ハリー・ポッターと二人の『闇の帝王』   作:ドラ夫

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39 半獣血のプリンセスと不死鳥

 グリモールド・プレイス12番地にあるブラック家の巨大な屋敷。そこは『不死鳥の騎士団』の本拠地として使われていた。

 だが本拠地といっても、普段ここにいる人物はそう多くない。

 その理由は、彼等が任務に就いているからだ。

 キングズリー等の闇祓いは闇祓い局の任務に就き、シリウス等の面々はハリーの警護、及びダンブルドアの補佐の為にホグワーツにいる。

 しかし今現在、ここには多くの騎士団員が集まっている

 

「ダンブルドアは何を考えているんだ!何故アンブリッジの好きにさせておく!?」

 

 『ダンッ!』という音と共にシリウスが新聞を机に叩きつけた。彼が握り潰していた為、くしゃくしゃになってしまった新聞にはこう書かれている。

 

『ドローレス・アンブリッジ女史、ホグワーツ高等尋問官就任。アンブリッジ高等尋問官は早速、ホグワーツの警備体制にメスを入れた。というのも、驚くべき事に、渡来のホグワーツの警備はダンブルドア校長が独自に採用した、何の資格も無い魔法使い又は魔女が務めていたのだ。アンブリッジ高等尋問官はそんな現状を重く受け止め、魔法省が慎重に定めた基準を満たした、熟練の魔法使い又は魔女を新規に採用した。また生徒の自主性を育てる為、生徒達が自分達で自分達を取り締まる組織、高等尋問官親衛隊を組織した。彼女は経営者としてだけでなく、教育者としても優秀な様だ。もう高齢なダンブルドア校長に代わり、アンブリッジ高等尋問官が校長になるべきだ、という声も少なくない』

 

「落ち着け!ダンブルドアには何かお考えが有る。今大事なのは、彼を信じる事だ」

 

 反論したのはリーマス・ルーピン。

 彼は結局、クロの陣営には下らなかった。

 確かに、彼の社会的地位は低い。最早狼人間は完全に駆除の対象だ。

 だがトンクスへの愛が、トンクスからの愛が、彼の足を止めた。こんなに愛してる人を、こんなに愛してくれる人を人間の世界から引き離してはいけない。

 他人に話した事は無いが、リーマスはそう考え、決心した。

 余談だが、彼等は婚約した。

 今、トンクスのお腹の中には新たな生命が宿っている。

 

「そのダンブルドアを信じたトムはどうなった?私が無実の罪で捕まってた時、助けてくれたのはあいつだった!ダンブルドアではなく!なあリーマス、今度は私の息子かもしれないんだぞ?」

 

「ハリーの心配をしてるのはお前だけじゃない。私も、いやここにいる全員が心配してる」

 

 リーマスがゆっくりと静かに、しかし威厳を込めて言った。その言葉にシリウスも冷静になり、気まずい沈黙が降り立った。

 

「……リドル先生は、授業でいつも言ってました。闇の魔術に対抗するには、団結するべきだって。僕の知る限り、最も偉大な魔法使いであるリドル先生とダンブルドア校長が揃ってそう言うんです。だから、僕達はもっとお互いを信頼し合うべきです」

 

 沈黙を破ったのは、セドリックだった。

 彼は学校を卒業した後、不死鳥の騎士団に仲間入りした。

 セドリックの言葉に、騎士団の多くが同意する中、一人の女性の声が聞こえた。だがその声は騎士団の者の声ではない。さらに言うなら、屋敷の中の者でもない。

 その声は、屋敷の外から聞こえてきた。

 

『セドリック・ディゴリーと話がしたい。素直にディゴリーを出せば、一切の危害は加えない。しかし、抵抗する場合は──皆殺しにする』

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 時は遡り30分前。

 学校に潜入しているクロは、トム・リドルの遺産を狙っていた。

 だが学校ではダンブルドアの目が光っている。

 ダンブルドアに力で劣っている、とは思っていなかった。しかし、ダンブルドアを侮ってもいなかった。恐らく、自分とダンブルドアが戦えばかなりの高確率で自分が勝つ。しかし、遺産を持った生徒達が逃げてしまう。ダンブルドアを殺すのに、その位の時間はかかる。というのがクロの推測だった。

 故に、クロは中々手が出せないでいた。

 しかしそんな折、遺産を持つ一人、すなわちセドリック・ディゴリーの居場所を知る人間、セブルス・スネイプがクロの下についた。

 スネイプは『破れぬ誓い』により、グリモールド・プレイス12番地及びブラック家の場所を明かす事は出来なかった。だがセドリックが不死鳥の騎士団に所属した事、その本拠地に彼は居るであろう事を話した。

 クロはその場所をありとあらゆる方法で探し、ついに発見した。

 それが二日前の事。

 しかし、ブラック家は『忠誠の術』で護られていた。

 『忠誠の術』の突破方法を考える事二日間、ついにクロはその方法を編み出した。

 そして今、クロとヨルはグリモールド・プレイス12番地に降り立った。

 

「『忠誠の術』は秘密の守り人が教えない限り、ありとあらゆる者から対象を隠す。言葉を隠せば誰にも伝わらないし、物体を隠せば誰も干渉できなくなる。──でも本当にそうかしら?」

 

 クロが家と家の間、ブラック家があるであろう場所を凝視した。

 

「人間の体内や体表面には様々な微生物がいる。それが無ければ人間は生きていけない。でも彼等は秘密の守り人にこの場所を知らされてる?答えはNO。彼等は立派な生物。でも『忠誠の術』に弾かれない。つまり、『忠誠の術』は何かしらの基準を満たした者は通すのよ」

 

 クロがブラック家があるであろう場所に手を伸ばす。当然、空を切るだけだ。

 

「まあ結局、その基準には干渉できないから、このままだと入れないんだけどね」

 

「では、どうするのだ?」

 

 ヨルの質問に、クロは待ってました!と言わんばかりの勢いで答えた。

 

「基準には干渉できない。でも、私達がその基準を満たす事は出来る」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 不死鳥の騎士団が気づかぬ間に、煙突ネットワークは封じられ、姿くらましの類も出来ない様になっていた。

 助けは絶望的。つまり、彼等が自分でどうにかしなくてはならない

 

「何故、アイベリーが此処を?」

 

 まず、キングズリーが疑問を呈した。

 

「クソッタレのスネイプがこの場所を漏らしたのか?」

 

 シリウスが無いと思いつつも、一応可能性として考えられる事を述べる。

 

「それはありえん!奴はダンブルドアと『破れぬ誓い』を結んだ。わしが保証人になったんだ。ちゃあんとこの眼で見ておったが、間違いなく奴は『破れぬ誓い』を結んだ!」

 

 と、ムーディーがギョロギョロと動く目を指差しながら怒鳴った。

 

「みんな、まず落ち着こう。アイベリーがこの場所をどうやって突き止めたかは後だ。今は、どうやって彼女を追い返すかだ」

 

 ルーピンが全員を落ち着かせた。

 そんな彼の姿に、トンクスがウットリしながら尋ねた。

 

「一体、彼女は何の用があるのかしら?」

 

「……遺産だ。リドル先生の遺産。クロの行動は基本的に、リドル先生を中心にしてる。きっと、このローブが目当てだ」

 

 

 セドリックが自分の着ているローブを指差した。

 

「『双子の呪文』で複製を作って渡したりは出来ないのか?」

 

「出来ない。このローブに魔法の類は効かないんだ」

 

 セドリックの検証の結果、ローブの素材、秘められた魔術等は結局分からなかった。

 だがこのローブはどんな呪文でも劣化せず、破壊されない。また複製したり、新たに魔法を込める事等も出来ない事が分かった。

 

「彼女がローブを渡した後で、貴方を殺すと思う?」

 

「断言は出来ないけど、多分殺さないと思う。彼女は基本的に嘘を吐かない」

 

 その言葉で、シリウスはさっきのクロの発言を思い出した。彼女は言った、抵抗すれば皆殺しにすると。

 

「つまり、渡さなければ本当に私達を皆殺しにするのか?『忠誠の術』に守られている私達を?」

 

「リドル先生なら、『忠誠の術』を打ち破る方法を作ってても可笑しくはない。それにクロはプライドが高い、下手な嘘は言わないはずだ」

 

 セドリックはそう告げた。

 確かに、魔術の研究に余念がなかったリドルなら何かしらの方法を作ってそうだ、と全員が押し黙る中、シリウスが口を開いた。

 

「分かった。ならいっそのこと、奴を逆に倒してやろう」

 

 楽しそうにニヤけるシリウスを見て、ルーピンは思った。

 学生時代、シリウスがジェームズと悪巧みを思い付いた時の顔だ、と。

 

 

   ♢♢♢♢♢

 

 

 シリウスとジェームズ、リーマス、ペティグリューが学生だった頃、シリウスとジェームズは問題児の筆頭だった。

 問題児といえばウィーズリー家の双子、ジョージとフレッドだが、双子の教師を務めた事があるリーマスから見れば、シリウスとジェームズの方が一歩上をいっていた。

 四人でホグワーツにある抜け道を調べ書き記し、あらゆる呪文を施して作った『忍びの地図』。

 ジェームズの透明マントを使って深夜に学校中を散策し、閲覧禁止の棚を読み漁った。

 狼人間のリーマスの為に、全員で動物もどきになった。

 学校の規則どころか、幾つもの法律を破った。

 だが、そのどれもが明るみに出る事はなかった。彼等は学生でありながら、幾つもの偉業を誰にも気づかれる事なくやり遂げたのだ。

 

 時は流れ、四人はバラバラになった。

 ジェームズは死に、ルーピンは教師となり、シリウスは捕まり、ペティグリューは寝返った。

 だがシリウスの冤罪は晴れ、再びルーピンとシリウスは友となった。

 ルーピンはシリウスを信じる事が出来なかった事を非常に悔いていた。ルーピンは涙ながらにシリウスに謝った

 

『学生時代、何度も助けてもらった。それを考えれば、この程度何てことない。むしろ、また友となれた事を嬉しく思う』

 

 シリウスは笑って許した。

 その時、ルーピンは決心した。かつてジェームズがそうしたように、今度はルーピンとシリウスが、命をかけて誰かを守る番だ。そして、ジェームズの様に一人ではなく、自分とシリウス二人ならば、ハリーだけじゃなくより多くの人を守れると考えていた。

 

 

   ♢♢♢♢♢

 

 

「……来たわね」

 

 何もない空間から、セドリックが出現した。トムのローブは着ていない。

 急に目の前に人間が現れたにも関わらず、クロとヨルは少しも驚かなかった。

 

「何の用かな?」

 

「あいつから遺贈されたローブ、あれを渡してくれるかしら。勿論、タダでとは言わないわ。情報をあげる。ヴォルデモートに関する情報を。今居る場所、力の源、勢力の大きさ、色々とね」

 

「その情報は喉から手が出る程欲しい、けどあのローブは僕が遺贈された物だ。渡すわけにはいかない」

 

「何を言ってるのかしら?遺贈されたのは貴方じゃなくて、ディゴリーよ」

 

 その言葉にセドリックは、いやセドリックの姿をした男はギクリとした。

 しかしカマをかけられている可能性を考え、それを表には出さなかった。

 

「ポリジュース薬。見た目だけじゃなく、体の中身や体臭をも変える最高の変身薬。でも、臭うのよ」

 

 クロは真っ赤な舌をペロンっと出し、指で指した。

 

「貴方が飲んだポリジュース薬の臭い。私もつい最近使ったばかりなのよ。だから、間違えようが──」

 

 その瞬間、クロの言葉を遮り、七本の紅い閃光が何もない空間から放たれた。

 『忠誠の術』で護られている屋敷の敷地内から、騎士団が放ったものだ。しかしその閃光はクロに届く事なく、全て空中で霧散した。

 その理由は、クロが前もって施しておいた『保護呪文』だ。セドリックを呼び出す際、何かあった時のために用意していた。

 尤も、そんな事をせずとも負けるとは思っていない。念には念を、という奴だ。

 

 閃光が全て霧散した事に、セドリックの姿をした男がギョッとし、急いで敷地内に戻ろうと走り出した。しかし、数歩走ったところで壁に激突し、額に怪我を負った。

 その正体は巨大な『盾呪文』。偽セドリックがクロに気を取られている間に、ヨルが張ったものだ。

 偽セドリックは最早逃げる事は叶わないと悟ったのか、二人の方へと向き直った。

 そして目にとまらぬ速さで、一際巨大な閃光を繰り出した。

 だが、クロが手の中でトムから遺贈された杖をクルリと回すと、それだけで彼の閃光は消えた。いや閃光だけではない。偽セドリックの腕が、杖ごとかき消えた。

 痛みに気を取られたのも束の間、偽セドリックは更に驚愕する事になる。

 自身の消えた腕の断面、そこからあり得ない量の血が出ているからだ。最早出血、などというレベルではない。血が洪水の様に湧き出ている。

 偽セドリックはドンドンと干からびていき、やがてミイラの様になった。

 血は空中で集まり、二つの球体となった。

 

 『忠誠の術』の基準、それは秘密を知る人間の一部であるかどうか、だ。

 どういう事かというと、体の中にある微生物は最早人間の一部、臓器や血と言った物と同系列に扱われている、という事だ。

 クロは過去、自分で『忠誠の術』を掛け、そこに切り落とした自分の腕を投げ入れて見たところ、見事に『忠誠の術』に弾かれずに中に入れた事を実験で証明していた。

 そこで疑問となるのが、何処から何処までがその者の一部となるのか、という所だ。

 クロは試しに自分の腕をミンチにし、他の生き物に食べさせた。しかし、『忠誠の術』を突破する事は出来なかった。

 つまり、その者の体の一部を取り込んだ所で、その者の一部と見なされることはない、という事だ。

 だがそれは少量の話。

 さらなる研究の末、体の半分以上を対象の肉体にすれば、『忠誠の術』に弾かれない事を、対象の肉体の一部だと認識される事を突き止めた

 

「ヨル、これ飲んで」

 

 クロは偽セドリックの血で出来た球体を圧縮し、直径1cm程にするとヨルに渡した。

 人体の体の60%以上は水分、つまり血でできている。

 クロとヨルは予め自分の血を極限まで抜いておいた。代わりに、今採取した偽セドリックの血を増幅させ、飲み込んだ。

 その瞬間、彼等は『忠誠の術』に偽セドリックの体の一部だと認識された。

 先程まで見えなかった屋敷と騎士団員達が、二人の前に姿を現した。

 

「雑魚は私が相手をしておこう」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 ヨルが杖を構えながら言った。

 目の前にはシリウス、ルーピン、モリー、アーサー、ムーディー、トンクス。

 セドリックの姿はない。

 クロはセドリックを探しに、屋敷の中へと悠々と歩いて行った。当然、黙ってそれを見過ごす騎士団員ではないが、その攻撃の全てが、悉くヨルに撃ち落とされた。

 

「キングズリーの仇!」

 

 全員がクロを阻止しようとする中、偽セドリックの正体、つまりキングズリーと仲が良かったルーピンだけがヨルに攻撃した。

 ヨルは杖を持っていない方の腕を蛇の尻尾に戻し、ルーピンを呪文ごと攻撃した。

 ルーピンは内臓を潰されたカエルの様な声を出しながら吹き飛んで行った。杖を持っていた腕はグチャグチャに折れ、肋骨が砕けた

 

「リーマス!……お前かあああ!!!」

 

 その音に、クロを気にかけていた騎士団員の何人かがヨルへと向き直った。

 中でもトンクスは激昂し、禁じられた呪文である悪霊の火をヨルに放った。

 悪霊の火は狼の形となり、主人の憎しみのままヨルを喰い殺そうとした。

 

「『妖精王の豪炎』よ」

 

 しかし、ヨルが生み出したエメラルド色の炎で出来た大蛇に逆に喰い殺された。

 そのまま大蛇はトンクスの足に噛み付き、足を消し飛ばした。

 

 その光景を見た師匠であるムーディーが、その大きい杖から幾つもの閃光を背後から放った。

 その閃光の全てがヨルに直撃する。

 だが、傷はない。

 ヨルは本来の姿、バジリスクに戻り強靭な鱗で呪文を防いだ。ヨルがムーディーを一睨みすると、ムーディーはビクリと一瞬動いた後、地面に倒れ、それきり動かなくなった。

 

 アーサーが芝を無数の蔓に変え、ヨルの巨体を縛ろうとする。それに対しヨルは姿を人間に変え、悠々と抜けた。

 だがそれは誘い。

 その瞬間を狙っていたモリーが巨大な閃光をヨルに放った。

 しかし、そこにもうヨルはいない。二人が辺りを見回すも、やはりヨルは周囲にいない。

 

「上だ!」

 

 少し離れた位置にいたシリウスが叫んだ。

 二人が上空を見上げると、一羽のカラスが飛んでいた。カラスが咥えている杖から閃光が走り、二人は動かなくなった

 

 シリウスがカラスに向かって閃光を飛ばすが、カラスはそれを全て避け、優雅に地面に降り立った。

 カラスは人間へと戻ると、杖を一振りした。

 するとシリウスの背後から剣が現れ、シリウスを突き刺した。

 シリウスの目は一瞬大きく見開かれ、その後ゆっくりと眼を閉じた

 

 

   ♢♢♢♢♢

 

 

「……見つけた」

 

 クロは魔力線を屋敷中に張り巡らせ、セドリックを探索した。その結果、彼はリビングのど真ん中に一人で立っていた。コツコツと足音を立て、リビングに向かうが、セドリックは逃げる素振りを見せない。

 罠を警戒したが、魔力線には何もひっかからない。リビングの扉を開けると、やはりセドリックが堂々と立っていた。

 それを見たクロは、今までの彼とは違う、と感じた。

 セドリックは元々優秀だった。だがその優しさからか、同学年にライバルが居なかったせいか、何処か勝負弱い所があった。

 しかし『決闘クラブ』でのジニーへの敗北。

 ヨルやクロ、ハーマイオニー、双子などの手強いライバル。

 今はまだ弱くとも、ネビルやハリー、ルーナといった自分を脅かす勢いで成長する後輩達。

 そして、優秀な指導者だったリドルとの出会いと別れ。

 彼は自分の弱さと甘さを知った。

 優しさと、甘さの違いを知った。

 彼は卒業後、ムーディーに弟子入りした。そこで、一切の甘さを捨てた。

 今の彼は強い。

 それは、世界的に見ても、だ。

 

「クロ・ライナ・アイベリー。君に決闘を挑む!賭けるのはリドル先生の遺産だ」

 

「いいわよ」

 

 セドリックが自分のローブと、クロの杖を目で指した。

 その言葉には、決意が秘められていた。それに対し、クロはあっけらかんといった。

 クロが杖をふるい、火でカウントを取った

 

3…2…1…始め!

 

「『エクスペリアームス 武器よ永遠に去れ』!」

 

 聞こえてきたのは一人分の声だった。

 セドリックが放った極大の紅い閃光。

 そこには幾つもの想いが込められていた。

 ライバルや後輩達への尊敬。

 恋人であるチョウへの愛。

 恩師であったリドルへの敬意。

 そして、彼の死への悲しみと、自分の無力さへの激しい怒り。

 数々の思い出と多彩な感情は、強い煌めきとなって、クロへと放たれた。

 

 対して、クロは無言呪文で『武装解除』を放った

 

 勝負は一瞬だった。

 クロの閃光がセドリックの閃光を砕き、セドリック自身をも貫いた。

 そのまま閃光は留まることなく、ブラック家の壁を貫通していった。

 何故ここまでの差が出たのか?

 単純な話、セドリックよりも、クロが込めた感情の方が強いからだ。

 彼の多彩な感情と数々の人間との思い出よりも、クロのトムへの愛と、彼の死への悲しみ、そして彼一人との思い出の方が、強かったからだ。

 クロはそのまま動かなくなったセドリックへと歩み寄り、ローブを手にした。


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