広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。
書くのに詰まってたら遅くなってしまいました。
英語は変です、確実に。
そこは筆者の英語力の皆無さをご理解いただきたいとともに深くお詫び申し上げます。

6月14日
コメントのご指摘を元に訂正しました。


広西大洗奮闘記 24 事実もまた物語

「そちらもGirls High Schoolですか。」

「そうです。ですが男性人口が少ない訳ではないので、農業なども考慮しても交易で十分自活できるとのこと。こちらは既にジョン内務大臣とボールドウィン首相などが極秘ながら視察なさっております。」

「……それは内密な事なのですか?」

「ええ、まだ決まってない事ですから。議会に出すのは正式に協定の内容が定まってからでしょう。その学園艦が存在しているのはどうやらアイルランドの東部の沖合のようなんです。」

「そこからカーディフまでよく来ましたな。」

「どうやらそこまでしか水深の都合上来れないようで、そこから輸送船に乗って使節が来たようです。正式に交易内容などが協定で決まり次第北へ迂回すると聞いてます。」

「……分かりました。それでこちらのオアレイの方の対処はいかがしましょう?」

「……聖グロリアーナが交易で自給可能とはいえ物資提供などは考慮しなくてはならないと思います。今後も考えますとそちらは1年分物資の補給を受けていますから断ると思いますが、やはり首相他に相談した上でお返事します。」

「いつ頃になりますかね?」

「一人確認とるだけならばすぐに済むのですが、閣僚全員にとなると少なくとも明日には厳しいかと。」

「しかし明後日は日曜日、さらに難しいのではないですか?」

「向こうは回答期限を指定してないのでしょう?」

「まぁ、そうですが。」

「ですからこちらの対応の確認が取れるまでお待ちいただきたいと思います。」

「……分かりました。それとこのオアレイ学園艦がどこの国のものか分かりましたらご一報を。」

「はい。分かり次第その国に連絡を取り、ご連絡します。」

「……そう言えば、その聖グロリアーナの学園艦はどこの国のものなのですか?」

「……彼女らが言うには日本とのことなのですが、日本政府に確認を取ったところそんな学園艦は存知ないとの一点張りで。確かに日本の現状を考えるにどう足掻いてもあの大きさの学園艦を作る価値はない上わざわざ日本から来る必要もないかと。」

「では何で日本なんていうのでしょうかねぇ。」

「大国の威光、というものではないでしょうか?」

「……全くわかりませんな。何でそのようなものがあるのか。誰が、何の目的でその様なものを作り、そしてそれがそこを離れたのか。そもそもそんな巨大なものの燃料はどうなっているのでしょうか?」

「……そこに関しては向こうが視察を受け入れてくれないのです……実際分からない事も多いですが、受け入れる利益が大きいのも確かです。」

「……」

老人は一つ息を吐く。

「……事実は小説よりも奇なりとは、よく言ったものですね。」

「全く。」

 

もう、部屋の壁の色もそこに稀にある染みの形も窓の枠の若干の傾きも分かっている。ここに入れられて3日目が終わり、4日目の朝の日差しがこの部屋に差し込んでいる。角谷はベッドの上で急に目が開き、身を起こした。まだ完全には部屋の下までは照らされておらず、黒っぽい染みはその目には映らない。部屋から出れるのは用をたす時のみ、その時は見知らぬ者たちに対してちゃんと外で待ってくれているだけ英国紳士なのだろう。しかしここまで待っているとなると、本土での議論にでもなっているのだろうか。外の様子は見えず、たまに船が響かせる汽笛が耳に入る程度だ。そして松阪先生は部屋には来ていない。もう一度身を倒し一休みすると、部屋の下まで日が差してきた。顔の前に出した手の光の当たる面が時間を追って広くなる。やっと時間が出来たと角谷はカバンから一冊の本を取り出し、手元で眺め始めた。

「……あ、会長……えー……good morning.」

別のベッドで寝ていた有馬が身を起こした。

「……what do you read?」

「……French.」

「フレンチ?」

有馬は遠目ながらその本のカバーを覗こうとしたが、本屋で掛けられる紙のカバーを掛けられていて題が見えない。確か角谷会長、選挙に出馬した時に趣味に料理と書いてあったことを思い出し、有馬は一人で腕を組んでうなづいていた。きっとこの軟禁生活の少しの気晴らしなのだろうと。

(もし香港で補給を断られたら次はフランス領インドシナしかない。ポルトガル、フィリピンは国力から考えて受け入れてくれるとは思えない。だからフランスとの最初の関係は悪くしたくない。だからせめて挨拶程度は覚えて少しでも好感度を上げなくては……)

とまぁ深いことまで思案していたことには気づかなかった。その後片手で書を読みながらもう片手でちょいと手をぶらぶらさせていることがその短髪娘には包丁を握ること、炒めること、その他諸々の料理の所作に見えてくるのだから人間の先入観は恐ろしいものである。

角谷が挨拶の文言を幾つかさらに頭に入れた頃、扉からノックが聞こえた。そう言えば朝食がまだである。

「Good morning.

(おはようございます。)」

「Good morning, Ann. Sorry for disturbing but I have some business for you.

(おはよう。早速ですまないが君に用がある)」

「What is it?

(何ですか?)」

「There is a man who wants a conversation with you. Don’t worry, the other guys will bring some breakfast to your members, so come with me.

(君と会話を交わしたい人がいる。他の者が君のメンバーに朝食を運ぶので、安心して私に付いてきてくれ。)」

「....Okay, I understand.

(了解しました。)」

角谷はやっと来たかのように返事以上にほおの角度を上げて腰掛けていたベッドから立ち上がり、戻した本をカバンに入れてそれを片手に扉の前に来た。

「Let's go.

(では行きましょうか。)」

「Okay.

(わかった。)」

入り口にいた紳士は角谷が出て来たのを確認して、先導しつつ出発した。残された二人は顔を見合わせたが、黙ったまま何もなく、その場で待つことにした。

角谷は外に案内された。その途中ですれ違う者たちが案内の男に敬礼をして道を避けていくことから、この男はそこそこの地位にある人物と見える。外には小さな船が一隻繋留されており、男は船の上で指で乗ることを指示する。角谷は港の岸壁から船に飛び移り、間も無くその小舟は少し波打った海に放たれた。両岸には山と山がそびえ、その間を縫うように小船は進み、ちょっと進んだところで船は対岸に泊まった。あまり大きな港ではないが、先には車が一台用意されている。それに紳士の後に続いて乗り込むと、車は坂を登り、しばらくして白塗りの建物の玄関前に入った。この間紳士は無言で案内は全て身体言語だった。というより、来いと待ての二つしかない。運転手は敬礼して見送り、角谷も勝手は分からないが敬礼を返す。そのまま無言で案内した部屋の前で紳士は角谷を静止させるとノックの後男が出て来た。

「The governor ordered me to bring them here. Let us through.

(香港総督の要請で連れてきた、通してくれ。)」

「Roger. Please come inside, sir.

(了解です。どうぞお入りください)」

男が扉を開くと角谷はその男に続いて部屋に足を踏み入れた。部屋の奥の机には少し歳をとった紳士が席に着き、その前に荘厳というほどではないが装飾のついた二つ椅子が並べられている。そしてその奥の方の椅子にはスーツの男がいた。

「Well, well. Nice to meet you Ms. Ann and......Mr. Matsuzaka

(これはこれは。初めましてアンさん、そして……松阪先生。)」

「……えっ?」

数度目に聞いたその声の主は先程まで角谷を案内していた男である。

「……私たちははこのスーツの男の人をマツと呼んでいます。この人は今まで本名を明かしていませんでしたが、今の一言で分かりました。そしてマツザカはどこから見ても日本人の名前です。それが英語の通訳として、そして交渉人としてここに来ているということは、あなた方が日本人だということです。」

「Wait until she sits, lieutenant.

(待て、彼女が座ってからだ、中尉) 」

「Roger......Sir Peel.

(承知しました....ピール卿)」

日本人だと、ばれた?そうしたら、この時代の日英関係って、という不安が彼女の顔の表面の水滴と足に現れる。ちなみにこの部屋、ストーブは付いていない。言われるままに角谷は指定された席に腰掛けた。

「どうも、私はロイヤルネイビー中尉のアーサーと言います。以前仕事の関係で日本に住んでいたことがありまして、この通り日本語を話すことができます。」

「……」

「……黙秘を続けてくれても構いませんが、こちらとしてはそちらにある交渉を持ちかけたいのです。」

「……Negotiation?

(……交渉、ですか?)」

「……とその前に、あなた方は日本人で、オアレイは日本の学園艦、の扱いですよね?それを確認しておきたいのですが。」

「……」

「……知波単……聖グロリアーナ……」

「……」

無言だが、その身体が一瞬震えたのを男は見逃さなかった。

「……その様子だとお二つともご存知のようですね。そして先程、交渉という言葉を理解なさった。私はただ用があると言って呼んだだけですのに。」

「…………流石、大英帝国の情報機関は素晴らしいですね。」

「!か、角谷くん!」

松阪は手を伸ばして制しようとするが、構わず話しは繋がる。

「そうです。私たちは日本人で、そして大洗は日本の学園艦です。私は角谷杏、こちらの先生は松阪忠良といいます。」

「……アンズとタダヨシですか。こちらこそよろしくお願いします……あなた方は聖グロリアーナ女学院をご存知ですか?」

「聖グロリアーナがどうかなさったのですか?」

「ただいま本土にて支援するかどうか交渉中です。知波単も聖グロリアーナもご存知となると、あなた方はやはり同じ『日本』という国家から来たようですね。」

「はい。」

「ですが、諸々の視点から考察しまして日本があのような学園艦を幾つも作り、運用できるとはとても思えません。そして、日本政府の外務省は知波単を除く学園艦との関与を否定している。勿論あなた方も。」

「……それで、交渉の内容とは?」

「取引をしましょう。こちらとしては三つ。まずあなた方は何者なのか、それを詳しく教えていだだきたい。そしてもう一つはどうやって全長7.8kmもの空母型の学園艦が航行できているのか。とても石油とは思えません。ましてや日本なら。即ちあなた方は相当なエネルギーを利用できているということ。それを教えていただきたい。最後に戦車道のためにあなた方が保有している戦車を売却していだだきたい。」

「それで、そちらの対価は?」

「残念ながら我々には聖グロリアーナとあなた方を共に長期的に受け入れる余力はありません。その代わりに今現在香港にある物資の一部の提供と今後の交渉のための各国への紹介状を書きましょう。そちらの方が話もスムーズに進むと思いますよ。」

「……物資の量は?」

「残念ながらあなた方の要求量の10分の1程度しか出せません。ここは狭い上に人も多く水もないです。余裕があるわけではないのです。」

「……どうしても長期的には受け入れてはもらえないと。」

「どちらか一方なら聖グロリアーナの方が条件が良いですから。」

角谷は膝の上に手を乗せ頭を捻った。やはり私立のお嬢様学園艦の聖グロリアーナ相手では支援量は敵わない。要するに寿命を一月強伸ばすか、ここを捨てるか、の二択である。だがここで物資を受け取ったら学園艦の統制体制は終わる。再度統制体制の導入などとなったら学園艦は暴動や反乱でまみれるだろう。かといってこの紹介状は捨てがたい。場合によっては米仏への斡旋も狙えるかもしれない。そこで押すしかない。松阪は隣で角谷を見守る。口を出す気配はない。

「……物資の提供は長期的でない限り御断りします。その代わり我々に関する情報をそちらにお伝えして、そして後ほど要求書に記した鉄鋼の一部を譲渡する代わりに、アメリカ、フランスとの仲介をしていただけないでしょうか?」

「アメリカとフランスですか?それはまた何故?」

「イギリスが無理でしたらその2カ国に支援を求めます。幸いその2国の拠点のフランス領インドシナとフィリピンがここから遠くないところにありますから、交渉の価値はあるかと。そしてそこに貴国の斡旋があれば交渉成立の可能性は高まります。」

「それで、我が国の利益は聖グロリアーナが提供を拒む『あなた方が何者か』と鉄鋼を、」

「500t程提供しましょう。」

「そしてあなた方が米仏に利を与えればそれは斡旋した我が国への信用にも繋がると……

Sir Peel.

(ピール卿。)」

「What is it, lieutenant?

(何だね?アーサー中尉。)」

「Their request is for you to act as a mediator in its negotiation with America and France. In return they will provide with their information, steel and iron. This is so that the negotiation will go smoothly and by doing this your country will benefit.

(彼らは情報提供と鉄鋼の提供を条件としてあなたにアメリカとフランスへの交渉の斡旋を求めています。今後の交渉をより円滑に進めるためであり、彼らが成功すればそれを斡旋したあなたの貴国にも利益があるとのこと。) 」

「Certainly, in this case, if we don’t accept their request, the decision will be left up to me. But if their request is mediation then we need the permission from the Ministry of Foreign Affairs.

(確か今回のことは彼らを受け入れさえしなければ私に決定が委ねられていたはずだ。しかし斡旋とまでなると外務省の許可がいるだろう。)」

「True.

(そうですね。)」

「If there is not enough time, can you ask them if just my personal letter of introduction would be enough?

(時間に問題があるならば私個人による紹介状でも構わないかと聞いてくれないか?)」

「……そちらの保有している物資に余裕があるなら外務省に頼んでみますが、我々に交渉を持ちかけている時点でそこまでないのでしょう。そこで香港総督の紹介状で構わないかと仰ってます。」

「香港総督サー=ピールによる紹介状ですか。そこで私たちの身分を危険のないものだと保障するとの記載とその地位を保障する印とサインがあれば構いません。」

「……では、あなた方に関する情報をこちらに教えていただき、鉄鋼を譲渡してもらう代わりに、こちらからは香港総督からの紹介状をお渡しすると。」

「お願いします。」

「それでは、オアレイと聖グロリアーナに関する情報を伝えてください。」

 

「.......I see. I was guessing that you weren’t from this world but now, it makes sense that you are from the future.

(……なるほど。我々の知らない世界から来たとは思っていたが、未来だったか。) 」

「Yes. We, Oarai, St. Gloriana and Chihatan came from Japan about 80 years from now.

(はい。私たち大洗、聖グロリアーナ、そして知波単は今から80年後の日本から来ました。)」

「In the future, is there anything that makes time travelling to the past possible?

(未来には過去に時間旅行が可能のようなものまで出来ているのかね?) 」

「Yes. It’s closed to the public but it seems to exists.

(はい。公にはされていませんが存在するようです。)」

「I don’t know why St. Gloriana is still keeping it a secret but anyway, now I understand your background and why you came here. It’s hard to believe it but this explains the situation currently occurring. I have no choice but to believe.

(何故聖グロリアーナがこのことに関して沈黙を続けているかはともかく、あなた方がここにきた背景と理由は分かった。俄かには信じられんが、大洗, 聖グロリアーナそして知波単の今の状況に説明が付く。私も信じざるをえん)」

老人は首を横に振るが、拒否の表情ではない。

「Thank you for your understanding .

(ご理解いだだき感謝します。)」

「Okay. I will verify the information from St. Gloriana through the Cardiff expatriates. Probably the confirmation will end by tomorrow so please wait until then. To make up for keeping you under arrest, I will take you to the hotel.

(ではこのことに関して聖グロリアーナからカーディフ駐在員を通して確認を取ります。明日までには確認が完了すると思うので、それまでお待ちください。それと今まで軟禁状態だったお詫びと言っては何ですが、ホテルへとお連れします。) 」

アーサーといった男はそう言って近くの電話を手に取った。

「No, it ‘s okay. We were the one who came here from nowhere, so we had no choice. Don’t worry about it.

(いえ、大丈夫です。私たちが勝手に来たのですからあの状況は仕方ないです。お気になさらず。)」

「……But…….

(……そうは言いましても……)」

「Above all, I’m sorry for my members who are still under arrest in the Navy room, so just put me back in that room without hesitance.

(何より海軍の部屋に残してきた二人に申し訳ありません。私も差別なくそこに戻してください。)」

角谷は席を立つ素振りを見せてまで見を前に倒しつつそれを制する。

「Lieutenant Arthur. Since she provided the information we wanted and now she is strongly demanding for the request, why don’t we accept it?

(アーサー中尉。彼女は私達の要求を飲み、情報を伝えてもらった。彼女がここまで言うんだ、ならば私達も彼女の要求を受け入れるべきではないか? )」

「.....I understand. Instead, we will arrange dinner.

(……分かりました。その代わり夕食はこちらで手配しましょう。) 」

「Thank you.

(ありがとうございます。)」

「Alright then, as soon as we get the confirmation tomorrow, we will contact you. Then please bring the

Letter of introduction. I’ll accompany you when returning to the ship, also.

(それでは明日確認が取れ次第そちらにご連絡しますので、そしたら紹介状をお持ちください。帰りも私が同行しましょう。) 」

「Fortunately, everyone would be relieved that I don’t have to be using my sluggish English.

(なら慣れない英語を使わなくも大丈夫ですね。私も他の人も安心します。)」

「to hear that. There is just only a single day, but at least enjoy the atmospher of Hong Kong.

(それは良かった。一日しかないがせめてこの香港の空気を楽しんでくれ。)」

「Yeah, though I’ll be staying inside the room, I’m hoping to enjoy till the end.

(ええ、部屋の中からですが最後まで楽しませてもらいます。)」

「Lieutenant Arthur, take them where they should be.

(アーサー中尉、彼らを送って行ってくれ。)

「Yes sir. ではアンズとタダヨシ、私についてきてください。明日必要なものは渡します。」

「送り迎えありがとうございます。アーサーさん。

Hoping your country and our friendship will last forever.

(貴国と我々の友好が末長く続かんことを。)」

角谷は男と老人に深く頭を下げた後、松阪とともに部屋を去った。部屋に残された老人は後ろで立っていた秘書を振り返って呼ぶ。

「君、印を用意してくれないかね?私が歴とした大英帝国の一員であると示すものを。」




英語は変な所を指摘していただければこちらで訂正していきますので、遠慮なくコメントなどでお願いします。

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