広西大洗奮闘記   作:いのかしら

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どうも井の頭線通勤快速です。
リアルが忙しすぎて投稿遅れましたすみません。

愛里寿ちゃんは歌うとチートと化す。


広西大洗奮闘記 12 青い川

放課後の前に聞こえた放送を、会長室にいた2人は快くは思わなかった。

「……幹部を動かしましたね。」

「ええ。できるだけ情報を知る人は少なくしておきたかったのだけど。」

「でも、風紀委員がこちらの意向を無視したということは…」

「何か感づいたかもしれない、と?」

「はい。」

「……何かあっても動きがあってから対処、で問題ないと思います。」

一度華と目線を合わせていた小山は再び視線を離した。華はどこかしら心に突っかかるところがあったが、小山もこう言っているからとあまり気にしないことにした。

「そういえば、会長さん大丈夫でしょうか。まさか捕まってたりとかは……」

「ありえない訳じゃないよね。……いや!そんなことはない!信じましょう!」

小山がいきなり腹から響く声を出したものだから、華は呆然と首を縦にふるしかなかった。

「あ、と。そろそろ配給準備始めないと。次私当番だ。」

「配給も始めてそろそろ10日ですか……」

「まぁもともと1月分を1月半かけて配給する計画だから余裕はあるけど……」

「もし、不満が高まってきたら、」

「……食糧を多めに配給して一時的に抑えることも検討しなくちゃいけないわね。」

「一時的、ですか……やはり早めに補給を受けられる様になるのが一番です。」

 

 

移動教室などの際に使われる分割教室がこの大洗女子学園には多数ある。何せ1学年3000人の規模の学園である。それぞれがカリキュラムによっては移動したりを繰り返すのだ。その分割教室は大教室と呼ばれる100人以上入れるものもあればたった20人入れるほどの小教室まで各種ある。

因みにこの大洗女子学園は学園艦としては小規模の部類に入るのだから、他の学園艦ではどうなるか推察がつくだろう。

その小教室の一つが風紀委員幹部集合の場所だった。

「……集まったかしら?」

「大丈夫よ、ゴモヨ。全員揃ってる。」

委員長の後藤モヨ子、副委員長の金春希美を正面に、多数のおかっぱ幹部がその狭い教室の中に席を連ねている。

各クラスから選ばれる風紀委員は総数350人程である。なおこれが割り当ての各クラス一人の総計より少ないのは船舶科など一部学科は選ばれないからである。そして風紀委員は担当がそれぞれ存在し、それぞれに担当長が決められている。多少違いはあるもののここにいる幹部はほぼ担当長だと思ってもらって構わない。

「廊下に人はいる?」

扉に近いところに座っていた者が少し開けた隙間から外を覗く。

「いないです。」

「では、風紀委員幹部緊急会議を始めるわ。」

「案件は何ですか?」

真っ先に発言したのは嘉沢南美、風紀委員の通称だとカナンである。彼女のおかっぱの長さはそど子とほぼ同じだ。

「生徒会が、更なる規制の強化を求めてきたわ。」

「治安の取り締まりですか?それなら担当長の私とエドムだけで宜しいのでは?」

カナンが席を一つまたいだ右のゴモヨより少し長めのおかっぱを指差す。エドム、本名江戸川夢華もまたこの学園艦の治安維持担当長である。この2人の違いを挙げるなら担当が高校か中学か、それだけである。

「確かにそれだけなら2人だけでいいのだけど、問題はそれに関する向こうの発言なのよ。」

「向こうの発言、ですか?」

ゴモヨはまずは生徒会からの指示内容、それから学園艦に関する現状の疑問、それらから導き出される問題を明快に纏めた。やはり学園の一組織とはいえトップに立つ者、論理的な語り口である。それを最後まで聞いていた幹部たちは大半は同意の意を込めた様子で頷き、残りは手を挙げている。真っ向から否定する者はいないようだ。

手を挙げている者たちから意見を聞くと、次のようなことが上げられた。

・生徒会が何かを隠していることは分かるがそこから風紀委員の解体は論理の飛躍がないか。

・生徒会からこの会議に対する妨害がないから、風紀委員の混乱は少なくとも副次的な者ではないか。

などである。

「とりあえず聞いた限りだと、生徒会が何かを隠していることへの異論はないと認めてもいいかしら?」

ゴモヨの前に座る者たちから反応はない。

「……それじゃあ、生徒会の隠していることを明らかにする。その方針はいいかしら?」

「明らかにしてどうするのですか?」

「……本当に自分たちの権力強化のために補給を止めていたら、それを止めさせる必要があるわ。故意に補給を止めて住民を苦しめるだなんて風紀委員として許していいことではないわ。

故意では無いとしても、この10日程補給が止まっている現状を考えれば生徒会が有効な手段を取れていないということ。こちらが動く必要があるわ。」

「なるほど。」

先程疑問を述べた者は納得してくれたようだ。一息ついた後ゴモヨは再び口を開いた。

「それで、そのための調査担当を新たに編成したいのだけど……どこか人員に余裕あるところで口が固い人がいれば教えてくれる?」

「ウチの学園艦治安担当は無理です。何せ生徒会から頼まれた夜間外出禁止対策の見回りで人員がギリギリなんです。むしろ欲しいくらいですよ。」

一番人数の多い学園艦治安担当長のハマコ、本名浜公子は速攻で断った。

「やはり学園艦治安は無理よね。他はどう?」

「高校学園治安担当は恐らく数名出せますが、真面目な奴というと多分2、3人ではないかと……」

「中学学園治安担当も同じ程度が限界ですね。中学への取り締まりを少なくできるならいいのですが。」

「どこも厳しそうね。」

「ウチはいつでも、なんなら全員出しても良いっすよ!」

「えっ?」

後ろの方にいた陽気な黒丸メガネのおかっぱが背もたれに身を預け手を挙げた。

「ヤボクは……学園艦店舗運営補佐担当だったわよね。」

「いやー、購買以外の店舗が買い占めで締められちゃったので運営を助けるも何もないんですよ。それで暇なうえに購買は見張るもくそもなくズルしそうにないんで担当員使ってくれて構わないっすよ。」

「それよりヤボク、貴女は風紀委員としてその言葉使いは治しなさいよ。それで、口が固い人はいるわけ?」

「いるよ、数人は。」

「ではそこから調査担当を編成するわ。他に何か意見のある人はいる?」

ゴモヨは部屋を見渡すがやはり反応はない。これは風紀委員というものが反応するのをためらう者たち、という訳ではなく単に面倒事を全て抱えてくれる存在が自分から現れてくれたことに一安心したのだ。

「では、ヤボクは残ってちょうだい。他は今回のことはそれぞれの担当員内密にお願いするわ。では、解散。」

「失礼しました。」

風紀委員らしく丁寧に礼をし、ぞろぞろと扉から出ていったおかっぱの群れの話し声が遠ざかった部屋の中には3人だけが残された。ゴモヨ、パゾ美、ヤボク、本名矢暮久子である。そのヤボクは後ろから前の方に近づいてきた。

「……礼くらいは真面目にやりなさいよ。」

「これはすんません。」

「ん、じゃなくてみ、よ。」

「はいはい。それで、選抜したのはいつ連れて来ればいいっすか?」

「はいは一回!……そうね。明日放課後に呼んでもらえるかしら。話が広がらないように候補に直接声を掛けてちょうだい。」

「人数は?」

「候補は何人いるの?」

「元々ウチが学園艦上の店舗に疑いがかけられた際に予備調査できるようになってますんで、それの経験者だけで5、6人はいるかと。」

「……なるほど。だったらその全員でいいわ。呼んでもらえる?」

「了解っす。それとっすね、これは一つ提案なんですが…」

「何よ?」

「ーー。」

「……なるほどね。その手を打ってみて損はないわ。やりましょう。」

 

 

上海沖で輸送船ごと捕らえられた4人はまず軍人らに銃を突きつけられながら上陸して寒い牢獄みたいな所に押し込まれたものの、その数時間後には今度は先ほどよりはだいぶマシなアパートみたいな所に押し込められた。部屋は机一つのこざっぱりとしたところで外には銃を構えた歩哨が警備をしていてくれている。

「……怖かったですね。」

「まさかいきなり両手を挙げさせられて背中に銃を突きつけられるとは思わなかった……」

「……まぁでも今はマシな場所に連れてきてくれたから、これから何かするわけじゃないでしょう。」

「だといいけどな。」

船舶科の2人は青ざめ、他の2人は真顔で壁に寄っかかって座っている。背中に銃口が当たるなど日本で普通に住んでいれば考え辛いことだから仕方ない。しかし学園艦のトップである角谷はそうも言っていられない。

(今回は殺されるってことはなさそうだけど、次はこうとは限らない……思いの外色んな国と交渉するのは厳しいかもね……)

「先生、それでさ今ここどこらへんか分かる?」

「トラックで輸送されていた時に浦東の文字がチラッと見えたから上海からそう遠くは離れていないはず、だが細かい場所までは……」

「おっけー。それさえ分かれば十分。それと山本ちゃんと田中ちゃん、」

「……はい?」

机を前に俯きつつあった2人はその顔を上げ、角谷の方へ向ける。

「現在の学園艦の位置って聞いてる?」

「……もし船の中で聞いていたものと同じ速度、同じ方角で進んでいたら今は与論島沖かと思います。」

「ゆっくり進んでくれるとはうれしいね。分かった。」

「それで角谷くん。これからどうするつもりだね?」

「どうもしません。」

「へっ?」

「いやー、だって見張られて手持ちには資料しかないこの状況で何が出来るんですか。このまま相手が乗るかそるかを見極めるしかないでしょう。」

「……問題は成功した時はいいにせよ失敗した時にこのまま学園艦に帰れるか、というところだろうな。」

「それも中華民国としても日本人である私たちを殺したとしても日本との関係悪化に勝るメリットがないくらいは分かってると思いますよ。」

それを聞いていた船舶科の2人はほっと胸を撫で下ろすが、

「だけど、帰りの船に細工とかされてても文句は言えないねぇ。」

次に言ったこの言葉にやはり震えるのだった。

「しかし……暇だ。」

「仕方ないね。何もないもんね。」

4人は揃って天井からぶら下がり一定周期の時を刻む電灯を眺める。この時代だと珍しいものなのかは知らないが、そんじょそこらの部屋ではないようだ。天井の筋を角谷が20本まで数え終わった時、扉がノックされ外に立っていた歩哨が内向きに扉を開いた。

「入るぞ。」

「どうぞ。」

「こちらは上海市の職員の方だ。」

歩哨の挨拶に松阪が答え、3人を呼んで並ばせた。中に入ってきたのは歩哨ともう一人、それとは対照的にスーツに身を包んだ役人風の男だ。

「よろしくお願いします。それで、いかなるご用でしょうか?」

「私は上海市長の呉鉄城氏に代わり、貴様らの要望とやらを受け取りにきた。」

「受け取ってくださるんですか?」

「そうだ。内容はこちらで判断する。」

「分かりました。おい、角谷くん。」

松阪は隣に座っていた角谷の肩をたたく。

「どうしました?」

「こちらの要望を受け取ってくださるそうだ。渡してくれ。」

「……あ、はい。」

角谷がカバンから取り出した書類を受け取った松阪はそれに両手を添えて男に差し出す。片手でそれを取った男はその場でさっと目を通すと、目線を松阪の方に向け話し始めた。

「……君たちはどこに1万人が1月半食べられる食糧を備蓄しているのだね?」

「そちらに書いてある学園艦、というところです。」

「そんなものが本当にあるのか?」

「あります。」

「どこにだ。」

「日本領与論島西部の沖合です。」

「それと、お前たちの中で英語が話せる者はおるか?」

「I can speak English.」

「……分かった。案件はこちらで預かろう。食事は適宜部屋に入れる。」

「そこまでしていただきありがとうございます。」

「……行くぞ。」

「はっ。」

その書類を丁寧に封筒に入れカバンに入れた役人風の男は歩哨に見送られ部屋から去った。

 

その時間わずかに数分、しかしその男と話した松阪はもちろん、彼の横に並ぶ3人の少女たちも、男が去った部屋の中で自分の荒れ狂う鼓動を全身から部屋中に響かせていた。その理由の一つが男の腰にあったことは言えるだろう。そのことは角谷に危機感をさらに募らせさせるには十分すぎた。

 

 

2012年 10月18日 東京都虎ノ門 文部科学省学園艦教育局 局長室

「……」

「……」

「これはこれは珍しい。よくぞいらっしゃいました。」

かなり不機嫌な顔で席に並んで腰掛ける2人の淑女、その後ろに並ぶ4人の女子の前で一人の男が腰を低くして対応している。

「特に西住流の家元さま、この頃体調が優れないとお聞きしていましたが、お元気そうでなによりです。」

「……」

しかし前にいる二人の淑女のうちの男から見て右、入り口から見て左にいる黒い上着を身に纏った方に座っているのは西住流家元、西住しほである。そのしほは不機嫌な顔を崩さずにみほをビビらせた冷酷な視線をこの男、辻に向ける。

前の二人には湯気を登らせ良い香りを鼻に届ける茶、後ろの四人にはペットボトルの茶が辻から直々に手渡された。それを終えた辻は彼女らの正面に伸びるソファーの中央に腰を下ろした。

「さて、西住流と島田流。戦車道の名家中の名家とも呼べる二流派の重鎮がこの学園艦教育局に何のご用でしょう。」

西住しほの辻から見て左にいるのは島田流の家元、島田千代である。真っ先に口を開いたのはしほだった。

「……今回の高校戦車道参加校への戦車道予算の削減、これはどういうことでしょう?」

「どうもこうも、我々が世界大会、プロリーグの際に有望視していたのが今回の8校だった、それだけのことです。その8校がどうなったかは西住さん、貴女が一番よくご存じでしょう。」

「……ですが、残された他の8校の中にも変革を進めているマジノ女学院のようなところもあります。一律でかなり削るのは如何なものかと。それに戦車道の発展という文科省の方針とも矛盾するのでは?」

「ほう……それでは西住さん、貴女は脈々と受け継がれてきた伝統的な西住流が、どこぞの馬の骨とも知れない人物が作った戦術に負けるというのですか?」

「勝負は時の運と申します。」

「おや?西住流は何よりも勝利を尊ぶ流派のはず。負けを計算に入れてよろしいのですか?」

「……プロリーグを見据えた発展と矛盾」

辻はすっと手をしほの前に出し、言葉を区切らせる。

「確かに私は貴女に世界大会の委員をお願いする際に『戦車道を発展させる。』と言いました。それが文科省の指針だったことも間違いありません。しかし貴女は一つだけ間違えている。」

「……どういうことでしょう?」

「私は今後、つまり将来にわたって戦車道を発展させ続ける、とは一言も言った覚えはありませんよ?」

「⁉︎」

「確かに世界大会に向けた受け入れ準備として戦車道を発展させる必要はあります。しかしそれはあくまで受け入れ準備として、です。将来に渡って戦車道の発展を保証するような馬鹿な真似は致しません。」

「馬鹿な真似とは何ですか!前の試合といい貴方は戦車道を何だとお思いか!」

思わずしほが声を荒らげ、机に拳を叩きつける。しかし、辻は動じない。

「馬鹿な真似は馬鹿な真似です。補償金だけで小国の国家予算くらいなら一息で吹き飛ばし、広まれば日本のあちこちで煙が昇るようになる戦車道を誰が好んで広げますか?」

「貴方が……戦車道を誘致したのにもかかわらずですか。」

「誘致する方針を定めたのは内閣の方です。私はその命令をもとに動いたにすぎません。今回の件で残念ながら世界大会を見据えた優秀な人材の多くは失われてしまい、国の予算の赤字も増え続けている今、予算をそちらに配分するわけには行きません。だが、最低でも今程度の状況の維持なら良いでしょう。」

「……それならば島田流も文科省に協力致しません。世界大会からは身を引かせていただきます。」

言葉に詰まるしほに対し、次に話し始めたのは島田千代である。

「西住流は引こうと引くまいとどうでもよろしいですが、島田流はそうはいきません。」

「いいえ、引かせていただきます。」

「本当に引いてしまってよろしいのですか?」

「島田流とて戦う者達です。その家元に二言はありません。」

「このまま島田流が世間から貶められ続けても、ですか?」

「貶められる?」

「8月の戦いを見せていただきまして、私は一つのことを感じました。高校生チームを率いた西住みほさんと貴女方、戦法が似ているように思えたのです。

その場に合わせた的確な戦術の変更、防御と同時に敵の数を漸減させ、攻撃するときは一点集中。そして分散しつつも連携を重視。つまり、貴女方は我々が与えた有利な装備、物量、連携、そして相手と似たような戦法を持ちながら貴女方は負けたのです。

負けたことについて私はどうこう言うつもりはもうありません。文句を言って変わるものでもありませんし。しかし、これをブン屋に渡したら?」

「⁈」

「素人目でもこれだけ共通点が上がるのですから、ブン屋からしたら掃いて捨てるほど湧いてくるでしょう。何故かまだその手の話はでてないみたいですが。」

「……脅しですか?」

「ええ、それがどうかしましたか?」

「……人の上に立つ人物とは思えませんね。」

「島田流も西住流も、我々文科省の要求をどちらも見事に裏切ってくれました。信頼するわけがありません。」

「……」

「その代わりと言っては何ですが、世界大会に協力いただけるのならば今の西住さんの地位を島田さんにお譲りしましょう。」

「なっ!」

「西住流よりも島田流がこちらについて頂けた方が好都合ですし。」

「どういうことですか!」

いきなり発した言葉を受けてしほは辻に食ってかかった。

「なに簡単なことです。世界大会で活躍してもらうのは西住流ではない。島田流の後ろの方々だ、ということです。島田流としても西住流を打倒した形になりますから、体面も経つと思いますよ。

それに世界大会に出なくて未来が潰されるのは貴女方ではない。後ろにいる千代さん、貴女の娘とその大事な仲間なんですよ。」

「っ……」

娘、その語を聞いた千代の口が止まる。

「西住さんは今回は引いていただきたいと思います。なにせ中心選手にする予定だったまほさん、みほさんがあの様な事態になってしまったのです。これからさらに忙しくなるこちらとしても辛い経験をされている貴女を受け入れ続けるのは厳しい。ここは島田さんが乗るにせよそるにせよ、退いて頂けないでしょうか?」

「……少々時間をください。検討します。」

しほはそう言うと、その場では話さなくなった。千代はただ手を膝の上で握り、決断をためらっている。

その様子をやりきれない思いで眺めていたのが後ろに並んでいたメグミ、アズミ、ルミの三人の大学選抜チームの副官である。3人は無論世界大会に出場したい。しかし、それに対するこの役人の戦車道を卑下する言いよう、対応に強い反発を覚えた。家元が迷うのも無理はない、それが3人の総意だ。

しかし彼女らよりずっと小さい一人の少女は右手にボコられグマのストラップをにぎってじっと何かに耐えている。やはり隊長も怒っておられるのだろう、3人はそう捉えていた。

「……てやる」

その少女は隣にいるルミが一瞬気が取られるだけの小さな声を出した。

「やーってや……」

「?」

「……をぼーっこぼっこ……」

ここまで来て、やっと3人はあることに気づいた。

(隊長が歌い出した!)

そう、この島田愛里寿は歌い出したのだ。

「……ーたでかーぜきり……」

頭を悩ませている千代はそのことに気づいていない。

「……ーめをみてー」

その様子を3人は止めようともなにもしない。なんにせよそれが我々の隊長の決定なのだから。

「……きてーいーけー!」

最後のけ、をはっきり言ったためか全員の視線がいっせいに愛里寿の方を向いた。それらの視線に対する躊躇いは見せたが、それは歩き出した愛里寿の次の言葉で打ち消された。

「お母様!」

「……何、愛里寿。」

千代の左正面に立った愛里寿は床に膝をつき、そのまま額をも床につけた。

「お母様お願いします!私を世界大会に出場させてください!」

「!」

千代も人見知りをする娘がよく知らない男と女のいる前で土下座している光景に半ば唖然としている。他の者は無論だ。

「……私も、ここで出場することが戦車道の誇りと意地を大きく損なうものだ、ということは分かります。しかし!それでも!それでも私は仲間とともに戦車道をしたいのです!」

「……それだけ?」

「それと……みほは、あの時戦った高校生のみんなが死んでいるはずがありません!私は、彼女らが帰ってきた時に島田流の島田愛里寿として、彼女らと堂々と戦車道で再び勝負がしたいのです!その時に、少しでも強くなって!次は勝つために!その為に少しでも強い敵と戦えるかもしれない世界大会に出場したいのです!

世界大会後に再び戦車道が凋落するようなことはさせません!私が文科省の力を借りずとも、島田流の意地と技で必ずや戦車道を興隆させます!」

その言葉が彼女の飛び級するほどの明晰な頭脳から導き出されたのかそれともただの理想なのか、それは分からない。ただ一つ言えるのはその行動が島田千代を決断へと導いたことだった。

 

島田千代の世界大会委員への就任と西住しほの世界大会委員の解任が起こったのは、それから間もなくのことだった。

 




カチューシャ「次こんな投稿遅かったらしゅくせーするわよ!それとプラウダ編やるのでしょうね!」
主「無理。」
カチューシャ「は?どういうことよ!」
主「君たちの学校内での立ち位置が分からない。」
ノンナ「私からもお願いできませんか?」
主「……あちらの方を入れて良いなら……」

ベリヤ「……」

同志ベリヤが仲間になりたそうにこちらを見ている……

ノンナ「ニェット!」

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