ハリー・ポッターと二人の『闇の帝王』   作:ドラ夫

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第4章─『闇の帝王』と不死鳥の騎士団
22 闇の魔術に対する防衛術


 ブラック家でシリウスと闇祓い達に守られているハリーが、ダドリーと共にマグノリア・クレセント通りとウィステリア・ウォークを結ぶ路地で吸魂鬼に襲われて魔法を使う、なんて事はなく、魔法界は表向き、穏やかな日々を送っていた。

 

 だが、魔法省内部では大荒れの議論が続いていた。議論の内容はダンブルドア失踪の謎についてだ。

 魔法省大臣ファッジ率いる静観派と、闇祓い局局長スクリムジョール率いる過激派の争いは、双方が魔法界の為を心から考えているためか、激化の一途をたどった。

 ファッジは、自分を救ってくれたダンブルドアの聡明さと強大さを心から信じており、下手に我々が手を出すべきではないと主張していた。彼が彼なりに自分の無能さと向き合った結果といえる。

 対してスクリムジョールや闇祓い達はダンブルドアを認めてはいるものの、やはり人間である以上失敗する可能性もある。だから我々がその補助を強引にでもすべきだ、という考えを持っていた。

 ダンブルドアを支持する人が多い中、民衆の為にダンブルドアを否定した彼は本当の意味での勇敢さを持っていると言える。

 

 そんな議論が続く中、アーサー・ウィーズリーをはじめとした中立派が動きを見せた。

 それはファッジを、つまり静観派を支持する事であった。加えて、闇祓い局で大きな力を持っていたキングズリー・シャックルボルト、期待の星ニンファドーラ・トンクス等が静観派についた事が決め手となり、魔法省の方針は静観となった。

 この裏には『不死鳥の騎士団』という暗黒時代に活躍した秘密組織が大きく関わっている。

 それを見抜けないスクリムジョールではなかったが、彼らの間でどのような取り決めがなされたのか、それはまだ分かっていなかった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 恒例となっている新一年生の組み分けが終わり、例年通り校長先生の開校の言葉が始まった。

 もっとも、話す人は例年通りではないのだが。

 

「一年生の皆さん、まずは入学おめでとうございます。ですが、どの寮に選ばれたのであれ、素晴らしい魔法使いになるためには努力しなくてはなりません、決して努力を怠らない事です。これは一年生だけの話ではありませんよ」

 

 マクゴナガルらしい厳しくも、生徒を思った言葉だ。

 

「幾つかお知らせする事があります。一年生の皆さん、禁断の森には入ってはなりません。それから、教室を移動する際、廊下での魔法は禁止です。それと在校生の皆さん、私は校長としての職務をするためグリフィンドール寮の寮監を辞めます」

 

 これには生徒達が、特にグリフィンドール生達が不満を告げた。特に普段から叱られているジョージとフレッドが一番声をあげて抗議していた。

 普段厳しい彼女だが、いや、厳しいからこそマクゴナガルは生徒達から人気なのだ。

 

「お静かに!」

 

 マクゴナガルは口では怒りながらも、生徒の言葉に内心非常に喜んでいた。

 それと同時に、改めて寮監を辞めることを強く残念がった。しかし彼女は今、ホグワーツ魔法魔術学校の校長なのだ。私情を優先するわけにはいかない。

 

「今から3人、紹介する人物がいます。2人は転校生、1人は新しい『闇の魔術に対する防衛術』の先生であり、これからのグリフィンドールの寮監です。いいですね、みなさん。それでは、入ってきて下さい」

 

 ホグワーツの荘厳な扉がその外見に相応しい壮大な音を立てて開いた。

 出てきた3人のうち、2人はホグワーツ生の中では知らぬ者が居ないほど有名な人間だ。すなわち、ヨル・バジリースとクロ・ライナ・アイベリー。

 当然、あの2人が転校してくる事は多くの生徒を驚かせた。しかし、ホグワーツ生がそれ以上に驚くことに、あの強大でプライドの高いヨルとクロが1人の男に追従していたのだ。

 2人の前を歩くのは、非常にハンサムな男。

 

「やあ、ホグワーツ魔法魔術学校の生徒さん達。これから『闇の魔術に対する防衛術』兼、グリフィンドールの寮監を勤めさせていただく、『トム・マールヴォロ・リドル』です」

 

 男は──トムは人を虜にする様な笑顔を浮かべて言った

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 大きな歓声と拍手で迎えられる中、『開心術』で生徒達の心を読んでみる。

 うーん、女生徒達には中々受けがいいけど、男子生徒にはあまり良い印象を持たれてないなあ。

 どうもロックハートと僕を重ねてるみたいだ。

 まあこれは後々改善していけばいいだろう。僕はこの日のためにかなり授業内容を練ってきた。生徒達を満足させる自信がある。

 

 それより、僕に特別な意識を向けている5人に注目するべきだ。

 

 まず1人目、ハリーは僕を相当警戒してる。

 一応、シリウスに僕の事に関して説明して貰ったんだけどな……

 ロン、ハーマイオニーの2人は僕を少しだけ警戒してる。ハリーから僕について話しを聞いてたみたいだ。でも、2人ともハリーほどの激情は持ってない。

 アーサーからも僕の事は聞いてて、ハリーとどっちの話を信じていいのか迷ってる感じだ。

 セドリックは僕が『カンニングノート』であり、『決闘クラブ』で戦った相手であり、命を救った相手である、と思ってる。基本的には尊敬と感謝かな?

 それから最後にジニー。

 僕に対して一際大きな感情を持ってる。でも、この感情を詳しく見てはダメだ。そんな気がする。

 

 僕はこれから教師になる。

 だから、これからは『開心術』を生徒に使わない様にしよう。

 

 それより今はヨルとクロの組み分けだ。2人ともグリフィンドールだと良いなあ。

 

 

 

 

 結局、クロは5分ほど組み分け帽子と喧嘩した後にグリフィンドールになり、

 ヨルは20分ほど組み分け帽子と談笑した後にグリフィンドールになった。2人は旧知の仲だったらしい。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 最初の授業はハリー達の学年だ。

 それもグリフィンドールとスリザリンの合同授業。

 最初から犬猿の仲の寮の合同授業なんて、僕以外だったら心が折れてるかもしれないな。

 

「やあ、グリフィンドール生とスリザリン生のみんな」

 

 生徒達がまばらに返事を返してくる。最初ならこんなものだろう。

 

「羊皮紙と羽ペンは置いていいよ。さて、今から『闇の魔術に対する防衛術』の授業をする訳だけど、ここでは絶対にケンカをしてはならない」

 

 形だけの返事をする生徒が数人いるくらいで、みんな全く従う気はない。けど、これは織り込み済みだ。

 

「といっても君たちはすぐには言うことを聞かないだろう。だから順を追って説明するね。まず、闇の魔術と普通の魔法の違いが分かる人はいるかな?」

 

 ヨルとクロ、ハーマイオニーを中心に10人ほどの手があげる。若干スリザリン生が多いかな。

 

「それじゃあグレンジャー、説明してくれるかな?」

 

 とりあえずハーマイオニーを当ててみた。少しヨルとクロが不満そうな顔をしてる。

 

「はい。闇の魔術とは魔法省が定めた呪文の総称であり、基本的には取り返しのつかない損傷を与えるものや、通常の精神では行えない呪文を指すものです」

 

「よく勉強してるね。けど、少し違う」

 

 ハーマイオニーが少しムッとした顔をして反論してきた。

 

「でも先生。教科書にそう書いてあります」

 

「その記述を正しいとするなら、いくつもの例外が出てきてしまうんだよ。グレンジャー、君は『呼び寄せ呪文』は闇の魔術だと思うかい?」

 

「いいえ、思いません」

 

 ハーマイオニーがぴしゃりと言った。

 それに対して僕は杖を取り出して、ハーマイオニーに向けた。

 

「それは可笑しいな。僕が今ここで君の心臓を呼び寄せたら、それは“取り返しのつかない損傷”にならない?」

 

 ハーマイオニーが、いや、全員が青い顔をした。

 

「いいかい、君達が普段、普通に使ってる呪文は使い方次第で簡単に“取り返しのつかない損傷”を与える呪文になるんだ」

 

「それじゃあ、先生。全ての呪文が闇の魔術と言えるって事ですか?」

 

「いいや違う。ヒントをあげるから自分達で考えてみてくれ。君達、『許されざる呪文』は知ってるね?」

 

 全員が無言で頷いた。今頃、『許されざる呪文』について必死に思い出してることだろう。

 

「その1つに『服従の呪文』という呪文があるね。魔法界の誰に聞いても闇の魔術だ、と答える呪文だ。けど、これは使い方次第で人を助ける呪文にもなる。例えば、病気で体が動かない人を動ける様にしたりだ。でも、この呪文は紛れもなく闇の魔術だ。これがヒントだよ」

 

 全員が僕の話に聞き入っていたみたいだ。僕の問いに対して真剣に考え込んでいる。

 少ししてからゆっくりクロが手を挙げた。

 

「クロ、答えがわかったのかい?」

 

「成り立ちでしょ」

 

 正解だ。でも、クロのぶっきらぼうな言い方だと、他の生徒は理解出来ないみたいだ。

 

「よく分かったね、グリフィンドールに2点あげよう。分からなかった人も居るようだから、もう少し分かりやすく言うね。答えは『初めから人を傷つけるために作られたか否かだ』」

 

 何人かの、特にマグル生まれの生徒達にはピンと来たようだ。

 そう、これはマグルの兵器にも言える事だ。

 例えばトンカチで頭を叩けば即死もあり得る、しかしトンカチは兵器じゃない。

 闇の魔術と普通の魔法の線引きも同じ様なものだ。

 

「『インセンディオ 燃えよ』は火をつける事が目的に作られた呪文だ。対して『悪霊の火』は人を焼くために作られた呪文だ。この違いが分かるかな?」

 

 今度は全員が理解した様だ。

 

「つまり、今から君達は人を傷つけるために生まれた呪文に関する勉強をする訳だ。それをうっかりと人に使ったらどうなるか、分かるね?」

 

 何人かの生徒がハッとした。僕の言わんとしてる事を理解してくれたみたいだ。

 

「だから最初にケンカをするな、と?」

 

「その通りだ、グレンジャー。記憶というのは薄れていくものだ。だからついカッとなった時に使う呪文は一番最後に習った物を使う事が多い。ここでケンカすれば、習ったばかりの、人を傷つけるために生まれた呪文を使う可能性が高いんだ。だからここではケンカは禁止だ。人を殺しかねない」

 

 最初と違って、今度は全員が大きな返事をしてくれた。

 

「いい返事だね。ご褒美に君達にこれをプレゼントしよう」

 

 僕が杖を一振りすると、僕が書いた教科書と、銀でできた一辺3センチ程のキューブが生徒達の机の上に現れる。

 

「その教科書には今僕が説明した事が詳しく書かれてる。それと、予習復習及び授業の効率的な受け方もだ。勿論、『闇の魔術に対する防衛術』についても書かれているよ」

 

 何人かの生徒が早速教科書をめくり始めた。

 

「確かにその教科書も面白いけど、こっちはもっと面白い」

 

 僕の杖を持ってない方の手に、生徒達に渡したキューブと同じものが出現する。

 

「いいかい、これは僕が銀で錬成した“生き物”なんだ。これを1週間、毎日1時間程握っててごらん。そうすると君達の心を映し出して、生き物になっていく。例えばこんな風に」

 

 僕の手のひらの上の四角形がミニチュアのライオンに成って勇ましく吠えた。

 その後グニャリ変消して蛇に成って魅惑的な踊りを、その後は人魚になって美しい歌を、次はドラゴンになって強烈な火をはいた。今は銀のスニジェットになって僕の周りをヒラヒラ飛んでいる。

 生徒達はもう半狂乱に近い状態で、必死に僕の話を聞いていた。

 

「僕と違って君達が作れる生物は一種類だけだ、毎日好きな生物を思い浮かべて握るといい。だけど、気をつける事だ。闇の魔術に浸透した者がやれば、こうなる」

 

 途端にヒラヒラ飛んでいた銀のスニジェットが黒く変色して、醜い獣になった。

 

「君達の一年間を通しての宿題だ。闇の魔術に陶酔する事なく、この銀の生き物を見事に育て上げる事だ。“通常の精神”を養うためにね。世話の仕方は今配った教科書に書いてある。といっても餌も要らないし、糞もしないから簡単だけど」

 

 ちなみに、これの正体は小鬼の製銀技術で剣を作る際に、切った物を学習する効果を応用した、魂を学習する銀だ。

 実際に生きてる訳じゃなくて、あくまで本人のイメージが具現化したものだ。

 

「ちょっと早いけど今日の授業はこれで終わりにしよう。早く図書館に行って自分の理想の生物を調べるといい」

 

 僕がそう言うとほとんどの生徒達が一目散に走って行った。唯一残ったのはハーマイオニーだった。

 

「ヨルが前に言っていた、ヨルに魔法を教えた人って貴方の事ですね?リドル先生」

 

 ハーマイオニーは口調こそ質問してるけど、確信を得てるな。

 

「ヨルはそんな事言ったのかい?まあ正解だけどね」

 

「やっぱり!ヨルとクロが尊敬するなんて、そうだと思いました!それに銀であんな物を錬成できるなんて、聞いた事もありません!お願いがあります、リドル先生。私にも色々な、教科書に載ってない呪文を教えて下さい!」

 

「うーん、それは少し難しいかな」

 

「どうしてですか!」

 

 ハーマイオニーはもうほとんど喋るというより叫んでる。

 

「意地悪じゃないんだ。ただ、僕も研究したい事が多いんだよ。時間がなくてね」

 

「それなら、それなら週に1回だけ教えて下さい。その時に7日分の課題をお願いします」

 

「それなら構わないよ。いつがいい?」

 

「それじゃあ、火曜日の放課後にお願いします」

 

「わかった」

 

「リドル先生、ありがとうございます!」

 

 よかった。ひとまず、ハーマイオニーの僕への警戒心は完全になくなったみたいだ。

 最初の授業としてはまあまあかな?

 ハリーは終始僕に敵対心を抱いていたけど、特に気にすることじゃない。今のところは、ね。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 僕はホグワーツで、昔賢者の石が隠されていた4階の部屋を使ってる。

 1つ目のフラッフィーが居た一番の上の部屋を、居住スペース兼『闇の魔術に対する防衛術』の研究に。

 2つ目の闇の植物が植えてあった部屋は、魔法生物と魔法植物の研究に。

 3つ目の羽根の生えた鍵が飛んでいた部屋は、錬金術の研究に。

 4つ目のチェスのあった部屋は、僕が苦手な変身術の研究に。

 5つ目のトロールが守っていた部屋は、実際に呪文を練習する部屋に。

 6つ目の薬の調合の試練があった部屋は、魔法薬学の研究に。

 そして最後に、7つ目の賢者の石があった部屋は、人が死にかねない魔法の研究にそれぞれ使った。

 勿論、各部屋1つ1つに僕が『防護呪文』をかけた。特に一番下の部屋には、複数の感情を使って強化された『防護呪文』がかかってる。

 ヴォルデモートやダンブルドアでさえ入れない自信がある。

 1つ目の部屋で僕とヨルとチェスを楽しんで、クロは読書をしてた。僕の横ではサーラが仕えてる。

 すると部屋のドアを叩く音が聞こえた。

 

「どうぞ、入って」

 

 ドアを開けて入ってきたのは、予想通りジニー・ウィーズリーだった。

 

「よく来たね、待ってたよ。ヨル、クロ悪いけどグリフィンドールの談話室に行っててくれるかな?」

 

「……わかったわ」

 

「駒の配置を変えるなよ、我が主人よ」

 

「勿論だよ」

 

 チェスは僕が劣勢だ。僕はこれでも結構チェスが弱い。

 

「サーラ、紅茶とお菓子を持ってきてくれるかな。さ、ジニー腰掛けて」

 

 そう言って僕は杖を振るって白いソファーと木のテーブルを作った。

 テーブルの上にサーラがカップと平皿を置いて、カップに紅茶を注いで平皿にスコーンを盛り付けた。

 

「・・・」

 

 ジニーは中々口を開かなかった。

 ただ、黙って紅茶を飲んで、スコーンを頬張っていた。

 だから僕も、彼女が話し始めるのをゆっくり待つ事にした。紅茶の湯気がたたなくなって、スコーンの熱が冷めた頃、ジニーはポツリポツリと話し始めた。

 

「先生は、『カンニングノート』の作者ですか?」

 

「違うよ」

 

「なら……先生は、『カンニングノート』…いえ、私の友達のトムですか?」

 

「そうだよ」

 

 ジニーは大きく目を見開いた。

 でも、ちょっとしてから微笑んだ。かと思いきや、すぐに怒りの表情へと変わった。

 

「なんで何も言わないでどっか行ったの!心配したじゃない!」

 

「でも、すぐに会えた。今度はちゃんと顔を見合わせて、だろ?」

 

「それは、そうかもしれないけど……」

 

「なら良いじゃないか。そうだ、僕の事についてある程度話しておくよ。気になってるんだろ?」

 

「いいの?」

 

「勿論だよ。そもそも僕はホークラックスというーー」

 

 僕はジニーにはなるべく誠実でいようと思う。彼女が僕にそうしてくれたように。今日は長い話しになる。サーラに紅茶とスコーンのお代わりをもらわないと。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 ホグワーツは魔法の研究をするには最も適した場所だ。

 それは別に図書室に本が沢山あるって意味じゃない。本で学べる事はもう僕の中にほとんど全て入ってる。

 大事なのは実体験を通した、本にはない部分だ。こればかりは自分で体験するか、人に聞くしかない。

 

「なるほど、『スケレ・グロ』と『腫れ薬』を同時に使うと骨が成長しすぎてしまうんですね?」

 

「ええ、理由はわからないけどそうなります。それに『腫れ薬』はチーズと一緒に使うと効果的です」

 

「そんな事まで!理由が解明できたらすぐにお知らせしますね。原因が解れば他の薬にも応用できるかもしれません」

 

 僕が今話を聞いているのはマダム・ポンフリーだ。

 彼女はこの怪我の絶えないホグワーツで数えきれない程の患者を診てきた。彼女の経験は宝の山だ。

 併用してはいけない薬の種類、効果的な薬の飲ませ方、呪いの症状の見極め方。どれもこれも彼女しか知らないものばかりだ。彼女の医学知識を放っておくなんて、今までの魔法使い達は一体何をしてたんだ。彼女の持つ経験を学術的に研究して、その原因を突き止めれば魔法界への大きな貢献になるのに。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 僕は常々疑問に思っていたことがある。それは箒が何故飛ぶのか、だ。

 

「どうです、素晴らしいでしょう」

 

「素晴らしい、なんてものじゃありませんよ。貴女は最高だ!」

 

 マダム・フーチの箒のコレクションと彼女の箒についての考察が書かれた論文を見せてもらった。

 彼女の考察は主に箒の使い方や、早い箒の特徴についてで、何故箒が飛ぶのか、については書かれていない。でもこの論文とたくさんの箒は、僕の仮説の証明に役立ってくれた。

 詰まる所、箒はいわば『浮遊呪文』専用の杖なんだ。

 杖で例えるなら、箒の持つところ、一番太い部分を本体として、掃く部分を芯にしている。使える魔法を『浮遊呪文』に限定することで、どんな魔力でも込めさえすれば『浮遊呪文』が発動する様になっている。

 

 優れた箒の条件は、魔力の呪文への変換効率がいい事だ。

 例えば『ニンバス2000』の魔力変換効率は82%だ。この数字は一見すると低い様に見える。

 けど、杖と違って箒は一点ものじゃない、量産機だ。同じく量産機の僕が作った『主人を選ばぬ杖』の魔力変換効率が大体60%であることを考えれば、『浮遊呪文』限定とはいえ82%は中々の数字だ。

 

 結論。

 

 杖が然るべき主人に使われればその力を増すように、多分その親戚の箒にも同じ事が言える。

 僕がグリフィンドールの選手達それぞれにあった箒を作れば、優勝はいただきだ。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 僕の魔法の研究に一番貢献してくれてるのは、何を隠そうフィルチさんだ。

 研究内容はすばり、魔法を使える人と使えない人の違いだ。魔力は精神や魂から作られるものだ。人間である以上、いや、生物である以上必ず魔力は作れるはずなんだ。なのに、呪文が失敗するならともかく、呪文が使えないというのはおかしい。

 フィルチさんに上手くいけば魔法を使えるようになるかもしれない、と言ってこっそりと研究を手伝ってもらった。

 その結果、驚くべき事がわかった。

 なんと、彼の体の中に魔力を分散させる遺伝子が組み込まれていたのだ。

 つまり、今まで魔法界で愚劣な遺伝子と考えられていたものは愚劣どころではない、魔力に対する防御として体が進化した遺伝子だったわけだ。

 そして、このすばらしい遺伝子は意外な所からも見つかった。

 ハグリッド、というより巨人族だ。彼らの皮膚が何故呪文を通さないのか、それはこの魔力を散らす遺伝子のおかげだったのだ。

 

 これは仮説だが、恐らくフィルチの祖先や、巨人族の祖先は同じ目にあったのだ。

 つまり、魔法による迫害だ。

 これによって遺伝子が進化して、魔力を防ぐ体になったと思われる。

 しかし、巨人族がその遺伝子を皮膚に、つまり外部に表したのに対して人間達は内部に、つまり臓器に表していた。

 この違いは何か?

 それは使われた呪文の種類によるものだ。

 力が強く、マトが大きくて丈夫な巨人族は主に『麻痺呪文』のような外的呪文の実験に使われていた。

 逆に体の大きさが人間と合わないから『毒呪文』の類は使われなかったのだ。

 一方マグル達は『麻痺呪文』でも当たりどころが悪ければすぐに死んでしまう。

 だから体の内部に関する呪文の研究材料にされたんだ。

 今まで純血達が『スクイブ』と呼んで馬鹿にしてきた人達は、魔法を使わずに魔法に対抗する術を得た進化した人類だったのだ。

 

 仮に、『変質呪文』などで相手の遺伝子をこの『魔力を散らす遺伝子』に変える事が出来ればヴォルデモートでさえ何も出来なくなる。

 しかし僕だけは例外だ。

 そもそも遺伝子どころか肉体が無い僕には通用しない。

 フィルチさん、貴方は今、魔法界の歴史を変えたかもしれませんよ。


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