にんぎょひめはおぼれない   作:葱定

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飛ばしても何も問題ない話。
書きたい話を書かずして何が二次創作か。

あらすじ:
ことりさんのお色直し。三人メイド娘とわちゃわちゃしてるだけ
話は何も進んでません




 

 

 ことりの意識は、温い暗闇の中で揺れていた。その心地良い微睡みの中で、彼女は自分を呼ぶ声を聞く。何度も呼ぶその声に惹かれ意識を浮上させようとした所で、不意に受けた腹部への衝撃で急激に覚醒する羽目になった。

 

「ぅぐっ?!」

 

「お早いお目覚めですニャ。ほら、シャキシャキ起きるニャ」

 

 目を白黒させながら上半身を起こせば、腹の上でねねこが自分を見上げながら座っている。どうやら彼が自分の腹にダイブして叩き起こしてくれたらしいと、ことりはぼんやり思う。そして、自分が未だ夢の続きを見ているのだと理解した。だってねねこが自分で喋って動いているのだ。そう思ったらなんだか嬉しくなってくる。

 

「おはよ、ねねこ」

 

「ご主人、水でも被って来た方がいいニャ」

 

 半眼でそう言ってくるねねこを抱えてことりはベッドから降りた。あくびをしながら片手で伸びをすれば、部屋の隅に控えてたメイドがスッと寄ってくる。彼女に先導されて、ことりはバスルームへと踏み入れた。

 さっとネグリジェを剥かれ、温めの湯が張られたバスタブの中へ。そのまま世話をされながら、ことりの頭はようやっと回転を始めた。

 湯から上がってふかふかのバスタオルで拭われ、バスローブを着せられて再度客室(キャストルーム)へ戻る。小さめのラウンドテーブルの上に、控えめな量のグリーンサラダと温かいカフェオレが用意されている。引かれた椅子に腰を下ろして、ことりは上品にそれに手をつけた。

 

「目蓋はちゃんと開いたかニャ」

 

「起きた起きた。ちゃーんと起きました」

 

 テーブルの上にピンと背を伸ばして座るねねこに、ことりは苦笑しながら軽口を叩いた。それに満足そうに尻尾を揺らしながら、ねねこは再度口を開く。

 

「それは良かったニャ。今日のお出掛けはギルマス殿と一緒なのニャ、さっさと準備するニャ」

 

「もうそんな時間なの?」

 

「ご主人の朝は戦場でしょう」

 

 呆れたようにそう言われ、ことりは目を瞬かせた。確かに、女の朝はある種の戦場なのは間違いない。の、だが。

 

「まぁそうなんだけども。ねねこは私のこの顔見て、作る必要あると?」

 

 自分の気のすむまで弄り倒した顔なのだ。バスルームで軽く鏡を覗いた程度であるが、正直に言って化粧など要らないレベルだった。アバター様々である。

 

「その格好でお出掛けになるおつもりかニャ?」

 

「着替えるけど、そんなに時間かからないわよ」

 

 最高級とは言えどバスローブで出歩くつもりは流石にないことりは、たかが着替えと口を尖らせつつカフェオレを煽った。だが直ぐに遠いところを見るような目になる。昨日モモンガから言われた「冒険者っぽい服」を咄嗟に思い浮かべられなかったからだ。

 控えめに言って、ことりは衣装持ちだ。基本的にお一人様行動は衣装の為のクリスタル集めをしていたし、ファン()から衣装を貢がれた事だってある。けれどセイレーンの自分のアバターに似合うことを前提に作っていたので、全力で趣味に走ったものが多い。つまり、ドレスだのローブだのばかりなのである。

 どこの世界にドレスを着た冒険者がいるだろうか。きっとユグドラシルと某竜を探すRPGかそれ位ではないだろうか。それでもAラインやマーメイドドレスで冒険している奴はそうそう見なかったと言うのは、完全に余談である。

 

「ねえ」

 

 困ったことりは、助けを求める事にした。傍に控えていた一般メイド達に声をかけたのである。

 

「あなた達はモモさんの側付き?」

 

「本日のアインズ様付きの者は別におります」

 

「私に付いてくれるのなら、お願いがあるのだけどいいかしら」

 

 彼女達はことりが寝ている間にねねこが集めてきたことりの為のメイド達である事を、ことりは知らない。なのでことりとしては一応、持ち場を変える事への配慮である。

 

「なんなりと」

 

「そう。なら私の服を見繕って欲しいのだけど、よろしい?」

 

「あの、」

 

「どうか?」

 

「私たちが見繕ってしまって、宜しいのですか?」

 

 メイドたちから見れば現在に至るまで、自分の装備は自分で選ぶのがことりのスタイルだった。そこに女性である事を加味しての問い掛けで、その疑問は尤もであると言えるものだ。

 頼まれたまま行うのではなく、自分で判断し確認する。メイドの彼女がそれを行った事に、ことりの評価は跳ね上がった。

 

「ふふ、よろしいのですよ。序でに髪のセットが得意な方がいたら、声をかけていただける?」

 

「かしこまりました」

 

 ご機嫌な様子で笑ってお願いを重ねることりに、対応していたメイド──リュミエールは丁寧に頭を下げた。

 メイドと言えど個があるし、個性があるならば得意不得意だってある。掃除が出来る事と、髪を結う器用さがあるかは別の次元の話である。

 そう考えるからこそリュミエールにそう声を掛けたのだが、彼女からすればことりの髪を結う事を許されたも同然だった。何故ならばナザリックの一般メイドには夢が詰まっている。要するに彼女たちに死角という死角は、ちょっと大食らいな位しかないのだ。

 カフェオレを飲み終わってひと息入れてから、ことりはメイド達を引き連れて懐かしの自室へと向かったのである。

 

 ことりの自室の造りは、少し他の部屋と変わっている。他の部屋のように客室が無く、代わりに衣装部屋(ドレッシングルーム)が拵えてあるのだ。主寝室のクローゼットを装備が圧迫した結果、使わない客室よりも衣装部屋を取ったのである。

 

「冒険者っぽい装いを見繕って欲しいのだけど……なかったら最悪、図書室に探しに行くわ」

 

 見渡す限りの夜会服(ドレス)に、ことりは半分諦め気味だった。自分で集めた衣装なので、内訳も大体記憶している。自分の種族的にどうしてもドレス系統に偏っているの位、ちゃんと覚えているのである。

 そもそもことりは自分の花束(アバター)を見せびらかしたい一心なので、自然な形で背中の開く服を選ぶ。そうなると結果は火を見るより明らかというものだった。

 部屋の目立つ所に配置されているトルソーに飾られた三着の神器級装備は、何れもドレスといった造りである。内訳二着は貢ぎ物(プレゼント)であり、一着は花嫁衣装(ウェディングドレス)で貰った当時、ドン引きしたのは完全に余談である。

 わざわざ見せるように保管してあるドレスから丈の短いものの辺りを指定して、ことりはメイド達に指示を出した。

 その間に自分は人の姿用の靴を漁る。人の姿なんて海の呼び声(コール・オブ・ザ・シー)が実装されて直ぐ位に、双子(アウラとマーレ)と一緒に女子面子の人形(マネキン)をやった以来とんと使っていないアバターだ。従って、その時に用意した数足位しか持っていなかった。

 普段に使うのは鳥の脚を飾る装飾具な位で、流石に裸足の冒険者はないなと胸の内でぼやく。

 出てきたのはピンヒールのパンプスと編み上げのサンダル、ミュール、ロングブーツで、ブーツ一択と相成った。

 

「私、外套(クローク)なんて持ってたかしら」

 

 冒険者のイメージを浮かべて取り敢えず外套は外せないと、そう思った所で思わず声に出た。背中の花束(つばさ)のお陰で、持っている上着はストールやショールばかりだ。着けない装備など覚えている訳もなく、少し考えてみて放り投げた。なければないで、どうにかなるだろうというノリである。

 

「ことり様」

 

 呼ばれて振り返れば、三人のメイドが各々が選んだ服を携え控えていた。声を掛けたのはショートカットの金髪の、活発そうな少女だ。

 

「外套はなかったのですが、外套に『近い』ものは見つかりましたので、一応それに合わせる形で見繕ってみました」

 

「ぽ、ポンチョマント、かな……?」

 

 さっと見せられたのは暗めのオリーブグリーンの、マントのようなシルエットをした上着だった。マントと言うには裾がすっとしていて、ポンチョと呼ぶには丈が長く、前が開くタイプのものである。丈は目測で膝位になると思うが、ぱっと見てなんと呼べばいいか分からないようなものだ。だがマントといえばマントっぽくはある。

 

「フードは付いておりますが、形が近くはあるかと思いました。他も探したのですが、ケープやショールのようなものが多くて、その……」

 

「皆まで言わなくてもいいわ。作った記憶がないから、多分ないと思うし……合わせた服を見せて貰える?」

 

 活発そうな見た目に反し言い辛そうにしたメイド──フォアイルを遮るように、ことりが先を促す。そうすれば一言添えて、フォアイルはポンチョマントの後ろに持っていた服を翳して見せた。

 

「冒険者ということで、丈が短く色合いの落ち着いたものを選んでみました」

 

「ゴスロリ系を持ってきたかぁ……」

 

 フォアイルが持ってきたのはモノクロにセピアが差し色の、フリルロングコルセットのドレスだった。黒のロングコルセットのドレープの下にはパニエで広がった白のレースのギャザースカートが三重になっている。セピアのレザーチョーカーと同色のリボンがコルセットをネックストラップとして吊るしており、スカートと同色のフレアーの付け袖がセットになっていた。

 ここにあるものに比べれば色合いも華美でなく、丈も短く動きやすくはある。だが、この格好で森へ突っ込めと言われたら全力で拒否したい装備である。控えめに言って、絶対に袖を引っ掛ける。

 

「……二人のも見せてくれない?」

 

 唸りながらもことりが促せば、リュミエールがすっと前へ出て選んできた服を見せてくる。

 

「動き回ると思いましたので、動きやすさを重視して選んでみました」

 

 そうして出されたのは、チューブトップタイプのシフォンのミニドレスである。胸回りにドレープの大きなフリルが遇われており、膝上程の丈のタイトラインは確かに動きやすいだろう。

だがピンクにキャロットオレンジは控えめに言ってもかなり目立つ。それにストラップレスなので肩腕共に露出されており、人の姿でこれは少し抵抗感があった。普段着ているだろうと言われるかもしれないが、そこはセイレーンなのでとしか言いようがない。人じゃないから恥ずかしくないもん、である。

 

「ええと、落ち着いた色合いで露出の少な目のものを選んでみました」

 

 もう一人のメイド──シクススがそう言って見せたのは、バーガンディーのトレーンベストにペタルピンクのミニスカートのコーディネイト装備だった。ベストの下には七分の絞り袖なオフショルダーブラウスがあると言うのも、ことり的にはポイントが高い。

 

 どれも冒険者が着るようなものではないというのは、もはやどうしようもない事実である。ことりがことりのアバターを見せびらかしたいが為に作った装備+貰い物で構成されているので、本当に着飾るドレスが多いのだ。因みにゴスロリ系は趣味ではないので、全て貰い物である。

 

 因みに落ち着いた色合いであって、華美ではないとは言っていない所がミソである。

 トレーンベストには金糸でアカンサスのデザインが縁取りされており、バックは黒のリボンで編み上げられているのだが、こちらもやはり金糸で縁取りが施されている。何が言いたいかというと、ダークレッド+金も黒+金も映えて見せる組合せだと言うことだ。

 余談だが植物柄が何かしら入っていて、映える色の組み合わせは大抵ことりのお手製である。ので、前者二点に比べたら自業自得なので仕方ないという魔法の呪文を唱えることが出来るというのも大きい。

 

「……そうね、露出少な目のベストのがいいな」

 

 モモンガさんに何か言われたら選んでもらえばいいか。そう開き直って、ことりはメイド達に着付けられるのだった。

 

 

「あなた、髪結うの上手なのね」

 

「お褒め頂けて光栄です」

 

 ドレッサーの前に腰掛けて、手持ちの三面鏡を持ったリュミエールに後頭部を見せられたことりは素直に感嘆の言葉を漏らした。

 ことりの髪は編み込み型のギブソンタックで、少し低めの位置で纏められている。余りにも堂に入った手付きで纏めていた為、その道のプロの人だろうかとこっそり思ったのは秘密だ。

 ことりの少し薄目のストロベリーブロンドに映えるようにとフォアイルが厳選した、薄紅色の大き目な芍薬と白のアネモネの髪飾りが後頭部中央の窪みを埋めるように留められている。それらを囲むように、卯の花色や若芽色のピンポンマムが差し込まれている。アクセントに散らされたミモザの黄色が一際色鮮やかだった。

 

 満足そうに結われた髪を褒めることりに、仕上げたリュミエールも誇らしげだ。そんなことりに、シクススが声を掛けた。

 

「仕上げに軽くメイクをさせていただいて宜しいですか?」

 

「重たくならないようにお願い」

 

「かしこまりました。では化粧水から塗らせて頂きますので、少々目を閉じていてくださいませ」

 

「はぁい」

 

 少し顎を上げるようにして、ことりは目蓋を落とす。少し白味の強い肌に、シクススはコットンに吸わせた化粧水からベースまで、丁寧にまぶしていった。ルースパウダーまで乗せたところで、フォアイルがシクススにアイシャドウを渡す。渡されたシャドウを見て、リュミエールが小さく尋ねる。

 

「ゴールド? 少し派手じゃない?」

 

「そう? 暗めの服だから合うと思うけど。リュミエールはどの色がいいと思うの?」

 

「私? ……オリーブ、かしら。落ち着いた爽やかさがお似合いになると思うんだけど」

 

 綺麗に対立したリュミエールとフォアイルは顔を見合わせて、メイクの手を止めていたシクススを見た。

 

「私は服が少し落ち着いてしまったからピンクかオレンジがいいと思ってたんだけど……」

 

 渡されたのがゴールドだった為に二人の様子を見ていたようである。見事に三者三様になってしまった好みに、メイク待ちしていたことりも目を開けた。

 

「ナチュラルめにベージュがいいわ」

 

「ではベージュにピンクを差しますね」

 

 全員選んだ系統が違うので、決まらないと思ったことりは自分で選ぶ事にする。そうリクエストすれば、ごく自然に差し色が入ることが決まった。

 口紅の色でも対立が起きたのだが、やはり無難なアプリコットをことりが選んだ。誤算と言えばやたらツヤツヤにされた事くらいか。尤もリュミエールもフォアイルもいい仕事したねと言わんばかりであったので、ことりは賢明にも口を噤んだのだが。

 

 軽いオレンジのチークと目尻にセピアのアイラインを入れて、漸くメイクは終了である。ナチュラルメイクといっても、メイクしない訳ではないのである。

 

「ちょっと若々し過ぎじゃない?」

 

「そんな事ありませんよ。とてもお可愛らしくあられます」

 

「お優しい感じに纏まっていらっしゃいますよ」

 

 出来上がった自分を姿見に写してぼやけば、回りから全力で肯定の言葉が入る。

 どうにも顔立ちにリアルのことりの日本人っぽさが入っており、日本人共通の悩みである童顔が際立っているような気がするのだが、可愛いと褒められては閉口せざるを得なかった。可愛い≒幼さでもあるのだ。

 

「……そこの宝石箱から翼の形のネックレスを取ってくれない?」

 

 気分を一新させるようにことりが頼んだのは、<飛行(フライ)>の込められたペンダントである。

 人の姿のことりは空を飛べない。元の種族が飛べるので当然<飛行(フライ)>を習得していないのだ。そして普段から飛んでいることりが飛べないなど、考えられない事だった。

 フォアイルにペンダントを付けて貰いながら、ことりは更に指示を出す。

 

「そこの青い花の耳飾りかな、こんぺいとうのやつ……そう、そっちそっち。あとその隣の隣の小さい青い花の指輪も取って」

 

 迷うことなく指示を出すのは、足りない耐性を補完するアクセサリーだからだ。バリエーションはあれど、この辺りは定番的に使っている。それ所以の迷いの無さだった。

 余談ではあるが、課金の追加装備スロットを指輪から他部位へと、更に課金で移しているプレイヤーはそこそこいる。特に女性に多かったのだが、ことりもその一人だった。

 

「……部屋の外にギルマス殿が来たニャ」

 

 今の今まで籠の中で丸まって横目で眺めていたねねこが、やっと、漸く口を開く。ねねこは一応オスなので、女性陣のお色直し的なそれに全く興味がなかったのである。因みにことりの裸に興奮するような高尚な趣味は、持っていない。ねねこはノーマルなのだ。

 

「あら、全然気がつかなかった。お通しして貰える?」

 

 ことりの言葉を受けたフォアイルが礼を取ってから、ドアへと向かう。

 気付かなかったと言うものの、外に誰かが残っている訳でもなく先触れがあった訳でもない。もう少ししたらモモンガから直接<伝言(メッセージ)>が来たかもしれないが、この時点では完全に非公開情報である。

 種を明かせば、単にねねこが見計らって<伝言(メッセージ)>を飛ばしただけなのだが。そんな事はことりは知りもしない。

 因みにことりが起きてから、既に三時間近く経過していることを記しておく。

 

「迎えに来たんですが……まだ掛かりそうですか?」

 

「いいえ、もうお支度できました。どうですか? 似合ってます?」

 

 ブーツと同系色の革手袋(レザーグローブ)を嵌めたことりは立ち上がって、フォアイルに先導されて来たモモンガに向き直った。それからそのまま、その場でくるりと回って見せる。

 

「似合ってます。……でも、なんだか不思議な感じがしますね」

 

「羽がないからですかね?」

 

「そうかもしれません」

 

 まじまじと見つめてくるモモンガの視線を受けて、ことりは少し照れつつ首を傾げた。見て貰えるのは嬉しい。でも見つめられるのは、少し恥ずかしい。

 

「その、背中なんですけど……少し大胆じゃないですか?」

 

「これですか?」

 

 そう言われてことりはモモンガに背を向けながら振り返る。付け襟で見えないがベストは首の後ろでベルトで留めるタイプであり、背中を大きく開けて腰の後ろで絞めている。その下に着ているオフショルダーブラウスも、肩甲骨を見せるデザインなのである。

 

「羽が出るので開いてるんですよ。ダメですか?」

 

「ええと……目のやり場に困ります」

 

「そこはセクシーだよって言ってくれなくちゃ」

 

 ちらちら感じる視線が、モモンガが本当にそう思っているのだとことりに教える。それがなんだか楽しくて、ことりは笑いながら軽口を叩いた。

 

「冒険者って感じの服じゃないかなって思ったんですけど……まだマシかなって」

 

「……ソウデスネ」

 

 ことりの言葉に釣られて、モモンガも衣装部屋を見渡した。見える限りは大体ドレスであり、どこの貴人だと言わんばかりの服である。思わず片言で答えたモモンガに、自分をフォローするようにことりが口を開く。

 

「マントを着たら背中も見えなくなりますし、少しは冒険者っぽくならないかなって……それ貰っても? あと苺のブローチも……ありがと」

 

 リュミエールからポンチョマントのコートを受け取って、それを羽織ればすっぽりと服は隠れてしまった。パニエで広がったスカートがシルエットをふんわりと見せており、普通に外套を羽織るような寸胴さを感じさせない。

 ミリタリーグリーンのマントの下には肌が僅かに覗き、マホガニーブラウンのロングブーツが素肌の白さを際立たせた。コートの合わせ目にワイルドストロベリーをモチーフにしたブローチで留めれば完成だ。

 色合いだけで見れば、居なくもなさそうな色調だ。

 

「背中、見えないですよ。どうです?」

 

「おお、それっぽいです。でも折角似合ってるのに、隠れてしまうとなんだか勿体無い気もしますね」

 

 さらっと漏らされた感想に、ことりは思わず耳を染めた。恥じらいを隠すように片手で口許を覆って、照れて困ったように笑う。

 

「お上手ね」

 

 何気ないその一言だからこそ、精一杯に取り繕わなければならないくらいことりは照れた。

 そこそこの付き合いから、モモンガがこう言うリップサービスが得意ではない事位は知っている。知っているから、たとえ他意がないとしても嬉しくて仕方がないのだからどうしようもない。惚れた方が負けなのは、世の習いなのだから。

 

「えっ、あ、お世辞とかじゃないですからね!?」

 

「しってます! もう! 少し黙っててください!」

 

 ダメ押しされて、ことりはついに背中を向けた。そのまま両手で顔を覆うが、後ろからは少し慌てたようなモモンガの声が聞こえてくる。

 もっと困ればいいのに!と、耳どころか首まで赤くしながら、ことりは彼の朴念仁を呪うのだった。

 

 

 

 

 

 照れて赤くなったことりを宥めすかしながら出掛けていったアインズに、一部始終を始めの初めから見ていた三人のメイドは、完全に部屋を後にしたのを確認してから口を開く。

 

「ことり様がアインズ様をお好きらしいっていう噂は聞いてたけど……」

 

「物凄く解りやすく大好きじゃない」

 

「アインズ様も特別お優しかったし、これはもしかしないんじゃないかな」

 

 色恋事が好きなのは、何時だって女の子なのだ。それが至高の方同士であるというのが輪をかけた形ではあるが、控え目に見てもいい雰囲気のように見えた。

 アインズのアルベドに対しては見せない砕けた様子も、特別を思わせると共に意識し初めの初々しさを感じさせた。ことりの様子は言わずもがなだ。

 応援しない理由がないのをいい事に、ひっそりと二人の仲を見守り隊がメイドたちの間に生まれる事になる。その事をまだ誰も知らない。

 

 





ねねこは裏でアインズ様とおしゃべりしてます。
女のコのお色直しは長い


十巻みてアインズ様の恋愛経験値に真顔になった
アルベドちゃんまじ可愛そう
あと武王寝とるとかアインズ様まじアインズ様
オスクと武王の仲を深読みした腐った人は他にもいると信じてる

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