趣味なのだが、その割には浮かない顔だ。テレビの画面は録画番組の一覧を示しており、先程見ていたと思われるアニメの名前が書かれている一番下の欄のみ、他よりも色が薄くなっている。
「……どうしよ。」
阪口桂利奈はソファの背もたれに大きくもたれかかった。しばらくただボケーっと天井を眺めている。この部屋には彼女1人、反応を返す人はいない。
「全部見ちゃったよ……あゆみから映画借りようかな……」
そう、テレビが流れなくなった為阪口は今まで録画していたアニメを見ていたのだが、録画に入れていた分はさっきで最後だったのだ。HDレコーダーに入れたものを引っ張り出せばまだまだ数があるが、今はそんな気も起きない。
「何時まで倹約体制続くの……」
これもひとえに倹約体制による戦車道の練習の減少がある。暇になったのだ。しかも配給も多いとは言えず、お腹も空いてきた。
夕飯として食べられる量は少ないがとにかく夕食を取ろうとしていたその時、ベランダの窓ガラスを鋭くつつくような音がする。まさか泥棒、と思い抜き足差し足忍び足で窓に近づき、そっとカーテンをめくると、灰色じみた少し大きめの鳥が窓ガラスを突いている。なあんだ鳥かと一安心して餌が欲しいのかと窓をゆっくりと開いた。
今思えばこうすれば鳥は逃げるのが当たり前だが、この時はその灰色じみた鳥が逃げる素振りも見せなかったので思いもしなかった。
阪口はそれが何の鳥かわからなかったが、とりあえず大きめの鳩みたいな鳥だったので、ナッツでもあげようかと台所に戻って棚を漁る。だがそれらしいものと言えばゴマしかない。
「ゴマでいいかなぁ。」
と棚の前でボソッと阪口は呟いた。
「ゴマか、まあ嫌いじゃないな。あとできれば水も欲しいな。」
「……えっ?」
この部屋には阪口ただ1人しかいないはずである。いや、正しくは1人と1羽である。つまり、そう流暢に反応を返せるのはその鳥しか居ない。
「ダメか?」
「シャベッタアアアァァァ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
そう叫び、持っていたゴマのパックを握りながら阪口は腰を抜かした。
「……驚き過ぎだろ。」
しばらくのち、彼女の部屋の前には女性が1人仁王立ちしていた。
「阪口さん!騒がないようにって言っているでしょう!両隣の部屋の人から苦情来てんのよ!高1でしょう!」
「すいません、すいません。」
阪口はただただその人に頭を下げ続ける。
「今後はこのようなことが無いように!」
その女性は最後に阪口を睨みつけると、ドアを大きな音を立てて閉め、去っていった。
「……はぁ。」
鍵をかけると先程までの落ち込んだ感じが増長された阪口はリビングダイニングに戻っていった。その鳥は合間に皿にのったゴマをつまみ、コップの水を半分ほど一気に飲み干した。
「プハー、うめぇ!生き返る!」
「ああ、そう……」
鳥は息を大きく吐きながら上を向く。
「それで、どうしたの?鳥さん。」
鳥の皿の前に体育座りして阪口は聞いた。羽で口元を拭ったその鳥は答えた。
「飼い主にこの世界に飛ばされた。」
「あい?」
「この世界について伝えたいから、ちょいと学園長か生徒会長に会わせて欲しい。」
「……くそSFアニメの背景紹介より展開が急すぎて分からないんだけど……まずこの世界って何?この世界も何もここは現実でしょ?」
「……このことを君に言っていいのか分からない。が、ここは君達のいた世界じゃない。」
「……まあ、よく分かんないから、とりあえず何で話せるか教えて。」
「私はヨウムという種なんだが、」
「オウム?」
「ヨウムだ。」
「……鳥さんでいいや。」
「まあ続けるが、その品種は言葉さえわかれば話せる。私は飼い主に教えられた。」
「……まあ、オウムみたいに話せるのね。てかオウムじゃん。」
「そういうことではないんだが……まあそれで、その飼い主が君たちを君達の世界から今の世界に飛ばす機械を作った人間だった訳で、飼い主はその機械を本心では作りたくなかったらしく、君達が助かるために情報を伝えようとわたしが飛ばされた、ということだ。」
「……頭がパンクしそう……」
阪口は頭を抱えうずくまる。
「まあ、学園長か生徒会長に会わせてくれればいい。この学園艦を実質的に動かしている人間に会わせてくれ。その後はこちらで何とかする。」
「それなら会長さんかなぁ……明日聞いてみよう。」
「会えるのか?」
「まあ、多分。お互い知ってるから。」
「それは助かる。」
「ただね鳥さん……問題があって……」
「?」
「この寮、ペット禁止なんだよね。」
「……日中は出かけるよ。」
「ありがとう。それで、明日の放課後に言いに行くから、その頃に学園に来てくれる?」
「いつぐらいだ?それに学園、というのは何処にある?」
「えっと、こっちの方に飛んでったら赤いレンガの建物があるから、そこに3時半でいいかな?」
「分かった。明日調べておこう。」
「で、うちに泊まるの?」
「いや、自分のねぐらがあるからそこで寝るよ。」
「あ、そう。じゃあ、明日よろしくね。」
阪口は窓を開く。最後に水を飲み干した鳥は飛んで窓際に向かう。
「ゴマと水、ごちそうさまでした。」
「今後もよろしくね。」
「じゃまた。」
そう言って鳥はベランダから大空へと帰っていった。
「……結局何だったんだろ?」
阪口は外を眺めながら呆然と立っていた。明日の放課後に待ち合わせること以外は頭に入っていなかった。
「あ、そうだそうだ。夕ご飯。」
大洗の夜は暗い。街灯の他に電気が付いていないのだ。何だ当たり前ではないかと思う者もいるだろうが、学生が殆どであるこの街では寮に入っている者が多く、そういうところは決まって消灯時間が定められている。この夜中に出歩く者など殆ど居ない。おまけに飲食関係の店はそのほとんどが閉められている。
だが、冷泉麻子はその街を歩いていた。彼女がしばらく歩くと、珍しく明かりが一部灯っている建物が見えた。麻子は真っ直ぐそこに向かう。扉の前でインターホンを押して名を呼ぶと、二つ返事でそれが開いた。
「レッちゃん。久しぶり。」
「山本さん、久しぶりだな。」
気軽な感じで声をかけてきたのは船舶科の長坂班の1人、山本だ。麻子とは中学時代の同級生であり、沙織以外の数少ない古い友人の1人だ。
「前に艦橋に見学に来た時以来かな。」
「西住さんを案内した時か。」
「まあ、上がって上がって。私あと30分くらいで出かけちゃうけど。」
「構わない。失礼する。」
麻子は靴を脱ぎ、部屋に入る。狭いワンルームだ。
「お茶あるけど飲む?」
「構わない。そんなに長居する気もないしな。」
「いや、でも驚いたよ。まさか帰ったらポストにお邪魔するからよろしく、って書いた紙が入っているなんて。」
「ケータイが使えればこんな事にはならなかったんだがな。迷惑だったならすまん。」
「良いよ良いよ。てか明日学校だよね。こんな時間に良いの?」
「まあ、私は夜型だからな。朝は前よりかはマシになったとはいえまだまだきつい。」
「変わんないね。前と。」
「山本さんもな。」
お茶を淹れた山本は部屋の真ん中のちゃぶ台に麻子と向かい合うようにして座る。
「それで、わざわざ何の用?頭の良いレッちゃんが私に聞きたいことって?」
「山本さんなら知っているんじゃないかと思ってな。」
「なにを?」
「この学園艦が西に向いている理由。」
その言葉を聞いた瞬間山本の顔から笑みが消えた。
「正しく言えば西南西といったところか。伊豆諸島沖にいた我々が補給を受けようとするのになぜ西に行く?ましてや南の方など何の当てもない。」
「……」
「さらに言えば倹約体制に入ってから4日経っているのに補給の当てがまだない。いくら何でも長いだろう。日本側がとても手抜きをしているとかじゃない限りありえない。我々の存続が決まったのは周知の事実。そんなことをしたら国が国民から思いっ切り批判を喰らうはずだ。
つまり国は我々を助けてないわけではない。助けられないと考える方が自然だ。それなら相当の理由がある。」
「……」
「私はそれを暴いて人に晒す気は沙織にだってない。ただ知って、私の能力が活かせるならば学園に協力したいだけだ。私だって学園の一人。折角存続させた学園を守りたいと思う。」
「……」
「頼む、この学園艦に今、なにが起こっているんだ……教えてくれ……山本さん、貴女なら知っているはずだ。」
麻子は床に頭を着けんばかりに下げた。目を力を込めて閉じ、歯を必死に食い縛る。山本はただその様を眺めながら、無言のまま無表情で座っていた。
「……ごめん、それは、無理。」
「!」
申し訳なさそうに山本も頭を下げた。
「船舶科には現在情報統制が敷かれているの。情報を漏らしたものには罰則まで規定されているわ。確かにレッちゃんの協力は今の学園にプラスになると思う。でも、その為に私は船舶科としての義務を捨てるわけにはいかないの。本当にごめん……」
「山本さん……それなら」
「でも、少しヒントをあげることはできる。それを自分で解いて生徒会に直談判するならいいよ。」
「え?で、でも情報元がバレたら……」
「大丈夫。レッちゃんは秘密を守ってくれるでしょ。」
「……ありがとう、山本さん。」
麻子はあげていた頭を下げ再び大きく下げた。
「いいよいいよ、レッちゃんが解決してくれたら私も嬉しいし。それで、私があげられるヒントは2つ。1つ目はここが伊豆諸島沖ではないこと。」
「……まあ、予想通りだな。」
「2つ目は私達は何をしようとも文科省からの支援は受けられない、ということ。」
「文科省からの支援か……」
「これでいい?」
「分かった。ここから先は私が考える。そろそろ出かけるんだろう?私はこれで失礼する。」
麻子はそう言って立ち上がる。
「まだいるけど?」
「いや、帰る。」
山本が少し引き留めるが麻子は背中を向け答える。
「がんばってね。」
「ああ。」
玄関で靴を履いた麻子は山本に一礼して去っていった。
「……ふぅ。」
山本は席に戻り湯飲みに残った茶を飲み干した。
「これで、少しは上手くいって欲しいね。」
彼女は制服に着替えてカバンを肩にかけると、湯飲みを洗い場で軽く洗って部屋を出て行った。