ハリー・ポッターと二人の『闇の帝王』   作:ドラ夫

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ここから先、鬱展開があります。
苦手な方は注意して下さい


40 ドラコ・マルフォイの戦い

 ホグワーツ魔法魔術学校。

 今ここで、最も権力があるのは誰か?

 そう聞かれれば、大抵の魔法使いはこう答えるだろう。

 校長であり、今世紀最高の魔法使いであるアルバス・ダンブルドアだ。

 魔法省の人間はこう答えるだろう。

 ホグワーツ高等尋問官であるドローレス・アンブリッジだ。

 しかし、当のホグワーツにいる生徒達は口を揃えてこう答えるだろう。

 ダフネ・グリーングラスだ、と。

 

 

 

 アンブリッジはホグワーツ高等尋問官に就任してからの最初の一週間の間に、様々な規則を新たに定めた。

 廊下での呪文の使用を徹底的に禁止し、言論の自由を奪い、異性間の付き合いを禁じた。

 破った者には例外なく『書き取りの罰』が課せられた。

 勿論、使うのは普通の羽根ペンでは無い。インクを使わない、おぞましい羽根ペンだ。

 生徒達の腕や額に、痛ましい血の文字が刻まれた。

 そんなアンブリッジの独裁体制の中、生徒達の自由は少しずつ奪われ、教員達も立場を追われていった。

 そして意外にも、そこで活躍したのは、生徒を助けたのはフィルチだった。

 彼はアンブリッジに味方をするふりをして、こっそりと生徒達を助けた。

 懲罰用の羽根ペンをこっそりと普通の羽根ペンに変えたり、廊下での呪文の使用を見逃したり、果ては異性間の交友まで見逃した。

 彼は魔法を使う喜びや、人との繋がる事の大切さをトムから学んだ。

 そんな彼は、他人に対して優しくなっていた。

 

 フィルチは一転して、生徒に好かれる様になった。そしてフィルチも、それを大いに喜んだ。

 休み時間、誰も来なかった彼の事務室には数人の生徒が入り浸り、魔法の研鑽や談笑を楽しんだ。

 彼の事務室の壁を覆っていたホグワーツの規則は全て剥がされ、彼と生徒の手紙のやり取りをする掲示板となった。

 事務室に来た生徒達にフィルチは、トムから教わったやり方で、拙いながらも紅茶とお菓子を振る舞った。

 そして生徒達は、トムにやったやり方で、愛の妙薬入りのお菓子を贈って返した。

 当然、トムと違いフィルチは愛の妙薬に気づかずお菓子を食べてしまい、生徒にメロメロになってしまう事が良くあった。だがフィルチはそれを笑って許した。

 何故なら、生徒達はフィルチが憎くて薬を仕込んだのではなく、じゃれ合いとしてのイタズラだったからだ。

 そんな事が出来るくらい、フィルチと生徒達の仲は縮まっていた。

 だがフィルチは今はもう居ない。

 ホグワーツに、ではない(・・・・)

 この世に、もう居ない 。

 フィルチだけではない。

 ミネルバ・マクゴナガル。

 ポモーナ・スプラウト。

 フィリウス・ウィットフリック。

 計四名。ダフネ・グリーングラスが高等尋問官親衛隊に着任したその日に、忽然と姿を消した。

 

 

 

これが、地獄の始まりだった。

 

 

 

 この時、教師を任命する権利はまだダンブルドアにあった。だが、ダンブルドアはその権利を渡す様求められると、あっさりと権利をアンブリッジに献上。その結果、死喰い人達が新たに教師に就任した。

 授業の殆どは、闇の魔術と純血主義を学ぶ場と化した。

 加えてダフネがアンブリッジに進言し、新たに定めさせた規則の数々は隙がなく、ほんの少しの自由も許されなかった。

 イタズラグッズを持ち込んで云々、などというレベルではない。言動の一つ一つが精密に制限された。

 規則を例えほんの少しでも破った生徒は、容赦なく懲罰を受けた。そしてダフネが行う懲罰は、いや、拷問は尋常ではなかった。

 その余りの悲痛さに、『他の死喰い人の『磔の呪い』の方にしてくれ!』と生徒達が涙ながらに懇願する程だ。

 

 

 

 大広間のド真ん中、ガラスで出来た一辺3m程の立方体が置かれている。

 その中には、全裸になった生徒がいた。

 彼の名前はコリン・クリービー。

 マグル産まれで、両親に動く写真を送るために、よく写真を撮っていた彼だ。

 しかし、そこにいるコリン・クリービーは彼であって彼でない。今、彼は此処が何処かも、自分が何者かも分かっていないだろう。

 ダフネが行う拷問、それは何も与えない事。

 目、耳、鼻、舌を焼き、触覚を遮断させ、五感を封じる。そして彼が何も感じられなくなった所で、薬を飲ませる。それは『超人薬』と呼ばれる薬で、その名の通り、超人になれる。

どんな事があっても発狂しない精神、何も食べずとも生きていける肉体、そして何より体感時間が圧縮される。

 その圧縮倍率、実に50倍。

 つまり、1秒が50秒になり、1分が50分になり、1時間が50時間になり、1日が50日へと変わる。

 コリンがガラスの檻に入れられた期間は3日間。つまり彼の中では150日の月日が経過している事になる。

 

 

 

 彼が檻に入れられてから1時間、それまで大人しかった彼が突然暴れだした。やたらめったら暴れ周り、それから1時間後、今度は自分を殴りつける様になった。

 恐らく彼は、何らかの外的衝撃が欲しかったのだろう。

 だが当然、幾ら自分を痛め付けた所で彼は何も感じない。感じる事が出来ない。

 そして最初の1日が経つ頃、彼は言語を失った。

 獣の様な唸り声や、ゾンビの様な『あー』とか『うー』という音を交互に出すばかりで、意味のある言葉を発しなくなった。

 その頃にはもう人間としての営みを完全に忘れていた。四足歩行で歩き、糞尿を辺り構わず撒き散らした。

 そして2日が経つと、彼は何度も何度も自傷行為を行った。

 自ら舌を噛み切り、腹を捌き、内蔵を食いちぎり、手足をすり潰した。

 外部からの刺激を求めて、ではない。彼は遂に、自殺する事を選んだ。

 だが『超人薬』が死を許さない。彼が傷つく端から、瞬時に回復させてゆく。

 彼は痛みを感じない為、自分の体が果たして傷いているのかさえも分からない。故に、彼は永遠に自分の体を傷つけ続ける。

 死という形でしか、自分の体を確認出来ないからだ。

 しかし、そのゴールが訪れる事は永遠に無い。

 そして3日目、彼は肉になった。

 生物ではなく、肉。

 ピクピクとその場で痙攣するだけで、少しの動きも見せない。いや、稀に狂った様にその場で、陸に上げられた魚の様な動きを見せた。

 口と鼻からは空気と粘液が常に漏れ出て、異様なほど目が飛び出ている。

 人から獣へ、獣から肉へ。

 その過程を、生徒達はマザマザと見せつけられた。

 彼等は食事のために大広間に集まる訳だが、その度にコリン・クリービーを見る事になる。彼を見ながら、食事をする事になる。

 最初は笑っていたスリザリン生ですら、こらえきれない吐き気を催した。

 当然、大広間に集まるのを拒否する事、食事を摂らない事は懲罰対象となる。規則を破れば、今度は自分がコリンの様になる。

 懲罰への恐怖を盾にコリンを見る。そしてコリンを見てより懲罰への恐怖を募らせる。負の悪循環を、ダフネは巧妙に作り出した。

 

 

 

 勿論、反抗する生徒が居なかったわけではない。

 ネビル・ロングボトムがその筆頭だった(・・・)。彼はグリフィンドール寮に相応しい勇敢さを見せ、ダフネに決闘を申し込んだ。

 そして今現在、ネビルは聖マンゴに居る両親の隣のベッドに横たわっている。

 他にジョージ、フレッド、リー、チョウなど、グリフィンドール生を中心に多くの生徒達が挑んでいった。

 そして、全ての生徒が聖マンゴ送りになった。

 彼等はみなダフネに敗れ、心と魂に深刻な傷を負った。聖マンゴの癒者曰く、二度と彼等が自分を取り戻す事はないそうだ。

 そして、反抗する生徒は全て居なくなった、と思われた。

 しかし居たのだ。その寮の名に相応しく、狡猾にダフネ・グリーングラスを討ち取らんとする者が。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 『原作』と違い、失態を犯さなかったルシウスは、闇の帝王の機嫌を損ねなかった。どころか、新魔法省大臣として素晴らしい手腕を見せた。

 マグル産まれの処刑や騎士団に力を貸す者の検挙、その他諸々闇の陣営にとって有利な法案を次々と可決させていった。

故に、息子であるドラコ・マルフォイがダンブルドア殺害の任務を課せられる事もなかった。

 

 

 マルフォイは悩んでいた。

 自分の父が昔死喰い人であった事は、何となく理解していた。

 だが頭で理解するのと、実際に目の当たりにするのとでは訳が違う。

 闇の帝王の復活後、家の中で行われる拷問、殺人、強姦の数々。地下牢から響き渡る悲鳴と死臭。

 そしてそれを行う死喰い人達の愉悦に満ちた笑い声。

 また屋敷しもべ妖精が居なくなった事で、それら(・・・)を片付けるのはマルフォイの役目となった。

 勿論、手で片付けるのではなく、魔法を使って処理する。だが幾ら自分の手を汚さずとも、その作業は彼の精神に多大な影響を与えた。

 そんな劣悪な環境の中、やっとの事で夏休みを終えた。そうして戻ってきたホグワーツでは、また新たな地獄が待っていた。

 そしてマルフォイは気づいた。その根底にあるのは純血主義だ、と。

 自分が信じていた物が、自分を苦しめている。

 自分の中で、価値観が揺らいでいるのを感じた。故に、彼は誰かに相談したかった。

 だがリドルの死によって、議論の場であった探求クラブは無くなってしまった。

 そしてダフネが定めた規則により、新たにクラブを作る事も自由に議論する事も禁止されている。

 彼が誰にも言えない苦悩を抱える中、事件は起きた。

 ネビルを筆頭としてた一部の生徒の反乱。

 そしてそれに関与した生徒達は、全て聖マンゴへと送られた。

 それを聞いたマルフォイは、自分でも正体が分からない、謎の怒りを感じた。

 

 そしてマルフォイは悟った。力でダフネには敵わない、と。

ならば力で戦わなければ良い。自分はスリザリン生らしく狡猾に、知でダフネを倒す。

 マルフォイは、遂にダフネを倒す決心をした。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 様々なクラブや集まりが禁止され、廃止された。だがスラグホーンの食事会、通称『スラグ・クラブ』だけは残っている。

 ヴォルデモートを始めとした、何人もの死喰い人達があのクラブに所属していたからだそうだ。

 グリーングラスを倒すには、仲間がいる。

 『スラグ・クラブ』加入の条件は良い家系の産まれか、スラグホーンが気に入るか、それかとびきり優秀かだ。

 人材を探すのに、これ以上の場所は無い。

 ──今は無き探求クラブを除いて、だが。

 

「やあやあ、遅れてしまってすまないね。それじゃあ、今日のディナーを始めようか」

 

 スラグホーンが巨大なお腹を揺らしながら席に着いた。杖を一振りさせて、食事を用意する。

 食事の内容は僕の家で出るものと比べれば貧しい物だが、大広間で食事をしなくて良いというだけでご馳走だ

 

「乾杯の音頭は──ユウ!君に頼もうかね!」

 

「それは光栄です、スラグホーン先生」

 

 ユウ・サクマ。

 僕が最も引き込みたい人物の一人。

 彼は初日、アンブリッジに喧嘩を売り、そして見事に懲罰を受けた。にも関わらず、彼は前と変わらず普通に過ごしている。

 それから、成績が優秀なのもあるけど、何より注目したいのは彼の人望の厚さだ。

 どの寮にも友人が多いし、彼を好いている女子生徒は学年問わずいる。彼を引き込めれば、必然的に多くの生徒が引き込めるはずだ。

 

「ですが、僕以上に適任がいますよ」

 

「ほお、誰かね?」

 

「セシリアです」

 

「なるほどなるほど。レディーファーストという訳かね!いやはや、私とした事が女性への配慮を忘れているとは。セシリア、音頭を頼めるかね?」

 

「……スラグホーン教授に」

 

 ゴーントの不愛想な音頭に合わせて、ゴブレットを掲げる。

 セシリア・ゴーントは謎の多い生徒だ。

 頭はかなり良い。筆記では、グレンジャーやサクマを上回る程らしい。だけど実技はからっきし。前に一度、アンブリッジの授業でダンブルドアがでなければならない程の大失敗をしたらしい。

 だというのに、サクマを始めとした数多くの、優秀な人間に好かれている。

 それから死喰い人やグリーングラスも、何故か彼女には手を出さない。

 一年生の中ではサクマと並んで、注目されている人物だ。けど彼女は謎が多い。誘わない方が無難かもしれないな。

 

 その後、たわいも無い話が続いた。

 その中で、純血主義に染まっているか、グリーングラスの味方かを判断していく。

 それと、正義感が強すぎる人間もダメだ。

 例え愛する人間が傷つけられても、冷静にじっと機会を待てる人間でなくてはならない。でなければ、ロングボトム達の様になってしまう。

 しかしそういった狡猾な人間はやはりと言うべきか、スリザリンに多い。そしてスリザリン生の大半は、純血主義に傾倒してる。

 だが希望が無いわけじゃ無い、グリーングラスに反感を持っているスリザリン生もいる。

 僕の読みでは、ソフィー・プリエットとジェームズ・プリンダーガスト、あの二人は今のホグワーツを良く思っていない。そして、馬鹿じゃない。

 けど問題もある。彼等は、ゴーントと親しい。彼等を引き込むのであれば、必ずゴーントに話が伝わってしまうだろう。

 やはり、そう都合の良い人物は見つからない。

 

 

 

 

 

「おお、もうこんな時間か!今日のディナーはそろそろお開きの様だ。実に名残惜しいがね」

 

 今日の『スラグ・クラブ』が終わった。

 今日わかった事だが、やはりグリフィンドール生のほとんどにはもう反乱の意思は無い。

 人気者だったウィーズリーの双子がああなったせいか、クリービーへの懲罰を見たせいか、兎に角グリフィンドール生はもう諦めてしまってる。

 そしてハッフルパフ生もそれは同様。

 レイブンクロー生は、恐らく裏切る。彼等は賢い。それが故に、強い者につく。

 そしてスリザリン生もそれは同じだ。けど、全員が全員そうじゃないはずだ。何故なら、僕がそうじゃないから。

 まだ希望を胸に抱いている人間はいる。

 だからまずは、踏み出してみようと思う。

 新たな僕としての、第一歩を。

 

「グレンジャー、頼む。僕に力を貸してくれ」

 

 この日僕は、純血主義を、今までの僕を捨てた。


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