そのポケモンの世界で俺は   作:puc119

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第34話

 

 

 さて、フジ老人からポケモンの笛をもらったため、これであの寝ているポケモンを起こすことができるはず。そしてポケモンが寝ている場所は12番と16番道路。それは、どちらもセキチクシティへと通じる道だった。あの居眠りポケモンはセキチクシティに恨みでもあるのだろうか?

 ただ、まぁ、この笛を使えばそこへも行けるはずだし、きっとあの居眠りポケモンだって捕まえることができるはず。

 

 大丈夫、俺の未来は明るい。

 

「そんじゃ、行くとするか」

 

 現在の場所はシオンタウン。南へ進めば12番道路へ着き、あの居眠りポケモンがいるはず。そして、そのままセキチクシティを目指していこう。

 

 

 シオンタウンを抜け、タウンマップを片手に12番道路を進んでいくと、直ぐに関所のような場所へ着いた。今までも関所のような場所には何度か訪れたことがあったが、12番道路の関所は今までと違い、2階があり、どうやらそこが展望台となっているらしい。

 そんな高い建物でもないし、見晴らしが良いのかは分からないが……まぁ、せっかくなのだし、寄ってみるのも悪くないか。

 

 そんな展望台へ上がると、ガラス張りの部屋となっていて、椅子と望遠鏡が2つほど置いてあった。展望台にいたのは少女がひとりだけ。そして残念ながら見晴らしは良くない。シオンタウンとイワヤマトンネルが見えるくらいだ。

 まぁ、こんなものだよな。ポケモンタワーのように高い場所から見れば違うだろうが、2階建ての建物では無理がある。せめて、セキチクシティ側……つまり南を見ることができたら良かったんだがなぁ。

 

 それでも、せっかく来たのだし置いてある望遠鏡を覗いてみることに。

 こう言う場所に置いてある望遠鏡と言えば、100円を取られることが多いが、有り難いことに、その望遠鏡は無料だった。

 

 そんな望遠鏡を覗いてみると――ポケモンタワーが見えた。

 

 ああ、うん。望遠鏡のおかげで、肉眼で見るよりすごく大きく見えるぞ。まぁ、アレだ。無料だもんな。こんなものだよな。

 ポケモンタワーなんてさっきまでいたし、見ていても面白いものじゃないため、もうひとつあった隣の望遠鏡も覗いてみることに。

 

 その望遠鏡では――釣りをしているおじさんが見えた。

 

 なんだこれは。無料なのだし、文句を言えたものじゃないが……なんだこれは。

 しかも、かなり残念なことにこの望遠鏡は動かすことができない仕様となっている。つまり、入口から見て近くの望遠鏡はポケモンタワーのドアップが、遠くの望遠鏡は釣りをしているおじさんのドアップが見えるだけ。いや、流石にこれは……

 望遠鏡の正しい使い方は知らないが、こうやって使うものではなかったと思う。てか、これを見て面白いと思う奴はいるのだろうか。何処をどう楽しめば良いのか全く分からない。この望遠鏡を設置した奴は何を思ってこれを置いたのやら……

 

 うん、まぁ、いいや。考えたって分からないことなどいくらでもあるのだから。さて、これじゃあ仕方無いし、先へ進もうか。

 そう思い、上がってきた階段を降りようとしたときだった。

 

「……私の可愛がっていたポケモンね。今はポケモンタワーで眠っているの」

 

 窓の外をじっと見つめている少女がそんな言葉を落とした。

 今、この部屋にいるのは俺とこの少女だけ。え、えと……なんだろう。俺に話しかけているのか? それとも独り言か? あと、いきなりそんな重い話をされても困るのだが……

 

「……すごく可愛いポケモンでね、大事にしていたんだ」

 

 お、おぅ、そうか。それは良いことだと思うぞ。そうやって大事に育てられたのなら、そのポケモンだって満足だろう。死因は分からないが、大往生を遂げることができたんじゃないか?

 てか、何この少女。今会ったばかりの人間になんでそんな話をするんだ。本当に勘弁してください。え? 俺たち初対面だよな? 何処かで会ったこととかないよな?

 

「……そうだ。お兄さんにこれあげるね」

 

 窓の外をじっと見つめていた少女が此方を振り向き、そう言った。そして、俺の方へ近づいてきてからアイテムをひとつ俺に。

 えと……これは技マシンか?

 

「私にはもう必要のないものだから……」

「あっ、うん。ありがとう」

 

 技マシンをいただきました。ただ、この技マシン色々と重い。これじゃあ流石にフレンドリィショップへ売ることはできなそうだ。

 

「その技マシンの中身は“スピードスター”。すごく命中率の高い技なの。大事に使ってね」

 

 そう言ってから、その少女は優しく笑ってくれたけれど、俺はどんな顔をして良いのかがわからない。いや、でもこれは仕方無いと思う。

 

「ああ、大事にさせてもらうよ」

 

 しかし“スピードスター”かぁ……うん、使うことはなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 良く分からない望遠鏡と少女がいた展望台をあとに。ホント、この場所はなんだったんだろう……

 

 そんな関所を抜けると、幾人かの釣り人がポケモン勝負を挑んできた。ハラマキやアカヘルで蹴散らしても良かったが、すごく水ポケモンを使ってきそうだったため、デブチュウを使うことに。頑張れデブチュウ。お前はやればできる子だと思っている。

 

 10以上ものレベル差があり、タイプの相性も良い相手だったためか、デブチュウで問題なく勝利。よくやったデブチュウ。次の出番がいつになるのか分からんが、少なくとも今のお前は輝いて見えるぞ。

 他のメンバーと比べるとどうしても頼りなく思ってしまうけれど、ハラマキの次に仲間になったポケモンなんだ。これからもできる限り活躍させてやりたい。

 

 そして釣り人たちとの勝負も終わり、ようやっと件の場所へ。

 前回訪れた時よりも、それなりの時間は経っているはずなのに、そのポケモンは変わらず寝ていた。この世界では、こういうことが起きたとき、処理をするような人間はいないのだろうか? たった1匹のポケモンが寝てしまうだけで交通が麻痺する世界とかちょっとヤバい。

 

 さて、そんな文句を言っていたって仕様が無い。さっさと起こして捕まえるとしようか。

 バッグの中から先程もらった笛を取り出す。フジ老人曰く、この笛を吹くことでこのポケモンは起きるはずだが……

 

 縦笛を吹くのって何年振りだ?

 

 俺の記憶が間違っていなければ、確か小学生の音楽の授業でやったのが最後のはず。それからもう30年近くの時間が経ってしまっている。どの穴を塞いで吹けばどんな音が出るのかなんて全く覚えていない。それにもし覚えていても曲なんてひとつも知らない。

 それになんだよ、この笛。なんで先端にモンスターボールみたいなのが付いているんだよ。

 

 ん~……こんな調子で大丈夫だろうか。こんなことならフジ老人から吹き方を習っておくべきだった。

 

 まぁ、やるだけやってダメだったら戻って聞いてみよう。それからでも遅くはないはず。

 だから、とりあえず吹いてみることに。ただ、さっきも言ったように、縦笛を吹くのは30年振り。俺のセンスがないってのもあるだろうが、全然上手く吹けないのね。

 

 最初はポーとちゃんと音が出てくれるが、直ぐにポヒョーと残念な音になってしまう。ポー……ポッポヒョーみたいな感じ。

 いや、これは困ったな。こんな音色でこの居眠りポケモンが起きるとも思えないし……だいたい、なんで縦笛なんだよ。カスタネットとかそう言う楽器なら俺だってもう少しなんとかできたんだ。

 

 デブチュウに渡したら案外上手に吹いてくれたりとか……

 

 

「あら?」

 

 

 居眠りポケモンの前でそんな文句を垂れつつもポヒョーポヒョー吹いていると、のそのそと動き出す気配を感じた。どうやら、居眠りポケモンが笛の音を聞いて起きたらしい。

 

 ……え? あんなんで良いんですか? いや、起きてくれたのなら文句はないけど。

 

 なんとも複雑な気分になっていると、居眠りポケモンとのバトルが始まった。まぁ、気持ちよく寝ていたところをあんな不快な音で起こされたら、そりゃあ怒るわな。

 居眠りポケモンの名前はカビゴンと言い、レベルは30。見た目は……クマっぽい感じ。ただ、お腹は出ているし、動きは遅そうだ。

 

 そんじゃ捕まえさせてもらおうか。

 

「頼んだぞ、デブチュウ」

「ピッカ!」

 

 ポケモンを捕まえるときばかりはデブチュウが一番役に立つ。“でんじは”も使えるし、デブチュウの攻撃なら相手を一発で倒してしまうこともないし。

 うむ、先程のバトルと言い、今回はデブチュウが大活躍だな。

 

 一手目はいつも通り“でんじは”。俺も詳しくは分からないが、状態異常にするとポケモンってのは捕まえやすくなるらしい。だから、捕まえるときにデブチュウが役に立つ。

 見た目通り、カビゴンは動きが遅く、問題なくデブチュウが先制。“でんじは”も無事に決まってカビゴンを麻痺状態へすることにも成功。

 一方、カビゴンは“ドわすれ”とか言う技を使ったが、デブチュウに変化は特になし。ん~……よく分からんが、“はねる”とかと同じ感じの技ってことかね?

 

 2ターン目。

 このままモンスターボールを投げても良いけれど、できればHPを減らしておきたい。だから、デブチュウに“でんきショック”をするように命令。

 

 そんな“でんきショック”。どうか一発くらいは耐えてくれと願っていたが、カビゴンに全然効かないのね。効果がいまひとつってわけでもなさそうだし、単純にこのカビゴンが強いのだろう。

 

 そして、カビゴンはと言うと、なんとバトル中だと言うのにまたグーグー眠り始めてしまった。なんなんだコイツは。

 

 そんなカビゴンを見て、バッグからポケモンを笛を取り出すことに。畜生、また起こすところから始まるのか。

 

 はぁ……この戦いは長くなりそうだ。

 

 


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