かつて賢者の石が隠されていた場所であり、現在ではトムが最も秘匿性が高い部屋として使っている6つ目の部屋に2つの大きな鏡が置いてあった。
1つは『みぞの鏡』。
いかなる『閉心術』を用いようとも誤魔化すことの出来ない魔法界最古の
その歴史深さ、強力さは『組み分け帽子』や『炎のゴブレット』と並び、ヴォルデモートやダンブルドアでさえ心をさらけ出してしまう鏡。
それからもう1つ、マクゴナガルが製作した『多面鏡』と命名された鏡が置かれている。
『相互鏡』とは違い、複数人で同時に会話することが出来る通信用の鏡。
現在『トムの部屋』、『校長室』、『ブラック家』、『隠れ穴』、それから『スネイプのみ知る秘密の場所』に設置されており、騎士団はこの鏡で会議を行っていた。
『このままでは我々は負けるぞ!もう騎士団員が5人も死んだ!何をもたもたしている。もたついてる間に死んだ者の名前を挙げてやろうか、え!?』
鏡の1つ、『ブラック家』に映っているのは、身体中に呪いの傷を負ったマッドアイ。
『焦りに負け、事を不用意に運べばそれこそ我々の敗北を招く事になるでしょうな』
もう1つの鏡にはスネイプ、背景は黒く覆われており、何処にいるのかはわからない。
スネイプは身体こそ無事なものの、顔が青白く、みるからに衰弱していた。
『魔法省はもう待てません。ファッジさんは徐々に見離されてきてる。スクリムジョールが支持を得始めてます』
『隠れ穴』の鏡からはパーシー・ウィズリー。
目の下にはくっきりとクマがついている上に髪もボサボサだ。
「事を公にしてはダメだ。もっとキングズリーとマッドアイの2人で闇祓いを説得してくれ」
そう言ったのはこの部屋の主。
『とっくにやっておる!お前こそ
『アラスター、生徒に対して“懐柔”などという言葉を使ってはなりません!』
と、少しやつれたマクゴナガルがダンブルドアなき『校長室』から言った。
「何度も言うように、ポッターはヴォルデモートと繋がっている。不用意に情報を渡せばたちまちヴォルデモートに知られてしまう。しかも僕はヴォルデモートに近い存在だ。うっかりポッターに手を出せば、『保護魔法』で滅されてしまうかもしれない。それこそ、僕や騎士団の負けを呼ぶ事になる。時間がかかるのは許してくれ。僕と騎士団の情報を一切説明せず、かつ魔法での接触もせずに信用してもらうのは難しいんだ」
『それはこちらも同じ事だ。その辺の闇祓いでは『真実薬』にも『服従の呪文』にも逆らえん。仲間を引き込んだと思ったら裏切り者でした、となっては笑えんからな!そりよりハグリッドの方はどうなっておる?マクゴナガル』
『ハグリッドはまだ帰ってません。巨人との交渉は難航しているようです。ルーピンはどうしました?』
『もっと悪い!シリウス共々狼人間の集会を追い出されそうになっておる』
『それに比べ、闇の帝王は吸血鬼と吸魂鬼を配下とする事に成功しましたぞ』
『それだけじゃありません。ルシウスが魔法省に毎日来ています。ドローレス・アンブリッジを始めとした反マグル派や純血の一族と手を組もうとしています』
「……おっと、やっと朗報だ。クロがドラゴンをこちらの陣営に引きれる事に成功した。それからヨルが蛇を仲間にする事に成功。小鬼達も僕に友好的な返事をくれた」
『ここ最近で良い知らせがこれだけとはな、まったく。だが、各員希望を捨ててはならん!油断大敵!』
プツン
と鏡での通信が切れ、さっきまでの騎士団の姿はなくなり、自分の姿が映し出される。
数秒自分の姿を見た後にトムが横を見ると、今度は『みぞの鏡』に映った自分が映し出されている。
彼はその日、明け方まで『みぞの鏡』を眺めていた。
◇◇◇◇◇
僕は今、魔法界の資格と職業についての勉強をしてる。理由は勿論、生徒達の就職のためだ。
スリザリン生は主に魔法省。
レイブンクロー生は主に司書や歴史家、研究家。
ハッフルパフ生は主に何からの専門家や保護団体。
そして僕が受け持つグリフィンドール生は『闇祓い』などの『祓い系』の職業が多い。
例えば、『妖怪祓い』や『悪魔祓い』と言った『闇祓い』より権限のない、その代わりに就職に必要な資格や危険の少ない物を選ぶ生徒が非常に多い。
それに加えて、ネビルの様に何らかの専門家になる生徒も少ないがある程度は居る。こういった専門職の資格は種類が多くて大変だ。
例えば、パーバティ・パチルが希望している職業の『魔法アロマテラピスト』になるためには『魔法テラピー検定1級』、『魔法テラピー学校研修期間終了証明書』、『魔法薬学検定準2級以上』の3種類の資格。それから『MJAA(マジック・アロマ・コーディネーター)協会』に認めてもらわなくてはならない。
こう言った職業ごとの必要資格と資格試験の試験日、試験申請の申込書の取り寄せ方法など、生徒の希望の分だけ調べなくてはならない。
それでも、『祓い系』は大体同じ資格で良い事が救いだ。
就職先がかなり別れるレイブンクローとハッフルパフを受け持つフリットウィック先生とスプラウト先生は本当に凄いと思う。
今は生徒に貰ったマフィンを片手に『近年の妖怪祓いの主張』という本を読んでる。
妖怪祓い達はもうここ何十年と自分たちの地位の向上を求めている様だ。彼らは『ものまね妖怪』を始めとした妖怪の数々が弱点を克服した場合、魔法省が認知しているよりどの生物よりも危険だと主張している。
それに対して魔法省は妖怪である以上、どんな危険な性質を持っているとしても『笑顔』や『楽しい気持ち』を妖怪が克服する事はなく、故に危険ではない。と断言して要求を突っぱねてるようだ。
さらに本を読み進めようとすると、
コンコン
とドアをノックする音がした。
「どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのはハーマイオニーを先頭に、ロン、ハリー、ジニー、フレッド、ジョージの6人。
「昨日言ってた大事な話についてかな?」
「まずは、ごめんなさい先生」
ハーマイオニーがそう言うと、全員が頭を下げてきた。
「実は、その、この一ヶ月私達は先生を監視してたんです」
「何故監視を?」
「先生が“例のあの人”と繋がってると思ったんです」
「どうしてそう思ったんだい?」
「僕が二年生の時、お前そっくりの奴に殺されかけた!髪飾りに込められたヴォルデモートの昔の記憶、トム・リドルに!お前は何者なんだ!」
ハリーがもう我慢出来ないと言わんばかりに話に割り込んできた。
「落ち着けよ、ハリー。この人が本当に“例のあの人”ならもう僕達死んでるぜ?それに、君の命を助けたじゃないか」
「……ありがとう、ロン。すみません先生、どうして先生はヴォルデモートの若い頃と同じ容姿をしてるんですか?」
ここで僕の正体を全て話してしまえば、僕の事をヴォルデモートに知られてしまう。かと言って黙っていれば、僕達がハリーとヴォルデモートが繋がっている事に気づいていることに気づかれてしまう。
ここはヴォルデモートが知らない、かつ知られても構わない情報を交えながら、僕が知ってる全てを教えるかの様に話す。
そうすればヴォルデモートは僕がハリーに打ち明けた情報が僕達の知る全てだと、僕達がハリーとヴォルデモートにある繋がりを認知していないと、思わせられるかもしれない。
「僕そっくりなやつ?そいつは知らないけど、僕はヴォルデモートの一部だよ。元、だけどね。どうやったのかは分からないけど、ヴォルデモートは学生時代の記憶の一部を切り離したんだ、それが僕」
「記憶を?でも先生は“例のあの人”と全く性格が違います!」
「その通りだグレンジャー。僕とヴォルデモートは似ているけど、全く違うんだ。その理由は正確にはわからないけどね。一応、あいつが『闇の帝王』になるために切り離した“善”の記憶の部分が僕だとダンブルドア校長はお考えだ」
これなら分霊箱には触れないし、筋が通っていそうでもある。
「それなら僕が壊した髪飾りにとりついていたヴォルデモートは何なんですか?」
「分からない。少なくとも僕にはね。ダンブルドア校長なら何か知ってるかもれないけど、生憎と僕は校長の行方も知らない」
「……分かりました。それでは、失礼しました」
「さよならポッター。ウィーズリー兄弟、忘れ物だ」
双子がこっそり設置して帰ろうとした『聞き耳』を渡した。
「気づいてたんですか、先生?」
「偶然にね。グレンジャー、君は少し残っていきなさい。“例の”レポートの件で話がある」
勿論、レポートなんてない。
「……分かりました」
ハーマイオニーを残して他の面々は去っていった。
僕の状況を察したジニーが後はフォローしてくれるはずだし、それで上手くいく。でも、そこにハーマイオニーがいれば別だ。
ハーマイオニーはわずかな綻びを見抜き、真実に到達してしまう。実際『原作』でもそうだった。
隠されている物が賢者の石である事を当て、秘密の部屋の怪物の正体を暴き、ルーピン先生が狼人間である事に辿り着いた。
兎角、ハーマイオニーを敵に回してはならない。少なくとも、知略という面では。
「グレンジャー、君には全てを話そうと思う。でもそれは『閉心術』と『真実薬』に抵抗する術を身につけてからにしたいんだ」
驚いた様子はない。
さっきの話が嘘である事をある程度見抜いてたみたいだ。
「リドル先生、私、もうその2つを習得してます」
「本当かい?一体、どうやって」
「『閉心術』の方はジニーに手伝って貰いました。ジニーはリドル先生が作った『カンニングノート』で『閉心術』のやり方を学んでたので、それを教えてもらいました。『真実薬』の方は『必要の部屋』の性質を使いました。あの部屋の物は外に持ち出せません。なので、あの部屋にある材料で『真実薬』を飲んで、抗えなかったら部屋から出て、部屋に入ってまた飲んでを繰り返しました」
「グレンジャー、君に20点あげよう。まったく、驚きだ!君は本当に賢い娘だ」
僕がそう言って褒めると、ハーマイオニーは心底嬉しそうに笑いながら、ガッツポーズをした。
「やっと先生を驚かせられました」
「僕は顔に出ないだけで、いつも君の優秀さに驚いてるよ」
「リドル先生、私今本当に嬉しいんです!水を差さないでください!」
返事をする代わりに、僕は黙って両手を挙げた。
「……そろそろ話をしてもいいかな?」
「ああ、すみませんリドル先生」
「これから話す事は誰にも話してはいけないよ、いいね?」
ハーマイオニーは黙って頷いた。
「まず、僕の本当の正体なんだけど──」
ハーマイオニーには一晩かけて、ヴォルデモートが分霊箱というものを使って死から免れた事。僕がその分霊箱である事、ハリーと接触すると僕が危険な事、でも彼なくしてはこの戦いに勝てない事などを話した。
そして、ヴォルデモートがまた戻ってくるだろうことも
◇◇◇◇
翌日、ハーマイオニーが何やら興奮した様子で僕のところに来た。
「リドル先生はハリーに秘密を言う訳にも行かないし、接触する事も出来れば避けたい。けど、ハリーに協力はして欲しいし、強くもなって欲しい。そうですよね?」
「その通りだ」
「リドル先生のお役に立ちたくて、私、一晩じっくり考えたんです。それで、思いつきました。私達が自分達で強くなればいいと思うんです。なので、これを立ち上げようと思います!」
そう言って見せてきたのはバッジだ。中央に書かれている文字は──
「TA?」
「はい『
「いい案だと思うけど、『TA』って名前はちょっと……」
「大丈夫です。表向きには『
ハーマイオニーがぴしゃりと言った。
「そこまでしてその名前に拘らなくてもいいのに…… まあ、嬉しいけどね」
「それじゃあ、許していただけるんですね?」
「許すも何も、こっちからお願いしたいよ。ありがとう、グレンジャー」
ハーマイオニーはニッコリと笑った。
不覚にも、その魅力的な笑みに見惚れてしまったのは内緒だ。