にんぎょひめはおぼれない   作:葱定

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前話を投稿して何やらお気にいりがやたらと増えたと思ったらランキングのしたの方にお邪魔させていただいていたようです
戦々恐々としました。ありがとうございます

短いですが切りがいいので

追記:誤字報告されてしまったので前書きに書いておきます
ことりの台詞中にある名前は誤字ではなく愛称です
一回しか呼ばれてないから誤字に見えますよね!知ってた!




 クレマンティーヌでモモンガが接近戦の練習を行って暫くしての事である。不意にことりから<伝言(メッセージ)>が届いた。

 力任せからほんの少し進歩した程度だったが、なかなかいい感じ(主観)になってきた所だ。少々残念に感じつつも力任せにクレマンティーヌを弾き飛ばして、モモンガは<伝言(メッセージ)>を受けた。

 

『すみません、モモさん。ちょっとお聞きしたいんですがいいですか?』

 

『構いませんけど、何事ですか?』

 

『種族変更についてなんですけど、ぶっちゃけアンデッドって蘇生(リザレク)系の魔法って取るのに向いてますか?』

 

 予想外の方向からのアプローチに、モモンガは一瞬たじろいだ。言われた意味を咀嚼して、なんとも言い難い気分になる。

 

『やってやれない事はないと思いますけど……シナジーはしませんよね』

 

『まあそうですよね。ありがとうございます。お邪魔様でしたー』

 

 そう言って聞きたい事を聞いたことりは<伝言(メッセージ)>を切った。因みにことりの話を聞きながら、モモンガは力任せでクレマンティーヌの相手をしていたりする。

 ことりが種族変更をするとは考えられないし、ナーベラルも同様だ。消去法で考えられるのはあの場にいたカジットその他であるが、明らかに相対していた。何がどうしてそうなった。ちょっと想像がつかなかった。

 

「クレマンティーヌ」

 

「ッチ、何よ!」

 

 モモンガに名を呼ばれ、クレマンティーヌは思わず舌を打った。

 技術もない力任せの打ち合いから、危機感を感じる程の勢いで闘い方を学んでいくモモンガは、驚異を感じる存在だった。その相手が上の空でまた力任せに往なしてくるのである。腹も立とうというものだ。

 

「どうも向こうが面白い事になっていそうだぞ」

 

「へえ。カジッちゃん負けちゃったとか? それともあの女がやられちゃった?」

 

「いいや」

 

 どちらであっても然程興味は無さそうな、皮肉気な笑みを浮かべる。それを受けてモモンガは、いざと言うときの贄の羊(スケープゴート)はこれでいいかなと適当な事を考えた。

 

「カジットだと思うが、人間を辞めるらしい」

 

「へーえ……ついにアンデッドになっちゃうって?」

 

「いや、あの口調からだと多分アンデッド以外だろうな」

 

 軽く流そうとしたクレマンティーヌだったが、予想以上の返答に思わず素で返してしまった。前々からそんなような事は言っていた気がするが、お前ら戦ってたんじゃねえのかよ、である。更に追撃された、アンデッド以外の何かになるとはどういうことなのか。有り体に、クレマンティーヌは混乱した。

 そんなクレマンティーヌを尻目に、モモンガはことりが持っていそうな種族変更アイテムを考えた。ことりが持っていそうで且つ、蘇生(リザレク)系にシナジーしそうな種族・人間種以外。ついでに彼女の趣味も考慮する。

 

「待って、なんでそんなことになってんの? アイツら何やってんの??」

 

「全くだ」

 

 そこに至るまでの過程を想像できなかったクレマンティーヌの呆れたようなぼやき声に、心の底からモモンガは同意したのだった。

 

 

 

 

 

 モモンガとの<伝言(メッセージ)>を終えたことりは、目の前で呆気に取られたように座り込んで見上げているカジットの前に屈んで目線を合わせた。

 

「やっぱり蘇生(リザレク)系とアンデッドはあんまりいい組み合わせじゃないみたい。まあ蘇生(リザレク)って信仰系だし、いざって時に自分に使えないのは痛いよねえ」

 

 一人でうんうんと首肯くことりを、カジットは茫然と眺めるしか出来ない。実の所、カジット自身も展開に付いていけてなかったりするのだ。

 どうしてこんな事になっているのかというと、思わずカジットが漏らした泣き言をことりが拾ってしまった所為である。

 ことりは自分の好奇心に忠実だった。五年を費やして準備したという努力が何を目的として行われたのか、巧みな相槌でもってあっという間に丸裸にしてしまったのだ。

 最終目標が何十年も前に亡くなった母親を生き返らせたいという所まで聞き出し、その為の時間を稼ぐために人間を辞めてアンデッドになりたいと。黒い珠を取り落として、ことりの聞き上手な間の手に、カジットは涙ながらに語ってしまった。それでのことりの台詞がこれである。

 

「でもアンデッドって信仰系の魔法と相性あんまり良くなさそうじゃない? 人間辞めるのはいいと思うけど、アンデッドじゃなきゃ駄目かしら」

 

 感情移入もなく、冷静に聞いていたナーベラルすらも思わず思った。話の主題はそこだっただろうか。

 

「私、死者の本持ってたかしら……昇天の羽はあったと思うんだけど……取り敢えずモモさんに聞いてみよ」

 

 そして冒頭のやり取りに至ったのである。

 

「昇天の羽は今あるから、天使になら直ぐになれるわね。天使ならシナジーも悪くないと思うし、オススメかしら。少なくとも人間よりは長生きだろうし、どうかな?」

 

 他になりたい種族があるなら考慮するけど。そう言って首を傾げることりを、カジットはやっぱり眺める事しかできなかった。予想外の申し出に、反応を返せないのだ。

 

「な」

 

「な?」

 

「なぜ、あなたは、そこまで……」

 

 ついさっき会ったばかりで敵対していたはずの相手に、どうしてそんなに尽くしてくれるのか。カジットにはそれが理解できなかった。理解はできないが、これがとんでもないチャンスである事は分かる。そんな相手に対し、自然と言葉が改まる。

 

「んー? 正直人間はかなり好きじゃないけど、人間種(それ)以外になりたいっていうなら応援したいかなーって」

 

 人間種プレイヤーには思う所しかなかったが、態々イバラ道な異形種になりたいというなら応援するしかないだろう。ことりにそう思わせる程度には、異形種への風当たりは強かった。

 そんな異形種に味方したいというアインズ・ウール・ゴウンの基本趣旨に共感したというのもまた、ソロを決め込んでいたことりがギルドに入らせて貰おうと思った理由の一つでもあったのだ。

 

「それに、」

 

 ナーベラルにねねこを預けてマントを脱いだことりは、本当の姿を晒す。背中から自慢の花束(つばさ)が伸びて、軽くシャラシャラと音を立てた。

 

「私も人間じゃないし? まあ、全部あなたが望むなら、の話なんだけどね」

 

 優しげに細められた海色の瞳に、カジットはまんまと騙された。この女は、断じて天使などでは無いのだ。

 

 

 

 

 

 クレマンティーヌのやる気の低下は著しく、なし崩しの話し合いの結果、向こうが和解(?)したのなら戦う理由がない。寧ろ骨折りになる可能性が高いという事に落ち着き、一度引き返して見る事になった。クレマンティーヌはカジットを一発ぶん殴ってやると息巻いている。是非もなし。

 プンスコと湯気が出そうな程に機嫌を損ねたクレマンティーヌと共に戻ってみれば、海妖婦(セイレーン)姿のことりとナーベラルと、見慣れない天使の姿がある。

 

「天使にしたんですか」

 

「シナジーする種族だと一番無難でしょう? ……一応風妖精(シルフ)とか小妖精(ピクシー)とかもあったんですけど、プリって感じではないかなと。テングとかコリとかはちょっと方向性が違うし、後は向いてない種族のしか無かったです」

 

 モモンガが尋ねれば、凡そテンプレートな返事が返される。ことりがロールプレイを重視するプレイヤーであるのは、その種族選択からして分かりきっている事だ。そんな彼女のプロデュースで蘇生(リザレク)系とまで方向性が決まっていて、そのロールから大きくズレる訳がない。加えて彼女の趣味を踏まえると、選択肢など殆どあって無いようなものである。

 

「でもちゃんと本人の希望も聞きましたよ?」

 

 因みに人間を辞めると決められなかった高弟たちは、物言わぬものとなった。カジットはその様子を見つめながら、自分がとんでもなく危ない橋を渡っていた事を理解したのだ。

 

「暫くはレベリングに付き合ってあげようかなって思ってますけど。あ、ナザリックのPOPモンスター狩ってもいいですか?」

 

「POP以外は狩らないなら構いませんけど……クレマンティーヌ、お前はどうする?」

 

 モモンガに話を振られて──それが最後通牒だと理解してしまって──クレマンティーヌは真顔で固まった。この場に自分の味方など既に無い──カジットは人である事を辞めてしまっているし、それ以外は謂わずもがなだ。

 

「…………それって、何を聞かれてるのか確認してもいいかなー?」

 

「あら、分かってそうだったけど聞くの? 貴女が人間を辞めたいかって話よ」

 

 クレマンティーヌの問いに答えたのは、鳥か植物かよく分からない化け物だった。上半身は恐ろしい程に美しい女の姿をしている。声が、辛うじて冒険者の女に似ていた為、それがあの女だったと気がつけた。

 実質答えは決まっている問い掛けだ。

 

「あー、まあそうだな。お前が敵対せず、ほとぼりが覚めるまで拘束されると言うなら、人間を辞めずとも命は預かろう」

 

 最初からことりに振り回されっぱなしなこの女を、モモンガは僅かに憐れんだ。慈悲を掛けたのは、接近戦を少し学ばせて貰ったからだ。そしてあわよくばもう少し先生のようなものになって貰えれば、そんな思いもあった。

 

 クレマンティーヌは考える。モモンの話に嘘は無さそうであるが、どう扱われるかまでは言及されていない。死んだ方がましだと思えるような扱いを受ける可能性が高いと見た方がいいだろう。何しろ目の前の無慈悲の仲間であるのだから、この冒険者も人間でないと考える方がよさそうである。

 少しは話が通じそうなモモンの方に、クレマンティーヌは言った。そしてそれは強ち間違ってもいない判断だった。

 

「人間を辞めるとして、種族は選べるの?」

 

「あら、少し意外ね。貴女ならイヤって言いそうかなって思ったのだけど」

 

 生死の二択であれば辞めるだろうと踏んでいた。だがモモンガの提案があったので、直感で辞めないだろうと思ったのだ。隠しもせずに不思議そうに聞いてくることりに、クレマンティーヌは警戒を解かずに口を開く。

 

「人間に生まれたから人間をやってるだけで、別に人間がいいって訳でもないしねー」

 

 スレイン法国の現状までを省みるに、今を憂えど、人間でいる事のメリットの方が少ないように思える。他種族との壁は確実にあり、神人の血を継ぐ者であっても、その壁を超えられるのはほんの一握りであると認識している。

 自分はその一握りではない。クレマンティーヌはそれを自覚していた。そして追われている現状を考えると、早いか遅いかの違いで結末は見えている。仮に上手く逃げ切れたとして、自分の性格から隠れきるのが難しいだろうことは理解しているのだから。

 それらを考えると、この状況は渡りに船なのではないかとも思えてくる。

 

「なりたいものがあるなら考慮するけど、私、あまり種族変更アイテム溜め込んでないから……私が持ってないのはモモさんにおねだりしてね」

 

 貰えるとは言っていない辺り、ことりはモモンガを理解している。

 

「そうね、オススメは悪魔とかかしら」

 

「その心は?」

 

「どSっぽい?」

 

「ねえ喧嘩売ってるよね?」

 

 唇に人差し指を当てながらことりが悩めば、モモンガが茶々を入れた。さらっと返された答えにクレマンティーヌがジト目で睨め付ける。それさえ気にせず彼女は続けた。

 

「なんかさらっと嘘付きそうなのとー、あと」

 

 態と一息入れて、詰まらなさそうに言い捨てる。

 

「PKしてくる奴らとおんなじ感じがするから」

 

 意味は解らなかったが、それを聞いて、クレマンティーヌは彼女が自分を処分する方向で考えていたのだと理解した。図らずとも彼女の仲間に、完全に救われた形になっていたのだ。

 モモンガもことりが最初からクレマンティーヌを気に入らなかったのだろうと把握した。そしてユグドラシルでの彼女ならば絶対にしなかったであろう選択を、躊躇なく行う彼女に言葉を失った。和を重んじ、PKもPKKも避けていた彼女は、優しいだけの存在では無かったようだ。

 

「なんてね」

 

 さっきまでの雰囲気を全く感じさせないトーンでことりは笑うが、もうクレマンティーヌは軽口を叩こうとは思えなかった。彼女の気を害せば、きっと命はないだろう。

 

「まあ、クレマンティーヌには後で選んで貰うとして。ここの主犯をどうしましょうかね」

 

「んーなんかジットさんの話だとアンデッドになるつもりだったみたいだから、モモさんに適当に呼んで貰えばいいかなって」

 

 そっと話を逸らしつつ、モモンガは目下の問題を挙げた。まさか主犯を抱き込みましたと報告する訳にもいかないだろう。そう相談してみれば、またも予想外な情報が投げ込まれた。アンデッドになるのに何故こんな大事になるのか分からずに、思わずカジットに尋ねる。

 

「どうやってアンデッドになるつもりだったのか尋ねても?」

 

「は、はい。その……」

 

 カジットはチラチラとナーベラルを伺いながら話し始めた。

 その話を要約すると、死の螺旋なる儀式魔法を行い、負のエネルギーを集めて死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)になろうとしたらしい。どうやって死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)になるのかは要領を得なかったというか、本人も具体的な理屈は分からなかったようだった。

 

「ううむ、要検証だな……だがまあ、そう言う話なら死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)を作って、それに主犯を押し付けるのが妥当だろうなあ」

 

「……あの、それってそんなに簡単に呼べるものなの?……ですか」

 

 恐る恐る口を挟んだのはクレマンティーヌで、出来ない事の確認というよりも程度の確認の意味合いが強いように感じられる。モモンガはそれを受けて、自分が冒険者モモンのままであることを改めて意識した。

 ことりが正体をばらしているし、この場にいる者達に隠す必要性も特には感じられない。それならばとモモンガは全身鎧を消して、何時もの姿へと戻す。

 

「私も人ではないからな。死者の大魔法使い(その程度)ならまあ、余裕だな」

 

「ふふふ。やっぱモモさん、そっちの方が素敵ですね」

 

 頬を僅かに赤らめて褒めることりに、クレマンティーヌは力関係を悟った。そしてこの骨の魔法使いの機嫌だけは、絶対に損ねない事を全力で誓う。拾った命は誰だって惜しいものである。

 

 主犯ことカジットの案内の下、一行は<オーバーマジック>の為のマジックアイテムにされたらしい少年の元へと向かった。そこにはスケスケの薄絹と、噂の叡者の額冠を纏ったンフィーレア少年がぼんやりと立ち尽くしていた。

 

「これが叡者の額冠か」

 

 まずアイテム優先の辺りがモモンガだ。興味津々に<道具鑑定(アプレザール・マジック)>でアイテムを確認している。

 

「え、これこの衣装固定なの??」

 

 詳しい話を聞いたことりがドン引きした。ンフィーレア少年の上から下まで眺め回して、仕切りに納得いかなさそうな顔をしている。

 

「成る程、ンフィーレア・バレアレが必要な訳だ」

 

「そうなんですか?」

 

「条件が厳しいマジックアイテムみたいですね」

 

「へえ」

 

 モモンガの答えにやっぱり余り興味なさそうに返して、ことりはもう一度叡者の額冠を見た。

 

「コレクションするんですか?」

 

「外すとンフィーレア少年が発狂するみたいなので悩み所ですね」

 

「なにそれこわい」

 

 なんとなしに聞いた所に不意討ちに酷い効果が返されて、思わずモモンガを見る。モモンガは相変わらず件のマジックアイテムに釘付けで、変わらないなあとことりは苦笑した。

 

「でもまあいいんじゃないですか? こわーい能力持ってる子も処理できて、マジックアイテムも手に入る。ちょっとお得です?」

 

 可愛らしく響いた言葉の不穏さに、今度はモモンガが思わずことりを見た。次いで今はナーベラルの腕の中にいるねねこに目を向けると、黙って首を横に振られた。

 

「冒険者モモンのチームメイトにアプレザールマジックを使える人は居なかったので、ンフィーレアさんが変な原因と思われるマジックアイテムを壊した。そうしたらンフィーレアさんは発狂してしまった。まあ、あのお婆さん位しか責めないんじゃないです?」

 

 善意からの行動って意外と咎められないものですし。思い付いた事をそのまま口にしているだけらしいことりは、そこまで言ってからモモンガに笑いかける。

 

「誰も言わなきゃ分かりませんよ。ね、ナーベラル」

 

「はい。私は何も見ておりません。ですので話しようがありません」

 

 律儀に目を閉じて頷くナーベラルに、ことりも満足そうに頷いた。

 

「ほら、完璧」

 

 お好きにどうぞと勧めてくることりの語尾にはハートマークが付きそうなノリだ。だが質の悪い事に、そこに悪意は欠片も見当たらなかった。

 

 

 

 

 

 長い夜の騒動が完全に終息したのは、翌朝の日が昇ってからの事だった。助け出されたンフィーレア少年は憔悴こそ見られたが、目立った怪我もない様子だった。彼の記憶が飛んでいるのは、良かったのかそうでないのか微妙な所である。

 事件に幕を引いたモモン率いる冒険者チーム『漆黒』は、事態が終息する前に撤収していった。メンバーの一人であるエルドビーレが眠さの余り不機嫌を極めた為、宿に押し込んだのである。

 夜通しアンデッドらとの戦闘を行った功労者であり、彼らがいなければ被害はもっと大きかった事もある。何よりエルドビーレは墓地に向かう道中の冒険者たちに回復魔法で支援したという証言も多かった。そう言った背景もあり、一先ず休む流れになったのである。

 エルドビーレが起きるのを待って、モモンたちは冒険者組合を訪れた。それは実に昼を回ってからの事であった。

 その時分には共同墓地の検分も進んでおり、全てではないが彼らの戦果も分かってきていた。少なくとも骨の竜(スケリトル・ドラゴン)一体に死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)は確認されており、とても銅級とは言えない戦果を挙げたと騒ぎになるのも仕方の無い事だったと言えるだろう。

 そうしてチーム『漆黒』は、一躍時の人となったのである。

 

 冒険者組合へとやって来た『漆黒』は冒険者たちに囲まれた。正確には『漆黒』のエルドビーレが、回復魔法を掛けて回った者達に囲まれたと言うのが正しい。彼らは礼と、この新しい英雄たちへと顔を繋ぎたがったのだ。

 最初のうちはエルドビーレもにこやかに対応していたが、五人を越えた辺りから面倒くさくなって来たのが目立ち始め、十人を数える頃には妙なツンデレを併発してそっぽを向くようになっていた。挙げ句、使い魔(ファミリア)を口の前で人形のようにして、

 

「うるさいにゃ、お前らの為じゃないにゃ」

 

とかやり始めたので、対応に飽きたんだなと誰もから認識された。使い魔には尻尾で叩かれていた。

 最終的な措置として『漆黒』の面々がミスリル級へとランクアップしたのであるが、此処でもやはり一悶着あった。エルドビーレがランクアップを全力で許否したのである。これはモモンが間に入ったことで、彼女は不承不承にだがランクアップを受け入れたのだった。

 こうしてエ・ランテルのミスリル級の冒険者チームは、再び三組になったのである。前ミスリル級であったクラルグラは、この騒動で共同墓地へと出陣し、既に帰らぬものとなっていた。惜しむ者が少数であったのが人望に因るものかは定かではない。

 高位階の回復手段を持つであろうエルドビーレに、蘇生魔法の問い合わせがあったこともあった。だが彼女の返答は実に釣れないものだった為に、冒険者組合はクラルグラの蘇生を諦めたという経緯もある。だが彼女が持っていないと言わなかったことで、何故か信仰系魔法詠唱者(マジックキャスター)としての評価が上がった事を記しておく。

 更に翌日には回復したンフィーレア少年が改めてチーム『漆黒』へと依頼を出した。事件の謝礼を受け取らなかった彼らへの礼も兼ねてのものであると、鈍くない者たちは理解した。

 チーム『漆黒』はこの依頼を受けたのだが、別の予定を入れていたというエルドビーレだけは別行動の運びとなった。彼女に気紛れ(カプリチオ)という二つ名が付いたのは、ある意味当然の流れだったのかも知れない。

 




カジット:被害者1
クレマンティーヌ:被害者2。何故か生き残った
ンフィーレア:あみだくじの結果生き残った
クラルグラ:予定調和
ナーベラル:至高の方々が話しているので口を挟まない。メイドなので
ことり:吟遊詩人として有名になれない。おかしいな
モモンガ:彼が走った結果クレマンが生き残った
ねねこ:追々

モモンガさんの言う先生ってのはあれです。クック先生的なね

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