広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。

相手は男、しかも軍人。


広西大洗奮闘記 44 Guwangdong Guwangsi

翌日の昼の港には一応銀色の輝きを見せる輸送船が停泊していた。

「お二人ともお疲れ。」

「停泊さえして頂ければ何とでもなります。」

「まだ応急処置レベルですが学園艦に帰還する程度ならば問題ないでしょう。」

船舶科の有馬と永野がそれぞれ工具を握りながら答える。持ち込んでいた整備用の服は黒い汚れが見える。

「燃料とか中はどうだった?」

「一通り確認してみましたが、燃料は変化なし。内装も内部も問題なしです。まぁ、嵐で大きくやられた部分の修復はまだですが。」

「そうか、それは良かったな。」

角谷の後ろには男が一人立ち、また少し離れたところに軍服姿の男たちが集まっている。

「松阪先生も、昨日はありがとうございました。先生がいなかったらここまで通じなかったでしょう。」

「繁体字、一応分かってて助かったな。だが実質この交渉英語だったし、何よりこの交渉を纏めてくれた角谷くんの功績なのは間違いないさ。これで安心出来るよ。」

「ですが、問題はこれからでしょう。」

「まぁ、学園艦の混乱は間違いないしさらに角谷くんは……」

「まだ南京側があるので何とも言えませんが大洗からは少し引かざるを得ませんね。」

船のエンジン音が高まっていく。

「まぁ、小山たちがいれば何とかなるでしょう。」

「I didn't think this negotiation was gathered in one day really really.

(まさか本当にこの交渉が1日で纏まるとは思っていなかった。)」

後ろの男の一人が声を掛けた。角谷も振り向いて目を合わせる。

「It might calm down by the shape with the profit mutually,Mr.Chén.

(相互に利がある形で落ち着いて良かったです、チェンさん。)」

「Your school ship approves this,doesn't it?

(あなたの学園艦はこれを承認するんだな?)」

「Sure.I make them admit certainly. As soon as that's concluded, it's said that they return to Guangzhou, and would you like?

(勿論です。確実に認めさせます。それが成立次第広州に戻るということでよろしいですね?)」

「Yes.If we admit it each other,it doesn't make the sense.

(そうだ。我々が相互にこれを認めあったとしても、これは意味をなさない。)」

「You're saying that it's the turn to help you next, right?

(次はあなた方を救う番だというわけですね。)」

「You,too.

(あなた方もな。)」

そう言い終わって握手を交わす。背の高い者と付き合うのは慣れている。陳の隣にいる人々とも次々に握手を交わす。どの人も硬く、ゴツゴツした手だ。

「会長、荷物乗せ終わりました。そろそろ出発しなければ……」

「Ms.Kadotani.

(角谷さん。)」

陳から手渡された書類を受け取る。中身を確かめるが、急ごしらえで打ったのか時たま字がボケている。まぁ読むのに問題はない程度だが。内容も相互で決定したことからの変更はないようだ。

「OK.No problem.

(大丈夫です。問題ありません。)」

「Then, We'll meet again.It's glory in Oarai.

(ではまた会おう。大洗に栄光を。)」

「It's prosperity in Guwangdong Guwangsi.

(両広に繁栄を。)」

手を振りながら船に乗り込むと、船舶科の二人に合図を出す。それを見た二人は汽笛をこの広州の港に響かせると、船を出港させた。高々の登る日の下で角谷は港側を向きながら見送る人々に手を振り続ける。デルタの間を縫うように進む頃にはもう港も間を見えず、船内に戻る。

「船は大丈夫そうだね。」

「ええ、休んでた分働きますんでごゆっくりどうぞ。」

「いや休んでたって、ついさっきまで働いてたじゃん。」

「いえいえあの程度。」

舵を握りながら有馬が謙遜するが、顔は真剣そのものだ。

「会長。私たち、助かったんですよね。」

もう一人の永野が窓の外を双眼鏡で見渡しながら尋ねる。

「多分。」

「多分、ですか。」

「まだ確定はしてないね。まずこれが学園で承認される必要があること。」

「誰も死にたくないから、呑むんじゃないですか?拒否する理由も無いですし。」

「そしてこれが実行されるには一つ条件があること。」

「何ですか、条件って?」

「今回認めて貰ったのは簡単に言うと地方政府みたいな所なのさ。だからその上の中央政府にこれを認めて貰わなきゃいけない。」

「なるほど。」

「そうなると角谷くんは南京に飛ぶわけか。」

「そうですね。ここまで来ましたから、何としても認めさせます。」

「それで、私たちはどうなるんですか?」

「……まずは学園艦を出払う。そしてこのデルタの外にある万山群島の島に移動する。」

「学園が無くなるんですか?」

「いや、そこでの一応の自治は認めて貰えた。つまりその島に学園都市を作る訳だ。輸送には相手が持ってる輸送船も貸してもらえる予定。」

「……島で生活は出来るんですか?」

「一応艦内設備の一部は持っていって良いことになっているから、水は大丈夫。あとは最初に物資を前もって貰えるけど、島の整備は早めに済ませたいね。兎に角工学科かどうか関係なく全員協力して貰うよ。」

「出ていった後の学園艦はどうなるんですか?」

「鉄鋼供与の元になる。」

「戻れるんですか?」

「工学科と船舶科の上に聞かなきゃ分からないけど、供与量は予定ではかなりあるから、強度の低下は間違いないね。戻れるとは思うよ。動けるかは分からないけど。」

「目下の課題はその島で生き延びれるか、だな。食糧も備蓄はもう少ないんだろう?」

「一応農業科と水産科に増産を依頼してありますが、その苗などを移送出来ればなんとかなります。気候も温暖なので雨も多く溜められれば有効に使えますし。土地も多めに貰えるようにします。」

「やりようですか……」

「協力、よろしく頼むね。」

「勿論です。他に手は無いでしょうから。船に関してはこちらでやっておきますので、休んでいてください。」

「んじゃ、お言葉に甘えて。学園艦と連絡取れたら教えてね。」

「分かりました。」

白いワンピースに身を包んでいた角谷は束ねられた書類を振りながら操縦室を去った。

「……やっぱり嬉しいんだろうね。」

その時の頭の上下具合からはそのようなことが察せられた。

 

昼食に向かおうとする前、みほは教室を出ると、一人のおかっぱの、年下そうに見える子に呼び止められた。

「西住みほさんですね。」

「はい、そうですが……」

「私、風紀委員の者なのですが、少々お時間頂けますか?すぐに終わりますので。」

そのおかっぱの子はみほに腕章を見せる。

「……分かりました。」

逆らうべきではないし必要もない。みほはその者の案内の下廊下を進んだ。

「どちらに?」

「いえ、少し人気のない所に。申し遅れました。私、嘉沢といいます。高校治安維持担当のトップです。」

「はぁ……」

「さて、ここら辺なら大丈夫ですかね?では早速。」

廊下の一番奥はこの時間の廊下を通る人間の大半は階段側を向くため目立たないうえ、学生二人が話している所をわざわざ止める人間もいない。

「それで、用とは?」

「ええ。最近こちらの調査で、秘密裏に生徒会に対して力で反抗をしようとしている者たちがいるようです。」

「……」

「無論判明次第こちらも捕らえますが、もしかしたらその者たちは戦車道を利用しようと考えるかもしれません。」

「……それで、私に何を?」

「戦車道がそのような動きに関与しないと隊長から証明を頂きたい。」

「私たちを疑うのですか?」

「そうです、残念ながら。あなた方は、仮に戦車道がスポーツだとしても、抑圧、攻勢の為の力となります。それにあなた方には名声がある。何せこの学園艦を守ったのだから。それゆえそのようなことに戦車道が加担しない確約を頂きたいのです。」

「……私は構いません。ですが、戦車道のみんなもとなると確約出来ません。」

「……分かりました。西住さんだけで結構です。でしたら生徒会の一部が強硬策を主張しているようなので、生徒会が抑圧を支持した際に隊長として協力しないことを約束して頂けますか?」

「本当ですか?」

「ええ。我々としても暴力的な抑圧は避けたいので、どうか……」

「……私個人で、と言うことで良いならば。」

「構いません。では、この紙にサインを。」

みほは紙を受け取ると、それを壁に押し当てて名前の欄らしき所に記入した。その紙を返すと、一礼して素早くその子は帰っていった。

「……何だったんだろう。」

みほも前回の練習から考えて風紀委員もただ監視しているだけじゃないだろうとは考えていた。だがそれが何かはさっぱりのため、みほ個人のことならば別に構わないだろうということになった。それよりも戦車道の仲間たちの異変の方が優先されるべきだった。




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