あの日、あの後、ヨルが『エネフベート 活きよ』であのトムって人を目覚めさせて、
その後あの人は『呼び寄せ呪文』で僕達選手と
転移された先で、僕達選手全員が優勝杯を掴んでた事に皆は一瞬驚いたけど、すぐにオーケストラ隊が音楽を流して、それに追従する様に歓声が響いた。
その後直ぐに父さんやスプライト先生、各校の校長先生達が労いとお祝いの為に集まってきてくれた。
けど僕は『三大魔法学校対抗試合』の事なんてもうどうでも良かった。
『あそこで起きた事を伝えなきゃいけない』
そう思ったけど、何て言っていいか分からなかった。
『ヴォルデモートが復活した!けどトムって人が再び滅ぼしてくれた!でもすんでのところで自殺して逃げたから気をつけないと!』
そんな訳の分からないこと、父さんでさえ信じてくれない自信があった。
せめて、せめてトムが僕達と一緒に居てくれれば……
そこまで考えて僕は天啓を得た。ダンブルドア校長だ。より正確に言うならダンブルドア校長の持つ『憂いの篩』だ!『ホグワーツの歴史』に書いてあったアレを使えば全てが説明できる。
だから僕は叫んだんだ。
『ダンブルドア校長はどこですか!?』
一番に反応したのはマクゴナガル先生だった。
ダンブルドア校長なら真っ先に僕達を労おうとする筈なのに、一向に姿を見せてくれない。みんながその事に気付き始めた。
直ぐにでも探しに行きたかったけど、僕達はインタビューを受けるために留まる様に言われて、スネイプ先生を始めとした何人かの人達がダンブルドア校長を探しに行った。
でも、待てども待てどもダンブルドア校長は見つからなかった。
最後にいた筈の校長室はもぬけの殻。争った形跡もなく、忽然と姿を消したらしい。
その上間の悪い事に、僕達がインタビューを受けてる間にハリーが起きて、
『ヴォルデモートが復活した!』
と叫んでしまった。
その場にいた闇祓いの人達が急いでハリーに『シレンシオ 黙れ』をかけてひきづっていった。
お祝いは一時中断になって、後日また優勝式典をする事になった。
その時はみんなハリーの言葉を本気にしてなかった。
だけど、後日ダンブルドア校長が失踪した事が闇祓いの中で知られると、段々信じ始める人が増えてきたって父さんが言ってた。
それに、闇祓いに口止めされた筈のハリーはこっそりとヴォルデモートの復活をみんなに話してる様だった。
その事でハーマイオニーと喧嘩して、泣かせているのを見てしまった。
悪い事はこれだけじゃなかった。
ヨルとクロも忽然と姿を消してしまったんだ。
2人とはあまり話した事はなかった。でも、同じ課題に命懸けで挑んで、最後には一緒に『例のあの人』に立ち向かった彼らに、僕は親しみを感じてた。
ダームストラングとボーバトンの校長に行方を聞いても、
『そんな生徒は知らない』
の一点張りだった。
しかも、その事を聞いた2日後に今度はカルカロフ校長が失踪した。
ヨルとクロという2人のライバル。
偉大な魔法使いであるカルカロフ校長とダンブルドア校長。
『例のあの人』を退けて、僕らの命を助けてくれたトム。
あの日から3日も経たないうちに、僕は、魔法界は沢山の人を失った。
『三大魔法学校対抗試合』の優勝は結局、ダームストラングとボーバドンのクラムとフラーが強く拒んだ事と、各校の選手の片割れが居なくなったという理由でホグワーツになった。
ハリーの要望で懸賞金をハリーが、僕が優勝杯を受け取った。
でも輝かしい優勝杯も、華かな優勝式典も、全てがくすんで見えてしょうがなかった。
結局、終業式になってもダンブルドア校長は見つからなかった。
代理でマクゴナガル先生が粛々と挨拶をして、終業式は終わった。
来年度、マクゴナガル先生が校長代理になってホグワーツを開ける事を話した。表向きにはダンブルドア校長は魔術の研究のために一時イギリスをたった扱いにするみたいだ。
それから、ルーピン先生が今年でホグワーツを去る事が知らされた。
理由は明かしてくれなかったけど、どうしようもない事情があるらしい。
結局、『例のあの人』がどうしてあそこにいたのか。あの後死喰い人やトム達はどうなったのか。何もわからないまま、僕の6年目のホグワーツは終わりを告げた。
◇◇◇◇◇
綺麗な形とは言えないけど、ハリー達が優勝した。
とっても喜ばしい事だと思う。
私達みんなで考えた作戦で見事にボーバドンとダームストラングに勝った事はとっても嬉しい。
でも、良い事ばかりじゃなかった。
ダンブルドア校長とルーピン先生が退職なさる事がマクゴナガル先生から説明された。
ホグワーツ生、特にグリフィンドールの人達はとっても残念がってた。
それからボーバドンとダームストラングの人達とお別れをした。一部の仲良くなったボーバドン生の人達とハグをして、『煙突ネットワーク』のアドレスを交換した。
でも、私はちょっと上の空だった
『申し訳ありません、ジニー。私は姿をくらまします。でも、心配しないで下さい。いずれすぐに会えます』
だって、トムがそう書き残しを残して消えたから。
奇妙な話だと思う。本が書き残しを残すなんて。それに、どうやって書いたんだろう?
結局、トムは私に何も教えてくれなかった。
トムがただの本じゃない事は、本当は『カンニングノート』じゃない事は気づいてた。
勉強してきたから分かる。本の中にあんなに豊かな感情と知識を詰め込むなんて、普通じゃ出来ない。トムにはきっと、何かしらの大きな秘密があった。きっとあの栞やブックカバーもその一環。
だから私は努力した。トムに並べば、そうすればトムは私に秘密を打ち明けてくれると信じてた。
でも、もうその機会は無いかもしれない。
私は、私はどうしようもなく、トムが恋しかった。
私のホグワーツに来てから初めての友達で、一番の友達で、目標で、先生。
……早く会いたいよ、トム。
『いずれすぐに』っていつなの?
◇◇◇◇◇
まったく、やれやれだ。本当に。
折角ヴォルデモートを倒したのに、むしろやる事が増えてしまった。
例えば、ヴォルデモートがいつ、どうやって復活したのかを調べる事。
例えば、何人かのヴォルデモートが逃げる際に連れて行けなかった死喰い人達の処理。
例えば、ヴォルデモートの新たな潜伏先の探索。
そして何より……
僕の目の前にあるのは一枚の手紙。その手紙の最後はこう締めくくられていた──
『
頼んだ
愛を込めて、ダンブルドアより』
準備が必要だ。多くの準備が。
来年度、僕にとってはこれまでに無い程に大きな意味を持った年になる。
大きな、とても大きな責任の伴う仕事、何百人という人達の将来に関わる仕事をする。ヨルとクロ、2人にとっても大事な事だ。
そしてこれが良い結果になるか悪い結果になるか、すべては僕にかかっている。
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ここは、とある島国。
国土は小さく、資本が乏しいながらも、技術と勤勉さによって他の大国と渡り合ってきた黄金の国。
そんな技術大国の中でも、最も技術が高い場所の1つ。すなわち、国立医大の大学病院。その一室で、一人の患者が眠っていた。
彼が眠り始めてからもう何年もの月日が経った。
それでも、未だに彼の恋人や友人達は少なくない頻度で彼の病室を訪れていた。
花瓶に新しい花を活けたり、病室のささいなレイアウトを変えたり、手を握って寄り添ったり、自分の生活を語って聞かせたり。
身体的にはもう何の問題もないはずの彼を起こそうと、恋人や友人達は自分の時間やお小遣いを犠牲にして様々な事を試していた。
彼の両親もまた、忙しさから病室には中々訪れないものの、大金を惜しげも無く払い、彼に最高の治療を施していた。
それでも彼は、目を覚まさない……