そのポケモンの世界で俺は   作:puc119

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第25話

 

 

 置かれた墓石によって迷路のようになった道を抜け、とりあえず上を目指してみることに。

 

 しっかし、これじゃあ、お墓参りに来る人だって大変だろう。お盆など沢山の人がお墓参りに来るときは本当に大変そうだ。階段だって上りと下り一つずつしか用意してないし。

 ああ、でも、そもそもこの世界にはお盆がないのかもしれんな。まぁ、そうだとしてももう少しどうにかなったと思うが。

 

「おぬし! ちょっと待つんだ」

 

 上の階もこんな様子なんかねぇ。とか思っていると、上へ続く階段の近くにいた祈祷師っぽい女性に止められた。

 むぅ、先程のバトルのことだろうか。怒られるのは好きじゃないんだけどなぁ。

 

「この先にいる彷徨う幽霊の正体は我々にも分からん! もし特別な道具……そう、シルフスコープがあれば正体が分かるかもしれんが……」

 

 なんか思っていたのと違うことを言われた。この祈祷師の立っている位置的に俺たちの戦いを見ていたと思うんだが……良いのかなぁ。いや、怒られるよりは良いんだけどさ。

 さて、どうやら幽霊がいるのは本当らしい。今までの話を聞く限り、幽霊の正体はロケット団にやられてしまったカラカラのお母さんポケモンなんだろう。ふむ……と言うことはソイツが悪さでもしているのかねぇ?

 そしてシルフスコープとはなんだろうか。それがあれば幽霊の正体を見破ることができるってことだと思うが。

 

 ん~、良く分からんがとりあえず進んでみよう。

 俺じゃカラカラのお母さんをどうにかしてやることはできないけれど、もしかしたら何かできることはあるかもしれないのだし。

 

 

 

 

 そして、3階へ上がってみたわけだが……

 

 先ほどよりも更に空気が重い。相変わらず墓石は迷路を作るように置かれているし、ガスみたいなモノがあるせいで視界があまり良くない。

 姿の見える人たちは皆祈祷師の格好。どうやら一般の墓参客はそれほどいないらしい。

 それにしても凄い墓石の数だな。死んだポケモンをこのタワーへ持っていくと言っていたし、この墓石の下には死んだポケモンたちが眠っているのだろうか。そう考えると、やはり良い気分にはなれない。

 

 そして、もう帰っちゃおうかなぁ。なんて考え始めた時だった。

 

 “ゆうれい”なんて言う奴が突然、俺の前に。

 

 多分、これはポケモン……だと思う、しかし、今まで出会ってきたポケモンとは根本的に何かが違う。それだけははっきりとわかった。

 

 まさか本当に幽霊が出てくるとは思わなかったし、此処まで大胆な奴だとも思っていなかった。もう少し幽霊らしくすれば良いのに。幽霊らしさってのは良く分からんが。

 う、う~ん、これはどうすれば良いんだ? レベルは21と高くないから俺のポケモンなら負けることはない。しかし、 皆の話が正しければ、この幽霊はロケット団に殺されたカラカラのお母さんなはず。それを倒すのもちょっとなぁ。

 

 

「タチサレ……タチサレ……」

 

 

 ああ、ちょっと待ってね。今考え中だから。てか、すごいな。このポケモンの幽霊は人間の言葉を使えるのか。ま、まぁそれは良いとして……

 ん~……そもそも幽霊に攻撃は通じるのかね? 般若心経でも唱えていた方が効きそうだ。

 

 とりえず、このまま幽霊を待たせるのも失礼だったため、デブチュウを出しておいた。

 モンスターボールから出てきたデブチュウは――ええっ? 僕ですか!? みたいな顔で此方を見てきたが……まぁ、ちょっと我慢してくれ。大丈夫そんなに危ないやつではないと思うから。……たぶん。

 

 

「タチサレ……タチサレ……」

 

 

 さて、デブチュウを出したのは良いが、この後はどうしようか。正直に言うと幽霊に攻撃が効くかどうかは試してみたい。あ~……“でんきショック”一発くらいなら耐えてくれないかな? いや、流石にそれはマズイか……

 てか、どうして幽霊にレベルとHPがあるんだよ。幽霊のHPとか意味が分からない。

 

 

「タ、タチサレ……タチサッテ……」

 

 

 ああ、じゃあ、モンスターボールはどうだろうか? 正直、仲間になっても困るが、倒すよりは良いだろう。それに捕まえてしまえばちゃんと供養してやることもできそうだし。

 

 そんなことで、いつもポケモン捕まえるのと同じようにモンスターボールを幽霊へ向かって投げてみた。

 

 しかし、俺の投げたモンスターボールを見事に躱してくれた幽霊。

 いや、マジかよ。今まで何回も投げてきたが、モンスターボールを躱されるのは初めてだ。しまったなぁ、200円を無駄にしてしまった

 

 

「タチサレ……タチサレ……」

 

 

 モンスターボールを避け、若干誇らしげになった幽霊が腹立たしい。

 ふむ……この様子だと、攻撃も当たりそうにないか。仕方無い、此処は“にげる”としよう。

 

 その幽霊からは無事に逃げることに成功。そして、また少し歩くとまた幽霊が現れた。

 

「タチサレ……タチサレ……」

 

 しかし、現れたその幽霊のレベルは20と先程の幽霊とレベルが違う。……どう言うことだろうか? 普通に考えるとこの幽霊は先程の幽霊とは違う幽霊なんだろう。

 てっきり俺は、カラカラのお母さんだけが幽霊になったと思っていたが、違ったのかねぇ。

 

 念のため、その幽霊にもまたモンスターボールを投げてみたが、やはり避けられてしまった。どうやら幽霊を捕まえるのは無理らしい。

 

 さてさて、これはどうしたものか。これじゃあ、墓参客だって少ないはずだ。少し歩くと直ぐに幽霊が出てくるんだ。鬱陶しくてたまらない。

 う~ん、幽霊ってのは救われなかった魂がなるものだと思っていたんだが……どうしてこの場所へ現れるのだろうか? この場所に眠る御霊たちはちゃんと供養されたんじゃないのかねぇ。ちゃんと供養したのに関わらず化けて出られても困る。

 

 それとも、今日たまたまこんな様子なだけで、いつもは違うのだろうか。そうだとしたら、とんでもない時に訪れてしまったものだ。貴重な体験と言えば貴重な体験だが、これじゃあなぁ……

 

 ふむ……祈祷師の方に聞いてみるか。

 

「もし、其処の方。ちょいと聞きたいことがあるんだが……」

 

 多分ポケモンタワーで働いている人だろうし丁度良い。

 

 そんな考えだったが――

 

「…………ケケーッ!」

 

 何故かポケモンバトルが始まった。マジ意味が分からない。

 なんだこれは。このポケモンタワーでは何が起きてるってんだよ。

 

 祈祷師が出してきたポケモンはレベル23のゴースと言うポケモン。

 おおー、初めて見るポケモンだ。

 

「お、おい」

「ケケーッ!」

「ちょっと」

「ケケーッ!」

「おーい」

「ケケーッ!」

 

 ああ、ダメだ。これはダメだ。

 今までだって会話にならない人は多かったが、これはレベルが違う。この人の放っている言葉が言語かどうか怪しいもの。

 

 なんだかなぁ。幽霊と言い、この人と言い随分と強烈な場所だ。パッと見、ゴースと言うこのポケモンだって幽霊に見えるが、流石に攻撃は通じるだろう。てか、効かないと困る。

 

「頼んだデブチュウ」

 

 それにしても、この人には何があったのだろうか。このゴースと言うポケモンに憑かれたってことなのかね?

 まぁ、倒すだけ倒してみようか。お前の力を見せてやれデブチュウ。

 

 

「おい、あんた」

「ケケーッ!」

「今から……」

「ケケーッ!」

 

 

 …………モンスタボールを投げた。

 

 

「ひとの ものを とったら ドロボー!」

 

 

 ホント……なんだかなぁ。

 

 

「デブチュウ、“でんきショック”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ、わしは今まで何を?」

 

 いや、それは俺が聞きたいんだが。

 

 ゴースを倒すと、おかしかった祈祷師の様子は治った。色々とツッコミを入れたかったが、今回はやめておこう。気にしたら負けなのだ。

 

「どうやら正気を失っていたようじゃ」

 

 いや、割と失ってなかったと思うよ? あの行動が演技だと言われても俺は信じられる。まぁ、もう良いけどさ……

 

 

 その祈祷師以外も、ほぼほぼ全員が何かに憑かれているらしく、訳の分からないことを言いながら、ポケモンバトルをすることになった。そして、ポケモンバトルに勝つと正気に戻るらしい。

 そうなると、原因はゴースやその進化系と思われるゴーストって言うポケモンのせいなんかね? 祈祷師の人たちも悪霊に憑かれたとか言っていたし。

 まぁ、幽霊の正体がゴースやゴーストと関係しているのかは分からないが。

 それにしても、1階にいた人たちはこのバイオハザードのような状況に気づいてないのだろうか。それともこの光景は日常的なものなのかねぇ。

 

 さらに、5階に行くと結界を張ったとか言っている祈祷師の方がいて、その結界の中へ入ると、ポケモンの体力が回復した。此処は戦場か何かだろうか。この世界の墓参りのレベルは高い。

 

 そして、7階へと繋がる階段を上ろうとした時だった。

 

 

「……タチサレ! ……ココカラタチサレ」

 

 

 今までよりもずっとずっと強い声が聞こえ、レベル30の幽霊が現れた。

 な~んか、今までの幽霊とは違うな。今までの幽霊はまだ可愛らしさのようなものを感じたが、この幽霊はそれを感じない。

 とは言え、此方から何かができるわけでもないため、“にげる”を選択。そろそろ最上階だろうし無視して進むとしよう。

 

 そう考えていたが、この幽霊が邪魔をしているせいで、階段を上ることができない。

 なんだってこの幽霊は俺を邪魔するのだろうか? 普段の行いが良い方ではないけれど、幽霊になってまで恨まれるようなことをした記憶はないんだがなぁ。

 

 それからも何度か挑戦してみたが、結果は全て同じ。やはり上へ行かせてくれない。この上の階にはこの幽霊にとって何か大切なものでもあるってことなのかね? 別に何か悪さをしようと思ってるわけじゃないのに困った幽霊だ。

 

 

 

 仕方がないため、それ以上ポケモンタワーを登るのは諦めた。なんともモヤモヤした気持ちは残るが、幽霊と戦おうとは思わない。

 

 しっかし、幽霊ねぇ……できればどうにかしてやりたいんだけどなぁ。

 

 

 ――シルフスコープなるマシンなら幽霊の正体を見破ると言うが……

 

 

 祈祷師の言葉を思い出す。

 ……シルフスコープか。

 

 うん、俺にできることくらいはやってみようと思う。

 

 


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