ハリー・ポッターと二人の『闇の帝王』   作:ドラ夫

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地の文や自己解釈が多い作品です。
出来るだけ分かりやすく書いてはいるつもりですのでご容赦下さい







第1章─『闇の帝王』と秘密の部屋
01 新たな『闇の帝王』の誕生


 車に挽かれ、空を舞いながら悟った、僕は死ぬ。 

 

 走馬燈ってやつなのかな?思い出されていくたくさんの思い出。といってもそこに友人や、恋人や、家族はいない。

 

 両親はいるし一緒に住んでもいる、でもそれだけ、一緒に住んでるだけの他人。それぞれ完全に独立して生きてる、もう何十年と同じ家に住んでるのに好きな食べ物さえ知らない。会話がないわけじゃない。でもそれは自分たちがイメージする『家族の会話』をしてるだけ。

 弁護士の父親と、私立の進学校で教鞭をとる母親。二人ともいろんな人に『先生』と呼ばれる職業についているけど、僕の記憶の限りじゃあの二人に何か教わったことはない。

 そう考えると、もしかすると僕と彼らの距離は『他人』よりも遠かったのかもしれない。

 

 友人にしたってそうだ。クラスのうちあげにはちゃんと行くし、一緒に遊ぶ人もある程度はいる。学校の催し物の際の班分けだってあぶれたことはない、というよりもよく誘われる側だ。

 けど心の底からの友達じゃない。友達の定義なんて知らないけど、彼らが友達か?って聞かれたら僕は少し迷う、きっとこの迷いが質問への答えなんだと思う。

 

 実は恋人もいた。彼女とはなんていうか、なりゆきで付き合った。

 LINEで学園祭の三日前に話していたら『なんか私たち気が合うよね、付き合っちゃおうか』というようなことを言われて次の日には付き合ったことになっていた。

 僕の彼女は学校でも人気者だったらしく、たくさんの周りの人に祝われた。僕もちゃんと『付き合って一か月記念』などのお祝いをしたし、彼女は泣いて喜んでいた。僕もそれを見て悪い気はしなかった。

 けど彼女に一生をかけて添い遂げるか?と聞かれれば答えはNO。人によっては学生時代の彼女にそこまで考えなくていいという人もいるだろう。というより、大多数の人がそうだと思う。

 

 けど僕には一生をかけていい、と思うものがあった。大事なものの価値なんて比べるものではないけれど、心の奥底で、どうしようもなく、彼女を心からは愛せない、と思っていたのも事実だ。

 僕はたぶん、周りから見て、所謂『良い人生』を送っていた。

 けど僕からすると『良い人生』なんてとんでもない。僕から言わせてもらえば、この世界に生まれてしまった時点でハズレもいいとこだ。

 僕はいつだって考えていた。

 

 

 

 なぜ僕は『魔法使いの世界』に生まれなかったんだろうって。

 

 

 

 きっと周りの人にこんなことを言えばあざけったり、嘲笑したり、子供だと馬鹿にするだろう。中には心配してくれる人や、同意してくれる人もいるかも知れない。

 けど、それは本気じゃない。いつも仲良くしてるから、友達には親切にするものだから、冗談半分で言ってるだけ、誰も同意してあげなかったら可哀想だから。そんな理由が大半だと思う。

 別に彼らを責めたりはしない。僕だって隣に座ってる奴が『将来はバットマンになるんだ』なんて言って来たら、間違いなく冗談かおちょくられていると思う。

 

 自分で言うのもおかしいが僕は優秀だ。高校から始めたバスケットボールだってすぐにレギュラーになって全国大会に出場したし、その間も全国模試で50以内はキープしてた。常識だって人並みにある

 でもそんな事は関係ない。スポーツの楽しさを知っても、物理学を深く理解しても、だれもが否定するってわかっていても『魔法使いの世界』への憧れは、少しも色あせることなく、むしろより深く、心に残り続けた。

 

 

 

 

『ハリー・ポッター』

 

 

 

 僕の憧れの『世界』。

 誰かに言われなくたってわかってる、それは所詮本の中の世界だってことくらい。作者がいて、wikiがネットに転がってる『魔法の世界』なんてない。

 それでも、そこまでわかっていても、どうしようもなく僕の心を動かすのだ。あの世界に行けるのなら、それこそ、一生をかけてもいいとさえ思えるほどに。

 

 

 

 『ハリー・ポッター』の最終巻を読んだその日、僕はどうしようもない喪失感に襲われていた。

 もうこれ以降本編が続かないというのももちろんある。だがそれよりも、大好きだったキャラクター、最早僕にとっては実在する人物よりも大事な人たち、が死んだのことのほうが大きかった。もちろん巻を戻して生きていたころを再び読むことできる。

 けど僕の中では彼らは『死んだ』のだ。昔の巻を読んでも、それはきっと、故人のアルバムを読むようなものだ。

 そんなことを考えていた僕は『僕の世界』のことなんてすっかり忘れていた。

 

 そうして僕は死んだ。

 

 思い出されるのは『ハリー・ポッター』のことばかりだ、まるであのキャラクター達と一緒に死んでいくかのようだ、こんな気分なら死ぬのも案外悪くない。そんな風に考えていると、「なんと、ここで人に会えるとはの」──老人の声が聞こえた。

 はっとして声の聞こえたほうを見ると、真っ白な髭をたくわえた、どこまでも澄んだ瞳を持つ、一人の老人がいた。そして気が付くと、僕は駅のホームに立っていた。

 

「ここに来た、ということはおぬしは選ぶ権利を持っておる」

 

 ホームにあるのは二つの列車。一つは見慣れた、普段学校に行くのに使うJR。そしてもう一つは、見るのは初めてのはずなのに、JR以上に慣れ親しんだ気さえする機関車。

 

「・・・アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア」

 

「おお、わしを知っているのかね、どこでじゃ」

 

「あなたを知るのにカエルチョコカード以外あるのですか?」

 

 僕がそう冗談をかえすと、ニッコリ笑って、

 

「嬉しいことを言ってくれるの」

 

 そのあとまじめな顔になり、

 

「おぬしが『こちら』を選んでくれたことは嬉しい。しかし、『こちら』には席がなくての、誰かをどかさなくてはならぬ」

 

「つまり、どういうことですか?」

 

「おぬしが『こちら』に来るには新しく生まれてくるのではなく、誰かの代わりになる、ということじゃ」

 

「なら僕は、僕の世界へと帰ります」

 

「もう二度とこんなチャンスは訪れない、それでもよいのかね?」

 

「かまいません、あなたに会えた、それだけで十分です」

 

「合格じゃ、合格じゃよ」

 

「それはどういう?」

 

「実はもうおぬしが成る人物は決まっておる。これはもう誰も逆らえないことなのじゃ。そしてすまなんだ、おぬしには魔法界で誰も成し遂げられないようなことをしてもらわなければならぬ」

 

 一息置いてから、

 

「おぬしが成るのは若かりし頃のヴォルデモート卿、つまり『トム・リドル』じゃ」

 

「それは・・・」

 

 なるほど、確かに若かりし頃のヴォルデモートが良い人間になれば、ルーピン教授やシリウスといった【不死鳥の騎士団】の面々はもちろんのこと、ポッター夫妻やロングボトム夫妻も助けられるかも知れない。

 しかしダンブルドア校長の口ぶりからすると、ある程度はもう『闇の帝王』となっているのだろう。そこから善人になるというのは苦労するかもしれない。

 

「おや、もう時間のようじゃの」

 

 機関車の汽笛が鳴った。

 

「お別れですか、残念です。でも、またすぐ会えますよね?」

 

 振り返ると、そこにはもう老人の姿はいなかった。

 急いで列車に乗ると、その瞬間に扉が閉まり、ゆっくりと霧の中を進みはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どのくらいの時間が経ったのだろうか?

 数分な気もするし、何カ月も経っているような気もした。

 気が付くと霧は晴れていて、いつのまにか、自分の体ではなくなっていた。

 周りをよく見ようと首を回そうとして、気が付いた。首がない。それどころか、体もない。

 

「そういうことか、なるほど、確かにこれは『若かりし頃のトム・リドル』そのものだ」

 

 気が付けば僕は、ヴォルデモートのホークラックスの1つ、『トム・リドルの日記』になっていた。

 

 

 

 

 

 


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