映画のDVDは買ってません。買う金が尽きたのと買ってもテレビもマイPCもない私は見ようがない(泣
ついに、プランは始動する。
8月13日 感想を元に訂正しました。
「美味い。」
「こんな物しかなくて済みませんが。」
「いや、ゴミ箱にもまともな飯が入らないからな。腹に入るものは味に関わらず食べてきた。だから味に拘れる今に少し喜びを覚えているんだ。」
また少し栗の実をくちばしで拾い口に入れる。
「美味かった。」
「それで、この4日で分かったことは何ですか?」
生徒会長室の開かれた風からは風が少し吹き込む。そして、空は曇っているがその分子レベルの隙間からでさえ赤い光を通そうと太陽は努力する。
「まずはこの時期に護身具の訓練を夜間に行っていること。」
「それは向こうにその権利が与えられたのがちょっと前ですから、鍛錬でしょう。」
「それと、ここから先は聞かれると面倒くさい。近くに誰もいないことを確かめてくれ。」
華は窓を離れ扉の方の鍵を確認する。外からはパソコンのキーボードを叩く音と普通の声での会話が飛び交っている。華が窓に戻ると灰色の鳥も窓枠に戻った。
「まずは風紀委員の中で『胡瓜』と名付けられた計画があるらしい。内容は分からん。」
「胡瓜?」
「心当たりがあるのか?」
「いえ、風紀委員と胡瓜の連想がついただけです。」
「……顔を見る限りあまりいい感じの連想ではなさそうだな。」
「はぁ……それと他には?」
「……生徒会の情報は一部ながら掴まれているぞ。」
「!ど、どこまで!」
「……中華民国と交渉したことは確実だろう。他は分からん。」
「!それが掴まれているという事は……事は思ったよりも重大みたいですね。」
「まぁ、私は協力はするが味方をするとは言っていない。無論向こうに漏らす気はさらさら無いがな。」
「それは何故?」
「向こうの雰囲気を見てる限りエサねだったら追い返されそうだから。」
「……そうですか。その他には?」
「夜間も眺めてみたが、人員は削減してはいるものの見回りを怠っているなどという事はないようだ。」
「……分かりました。今後は『胡瓜』の動向とこちらのことをどこまでつかんでいるか、の2点を重点的にお願いします。」
「了解。道端のどんぐりでも拾いながらぼちぼち集めるよ。」
「ありがとうございます。」
「すまん、水くれるか?」
華は近場に用意しておいたコップをくちばししての前に差し出し、それを鳥は飲むと大空に帰っていった。
「……中華民国に行ったことを風紀委員は知っている。それは即ちこの現状を風紀委員が把握している可能性がある、と。逆にこちらが中華民国との交渉に失敗したことも知られている。」
鳥の色と紛れる灰色の空を眺めながら五十鈴は考える。会長は芽は全て摘まなければならないと仰った。
「……そもそも、何故風紀委員がこのような事を知る必要があるのでしょうか。」
そう、そこなのだ。今までも調査をしてこちらの動向を掴もうとしていた節があったが、それを行う理由があるならば反生徒会の者たちの動きをそれから推察する為か、もしくは
「生徒会に対抗する動きを起こす為……」
それは今までも何度もシミュレートした動きだが、それが現実となる可能性が彼女の中では跳ね上がった。これらを問題なく一番早く解決できるのは無論交渉の成立であるが、それを左右する事は彼女にはできない。
度々言うが本当に彼女たち生徒会の者に出来るのは治安維持、即ち相手への一端の信頼を守ることだけなのだ。そして、それの為に彼女たちは自身への批判を厭わないと決めたのだ。
「……流石に無策という訳にはいきませんね、この母校大洗女子学園の為にも。」
華が窓を閉めて腕時計の確認が終わった頃、隣の部屋にぞろぞろと人が足を何本も踏み入れる音がする。そしてその中の2つがこの生徒会長室に入ってきた。
「午後の配給終わりました。」
「お疲れ様です、小山先輩。それでそろそろ月を跨ぎますが、皆さんのご様子は如何ですか?」
「……学生の皆さんの話し声が少なかったことくらいですか。」
「学園艦の活気が失われていると。」
「そうですね。しかし食糧の備蓄も半分を切ってますし、1日でも長くこの学園艦を残す為には仕方ないと言える程度かと思います。そう言えば、窓際で何をしてらっしゃったのですか?」
小山と目を合わせていた華は窓の空の方に視線を戻す。
「……天気が悪いですね。」
「確かに今夜は一雨来そうですね。未だ降ってないのが不思議なくらいです。でもその前に配給が済んだのなら何よりです。」
「それと、前に阪口さんが連れてきた鳥の言ったことが正しいなら、この世界には、あの時、助けてくださった皆さんがいらっしゃるんですよね。」
「……ええ。」
「それで、言っていたことが正しいなら、彼らは間接的ながら私たちが呼んだことになるのではないかと……」
「そんなことはありません!」
「えっ!」
華が振り返ると両手に拳を握りしめた小山が立っていた。
「貴女は……あの時、助けに来てくださった皆さんの行為を否定するのですか!」
「そうではありません。私たちがこの様な結果を招いたかもしれないと言っているんです。皆さんは仲間を守る心、みほさんが守ろうとした戦車道の精神を持って私たちの学園艦を助けてくださいました。でも、私たちは皆さんがこうなることを助けられなかった……」
「……」
「もしかしたら、他の皆さんも知波単のように補給を受けられて助かっているかもしれません。しかし、今この時に私達のように、場合によっては私たちよりも悲惨な環境でこの世界にいらっしゃるかもしれません。そう思うと、心が捻じ切れる気がするんです。」
「……まだ、信じるには早いです。知波単だけが来ている可能性はまだあります。そしてあれを本当に信じるなら、私たちは……」
「帰れないよりは幾分マシということになりますね。」
「帰れないよりは、ですけれどね。」
「だがらこそ、考え得る最悪の事態ではないから、私はあの鳥を信じているんです。」
雨だった。風も強い。コンクリートの灰色の桟橋、何時もは雲を奮い立たせる様な警笛が鳴らされるべきである、そんな場所でアーサーは1枚しっかりとした封筒に包まれたものを角谷に差し出した。
「こちらが香港総督、ウィリアム ピール卿からのあなた方の紹介状です。」
「ありがとうございます。」
角谷は松阪に傘を預けて両手で受け取ると、傘の中で中身を少し確認し、それを元どおり戻した。
「この度はこの様な厚遇を受けられたことに感謝します。」
「その代わりに得られた情報は我が国の今後の運営に欠かせないものになりました。こちらこそそちらの要望が受け入れられなくて申し訳ないです。」
「いえ、その代わりに私たちの盟友、聖グロリアーナ女学院が助かるならば、嬉しい限りです。」
「それにしても、本当に出航なさるのですか?時間をおいた方がよろしいのではないですか?」
アーサーは怪訝な顔で空を眺める。頭の帽子を風で飛ばされない様に手はそれを握っている。
「いえ、時間が惜しいのです。たとえ雨風が吹こうとも。一刻も早く次に向けて動き学園艦の住人に安心を与えなくてはなりません。」
「……アンズ、貴女はどうしてその学園艦を守ろうとしているのです?」
「……急にどうなさいました?」
「今回の我々はあなた方をできるだけ紳士的に扱うように総督から命令を受けたためそのように扱いました。しかしこれから交渉に向かわれる場所はそういうところだけではないはずです。」
「そうですね。中華民国では背中に銃を突きつけられながら護送されましたし、外と中に一人ずつ監視員がいましたし。」
「それが普通です。今回もあなた方の質の高い格好がなければこちらも同様な措置を取り得たでしょう。そこまでして何故……」
「私は5年半、大洗学園艦で過ごしてきました。そして皆さんには話さなかったことですが、私は一度、いや考えようによっては2度この学園艦を守れた、はずだった。私は元々志望学生数が少なくなっていた学園を守ることを公約にして学園艦のトップに立ったから、私はこの愛する学園を守るんです。
日本には3度目の正直というものと2度あることは3度あるという2つのことわざがあるのですが、私は前者を信じたいのです。」
「……詳しくは知りませんが、余程大切なものなのでしょうね。ところでその大切なものがトップである自分がこのように交渉に来ている時に乗っ取られるということは考えないのですか?」
「考えません。私が運営に残してきたのは、皆信頼できる人だけですから。」
「しかし……」
「能力だけでならば、学園内に残した運営の幹部にも勝る人間がいるでしょう。しかし能力だけの人間は、いずれ人の人望を集め過ぎる。そしてその人は、味方とともに私に反逆する。平時の民主国家はそれで構わないかもしれませんが、今も前も非常時、そうも言っていられません。
だから、信頼できる、学園廃校の瀬戸際を一緒に守れた時の仲間を私が居ない間の運営として残したんです。」
「海軍の同じ艦で戦った仲間のようなものですか。」
「よく分かりませんが、近いと思います。」
角谷と松阪がアーサーと話し込んだところに無邪気な声が飛び込む。
「会長、出航準備整いましたよ。」
「おー、ありがとね。」
そうは答えたが、こう話している間にも雨風は激しさを増す。全く、気持ちよく話くらいさせて貰いたいものだ。
「それでは、そろそろ。鉄鋼は生存の証明にお送りしましょう。」
「ええ、アンズ。タダヨシとアンズの守る学園艦に主のご加護を。」
握手を済ませた2人に十字を切って、背中を見送る。うるさい梯子を足で押さえて船に乗り込み、角谷が封筒を抱えて中に駆け込んだ後、松阪が梯子を取り外した。一隻の輸送船が嵐へ身を投じたのはそれから間もなくのことである。
「Lieutenant.
(中尉)。」
その船が遠く離れた頃に部下の男が敬礼して後ろで立っている。
「What is it?
(如何した?)」
「The Army, Navy and Air force, all exercises has been cancelled, sir.
(本日の訓練は陸軍、海軍、空軍ともに中止するとのことです。)」
「……OK.
(……わかった。)」
「Please return as soon as possible, sir.
(閣下も至急お戻りください。)」
確かにこの嵐では訓練も何もないだろう。
「もう少し判断が早ければ良かったのかもしれないですね。」
そう男は呟いて、部下に連れられて頭の帽子を抑えながら帰っていった。桟橋は今日は少し多めに削られそうである。
「しかし、未確定ながらアメリカでも同様の学園艦が確認されたとの情報があります。フランスは政権がコロコロ変わりますから決定が良くも悪くも覆りやすいです。果たして彼女らは何処へ向かうのでしょう?」
胡瓜、この草のルーツはインドのヒマラヤ山麓が原産と言われている。そして前漢の時代に武帝によって派遣された張騫がシルクロードを通じて西から種を持ち帰ったとも言われている。今回このプランにこの実の名を冠したことに関する理由としては、主に二つある。一つにはこの胡瓜という実の現在の日本での扱われ方に理由がある。普段食べているあの青い胡瓜、あれは熟していない。熟すると黄色くなるそうだ。
我々は嘗ては黄色かったが、昨今は生徒会の下で青いままいることを強いられた。確かに学園艦の存続という大義があった期間があったことは認める。そしてその時はこちらも出来る限りの協力をした。
しかし、今はその大義を協力しているこちらに正式に、完全に知らせてない。我々はこの自らで得た情報から判断することのできた非常時に対して指を咥えて待っていることは出来ない。我々は黄色くなり、この有効な手段を打てていない生徒会から放たれるべきである。
二つ目には生徒会、戦車道履修者などあの時我ら風紀委員の幹部と共に廃校跡で待機させられたものたちにとって我々と胡瓜から連想されるものは彼らにとっては我々の愚劣性を示してしまうものだからである。逆に言えば愚劣性を示すものをプランに冠することで相手は仮にこれを聞いても油断するだろう。
確かに日本政府は、学園艦教育局は我ら風紀委員一人一人の存立条件である風紀維持を学園の廃止という形で剥奪しようとした。そして今回、再び大洗女子学園を廃校に追い込むために補給を切ったと思われる。だが、それでも、我々は、学園艦の住人は皆日本の民であり、日本の学園艦の民である。
我々は和解するべきなのだ。嘗ての互いの行動を許し、この大洗女子学園を日本の学園艦であり続けさせることは、学園艦の民の許可なしに変えていいものではないのだ。それを生徒会は真意を問わずに変えようとしていることは火を見るよりも明らか。法は、ルールは正義の為にある。それが正義を成さないならば、破ることも辞さない姿勢であるべきだ。だからこそ、正義を以ってこの学園艦を日本に連れ戻すべきなのである、手遅れとなってしまう前に。
その為に、動くことのできる我々風紀委員が動かなければならないのである。他国の者としての差別、偏見、妬み、無辜の学園艦の民がそういう目に合わず、我らが他国の者たちに迷惑をかける存在ではないようにするべきなのだ。風紀委員の諸君!前を向こう!準備を整えよう!生徒会の誤っている道を正す為に!
抑えめの拍手がその大教室に鳴った。壇上に立っていたゴモヨは額の汗を拭って台を降りた。
「どうだった。映画に出てくる演説っぽくしてみたんだけど。」
「……はー、話慣れてない言葉を使うのは疲れるわよ。」
「でもお陰でみんなの士気は上がったみたいだよ。」
「それは何よりね。じゃあ、明日も最後の試験があるし、仕事のある人以外は返しておいて。」
「分かった。あとハマコ、カナン、エドム、ヤボクは残しとくよ。」
「第一段階の用意ね。」
頷いたパゾ美は次に壇上に上がり、マイクに手を伸ばす。
「それでは風紀委員臨時全体集会は終わります。仕事のある方は各自の業務へ、他の人は試験に備えてください。では高校治安維持担当長カナン、中学治安維持担当長エドム、学園艦治安担当長ハマコ、学園艦店舗運営補佐担当長ヤボクはこの後ちょっと残って、他は解散してください。」
部屋の中にいた数多の風紀委員は風紀委員らしく静かに部屋を立ち去って行った。部屋にはゴモヨ、パゾ美、呼ばれた4人、そして外で立っていた警備担当が戻ってきた。
「それで、どうだった?」
「はい。外で監視していましたが、特に変な動きを見せた者は居ませんでした。盗聴関係に関しましても問題は無さそうです。」
「杞憂で済んでよかったわ。あなたたちも戻りなさい。」
「はい。」
ハマコの指示に従って学園艦治安担当の2人は帰っていった。
「それにしても委員長、先ほどは凄かったっすね。」
「ヤボク、その口調で褒めても何も出ないわよ。」
「それで、今回我々が残されたのは?」
「一応小声で言うわよ。……胡瓜計画第一段階を始動するわ。最終計画は生徒会に与えられた期限が尽きるとき。カナン、手配は済んでるわね?」
「ええ。クラスの奴が張っています。明日の放課後に集まることまで掴めてます。」
「ハマコ、武装の準備は。」
「今日から時間を拡大出来ればその日には一定の練度になるでしょう。」
「では……よりカナンのところが動きなさい。それが全ての引き金になるわ。我ら大洗女子学園風紀委員会の歴代最大の計画よ。失敗、漏洩は許されないわ。皆その日を待って、その日まで耐えて、その日まで、いやそれからも気を引き締めて掛かりなさい。」
「はい。」
「その日から我々が学園艦に正義と平穏を取り戻すのだから。」
ゴモヨが円になって話していたその中心に彼女の右手を置く。それに合わせて周りの者も手をその上に乗せる。その場にいた全ての者の手が重なったとき、ゴモヨは声を張り上げた。
「風紀委員、ファイトー!」
「オー!」
「ぎゃー!」
「船は大丈夫?」
「駄目です!この高波でうまく舵が効きません!」
「沈没だけは避けて!岸壁と海底には注意を!」
「取り敢えず停泊できる場所を。」
「この船、北へ流されてます!」
「だから今日は止めとこうと言ったんですよ。」
「それは聞いたけどここまでとは聞いてない。」
「戻れないのか?」
「反転なんてさらに無理です!無線関係も全然通じません!」
「しずまないようにしてくれぇぇ。」
「流石に……これは酔いそう……」
「どっか港ー!」
「神様仏様何でもいいからヘルプ!」
天候は船にとって欠かせないものである。そうソクラテスも言っている。間接的にではあるが。
無茶は仕方ない