ハリー・ポッターと二人の『闇の帝王』   作:ドラ夫

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18 二人の『闇の帝王』

 クロが火傷の痛みを感じながらも、敵を倒すために前を向くと、右手に杖を、左手に銀とエメラルドの剣を持つ男がいた。

 

「やあ、大丈夫かい?」

 

 そこに居たのは私が一番見てきた顔。

 私がこの世に生を受けて初めてみた顔。

 私が何より信頼する彼の、いつもの顔だ。

 

「……あんた、来るのが遅いのよ」

 

「ごめんごめん。道に迷っちゃってね」

 

「相変わらずジョークが下手ね」

 

 きっと私を落ち着かせるためにしてくれた、いつものやり取り。彼の顔を見ていると、彼は私に微笑んだ。

 ・・・それだけで、背中の火傷の痛みが引いた気がしゃうんだから、自分でも単純すぎて呆れてしまう。

 

「ここから先は僕に任せて、ゆっくり休んで」

 

 命のやり取りではりつめていた緊張が簡単に解れた。彼は私達に嘘を言わないと誓ってくれた。その彼が任せてって言っている。任せない訳がない。信じない訳がない。

 彼の『任せて』の一言だけで、私はこうまで安心できる。

私は敵地のど真ん中で、まるで自分のベッドの中の様な安らぎを感じながら、あっさりと意識を手放した。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

クロどうやらクロは眠ってしまったみたいだ。4人の人間を守りながら『僕』と戦っていたんだ、疲労はピークに達していただろう。

 クロの頭を撫でようと手を伸ばすと──

 

「おっと!」

 

 ハリーから紅い閃光が飛んできた。

 

「トム・リドル!クロから離れろ!」

 

 当たり前のことだけど、彼からしてみれば僕は敵か……

 

「あー、僕は味方なんだけど」

 

「黙れ!もう騙されないぞ!もう一度言う、クロから離れろ!」

 

 よくわからないけど、ハリーは相当僕のことを警戒してる様だ。どうしたもんか……

 僕がそう考えていると、ヨルがハリーに紅い閃光をぶつけて気絶させた。容赦ないな……

 

「我が主人よ、私も共に戦おう。指示をくれ」

 

 ボロボロになりながら、それでも毅然として彼は言った。

 

「ありがとうヨル。でも大丈夫だよ、僕1人で」

 

「だが!……いや、我が主人よ、何も言うまい。貴方がそう言うのなら、大丈夫なのだろう」

 

 ここまで僕を信頼してくれているんだ。その期待に応えよう。

 

「君は、あの時の……」

 

「多分君の想像は大体あってるよ、ディゴリー君。でも、その話は帰ってからしようか」

 

 一拍置いてから、

 

「それじゃあ皆、僕の半径5メートル位に居てね。それより外に出ると命の保証はしかねるよ」

 

 さて、やりますか。

 

 

 

「やあ、初めまして『僕』と死喰い人のみんな」

 

「闇の帝王は全てを知っているぞ、『俺様』よ。お前の力の程もだ。俺様は力ある者には常に寛大だ。俺様と共に来い、そうすれば、後ろのトカゲとガラガラ蛇だけは助けてやろう」

 

「寛大さなら僕の方が上だね。君が大人しく捕まってくれたら、死喰い人は2人と言わず、全員助けてあげるよ」

 

「我が主を愚弄する気か!」

 

 僕がそう挑発すると、何人かの死喰い人が僕に向かって『死の呪文』を唱えてきた。それらを全て小鬼の製銀方法で作った剣で切り伏せる。これは持論だけど、魔法使いの戦いは熱くなったら負けだ。

 

「何人かここに相応しくない人が居るみたいだね『ボーンドエクター 骨よ消えよ』」

 

 杖を高く上げて、紅い閃光を19本放つ。その呪文は『骨消失呪文』。ギルデロイ・ロックハートが一瞬にしてハリーの腕から骨を消し去ったアレを参考にした。

 何人かは防げたけど、大半は当たったみたいだ。

 僕の呪文に当たった14人の魔法使いと魔女が『ぐちょ』という音と共にその場に倒れた、というか畳まれた?ともかく、両腕両足の骨を消したから当分は動けないはずだ。

 呪文を避けたのは『僕』、ベラトリックス、ルシウス、ドロホフ、ロウル。生き残った『僕』と死喰い人が憎しみの籠った瞳で僕を睨みつけてくる。

 ここからが本番だ。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「「『アバダケダブラ』!」」

 

 ベラトリックスとルシウス、ドロホフが『死の呪文』をトムに放つ。トムは『死の呪文』の1つを剣で切り、2つを『盾呪文』で防いだ。

 それに加えてロウルが大体500程の剣を作り出し、ヴォルデモートが全ての剣に『悪霊の火』をエンチャントすると音速に近い速度でトムに向かって四方八方から飛ばした。

 後ろに人質がいる以上、トムは避けるわけにはいかない。トムは半透明の半球状のベールを作り出し、その上からもう一層水のベールを作り覆った。

 金色に燃え盛る剣が水のベールを通過すると火は消え、半透明のベールを通過すると粉となった。

 トムが杖を一振りすると粉が集まっていき、やがてドラゴンを形どると、ルシウスとドロホフがいる方へと羽ばたいた。ルシウスとドロホフが急いで逃げ出そうとするも、トムが地面に向かって閃光を放った。すると地面が大理石のまま、水の様にうねり、ヴォルデモートと死喰い人全員の足が沈んでいった。

 それに対し、ヴォルデモートだけが『飛行魔法』で抜け出す。

 

「我が君、お助けを!」

 

 ルシウスが必死に懇願するも、ヴォルデモートはそちらを見ることすらしない。

 

「まずは2人脱落だね」

 

 そのままルシウスとドロホフは粉のドラゴンに飲み込まれ、大理石の海へと沈んだ。

 

「黙りな!雑魚を倒した所で良い気になるんじゃないよ!」

 

 ベラトリックスが『磔の呪文』を放ってくる。拷問好きの彼女は、『死の呪文』よりもこちらの方が慣れている様だ。

 

「そしてこれでまた1人脱落だ」

 

 トムはベラトリックスから飛んでくる緑の閃光を剣で斬ると、目にも留まらぬ速さで杖から紅い閃光を放ち、ベラトリックスを気絶させた。すると──

 

「もう良い。これ以上俺様を失望させるな、僕達よ」

 

 ヴォルデモートがロウルに紅い閃光を放ち、気絶させた。

 

「いかに一部といえど、やはり俺様は俺様だ。他の人間では足元にも及ばない」

 

「そうかな?」

 

「そうだとも、『俺様』よ。闇の帝王は全てを知っている」

 

「知らないさ、大事な事は何1つね。今から僕がそれを証明してあげるよ」

 

「ならば俺様も一つ、証明してやろう。俺様を前にたてついたやつは一人もタダではすまない事を。貴様とハリー・ポッターを殺すことで!」

 

 そう言うや否や膨大な量の『悪霊の火』と『死霊の風』を飛ばした。火は風を食べる事で巨大な火の竜巻となり、トムを襲った。

 トムが杖から出したのはエメラルド色の炎、『妖精王の豪炎』。二つの火はトムとヴォルデモートの中心で激突し、熱風を引き起こす!

 

「君には幸福な記憶がある?無かったら終わりだ『エクスペクト・ディメンタス 吸魂鬼よ来たれ』!」

 

 込めるのは『辛い記憶』。

 ついに完成した、完全な吸魂鬼を呼び出す呪文。合計30程の吸魂鬼がトムの杖から飛び出してくる。

 

「闇の帝王は守護霊などに頼らない!『モーテーション 磁石に変質せよ』」

 

 15体の吸魂鬼をS極に、もう半分の吸魂鬼をN極に変質させる。当然、吸魂鬼はお互いで身動きが取れなくなる。

吸魂鬼の弱点は守護霊だが、他にも同族からは干渉されるのだ。

 そのままヴォルデモートはトムの周りの『空間』も変質させる。強力な磁場が発生し、空間が歪み出す。当然、その中心にいるトムもこのままではタダではすまない。

 トムは『妖精式姿くらまし』で15メートル程上空に逃げると杖から99本の雷撃を放つ。しかし、ヴォルデモートが杖を振るい黒いベールを作り出すとベールに触れた雷撃が石化し、先端から根元へと石化が侵食していった。

 トムは自分の杖から出ている雷撃の根元を剣で切り落とし、再び新たな雷撃を放つ。再び黒いベールに触れ石化していき、さっきの焼き増しとなるが徐々に黒いベールの色が薄くなっていく。

 五度目の雷撃で黒いベールが消え去ると、ヴォルデモートが『飛行魔法』で逃げ出す。一方トムは雷撃の数を増やし、撃ち落とそうとするが、ヴォルデモートも速度を上げていく。

 

「そうやってヒラヒラと逃げるのかい?」

 

「黙れ!『アバダケダブラ』!」

 

 トムの挑発にヴォルデモートが緑の閃光を返すも、トムは銀の剣で容易にそれを切り落とす。

 普通の人間ならヴォルデモートの呪文を切り落とす事は不可能に近いが、トムの非常に高い運動能力と『臭い』による呪文の先読みがそれを可能にする。

 剣による防御に雷撃による光速の攻撃。ヴォルデモートは徐々に追い詰められていった。

 

「があああああああ!!!」

 

 ついに雷撃がヴォルデモートに当たり、左腕を焦がす!

 

「貴様、俺様の腕を、腕を、腕をおおおおぉぉぉ!」

 

 ヴォルデモートが叫びながらあらゆる呪いをやたらめったら放つ。

 一見、ヴォルデモートは狂った様に見えるがこれは演技だ。怒りに身を任せて呪いを放っている様で、実に狡猾。ヴォルデモートの狙いはトムの後ろにいるハリー・ポッター。

 しかし、それを見抜けないトムではない

 

「僕との戦いだろ?他の人を巻き込むなよ。『マキシマ・プロテゴ・ホリビリス 恐ろしき者から万全の守りを』」

 

 トムが防御の為に雷撃をやめるとヴォルデモートも『飛行魔法』を止め、トムの10メートルほど前におりたった。

 

「認めよう、流石『俺様』だ。術の多彩さと使い方はあの老いぼれ以上であろう。しかし、やはり勝つのは俺様だ!」

 

「だろうね。僕は結構色々な呪文を開発したり、学んできたけど、君は『分霊箱』と『許されざる呪文』のみに特化してる。このままいけば君の『死の呪文』を剣で防げなくなって死ぬだろうね」

 

 そう、一見トムが優っている様でその実、ヴォルデモートが優位なのだ。術の多彩さで勝るトムが徐々にダメージを与えられるとはいえ、『死の呪文』はそれを一撃でひっくり返す。

 今は良い、剣での防御があるからだ。しかし、このままいけば体力が枯渇し、必ずミスが出てくる。一回でもミスをしたら、少しでも触れてしまったらそれで負けなのだ。理不尽極まりないが『死の呪文』とはそういう物なのだ。

 

「でもそれは今のままだったら(・・・・)の話。ここからが僕の本気だ」

 

 トムが杖を一振りし、空中に文字を作り出す。

 

I am Lord Voldemort

 

 そしてもう一振りする。

 

Tom Marvolo Riddle

 

「僕はトム・マールヴォロ・リドル。勝負だ“ヴォルデモート”」

 

 これは一種の決別だ。

 これからは『僕』、いや、ヴォルデモートと僕は完全に別々の道を行く。

 そして、それに応える様に、ヴォルデモートも、

 

I am Lord Voldemort

 

 という文字を作り出す。

 

「俺様はヴォルデモート卿、全ての魔法使いの頂点に君臨する王だ。“トム・マールヴォロ・リドル”、貴様を消し去ってやろう」

 

 そう言って、トムとヴォルデモートは仰々しくお辞儀をした。

 

 

 

 

 

 

「『アバダケダブラ』!!!」

 

 ヴォルデモートが放ったのは、この世で最強最悪の呪文である『死の呪文』。闇の帝王の二つ名に相応しく、闇の呪文を極めたヴォルデモートが放つそれは、この世のありとあらゆる物に死をもたらす。

 

 対してトムが放ったのはホグワーツ四年生レベル、しかも戦闘用呪文でも何でもない、『呼び寄せ呪文』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今までの戦いでトムは普通の呪文を使っていた。

 それでも十二分に強力なのだが、彼が生み出した『杖なし呪文』を杖ありで放つという、矛盾にも似た強力な呪文を使っていなかった。

 また、彼が鍛錬の末に会得した『感情の操作』による魔力への『特別な意識』を混入した呪文も、『エクスペクト・ディメンタス』以外使っていない。

 唯一使った『エクスペクト・ディメンタス』にしても込めた感情は一種類のみであり、既存の呪文とそれほど変わりはしなかった。

 普通に呪文を使用してもヴォルデモートやダンブルドアと互角に戦う彼が『杖なし呪文』を、トム限定でニワトコの杖にも匹敵する力を発揮する杖に使い、複数の『特別な意識』を込め呪文を放ったらどうなるか?

 

込めたのは3つの感情。

1つ、己の業を咎める『罪悪感』

1つ、全てを断罪する『正義感』

1つ、あらゆる物を呼び寄せる『好奇心』

 

 トム・リドルは思い出していく。

 この世界を自分の都合によって変革してしまったことへの『罪悪感』を。

 元の世界で『原作』を読んだ時に感じたキャラクターを助けたいという『正義感』を。

 この世界に来て、魔法に触れた時のあの『好奇心』を

 

 本来物質のみ呼び寄せるその呪文は、万物を呼び寄せる究極の呪文へと進化する。

 

 全ての想いを乗せて、トムは静かに、しかしハッキリと呪文を詠唱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『アクシオ 天罰よ来れ』」

 

 

 瞬間、白い雷が降り注いだ。


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