リオルと出会ってから2週間が過ぎ、リオルの怪我が完全に治った。
『そろそろ、旅に出ようと思う』
2階の窓に手をかけながらリオル。
「……」
覚悟はしていたが、やはり別れは悲しい。思わず、俯いてしまった。
『悲しむな、トーマ。一生、会えなくなるわけではない。また、どこかで会えるかもしれないだろう?』
「そうだけど……明日でもいいじゃないか。こんな夜中に出て行くことないって!」
午前0時を回っているのだ。
『昼間だと敵に見つかるかもしれない』
「っ……」
言い返せなかった。
『……そろそろ、行く。世話になったな』
「……ああ、元気でな」
リオルは名残惜しそうに俺の顔を見つめていたが、勢いよく窓から飛び降りた。
(じゃあな、リオル)
そう心の中で呟いた刹那、下からリオルの短い悲鳴が聞こえる。
「リオルっ!?」
また、リオルを狙う奴らが現れたのだろうか。急いで窓から顔を出し、下を覗き込む。
「……あれ?」
庭にはリオルの姿はなかった。そのかわりに2週間ほど前に俺が窓から飛び出した拍子に落ちた小物(片づけようと思ったが、忘れていた)が散らばっている。
「リオル! どこ行ったんだ!?」
まさか、敵に連れて行かれてしまったのだろうか?
「ん?」
庭に出ようと身をひるがえしたその時、庭に落ちていた一つのモンスターボールが視界に入った。
そのモンスターボールはブルブルと震えている。まるで、ポケモンをゲットしているかのように。
「あ……」
そして、ボールの震えが止まり、ポケモンを捕まえた時に出るエフェクトが光った。
「ま、まさか!?」
慌てて部屋を飛び出し、庭に向かった。
「……」
庭に落ちていたボールを拾う。
(これは……あれか)
2階から飛び降りたリオルだったが、足元にモンスターボールが落ちていた。空中ではどうすることもできずにリオルはボールにぶつかってしまった。さらにボールのスイッチは上を向いていた。リオルがスイッチを押してそのまま――。
「……出て来い、リオル」
ボールを軽めに投げてリオルを出す。庭にリオルが出現。体育座りをして落ち込んでいた。
「「……」」
沈黙が流れる。
『わ、私だって……わざとではないのだ』
プイッとそっぽを向きながらリオル。
「わかってるよ……で? どうする? 逃がす?」
『……いや、これも運命だ。私はお前の手持ちになろう』
ため息を吐きながらリオルが言う。
「お前がそれでいいならいいけど……」
『しかし、どうしたものか。これでは旅に出られない』
「なら、一緒に行くか?」
『……何?』
目を見開きながらリオルが問いかけてきた。
「元々、旅に出ようと思っていたしな」
これは本当だ。色々あって家で休んでいたのだが、やはり旅に出たい。
(あいつらだって待ってるしな……)
『本当に旅に出るのか!? 私に気を使ってじゃ?』
「いや、そんなことないよ」
『……ありがとう、トーマ』
リオルがペコリと頭を下げる。
「まぁ……よろしくな、リオル」
妙に照れくさくなり、顔を背けながら手を差し出した。
『ああ! よろしく、トーマ!』
笑顔でリオルが俺の手を握る。
「トーマ、忘れ物はない?」
「大丈夫だって」
「あまり、危険なことはしないようにね?」
「わかってるってば」
「後、ちゃんと食べるのよ?」
こんな調子で3時間が経っている。
『……早く行くぞ、トーマ』
「母さん、俺は大丈夫だってば! 初めての旅じゃないんだし!」
「で、でも……」
「じゃあ、行ってきます!」
リュックを背負って玄関を飛び出す。
「いってらっしゃーい!」
家の前で手を振る母さんに手を振り返す。
『まずはどこに向かうのだ?』
「まだ決めてない」
『それで本当に大丈夫なのか?』
俺の隣を歩くリオルが首を傾げる。
「いいんだよ。これが俺のスタイルだ」
『……まぁ、いいか』
「そうそう。気楽に行こうぜ」
背中には荷物のせいでパンパンに膨れたリュックサック。腰にはまだ2つしかないボール。足元には不安そうにしているリオル。
(久しぶりに楽しくなって来たな)
何だか、ワクワクしてきた。
『ん? どうした、ニヤニヤして?』
「な、何でもないよ!」
少しだけ恥ずかしくなり、俺は走り出す。
『あ! 待て! 走るな!』
それを追うようにしてリオルも駆け出した。
俺たちの冒険が始まった。
「……何? ポケモンの技を使う人間?」
いくつものモニターがある部屋で男の低い声が響いた。その声音は驚きを隠せていない。
『はい、ターゲットと接触した少年がポケモンの技を使っていたそうです』
「ほぅ、まさかこうも私の思い通りにいくとは……で? その少年は今?」
『ターゲットと共に旅に出ました』
「旅、だと?」
男は目を細めて考える。きっと、少年はリオルと一緒にいた。その時にリオルを狙う男二人組に襲われ、ポケモンの技を使い撃退。
(ならば、身を隠していようとするはず……それに私の目的は――)
そこでやっと、少年は自分の存在を何一つ理解していないことに気付いた。
「それは好都合だ。よし、引き続き少年とリオルを監視しておけ」
『はっ!』
男の前のモニターがプツンと切れる。
トーマとリオルの知らないところで何かが動き始めていた。
これにて第1章、完結です。
いかがだったでしょうか?
今のところ、毎日更新していますが第3章の途中までしか書いていない上、ずっと続きを書いていませんので3章の途中で一度、更新がストップすると思います。
ですが、それまでの間は毎日更新するつもりですのでお付き合いください。