ハリー・ポッターと二人の『闇の帝王』   作:ドラ夫

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27 『TA』

 ハーマイオニーは苦悩していた。

 悩みの原因は勿論『TA』について。

 『必要の部屋』という練習場所と、自分とハリーという教師は用意した。

 問題は生徒。生徒が一向に集まらなかった。

 トムが行う『闇の魔術に対する防衛術』の授業にほとんどの生徒が満足していたため、放課後にまで戦い方を学ぼうと思う生徒が少なかったのだ。

 また、放課後も学ぼうとする数少ない生徒も、トムが開いている『探求クラブ』があったため、そちらの方に属してしまっていた。

 皮肉にも、生徒の事を考えて行ったトムのサポートが、裏目に出てしまっていた。

 それでもハーマイオニーは色々と勧誘を続けたが、元々人付き合いが得意とは言えない彼女の勧誘は中々上手く行かなかった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「リドル先生、今日もお話に付き合っていただけますか?」

 

 そう言って尋ねてきたのはダフネ・グリーングラス。彼女がこうやって尋ねて来ることは最早僕にとってもルーティーンになっている。

 他の生徒の一癖も二癖もある相談と違って、彼女の相談事は実に単純で、実に面白い。

 

「勿論、構わないよ」

 

「ありがとうございます、リドル先生」

 

 彼女はそう言って微笑みながら、いつもの席に座った。

 

「そういえばリドル先生、2週間ほど前にできた『TA』というクラブをご存知ですか?」

 

「……ああ、知ってるよ」

 

「なんでも、小規模ながら自分達で戦いの訓練をしているとか。なんだか私達の『決闘クラブ』や『探求クラブ』に似てますね」

 

 そこまで話して、一旦彼女はテーブルの上にある紅茶の入ったカップを、音を立てずにそっと持ち上げた。そのまま彼女は目を瞑り、紅茶の匂いを楽しんだ後に、静かにカップに口をつけた。

 その後唇をカップから離すと、カップを持ったままゆっくりと、ほんの少しだけ、すっと瞳を開いて何処か遠くを睨んだ。

 

「私からすると、先生の授業やクラブでは物足りない、と言われている様で少し気になってしまいます」

 

 彼女はカップをテーブルに、珍しく音を立てて置いた。

 

「リドル先生は『TA』についてはどの様にお考えで?」

 

「……そうだね、中々面白い試みだと思うよ。指導を自分達で行う分、大変で、効率が悪くて、より為になる」

 

「ではリドル先生は『TA』には賛成なのですか?」

 

「僕は生徒達が自主的に何かするのには賛成だ。自主性、というのは僕達教師では育ててあげられないからね。僕としては、あのクラブが成長する事は嬉しい事かな」

 

「……分かりました。それでリドル先生、今日の相談なのですが──」

 

 その後、ダフネはいつもの様に、実に女の子らしい、学生らしい悩みを相談してきた。

 彼女の悩み相談をされていると、僕は教師としての充実感を得る事が出来る。この関係は彼女にとっても僕にとっても、良いものだと思う。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「リドル先生、『TA』の報告書です!」

 

 まだ日も昇りきらない早朝に、ハーマイオニーが僕の部屋を訪ねて来た。

 

「……へえ、驚いたな。いや、本当に凄い!」

 

 ハーマイオニーが『TA』を発足すると言ってから一月。

 最初の2週間は上手くいって無い様だったから、どうなる事かと思ってたけど、流石ハーマイオニーだ。

 報告書によると、メンバーはグリフィンドール生とハッフルパフ生を中心に、一部の極めて優秀なレイブンクロー生と比較的差別意識の低いスリザリン生で構成されてるみたいだ。

 僕から見ても、これ以上無いくらいのメンバーがバランス良く集まってる様に思える。

 

 それに学習内容も実に充実してる。

 基礎的な杖の振り方からじっくりと教えている様で、今更生徒達が授業で聞きづらい所を見事にカバーしている。

 勉強熱心な彼女らしい、生徒の立場に立った良いやり方だ。基礎部分をヴォルデモートの学生時代の記憶から学んでる僕では中々手が回らない所を上手くフォローしてくれてる。

 ハリーも教師という立場が気に入ってるらしく、かなり『TA』にのめり込んでるみたいだ。

 このままいけば、ハリーは順調に強くなっていく事だろう。

 

「それでグレンジャー、当面の目標は何にしてるのかな?」

 

 人は、目標があった方が格段に成長する。

 僕も授業で長期的な目標として、“銀の生き物”を育て上げる事を課してるし、短期的な目標も三授業毎に立てることにしてる。

 ハーマイオニーも当然それを理解してるはずだ。

 その証拠に、待ってました!と言わんばかりに胸を張って答えてくれた。

 

「一月毎にトーナメントを開催することにしました。優勝すると次のホグズミードで『TA』メンバー全員に何かを奢って貰えます。そうすれば、みんなが優勝を目指して頑張るだけじゃなくて、優勝した時の景品を豪華にするために、『TA』のメンバーがそれぞれ、色んな人を勧誘してくれると思ったので。

それと、ハリーを倒せた人は特別な賞が貰えます。これは何の魔法効力も持たないただの賞ですが、“生き残った男の子”を倒したというのは大きな名誉になります。

これだとハリーには賞品はありませんが、負けず嫌いなので誰にも負けない様に沢山訓練すると思います」

 

「なるほど……。グレンジャー、君は教師に向いてるかもしれないね」

 

「本当ですか?なら、いつか先生の同僚になりたいです!」

 

「本当だとも。マクゴナガル校長は『変身術』の教諭と校長としての業務の両立で忙しい。君にその気があるのなら、僕から話をしておこうか?」

 

「いいえ、リドル先生。自分でマクゴナガル校長に話しに行きます。自分の事ですから」

 

 ハーマイオニーの自立は嬉しい反面、少し悲しい。

 どうやら僕は、頼られることに喜びを見出すタイプの人間だったみたいだ。

 

「君が『変身術』の先生になったら、僕が教えてもらおうかな。実を言うと、僕は『変身術』の類が苦手でね」

 

「そうなんですか!?」

 

 これは本当の事だ。

 僕は肉体がない魂だけの存在だ。だから他の人より魂や魔力の方を強く意識してしまってる。

 故に、形を変える『変身術』は苦手だ。逆に得意なのは『召喚呪文』だ。

 僕の特性上、『守護霊の呪文』や『花咲呪文』といった無から形を想像して、物を創り上げる呪文はやりやすかった

 

「でも、それならますますホグワーツの先生になりたくなりました。先生に何かを教えるなんて、とっても面白そう!」

 

 生徒が教師だった人に物を教える様になる。ハーマイオニーの場合、やろうと思えば確実に出来るようになるだろう。

 やっぱり生徒の自立は辛い事だ……

 キラキラと笑う彼女に、僕は黙って肩を竦めた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ハリーの機嫌はここ最近、少し前の頃と打って変わって最高だった。ハリー自身、四年生になった当初は、ここまで楽しい学校生活を送れるとは思ってもみなかった。

 入学当初。監督生になってしまったロン、ハーマイオニーと疎遠になりがちだった。

 しかも、2人は最初の『闇の魔術に対する防衛術』の授業以来、ヴォルデモートと関係があるかもしれないトム・リドルと親しくしてる。

 その上、みんなの反対を押し切って、リドルの秘密を暴こうとして悉く失敗した。いや、ただ失敗しただけじゃない。秘密を暴く任務のために、ロンはクィディッチの弟子入りをして、ハーマイオニーは『探求クラブ』に入った。

 そしてそのまま任務が終わった後も、2人はリドルの元に通うようになってしまった。

 ハリーはなんだが、無性にそれが気に入らなかった。

 しかも、ヴォルデモートが復活したのに、再び倒されたが、何の情報も入ってこない。

 自分はあの場所に居たのに!

 ハリーの不満は爆発寸前だった

 

 だが、ここ最近は違う。

 その理由は、自分が教師をしている『TA』の存在だ。

 総勢32人の生徒達がハリーを慕って集まってくれている。全員ハリーの話を熱心に聞いてくれるし、ハリーが教えた事を『TA』活動外も本当に必死になって復習してくれる。

 自分を慕ってくれる仲間と共に強くなる事は、リドルの力に追いつける様な、ヴォルデモートに近づいてる様な気にしてくれた。

 

「先輩、今日は何を教えてくれるんですか!?」

 

 そうハリーに聞きながら、ニッコリ満面の笑みを浮かべて腕を絡めて、体を密着させてくるのは後輩のアステリア・グリーングラス。

 ハリーから見て、スリザリン生にしては珍しく、純血主義に染まっていない生徒だった。

 誰もが気にかけてしまう、面倒を見たくなってしまう様な理想的な後輩である。

 

「あー、えっと……何だっけ?ハーマイオニー」

 

「ハリー、昨日言ったでしょ?今日は『無言呪文』のやり方よ。それと、羊皮紙に教え方を纏めておいたから、見ておいて」

 

「ありがとう、ハーマイオニー」

 

 ハーマイオニーもここ最近、ハリーと同じくらい『TA』に尽くしてくれていた。少し前まで、口を開けば『探求クラブ』の事ばかりだったのが嘘の様だった。

 

「ハリーは忙しいのよ、忘れちゃうのも無理ないわ。それに、予習なんてしなくても、ハリーはここにいる誰よりも優秀よ」

 

 そう言ってハリーの肩を持つのは、ハリーより1つ年上のレイブンクロー生、チョウ・チャン。

 アステリアとほぼ同時期に『TA』に加入した生徒で、ハリーをよく褒めてくれた。誰もが頼りたくなってしまう、面倒を見て欲しくなる様な理想的な先輩。

 

「そんな事ないよ、チョウ。僕だっていっつもギリギリさ。だって……ほら、チョウは優秀だから、追い抜かれない様に」

 

「ハリー、そんな、優秀だなんて!私なんて、ハリーに比べたら全然なのに」

 

 チョウがうっとりした顔でハリーを見つめた。

 ハリーの胸は幸せでいっぱいだった。

 

「はぁい、ハリー、チョウ、ハーマイオニー、アステリア。アステリア、お姉ちゃん元気?」

 

「やあ、ルーナ」

 

「「はぁい、ルーナ」」

 

「おはようございます!お姉様なら元気ですよ、また先生の部屋でお茶会をしながら話をしたい、て言ってました!」

 

 彼女はルーナ・ラブグッド。

 ハリーの1つ年下のレイブンクロー生で、いつの間にか『TA』に加入していた。ジニーと、アステリアのお姉さんの親友らしい。

 ルーナはリドルと仲が良いらしく、ハリーは最初、ルーナがリドルのスパイなんじゃないかと疑っていた。

 尤も、すぐに疑う事が馬鹿らしくなったが。

 

「それじゃあ、みんなこっちを向いて!今日の『TA』を始めよう!」

 

 ハリーがそう声を掛けると、今まで談笑していた生徒達は話をやめて素早く整列した。ハリーはその見事に統一された動きをする生徒達を見て、満足気に頷いた。


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