それは叢であった。叢以外のものではなかった。一つの躯が倒れんでいたとしても。かつてアルテア=レストレンジと呼ばれた青年は、そこにいた。その場所にいた。
否、あるいは居なかったのかも知れない。
その場所には、既に何者も居なかったのかも知れない。
何故って、その地にあるのは一人だけ。そして彼はもう起き上がらない。笑いはしない。泣きもしない。もっとも、それは丸一年も前からそうだったが。
だから、此処には何者もいないのだ。
数知れぬほどの死者を生んだ青年は、緩慢に死者の国への歩みを進める。
神に祈らぬ青年は、誰に祈られることもなく消えて逝く。
友人を捨てたからか。しかし彼が離れなければ彼らは生き延びることはなかったかもしれない。少なくとも彼らの意思は、殺されていただろう。純血にして純潔の魔法族の血統が保証するのは
それとも、ロドルファスとベラトリックスの間に生まれたことが、罪だったのだろうか。
ともかく。
彼はもう、その杖を振るわない。
その青年を看取る者もどこにもいない。
彼を友人と呼ぶ者は二種。
片方は来ない。彼らが望んでいたのは“レストレンジ家の当主”であり“半世紀に一度の呪術の天才”なのだから。
もう一方は、来られない。彼らは何も知らないから。アルテア=レストレンジが殺人者として捕らえられたことも。その後、魔法界における極刑──吸魂鬼の
それが、ただの幻想とは知らず。
それが、都合の良いだけの空想とは思わず。
しかし、それでも。
この終わりはきっと、最善だった。
この地点の他は、全てが英雄の勝利で飾られているから。
たとえ、此処には絶望すら存在していないとしても。
たとえ、未来が勝利者にやって来なかったとしても。
これより良い終わりかたは、他に無かったであろう。
悪は滅びた。
彼は、生まれながらの
これは、絶望に辿り着くまでの物語。灯った祈りが息絶えるまでの、物語。