広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。
今ー私のー願ーい事がーかなーうーなーらばーGoogle翻訳にイギリス英語が欲しーい
彼女らに翼が生えますように。

6月10日
コメント頂きましたのでそれを元に英語の部分一部変更しました。
餅は餅屋ですね。


広西大洗奮闘記 23 Oarai

10月26日 香港島北西部 花園道付近 香港総督府

「サー、ピール。」

一人の紳士がその執務室に入ってきた。

「おはよう、今日は昨日の雲が飛び去った清々しい日だね。」

額を日に反射させ光らせる鼻下に髭を付けた老人が優しそうな顔で答える。

「はい、その通りです。」

「今日の業務はどうなっている?」

「はい、本日は電話と飛行場の視察と夕方に資本家の皆様との会食の予定です。」

紳士は手元の手帳を確かめる。

「なるほど。」

「ですが、その前に今朝入った奇妙な話が……」

「奇妙な話?」

「ええ、ビクトリアハーバーに無国籍の輸送船が入港しようとしたのを海軍が捕らえたのですが、」

「海賊の類ではないのかね?」

「それにしてはやけに正装してまして、彼らが言うには我々は学園艦の者である、食糧などの物資が不足しており、将来的な食糧供給を条件に補給を受けたいと申しているとのことです。」

「はぁ、学園艦か。それで今はどうしている?」

「引き続き海軍が捕らえております。ですが若い女三人と男一人なので男から聞き出しておりますが、めぼしい情報はまだ……」

「国籍などもか?」

「はい。見た目はアジアンですが彼らが提出した要求書によるとオアレイ女子高校という学園艦から来たそうです。」

「オアレイ?何の名前だ?中国語ではなさそうだが。」

「分かりません。ですが、その要求書に信じられないことが書いてあるんです。」

「何だね?」

「えっとですね……」

その紳士は腕を組んだまま口ごもる。

「良いから申してみよ。」

「その学園艦、全長が7.6km、横幅が1kmある空母型のものだそうです。」

流石の老人もそれを聞いた時回路の一本が切れかかった。

「……それは最近建造が始まったという空母の何倍の大きさかね?」

「確か……縦幅だけでゆうに30倍は越えます。」

「……いくらなんでも我が大英帝国を遥かに超える技術を持つ国などおらん。それをこのご時世に軍備としてではなく学園艦として作る余裕のある国力と資源を持つ国もおらん。アメリカでさえ技術的にそんな空母型作れないだろう。

よってまずそんなものの存在が信じられるはずもない。それに学園艦ならばどこの国のものかこちらに伝えるべきだ。交渉も何もない。帰ってもらえ。」

「無理があるのは承知で言いますが、交渉に来てそんな航空偵察すれば簡単に分かるような嘘をつく人がいますかね?」

「それが本当ならそんな学園艦に支援するだけの物資はここ香港にはない。嘘なら騎士道において嘘をつく相手と交渉する必要はない。」

「本国に確認を取ったほうが良いのでは?」

「流石に本国から香港に物資を運ぶことはないだろうから必要ないと思うが……退任ギリギリで不祥事を起こすわけにもいかないし、その学園艦の保有国との関係を私の独断によって悪化させる訳にもいかないか……そうだな。一応本国に連絡は入れておかないといかんな。電話を繋げてくれ給え。」

「どちらに?」

「外務省だな。その学園艦に関する話が伝わっているかもしれん。とはいってもNOと帰ってくるのを聞くだけだろうがな。」

「分かりました。」

紳士は電話機を持ち出し、このピール総督の時代に整えられた自動化された電話網を通じて、ロンドンのキングチャールズストリートにある外務省へと繋げる。

「こちら大英帝国外務省、どなたですか?」

電話に出たのは若い男の声だ。

「香港総督のウィリアムだ。サミュエル準男爵にお繋ぎ願えないかね?」

「申し訳ありませんが、サミュエル外務大臣は只今会議に出席されていらっしゃいます。」

「ほぅ、それは失敬。いつ頃お戻りになるかね?」

「予定ではあと10分程でお戻りになるはずですが、何分昨今は会議が長引きがちなのでどうなるかはこちらも把握出来ません。」

「そうか……では戻られたら香港の港に国籍を名乗らない学園艦の使節がお見えになったのでその対応についてご相談願いたいとお伝えして頂けないかね?」

「承知しました。その様にお伝えします。」

「では失礼するよ。」

受話器を戻した老人はその手を紳士の方に向ける。

「君、一応海軍には彼らを粗略に扱わぬよう指示せよ。あとこの情報は内密にな。」

「はっ!」

その紳士が部屋を出ようとした時、老人は一声かけそれを呼び止めた。

「それと、彼らの要求書を写しで良いから用意してくれ。」

「はっ?それは何故?」

老人ははぁと溜息をついて続けた。

「騎士が男爵に内容を説明できずに口ごもって如何する?上の仕事を下は問題なく完遂できるようにする。それが騎士の契約というものだ。」

 

 

角谷たち一行は今回は背中に銃を突きつけられることはなかったが、身体検査で武器を持っていないことは確認された。幸いにも女子3人の検査は女性がやって下さったことは彼女らのイギリスに対するイメージを良好なものにした。

そして松阪一人だけが別の部屋に行き3人は纏まってちょっとした部屋に案内された。確かに前の4人でいた一室よりはグレードが高いが、コンクリートの無機質さが角谷を除いた2人の不安を強くするらしい。

「……か、角谷会長、だ、大丈夫ですよね?」

その一人の有馬が角谷の側で話す。

「こんなの前に行った時に比べれば素晴らしい厚遇さ。あと、ここでは出来るだけ英語で話して。無理なら黙っててね。」

「……oh…….」

永野は角谷が小声で伝えたそれを早めに受け入れたようだ。

船舶科はその授業と実務の関係上いわゆる頭のよろしい人間というのはそういない。無論技術で引っ張ってこられたこの2人は多数派だ。そして角谷一人で話すこともないので、自動的にこの部屋は無言となる。

この無言は外にいる相手からすればただ恐怖に襲われていると思われるため都合がいいのかもしれないが。部屋の机の上の水の入ったコップは誰も取ろうとしない。

(……しかし、松阪先生も全てを知っているってわけじゃあないからねぇ。果たして如何なるものやら……)

角谷が一番最初にコップの水を口に入れ、暫くしてから飲み込んだ。黙ってその場でじっとして、異変がないことを確かめる。

「....It's fine. We can drink it.」

「……OK.」

二人はそうとだけ答えて、それぞれの水を飲み、机の端の方にそれぞれ離して置いた。そして再び皆それぞれの簡易ベッドの上に座るなり寝そべるなどして無言の時が過ぎる。

部屋に時計も無い為何分経ったか分からないが、暫くして外の廊下を響かせながら近づく靴の音があった。それは彼女らの部屋の前で止まると、鍵の開く音がして扉はこちらに開けられた。向こうにいたのは腹に縦二列に金のボタンを並べた中年手前の男だった。

「Is there a girl name " Ann " in this room?

(アンという名の娘はこの部屋におるかね?)」

「Ann?That's my name.

(アン?私の名前です。)」

呼ばれたことのない名だったが、他の二人の名前からしてそう呼ばれるのは角谷しかいない。すぐさま男の前に直立する。男は見た目より身長が高く、角谷を頭一つ半見下ろす。

「How can I help you ?

(何の用でございますか?)」

「I heard that you have documents about a demand to Hong Kong. Is it possible for you to hand me over them?

(私は貴女があなた方から香港への要求に関する書類を持っていると聞いた。ご提出願えないだろうか?)」

「I understand. Here it is.

(受け取ってくださるのですか?承知しました。こちらです。)」

角谷はカバンの中の提案書の入ったファイルを取り出し、それを男に差し出す。

「I certainly received it.

(確かに受け取った。)」

男はファイルの中身を確認し左手に携えた。

「「And ah….

(それと......)」

「Hmm?

(うん?)」

「Take this as a return of it.

(受け取ってくださったお礼としてこちらをどうぞ。)」

角谷はもう一つカバンから箱を取り出すと、それを男に渡した。

「A watch?

(腕時計?)」

「Exactly. This watch does not require battery. As long as it doesn’t break, you just need to shake it to start this watch every time you need.

(その通りです。この腕時計は電池が必要ありません。この腕時計が壊れない限り、振るだけでいつでも時計を動かすことができますよ。)」

「Hmm, there is such a watch.

(ふむ、そのような時計があるのだな。)」

男は入れ物から時計を取り出すと外見を確認する。見た目はそんな高くなさそうだが、確かに電池入れらしきものはない。しかし時計は正確に時を刻んでいる。時間もしっかり香港の時間に合わせれているようだ。

「Ok, I understand. l’ll keep it for you.

(分かった。貴女のためにこちらもお預かりしよう。)」

男は箱にそれを戻すと、扉を閉めて靴の音を時と共に小さくしていった。

「……That was nerve-wracking…….

(緊張した……)」

角谷はその音がかなり離れたのを聞いて自分の簡易ベッドに座り込んだ。

「あ、会長。小声なら日本語でも大丈夫じゃないですかね?」

「小声で話していたら何かを隠していると疑われる。黙っていた方がお得。」

「……OK.」

「God only knows……

(神のみぞ知る……)」

 

試験といえば何だろうか?山かけ、カン、一夜漬け、捨て問、1週間前から真面目にやる奴、試験の間の休み時間に記憶系を出来るだけ頭に叩き込む奴、完徹と昼寝のルーティン、最終日の解放感、そして教科。とある漫画ではモンスターへのバトルと化しているが見た目はそんな激しいものではない、頭の中を除けば。

ただ一つ一つ自身の目の前の問題を記憶と論理で制覇するだけだ。その為の頭であり集中力である。

しかしそれを阻害するものがある。そういうものは抜こうとすればするほど根が深くなる。煩悩とまでは言わないが、受けるものからすればそうも思いたくなる。秋山優花里にとっては『不安』がそれに当たった。勉強不足による不安ではない。勉強なら単位を絶対に落とさないくらいには十分勉強した。これまでのテストの感触も悪くない。

だが、不安だ。確かにあの時エルヴィン殿は自身の強引な暴論だと仰った。けれどそうではない、のではないかという思いは抜けない。中華民国、その呼称が優花里の脳内を巡る。

それと確かにこの世界が我々のいた世界ではないならば、ネットが使えずテレビも映らず、何より日本からの補給が切れたこと、それの理由が説明できる。確かに考えられない、あり得ない。しかし現在のこの長期間補給が来ないし寄港も出来ないということも本来ならば十分あり得ないはずのことなのだ。それの疑念、万一本当だった時の疑念、それが優花里の煩悩となっていた。

しかしそれを断定出来るわけもない。この学園艦にいる限り外は確認しようがないからだ。そして船舶科との関わりもない優花里は外に出ようがない。しかも自分がそう思いたくないのなら尚更だ。間もなく試験の5分前を知らせるチャイムが鳴り、監督の先生がクラス分の問題と解答用紙を脇に抱えて教室に入ってくる。優花里も背筋を伸ばして次の教科に備える。確か次は数学のBである。

(頑張らなくては。)

解決されない。そしてそれが確実に解決されるとしたら補給が来るか来ないか、残念ながらその時しかないだろう。すなわち今彼女に出来るのはこれから目の前に渡される紙に答えを導く理論を並べることだけである。そう考えるしか抑える手段はなかった。

 

「こちら香港総督のウィリアムです。」

老人は紳士から渡された受話器を手に取った。

「こちら大英帝国外務省。サミュエル外務大臣がお戻りになりました。事情も既にお伝えしております。」

「おおそうか、それはありがたい。それでは電話を変わって頂けるかね?」

「はい。暫くお待ちください。」

若い男の声は途切れる。手元には用意させた写しと彼らの娘の一人から預かった時計が置かれている。つけ心地も悪くなく、交渉次第では貰ってしまおうかとも思える。が、外交と私情は別だ。ここははっきりとNOと伝えねばならない。

「……こちらもう直ぐ議会の反発で辞めさせられそうな外務大臣だが、何か用ですかな?」

「ははは、こちらも後任の到着待ちですから大した差は有りませんよ。しかしそちらも就任直後の条約で責められるとは不幸なことですな。」

「ですが、我が国はあの条約を結ぶ必要がありました。イタリアもフランスも信用できません。そして国民は戦争も求めていません。ついこの前もロンドン塔の前で反戦デモが起こったばかりです。ドイツはソ連との壁です。少しは力がなくては困ります。」

「……まぁ、外交関係は私は口出す気はないですし、会議が1時間長引いたことからもそちらが忙しそうだということは分かりますので、早速本題に入りましょうか。」

「はい。確かそちらに学園艦が寄港した、でしたか?」

「いえ、正しくはその使者が寄港したというところです。」

「そして要求書を提出したと。」

「はい。」

「内容を教えてくれますか?」

「分かりました。」

老人は写しに書かれた文言をそのまま読み上げていく。時たま向こうがこちらにもう一度読んでもらいたいと止めたが、概ね何も支障なく文面は伝えられた。聴き終わった後の向こうから返事はない。

「……」

「どうですか?私はこの香港の状況からしても即刻断るべきかと思いますが。」

「……1年物資を供給する代わりに3年間食糧の供給を受けられる、と。」

「その1年分の物資が桁違いです。それに向こうの提示してきた量で間に合う保証も向こうが言ってきた量供給してくれる保証も有りません。」

「敷地を考えればあり得なくはないですが、これは向こうの生産の様子を視察しないと読めないですね。」

「……」

「この文章、本当にこのまま提案してきたのですか?」

「はい。」

「としたら外交文書としてはやけに裏表がないですね。外交力はあまりない人物が書きましたな。ここなら即刻クビですね。」

「……」

「戦車道、か。我が国も前に導入したな。やはりソビエト、日本などには人材も劣るが、この前人材来たからなぁ。」

「……」

「ですが、どこの国の学園艦でしょう?オアレイなんて聞いたことも無いですが。そうだ、インドに行って労働力となって貰うことを条件に交渉出来るかもしれませんね。」

「……あの、すみません。」

「どうしました?」

「いえ、どうして先程の要求書に書かれていた学園艦の大きさに疑問を持たれないのか、と。」

「ああ、全長7.6km、横幅1kmというものですか。」

「はい。そんな学園艦をどこの国が造れるというのでしょう。我が大英帝国でもアメリカでさえも学園艦にそんな国力を割くことはできません。はなからの存在さえ疑うのが当然でしょう。」

「何故と言われましても……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本土にそれを超える学園艦が来航しているんですよ。」

「…………へっ?」

その一言に対し老人からは腑抜けた声が飛び出す。

「優秀な人材と大量の紅茶を供給してくれまして、しかも自活するとのことからボールドウィン首相も寄港に乗り気です。きっと私が辞職する頃には正式に寄港しているでしょう。」

「……本当ですか。」

「しかもその中に戦車道の選手が居たそうで、寄港したカーディフでウェールズの戦車道チームと戦わせたところ、こちらがこてんぱんにやられたそうです。」

「……はぁ。それで、なんという名前なのです?」

「確か名前は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

St.Gloriana Girls High School と言いましたかな?」




歴史が矛盾してる?
ごめんこうするしかなかったんだ。いやマジで。

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