ハリー・ポッターと曇天の大鷲   作:adbn

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一九九三年、冬。日記帳、あるいは過去の再臨。

 その年のホグワーツは暗闇の中にあった。

 ハロウィーンに甦った亡霊が還らなかったというように。

 

 初めは一匹の猫。

 ミセス・ノリス。

 管理人アーガス=フィルチの愛猫。

 それから人間が。

 襲われた。

 凍りついた。

 石になって、動かない。

 鶏。ずたずたに引き裂かれた。

 そんな事件がもう何度も起きた後、そんな日のこと。

 

 大広間、朝食の席。シリアル、トースト、パンケーキ。ベーコン、ハム、ソーセージ。スクランブル、茹で玉子(ボイルド)目玉焼き(サニーサイドアップ)。その殆どが無くなった、終了時刻に近い時間。

 赤毛の少女──ジニー=ウィーズリーが三番目の兄のもとに現れる。()()のあたったローブを、それでも恥じるところなど無いと着こなして。手には鞄。そこから一冊の本が飛び出している。古い本。重ねた年代のわりには立派な。

 隣のテーブルに座っていた少年が立ち上がる。アルテア=レストレンジ。再び彼女の鞄に目をやると、赤毛の少女に声をかけた。

「ウィーズリー妹。ちょっとその本見せてくれないか」

 反応は即座。あまり芳しいものではなく。

「は?嫌よ。ハリーならともかく何であんたに見せなきゃいけないのよ」

「ジニー!そんな言い方をするもんじゃない。相手は上級生だろう?」

 年季の入ったローブ。傍らに大きな鞄。燦然と胸元に輝くバッジ。グリフィンドール監督生、パーシー=ウィーズリー。ジニーの三番目の兄。

「パーシー、今年の組分け見てなかったの?彼はレイブンクローの一年生よ。」

「そういう問題でもないだろう!というか君もだ。婦女子の日記帳を見ようだなんて──」

「ウィーズリーいも──いや、ジニー=ウィーズリー、頼むよ。中身は絶対に見ないから。実家にあった本と装丁が似ていたから気になっただけなんだ。相応に礼もする」

「ふーん。まあ、古本だしそういうこともあるのかしらね。ま、良いわよ。でもほんとに何も見ないか見張らせてもらうわ。それとここじゃダメ。今日の妖精の呪文の授業の後でね」

「わかった。ありがとう」

「どーいたしまして。お礼、期待してるわよ」

「君たち、話を聞きたまえ!」

 返答は無い。どちらからも。

 

浮遊せよ(ウィンガーディアム・レヴィオーサ)

 生徒達の唱和。一斉に各人に割り当てられた羽根や小石、古い教科書が浮かび上がる。妖精の魔法(チャーム)。浮遊術。

「よし、問題ないようですな。では次の授業からウォームアップは別の呪文にします!」

 少年のそれともまた違う甲高い男の声。そこいらの生徒よりも上背の低い教師。フリットウィック呪文学教授。

「では今日の課題ですが、みなさん教科書の八十七ページを開いてください。そこに今週練習する呪文が載っています。では三人一組になって。ああ、ファベール、ありがとう。でもマンゴーはこちらで運ぶから気にしなくて良い」

 三人組。前回までは二人一組であったのに。ざわめき。今までのペアの変更が必要であることに。いくらかの二人組は目を見合せて、あるいは一言二言言葉を交わして立ち上がる。そしてつかつかと。別々の組のところに。別れたうちの一組は赤毛と黒髪の二少女。

「レストレンジ、組みましょ。あ、良いかしら?えっと......」

 赤毛の少女、その視線の先には乳白色の髪の。夏の空の群青と冬の海の青灰が交差して。

「あたしは気にしないよ」

「俺も構わない。こっちはルーナ=ラヴグッド。後できれば俺を呼ぶ時は名字(ファミリーネーム)は避けてくれるかな」

「“ウィーズリー妹”なんて妙な呼び方してるやつに言われたくないんですけど?要するにアルテアって呼べば良いのね?」

「ああ」

 その返答も聞かず。青い目の少女達は忽ちに。もう一人の男など忘れてしまったかのように。二人で話に興じていく。

「ねえ、あなたのこと、ルーナって呼んでも良い?」

「もちろん。あたしもあんたのことジニーって呼ぶね」

 

「みなさん、三人組はつくれましたか?では一人に一つマンゴーを配るので、歩かせようとしてみてください。マンゴーよ動け(ロコモーター)!」

 ふ、と果実が宙を舞う。音も無く机の上。

 プラチナブロンドの少女は杖を引っ張り出して、一番近いマンゴーを叩く。

マンゴーよ歩け(アンビュレーア)!」

 黄金の果実はふらりと立ち上がる。丸い方を下にして。薄いオレンジの足はぺたりと踏み出して、そろりそろり。しかしそれはあまりにも唐突で。苦情。赤毛のグリフィンドール生。

「ルーナ、やるなら先に言ってくれない?」

「あ、ごめん」

 マンゴーはゆっくりと机上を一周。それを満足げに見る青灰色の瞳の少女。鞄から雑誌を広げて読み始める。雑誌名(タイトル)は『THE QUIBBLER』。

 

 BANG.突然に破裂音。その前には杖をマンゴーの残骸(だったもの)に向けた少年。

「危な!ちょっと、自信無いなら止めてくれない?」

「できないから練習するんだろ......」

「そうかもしれないわねー。しっかし誰かさんと違ってルーナは優秀よね。何せ一発で成功したんだし。流石レイブンクロー!それに比べてこの男は......何であんたレイブンクローなのかしら」

「お前だってスリザリンかレイブンクローかの二択だったら迷う余地なくレイブンクローだろ」

「あ、成程。でもコネとか要らないの?」

「嫌でも向こうから寄って来るな」

「何それ。自慢?」

()()両親の子供という一点に寄って来る連中なんだが。欲しいなら代わるぞ」

「要らないから」

 新しいマンゴーが飛んでくる。教卓に目を向ければ移動魔法を使ったばかりの小さな教師。杖を振りつつ魔法が働かないと唸る少女。もう一度、今度こそと杖を向け、空しく爆破音を響かせる少年。

 

 彼が果実を5つ割った後、授業の終わりを意味するチャイムが鳴って。がやがやと生徒達は教室を出て、昼食の席へ。周囲よりも頭抜けて背の高い、少年と赤毛の少女はひっそりと隠し通路に繋がる角を曲がる。

 向き直って、少年。

「お礼、何が良い?」

「あ、何。私が決めて良いんだ」

「あんまり無茶な要求は勘弁してくれよ?」

「そーねー、じゃあ、梟が欲しいわ。夏休みで良いわよ。でも私に選ばせて頂戴」

 少女、にやりと笑って。

「はいはい。畏まりましたよ、お姫様(プリンセス・ギネヴラ)

「え、良いの?半分冗談だったんだけど。まあ良いや、貰えるんなら。はい、日記。そんな面白いものじゃないけどね。私も使ってないし」

 

 ()()はただの日記帳。古ぼけた、七十年も前の。

 少なくとも、見た目は。

 表書きは“日記(DAIRY)”、金の文字。栗色(チェスナット)、贋の革で覆われた。

 裏返して署名(サイン)を、所有者の名前を。見た。

 トム=マールヴォロ=リドル。

 マールヴォロ=リドル。

 それは悪夢の姿。記憶に潜む。

 それは絶望の声。獄卒の悪鬼。

 その名を、かつて囚われた地獄の中で聞いた。()は鉄血の瞳と、嵐の夜の髪をした。遥かな昔の孤児(みなしご)であったのだという。

 そして死喰い人(レストレンジ)の子は。杖を、ローブから取り出して。

「待って、何す──」

化けの皮剥がれよ(スペシミアス・レベリオ)

 絞り出すように。

 確信は無かった。今、この時までは。術者(しょうねん)にしか見ることのできない、どす黒い。(あおぐろ)の、玉虫色の泥が。毒の沼の底の滓が。それは、かつて見た。殺したはずだ。()()を。()のやはり欠片を、その手で。杖も無く、知らないはずの呪詛を用いて。しかし再び悪夢は語る。精神の奥底から(こだま)のする。お前は俺様のためにある。僕達の子、数多の髑髏(どくろ)落胤(おとしだね)。ぐるぐると過去の悪意が。ずるずると魂を、沼地の底へ引き摺って。悪夢に溺れて死んでしまえと、口々に呪った。

「ああ、そうか。()()()()なのか」

 そうして少年は。

 少年は。

 もう一度と、杖を。

 

息絶えよ(アバダ・ケダブラ)

 その呪文は、禁断。

 その呪詛は、絶対。

 その術式は、絶望。

 殆ど密着状態から放たれた緑の閃光は、あっさりと日記帳に吸い込まれる。

 悲鳴も上がらぬまま。

 インクも流れぬまま。

 闇の帝王の一欠片は、崩れて消えた。

 

 器の無傷のまま、崩れて消えた。

 

「え、な、ちょ、なにしてくれてんのよあんた!」

 当然の非難。少年は取り合わず、日記帳を握ったまま迷いもなく歩み出す。三歩進んで振り返り、大股に戻って乱暴に少女の手を掴む。

「ついてこい」

「はあ!?てか何処行く気よ!」

「校長室」

「はい?何、わざわざ怒られに行ってくれるワケ?」

「俺としては()()を潰せたならそれで良い」

「いやだから意味わかんないってば」

 

 進んで、進んで。疑念の目で見られていることに気づきもせず、少年は。迷いなく早足で歩む。そうして辿り着いた先に屹立する一対の生ける石像(ガーゴイル)。行く手を阻んで。そして少年の洩らすのは、少女の思いもよらぬ。

「しまった。校長室の合言葉わかんねえ」

「ばっかじゃないの!?」

 少年少女二人、互いに言い争う。その音に掻き消えて、足音。こつりこつりと、黒革の靴の。角の奥から天鵞絨(ビロード)外套(マント)を翻して、魔法薬学の教授。スリザリン寮監、セヴルス=スネイプ。

「何の騒ぎだね」

「す、スネイプ!」

「ウィーズリー妹、教授(プロフェッサー)は?」

「え、要る?だってスリザリンの寮監(スネイプ)よ?」

「お前よく本人目の前にしてそんなこと言えるな......」

「あっ」

「グリフィンドール五点減点。それで?」

「うぎゃ」

 

ダンブルドア校長(プロフェッサー・ダンブルドア)にお会いしたく」

「何の用で、だ」

「貴方には関係ありません。恐らく私の両親に関わるとだけ」

 この場の誰も想定していなかった言葉。

 ジニー=ウィーズリーは震える声を。

 絞り出すように。零れ落ちるように。

 恐怖と驚愕。

 それは、絶望にも似た。

「どういう意味よ、それ」

 だって“彼”は、友人だったのだ。

 T.M.リドル。

 トム。

 初めての、全てを話せると思った。

 それが、関わっている。あの、()()()()()()()()と。そこの男は、そう言ったのか。

 少女の動転を掻き消すように、魔法薬学教授は口を開く。必要以上に大きな声で。その無生産な思考を押し流すように。

百味ビーンズ(Every-flavour-beans)!」

 その音を聞くと石像(ガーゴイル)は即座に身を捩らせる。扉の前から飛び去り、入室する者達の邪魔にならぬように。黒髪の教授が声をかけ、三人は扉をくぐる。

 高い天井。豪奢な装飾。脇の(オブジェ)には鳥籠がかかる。真紅と金色の鳥。白鳥とまがうほどの大きさ──不死鳥(フェニックス)。部屋の奥には上階へ続く螺旋階段。

校長(ヘッドマスター)、レストレンジの息子が話したいことがあるそうです」

「通しなさい、此方で話を聞こう」

 返事。二階から。

 螺旋を描いた昇降は、三人が乗ると動き始めた。ぐるりと一回転して校長、アルバス=ダンブルドアの前へ。二階は天井の比較的低い、手狭な感覚すらする空間。純銀の魔法具は煙を吐き、羽ペンと羊皮紙は宙に舞う。四方の壁には幾つもの中身の詰まった戸棚(キャビネット)。マホガニーの文机。うず高く積まれた羊皮紙。奥に老人。長い白髭。濃紺に銀刺繍のローブ。どこか人を安心させる声。

「いらっしゃい、アルテア、ジニー。まずは掛けると良い」

 流れるように杖を振る。融けた金のようなものが宙を泳いで、椅子が二脚。少年少女が腰掛けると同時、黒髪の教諭は口を開く。

「では、我輩はここで失礼させていただきます」

 男が螺旋階段に消える。それを見届けて、白髭に覆われた口から声を。アクアマリンに似たその瞳で、じっと何十も年下の少年を見据えて。

「話したいこととは、何かね」

 答えて、少年。左手の日記、それを差し出す。

校長(プロフェッサー)、まずはこれを。もう()()は無いはずですが」

 老人は受け取り、隅々まで検分。中身は白紙。七十年間誰にも使われなかった日記帳。書かれたかつての持ち主の名を呟く。トム、と。

()()()()()。誰も使わなかったとは。アルテア、君がどうしてこの本に気付いたのかの追及は後じゃ」

 つ、と顔を上げ。半円のレンズの奥から見つめる。視線の先。少年ではなく赤毛の少女。

「ジニーや、この日記を君はどういう風に使ったのかね」

 努めてやわらかく。怒りはしないと。少女の責任ではないと。続けた言葉に触発されたか、少女。ぽつりぽつりと言葉を連ねた。

 “彼”。トム=マールヴォロ=リドル。かつてのホグワーツ生。監督生で首席(ヘッドボーイ)。信頼できる、最初の友人。どんな話も聴いてくれた。なんでも話した。いろんな。いろんな、ことを。とるに足りないことを。誰にも言うまいと思ったことを。なんでも。そして、そうして。記憶が途切れるようになった。ハロウィーンの夜だとか。気がついたら違う場所にいた。鶏の羽。血やペンキでべったりとローブが汚れていた。もしかしたら、いいやきっと。自分が、秘密の部屋(チャンバー・オブ・シークレット)を開いた。

「私のせいなの」

「いいや、君のせいなどではない」

「ああ。あれは、いやあれ()と言うべきだろうが、はお前のせいじゃない。()()()()()()()()()()のせいだ」

 即座の否定。

 眼鏡の奥。瞼で目を隠して老人。考え事。君のせいではない、と繰り返し。

 

 不意に。

 羽ペンが踊る。同時に浮き上がった羊皮紙になにやら書き付ける。羊皮紙はくるくると纏まって、蝋も無く印章が捺された。老人はそちらを見もせずに。

「フォークス、ウィーズリー夫妻にこれを届けてくれるかの」

 不死鳥。下階にいたはずの。嘴に手紙。

 消失。

 焼失。

 

 数分。沈黙のうちに。老人は不死鳥の帰還を待て、と。

 

 焔が再び、燃え上がる。虚空に火の鳥と一組の男女。ともに赤毛。

「ジニー!」

 来訪者を見て、少女。驚嘆。

「お母さん、お父さん、どうしてここに!」

「ダンブルドア先生に呼ばれたのよ。ジニー、大丈夫?どこも痛くない?」

 娘を抱きしめて、母親は。本心からの心配を吐露。

「ちょっと、お母さん、そうゆうのじゃないから。て言うかなんて聞いてるのよ」

「あなたが事件に巻き込まれたって......ねえジニー、本当に平気?無理はしてないかしら」

「ミセス・ウィーズリー。彼女に怪我は無いはずです。ダンブルドア校長(プロフェッサー・ダンブルドア)から説明があるはずですのでどうぞお掛けください」

 立ち上がった少年は女性に告げる。目に見える傷は無い。何も間違ったことは言っていない。心の傷をつけたのは、少年自身であるけれど。

 ホグワーツ校長は語る。この年の出来事。石化。猫と人。死者は出ていない。五十年前に同様の事件。死者が一人。今回は幸運である。治療薬(マンドレイク・ジュース)が学年末には。

 日記を差し出す。ジニー=ウィーズリーは操られていた、と。彼女は責められるべきではない。誰でも同じだった。“彼”にかかっては。

「マダム・ポンフリーのところへ行くと良い。きっと温かいココアを用意してくれることじゃろう」

 朱い髪の三人。退出。老人は残った少年に向き直る。

「さて、アルテアや。この名が何を意味するか解るかね」

「アナグラム。“I am Lord Vol-de-mort”」

「何故、そう思った?」

()()が得意げに語ってくれました」

「本人、じゃと?」

「ええ」

 風の無い冬の日のような冷えきった声。抑えることも揚げることもせず。もうこれ以上聞いてくれるなと言うように。これ以上訊いてくれるなと言いたげに。

「君が話したくないのならこれ以上訊きはしないが──」

「では訊かないでください」

 

「ならば、話を変えよう。この日記帳と()()物をどこで見たのか教えてくれるかの」

 眼光鋭く、老人の問う。声変わり最中の声は、返して冷然に。

「あまり思い出したいことではありませんが、実家(レストレンジ邸)ですよ。他に可能性は無いでしょう」

「ふむ。時に君は()()()をなんだと思っておる?」

 額に皺を寄せ、どさりと椅子に腰を下ろす。手は両目を覆い。俯く。泣き出しそうな。哭き出しそうな。この半年でできてきた蓋を抉じ開けるのだ。心の瘡蓋に針を刺して剥がしていく。忘れてしまいたかった。もう()()はいないのだから。けれど、平気だと言って。問題など無いと嘯いて心に蓋をする。もう一度だけ。あと一回だけだからと言い聞かせて。()()()()()()()()()()。少年の両親も牢獄の中。終身刑。だから、と自らに言い聞かせる。そしてようやっと口を溢す。

帝王(ロード)の......あの人物(You-know-who)の写し身。欠片。人間の中の()()()を吸って存在する。それの、依り代」

「然り。君の言っているのは、分霊箱(ホークラックス)と呼ばれる物じゃ。堪忍して欲しいのじゃが、分霊箱(それ)が具体的にどういう物なのかはたかが十五歳に語れるものではない」

「なら自分で調べる。禁書棚の閲覧許可を」

 未だ混乱の抜けきらぬように、少年。口調の乱れたまま。

「ならぬ。知って良いものではない」

 それは、死刑の宣告にも等しく。

 彼は他に道を与えられ無かった。レストレンジ家の屋敷、屋敷しもべ妖精(ケリー)主人の写し身(マールヴォロ=リドル)。一九九二年の四月までは、それが彼の世界の全て。それがどれほど異常かを。異様かを、彼は感じることすらなかった。

 だから、知りたかった。

 自分は何処にいたのかくらいは。

 自分が何をしていたのかくらいは。

 自分が何を知っているのかくらいは。

「......自分が何に触れていたのかを、せめて知りたいのです。お願いします(headmaster, please.)。」

「解った。仕方あるまい」

 羊皮紙に自筆で書き付け、手渡す。“この者に禁書棚を含むホグワーツ図書室のあらゆる書籍の閲覧・貸出許可を与える。校長、A.P.W.B. Dumbledore”。

「ありがとう、ございます」

 ふらりと立ち上がる。一礼して、階段へ。その後ろ姿に声がかかる。懺悔のような。謝罪の。

「すまなかったの。儂は君を助けてやれなかった」

「いえ」

 少年に失望は無かった。

 失望は期待の後に来るものだから。

 希望が無ければ、絶望(それが絶えること)もまた無い。




おまけ 進級試験、あるいは才能の有無
「うわっ。成績上位者貼り出されてる。個人成績表に順位書いてあるんだからいらないでしょ」
「......おい。薬草学実技二位ってこれ」
「えへへへへ」
「そして魔法薬は下から二番目、と」
「止めて。て言うかアルトこそ、妖精の呪文何があったのさ。筆記三位がどうやったら真ん中以下になるの?」
「いや、うん。結局できなかったんだよ」
「爆発したんだ?」
「......はい」
「そっかー。あ、防衛術(DADA)一位おめ」
「どうも」
「あんま嬉しくなさそうだけど何かあったの?」
「どうして俺の魔法は悉く過剰防衛な方向に行くのか」
「あー。そっか、威力高ければ評価上がるもんねー。あの先生派手好きだし」
「あ、フリットウィック教授が言ってたけど次の(まともな)教師のあてがついたから防衛術の教授変わるって」
「いえーい。レイブンクローはお祭り騒ぎ?」
「そこまではしゃがないけどそんな感じ。ところで大丈夫だった?進級できそうか?」
「大丈夫!総合はともかく大概の実技はアルトより上だし」
「つまり理論は......」
「それは言わないお約束。てか魔法なんて使えればそれで良いの!」

おまけのおまけ:ざっくりとした成績(一年時)。
上から順にO(Outstanding), E(Exceed Expectation), A(Acceptable), P(Poor), D(Dreadful), T(Troll)。
Pから下は落第点。平均がA-未満、あるいは落第点三つで進級できず。
アルテア=レストレンジ:筆記は殆どが横並びにE~E+。妖精の魔法と変身術が高い(使えないから頑張った。O-)。実技は、DADA(O+)≧魔法薬学(O)≫薬草学=天文学(E-)>変身術(A)≫妖精の魔法(D-)
エドワード=カートリッジ:理論は壊滅的。+-はあるが、全部P。実技は薬草学(O)≫妖精の魔法(E+)≧天文学(E)>DADA=変身術(A+)≫魔法薬学(D)。

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