「ただいまー」
「あ、おかえりなさい……また喧嘩でもしたの?」
「そんなところ」
「全く、トーマは他の人より頑丈だけど無茶は駄目よ?」
「わかってるよ」
さすがに森の中では傷の手当はできず、男たちをジュンサーさんに引き渡した後(そのころには髪はいつもの黒髪に戻っていた)、家に帰って来た。
母さんも俺が普通の人間ではないと知っているのであまり驚いていないが心配そうな表情を浮かべていた。
『母上様も知っているのか? お前がその……』
『怪物だって知ってるよ』
『……なぁ、教えてくれないか? お前は一体何者なのかを……』
『俺の部屋でな』
まぁ、あの姿を見られた時からこうなると思っていたので覚悟はできていた。
自分の部屋に戻り、手当てをしながら説明する。
『ポケモンの血?』
「ああ、子供のころに俺は何かの事件に巻き込まれたみたいで……その時に大ケガを負ったみたいなんだ」
『何でそんなに曖昧な言い方を?』
俺の背中に貼り薬を貼りながらリオルが質問してきた。
「記憶がないんだよ。頭を強く打ったせいで事件の内容も覚えてない」
『調べられなかったのか?』
「誰かに揉み消されたみたいでね。話を戻すよ? 怪我をした俺はポケモンに助けられた。そのポケモンは俺の傷の具合を見て一刻を争うとわかったらしくて、自分の血を飲ませたんだ」
俺の言葉を聞いてリオルが驚くのが手に取るようにわかった。
『大丈夫なのか? ポケモンの血を飲んでも』
「大丈夫じゃなかったら俺は生きてないよ……血を飲んだ俺の傷は一瞬にして消えた。そして、俺を助けてくれたポケモンは姿を消した」
『そのポケモンの正体は?』
リオルの問いかけには首を横に振るだけで答える。
『そっか……それからあの姿に?』
「ああ、俺の任意であの姿になれる。最初はコントロールが効かなくて辛い思いをしたけどね」
『ふむ……では、そのポケモンの血を飲んだからお前はポケモンの技を使えるのか?』
「みたいだね……最初からは無理だったけどポケモンが技を繰り出すのを見たら使えるようになったんだよ」
俺が一番、最初に使えるようになった技は≪でんこうせっか≫だった。それから森のポケモンたちと触れ合っていると色々な技を覚えることができたのだ。
『なるほど……』
「これで俺の話は終わり。早く傷の手当てをしないと」
特にクロバットの≪どくどくのキバ≫を受け止めた右腕だ。牙の痕はもちろん、毒が入り込んだのか酷く腫れている。“特性”のせいで一刻を争う。
『了解した』
慌ててリオルが消毒液と包帯を手に取り、治療を始める。
「……なぁ?」
『何だ?』
「お前、これからどうするんだ? お前を狙ってる奴らもいるみたいだし……」
『……私の気持ちは変わらない。旅に出るよ』
「なら、俺も――」
振り返って提案するがリオルは首を横に振る。
『これ以上、お前に迷惑はかけられない』
言い返そうと立ち上がるが、リオルの目を見て悟った。何を言ってもこいつは一人で旅をするつもりだ、と。
「……わかった。でも、怪我が治るまではここにいろ」
『それはありがたい。そうさせてもらう。母上様には迷惑をかけるがな』
「そうだな」
リオルを見て顔を引き攣らせる母さんの姿を思い浮かべ、苦笑してしまった。