ハリー・ポッターと二人の『闇の帝王』   作:ドラ夫

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16 ダンブルドア校長

【ニコラス・フラメル邸】

 

 僕は今、フラメル邸へと来ていた。

 理由は勿論フラメルさんの死因の調査だ。いかに研究が忙しかろうと流石にこれほどの『原作』とのズレを見過ごすわけにはいかなかった。

 なおかつ、グリンデルバルドが『僕』の復活を手助けしている可能性が出てきたこのタイミングだ。フラメルさんの死は何か裏があるような気がしてならない。

 

 僕は魔法省から派遣されたと思われる気絶させた6人の闇祓いの記憶を抜き取って小瓶に入れた後『外部不可侵呪文』で僕以外の浸入を封じ、『検知不可呪文』で周りからは何の変哲も無い日常が行われているように見せてから家に入った。

 

「これは……酷いな」

 

 家の中は物理的には何も荒らされていないが、物理的でない所は酷い状態だ。

 魂の痕跡からはダミーではなく、ニコラス・フラメルさん本人が死んだ事とその際の心情がはっきり伝わってくる。

 死ぬ間際に最も強く感じている感情は非常に強い驚愕と恐怖。・・・僕はそんな死に方をしたフラメルさんに改めて黙祷を捧げた。

 

 その後調査した魔力の痕跡からは、恐らくダンブルドア校長が施したと思わしき強力な『保護呪文』が完膚なきまでに壊されている形跡が見つかった。

 こんなことが出来るということは、犯人は少なくともマッドアイ・ムーディークラスの魔法使い、あるいは魔女だ。

 そしてフラメルさんの死亡した現場に行くと相当強力な『死の呪文』が使われた形跡があった。恐らく死因はこれだ。

 『死の呪文』ほどの強力な呪文を使えば必ず小さくない痕跡を残す。しかし、フラメルさんを殺した犯人の技量は高く、かなり巧妙に痕跡を隠している。よって、いかに僕と言えどほんの少しのことしか分からない。

 それでも犯人と思わしき魔力の痕跡を辿っていく。そして、ふとある事に気がついた

 

 ──僕はついこの間この魔力を何処かで感じた事がある。

本体(日記)をめくり、記憶を掘り起こしていくと、ある人物が浮かび上がってきた。それは──

 

「シリウス……ブラック…?」

 

 そこまで考えて、一つの仮説が頭に降りてくる。そして、その仮説を裏付けするかのように過去の記憶がフラッシュバックしてくる。

 

ペティグリューの裏切り

シリウスの釈放

リリーの『保護魔法』

ダンブルドア校長の沈黙

バーテミウス・クラウチJr.と人喰い人の襲来

僕にしかない『原作』の知識

そして、グリンデルバルドが何故トムの墓にいたのか?

 

 ──ダンブルドア校長に合わなければならない。今すぐに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【ホグワーツー大広間】

 普段の大広間も十分に豪華と言えるが、今日のそれはまったくの別格であった。

 世界最高の魔法使いと、少しイかれてるという声もあるが、名高いダンブルドアが施した装飾の数々は見事と言うほかない。

 その美しさに入ってきた生徒達が惚けて立ち止まってしまい、後ろの生徒が前の生徒の背中にぶつかるという現象がそこかしこで起こっていた。

 そんな生徒達は今、普段着るローブと違い煌びやかなドレスを身に纏い、ある者は恥ずかしそうにそわそわと、ある者は自分の美への自信に満ち溢れている。

 纏まりのない彼らだが、誰も彼もが皆、期待に胸を膨らませている事だけは共通していた。

 

今日はクリスマス・ダンスパーティー

いつも机を並べて共に勉強する級友達が優雅なパートナーへと変わる日。

 

 しかし、まだ誰も踊り始める人は居ない。待っているのだ。今日の主賓、メインである各校の代表生達を。

 やがて大広間が鎮まり返り、ドアを開けて代表生達が入ってきた。

 大きな拍手で迎えられるなか、代表生達は国際的なクィディッチ選手のクラムは勿論の事、他の面々も実に堂に入った姿である。男の子は堂々と女の子は優雅に入場した。

 炎のゴブレットの選考基準の1つなのかどうか分からないが、代表生は全員が平均以上の容姿をしている事もあって生徒達は、いや先生達も異様な盛り上がりを見せた。

 しかし、たった1人呆然と立ち尽くす者がいた。

 

 代表生の内の1組、銀の少女のパートナーを見てダンブルドアは驚愕した。その容姿が非常に整っているから、では無い。

 似ている、というよりもそのものなのだ。若き日の『闇の帝王』に。

 

「(トム!? ーーどういう事じゃ?何故、あの姿でここに居る。目的はなんじゃ・・・

 しかし、不味いの。非常に不味い。今ここで暴れられては生徒達が大勢犠牲になる。それは避けねばならん。恐らくじゃが、ミス・アイベリーはトムに着いておる。『闇の印』はつけていないようじゃが、間違いなかろう。それからミス・アイベリーと仲の良いミスター・バジリースも味方とは言いがたい)」

 

 ダンブルドアが考える中、トムと銀の少女はそんなダンブルドアとは裏腹に見事な踊りを披露した。

 全生徒が見惚れる中、踊りは終盤へと向かい、トムは実に自然な動作で杖を抜き銀の火で自身とパートナーを包んだ。

 普段であれば警戒する杖を抜くという行為も、踊りと一体化させる事で違和感なくおこなう事ができる。

 そして銀の火が消えると2人の姿はもうそこにはなかった。いや、実際は紛れもなくそこに居る。しかし、トムが銀の火と共に出した『検知不可呪文』が強力すぎるために、他の人間には見る事が出来ないのだ

 

 たった1人を除いて。

 

「やあ、ダンブルドア校長。ピンク色の良いドレスですね」

 

 にっこりと人の良さそうな笑みを浮かべながら、トムはダンブルドアの元へと歩を進めた。

 

「嬉しい事を言ってくれるのう、トム。久しぶりじゃの。お主こそ、深緑のドレスがよく似合っておる」

 

 対してダンブルドアは口では軽口を言いながらも、警戒の色が顔にありありと浮かんでいた。

 

「久しぶり? いえ、僕達は初対面ですよ。貴方の知る『僕』と僕は非常によく似た別の人物ですよ」

 

「それはどういう事じゃ」

 

「そう警戒しないで下さい。僕は貴方と敵対したくない」

 

「わしもじゃ、わしもじゃよ、トム。しかし、それにしてはこのやり方は認められたものではないの」

 

「……それについては申し訳なく思います。ですが、貴方と2人きりで邪魔させずに話すにはこれしかありませんでした」

 

 そう、ダンブルドアは彼に手が出せないのだ。

 トムとダンブルドアは魔法界で一、二を争う優れた魔法使いだ。こんな人が密集するパーティー会場で2人が戦えば周りの生徒、いや教師も含めてただではすまない。

 故にダンブルドアは、目の前に『闇の帝王』が居るにも関わらず、戦う事も逃げる事も出来ないのだ。

 トム・リドルしても生徒達を人質にするような事はしたくはなかった。

 しかし、ダンブルドアは普段彼でさえ侵入出来ない校長室に篭り、出てくる時も多くの先生に囲まれている。優秀なホグワーツの先生方とダンブルドアを同時に相手取る事はいかにトムといえど、出来なくはないが双方に少なくない損害を与えただろう。

 だから今、マクゴナガルでさえ浮れるクリスマス・ダンスパーティーの真っ最中に大勢の人が集まる大広間の中で2人きりとなったのだ。

 現に今、よく目を凝らせばマクゴナガルあたりであれば僅かな異変に気がつく事も出来たであろうが、生徒達の踊りに気を取られて少しも気がつく素振りを見せない

 

「実に、実に用意周到じゃ。して、何の用じゃ。まさかダンスパーティーに参加したくてこんな事をした訳じゃなかろう」

 

「僕は話をしに来たのです。恐らくですが、貴方と僕の目的は共通している。しかし、お互いがお互いの策を潰し合い、結果として最悪の結果を生み出そうとしています。僕はそれを止めたい」

 

「・・・お主はヴォルデモートではないのかの?」

 

「ええ、貴方の読みは大方当たっています。僕はヴォルデモートではありません。『トム・リドル』です。そして貴方の計画を、意図してはいませんでしたが、潰していたのは僕です」

 

「なるほどのお…… そしてお主の計画を潰したのはわしという事か」

 

「やはり貴方は聡明だ。僕の言いたい事を理解しておられる」

 

「買い被りじゃよ、トム。ワシは何の力もない老ぼれじゃ。ただ少し人より物を知っているだけじゃ。聡明などではない」

 

「……貴方の事については一旦置いておきましょう。ですが、僕は貴方を偉大な魔法使いだと思ってますよ。さて、本題です。貴方はグリンデルバルドと『僕』が手を組んだのを知っていますか?」

 

「グリンデルバルドが脱獄した事は知っておった。ファッジが教えてくれての。じゃが、ヴォルデモートと手を組んでる事は知らなんだ」

 

「しかし予想はしていた、と」

 

「その通りじゃ。次はワシから質問をしていいかの。お主はリリーの『愛』をハリーから取ろうとしたようじゃの」

 

「ええ、『愛』というより『保護呪文』ですが。しかし、貴方はそれを阻止した。あの『保護呪文』を調べましたがあれは何年も効果が続くような魔法じゃない。条件付きとはいえハリーが17歳となるまで『保護呪文』を維持できる様にしたのは貴方だ」

 

 冷静に考えてみれば当然のことだった。

 リリーさんは恐らくハリーを必死で『僕』から守ろうとした。

 その時に『ダーズリー一家を“我が家”と呼ぶ事』などという条件をつける必要と余裕があるだろうか?

 仮にリリーさんが用いた『保護呪文』が元々何らかの条件がなければ発動しなかったとして『叔母の家に住む事』が条件の古代魔法なんてあり得るだろうか?

 そして『ハリーが『アバダケダブラ』から逃げられる状況にも関わらず立ち向かう事』も条件だが、当時赤子であったハリーがこの条件を満たしているとは考えづらい。また、『ダーズリー一家の家を“我が家”と認識する』という条件も満たしているとは思えない。

 つまり、リリーさんがハリーに『保護呪文』を施したあの瞬間は何の条件も無く『保護呪文』を発動する事が出来たのだ。

 そして『僕』の復活を予期したダンブルドア校長が様々な条件を後付けする事で、『保護呪文』の発動期間を無理矢理引き伸ばした、と結論付けた。

 

「そして貴方はその条件をほんの一部変えた。その証拠に今でもハリーの『保護呪文』は残っている」

 

「そこが一番の食い違いじゃな。お主はヴォルデモートを復活させる事にハリーの血だけで無く『保護呪文』が必要な事を知っておった。じゃが、ワシはその事を知らず、むしろ何者かが、今となってはキミとわかるが、『保護呪文』を消そうとしてる事に気がついて逆に『保護呪文』を延長してしもうた」

 

「そして僕は『保護呪文』がまだ健在している事に気が付かず、『ブラック家』にハリーを預けてしまった」

 

「シリウスはハリーと共に嬉々として『ブラック家』を掃除したじゃろうな」

 

「そして自宅の金品を次々と売っていった。僕のアドバイス通り『ファイアボルト』をハリーにプレゼントする為に」

 

「その取引先が、哀れなマンダンガスじゃった、と」

 

「ええ、恐らく彼はホークラックス、つまりスリザリンのロケットも受け取ったのでしょう。そして取り込まれ、いわば第二のクィレルとなったと思われます」

 

「実に簡単じゃったろうな。マンダンガスがハリーの血を手に入れるのは」

 

「父親であるシリウスと仲良くしている取引相手だ。ハリーも簡単に信用したでしょう」

 

「・・・避けられんじゃろうな」

 

「あるいはもうすでに」

 

「もしクィレルに取り付いておった残留思念と、スリザリンのロケットが集まっていたらどうなると予想しておる?」

 

「推測ですが、僕と同じように実体化する位の力を持つでしょう。ですが肉体を持つのには何らかの道具や儀式が必要かと」

 

「早急に確かめねばならんの。ヴォルデモートが『命の水』を手に入れたのか」

 

「フラメルさんを殺したのは恐らくマンダンガスです。シリウスについていた魔力の形跡が同じでした。『命の水』が向こうの手にある可能性は高いかと」

 

「加えてゲラートが加担しておる。儀式の方も完璧じゃろう……」

 

 状況は極めて悪い。

 この2年間、トムはヴォルデモートが復活しない様に尽力してきた。

 一方ダンブルドアはヴォルデモートが復活した際に戦うための力を蓄えてきた。

 双方の微妙なズレは、今や決定的な溝となっていた。

 


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