広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。

リーダーになるとその為に必要な能力を得るが、それにはそれ相応の犠牲も必要である。


広西大洗奮闘記 37 安敦とジャンヌ

「今回この様な形でご協力頂けたこと、心より感謝しております。」

「そちらこそ、こちらの提案を受け入れてくださってありがたい限りです。」

夜、ある寮のワンルームの中央にて二人の女子が正座しながら向かい合っていた。

「しかし今回ここまで話がさくさく進んでくれたのは驚きました。私たち今回話したのが始めてですのに。」

「それまで相談担当の者を何度か送ってくださったお陰です。こちらもその案を受けることは私が望むことですから。」

「やはり貴女を支援する甲斐がありそうですね。残念ながら私たちは立場上表立っては支援出来ませんが、こちらからそれが出来れば支障はありません。」

「なに、現体制は独裁寄りな体制。いずれ限界を迎えます。そして一番危険なのはその少し前、つまり人を見る目の無いものが後任を決め、その者が当選した時です。

マルクス アウレリヌス アントニヌス。

ローマ五賢帝の最後となった彼の行為をここ大洗に再現する訳にはいきません。緊急性の高い事項が少なくなるだろうこの先を見据え切り替えるべきなんです。」

「あら、勉強の成績は良いとは言えないと聞いていましたが、ぱっとそんな事が出てくるんですか。」

「ええ、まぁ。ただ勉強よりもバスケが好きなだけです。」

「しかし当選するとそのバスケをする時間が短くなってしまうのでは?」

「なに、先程も言った通りです。私は知名度も実力も能力も全て劣ります。権限は他に割りますし、大それたことを実行するつもりもありません。そして下には重い実務を背負ってきた人々がいる。バスケくらい参加しても問題無いでしょう。だから生徒会の者は変えません。

しかしあなた方こそよろしいのですか?この案を出すとあなたの参加するものにも間違いなく影響が出ますが。」

「私が戦車道に参加したのは学園を守るため。確かに今後も戦車道は必要だと思うわ。しかし現状戦車道は一人に頼っている。『ある』ことは必要だけど『顔となる』期間には限界がある。現状でもかなり投入しているのにそこにこれ以上の予算を投入することは好ましくないわ。」

「その通りです。我らの大洗女子学園の目下の問題は実績が少ないこと。それへの盾を一つに頼り過ぎるのはよろしくありません。」

「では、この内容で良いのね?」

「異論はありません。」

「ではそろそろ失礼します。」

「何もお出しできずすみません。」

「いいわ。この状況でもてなしを求める方が酷だもの。では健闘を祈ります、赤峰新生徒会長。」

「こちらこそ、後藤委員長。」

鞄を肩に掛け膝を伸ばしたゴモヨは扉の前に立つ最敬礼の赤峰に見送られ部屋を離れた。

 

 その寮の下にはある車輌が停車していた。

「委員長、お迎えに来ました。」

「ありがとう。」

ゴモヨはその車輌の後ろから乗り込む。車内には数人が席を並べていた。見回りからの帰還組だろう。彼女らには話をするエネルギーは持ち合わせてないようだ。体力もこの配給の状況ではあまりいいとは言えない。だからこそ早期に動かなければならない。その意思をより一層強めた。

 

 

 送って貰った先は学園ではなく自身の住む寮である。見回りの担当でもないゴモヨは外出禁止規定通り8時までに帰ることが望ましいと考えていた。そしてその通りにした。

荷物を置き制服から簡素な私服へと着替え、その途中で自身の存立意義の象徴を取り外す。本来の学生の身分ならばこの後机についた彼女は勉学に勤しむべきなのかもしれないが、彼女がとったのはタブレットと鞄に入れていた書類の一部である。中身は胡瓜に関するものだ。風紀委員の最重要機密書類の一つだ。

胡瓜追加計画は胡瓜計画作成後に内容を鑑みて本格的にクーデターに成るのは避けるべきだという提案を受けて加えられたものだ。確かにあらかじめばら撒くための顔が立つことは損ではないし、不満が抑えられるならなおさらだ。その顔としてヤボクたちの調査で立候補を考えているという情報を得た赤峰に白羽の矢が立ったのだ。

夜間の見回りとして風紀委員が夜間に出歩けることを利用し、訪問担当に数度赤峰への接触を試みさせ意志の一致を確認。最後に計画をゴモヨが確認しに向かっていたわけである。彼女を当選させることが我々の、いやこの大洗女子学園の最大の利益となる。

戦車道は限界なのだ。最早これ以上の車輌を導入したとしてもそれを大会の試合の合間に整備可能な能力を備える自動車部は廃部寸前の人数であり、西住隊長も来年が最後。その後任、恐らく澤さんだろうが、が強豪チームのトップとして戦えていくほどの能力があるかは断言は出来ず、その先はなおさらである。おまけに元々廃校予定に入る学園都市、金がない。

考えてみればわかる。1輌戦車を導入するだけでも学園生徒の親の年収数十人分が一斉に消費されるのだ。黒森峰やサンダース、聖グロリアーナ、プラウダなどの様な戦車を整備、運用するだけの経済力が圧倒的に足りない。その為には今回の実績により増えるだろう学生から上がる学費を戦車道以外に充て、学園の魅力の多様化を図るしかない。

英雄は確かに必要である。しかし、ジャンヌダルクのような英雄もまた必要なのだ。

そして現生徒会にそれをする気はない。今後も戦車道に注力していく。そして我々が掴んだこの現状。それは綺麗事でもお題目でもなく、真に解消されるべきものなのだ。

 

 書類の当該欄にチェックをつけた上で今後の内容に目を通す。明日には優花里からの報告が入る。大洗戦車道有数の火力をもつ車輌の行く末が決まる。そしてもう1輌、全国大会通算5輌撃破という華々しい実績を持つ車輌の為にゴモヨは朝かなり早く起床しなくてはならない。

少なくとも一つ櫓を陥落させることは出来る。出来ればもう一つも陥落させたいが、少なくとも敵でなければ良い。最後の一つは時間がない上にどう転ぶか分からないから捨て置く。まぁ一つがこちらについていればそう変なことにはならないだろう。

そして我々はその結果を受けて、最後の本丸攻略作戦を実施に移す。本丸も敵でなければ良いが。ゴモヨは明日のため、やけに早く寝床についた。




次回予告

Blue Monday

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