「……っ」
額に微かな痛みが走り、目を開ける。確か、私を狙った奴らが来てそいつらから逃げようとした。だが、窓を開けた瞬間、目の前に丸い物が飛んで来て――。
(当たって気絶したか……)
恥ずかしくなり、両手で顔を覆いたくなったがそれよりも衝撃的な光景が目に入った。
「……」
私を庇うように前に立つ少年。きっと、私を助けてくれた少年だ。だが、見た目が全く違っていた。
黒かった髪は白に。短かった髪型は今や腰まで伸びている。ここからじゃ顔は見えないが、少年の足元には血だまりが出来ていた。そして、少年の前にはクロバットとグラエナの2体がいる。
『な、何やっているんだ!?』
「や、やっと目を覚ましたか……」
息を荒くした少年がこちらを見ずに呟く。
『お前、人間なのにポケモンと戦うなんてどうかしている! 早く、逃げろッ!』
その時、クロバットが少年に近づき、牙でその腕を噛む。≪どくどくのキバ≫だ。
「……ッ」
少年の体が痛みで呻き声を上げた。
『バカッ!? どうして、躱さないのだ!?』
「躱したらクロバットはお前に攻撃するだろ……」
その言葉を聞いて私は驚愕する。ポケモンは人間より頑丈だ。私が人間ならポケモンを置いて逃げるだろう。
しかし、この少年は逃げるどころか私に攻撃させないように自分の体を犠牲にして私を守っているのだ。
「俺が足止めしてる間に……お前は逃げろ」
『なっ……』
「お前が目を覚ました事に敵は気付いてない。逃げるなら今だ」
この少年は一体、何者なのだろう? ポケモンの攻撃を喰らいながらも私を逃がそうとするなんて正気の沙汰ではない。
(それに……何だ、この波動は?)
少年から感じ取れる波動は人間のそれとは違った。前までは普通の人間と変わらなかったのに。
『お前、何者なんだ?』
気付いた時にはそう少年に問いかけていた。
「俺は……ただの化け物だよ」
そう言って少年はクロバットが噛み付いている右腕を横に振るう。その刹那、クロバットが凄まじい勢いで近くにあった木に叩き付けられた。
「クロバット!? しっかりしろ!」
右側にいた敵が悲鳴を上げる。どうやら、あいつがクロバットのトレーナーらしい。私もクロバットに目を向けて観察する。瀕死にはなっていないが、痛みで動けないようだ。
『お前……』
「リオル、行け。俺は大丈夫だから」
少年は一度も振り向かずに言う。特に大きな声ではなかったが、不思議と私の心に響いた。
『……ふざけるな』
「リオル?」
私の発言が意外だったのがチラリとこちらを見る少年。
「グラエナ! ≪かみくだく≫!」
少年がこちらに気を取られた刹那、左側にいた敵がグラエナに技を指示する。
「しまっ――」
慌てて前を向く少年だったが、その時にはグラエナは目の前に来ていた。躱せない。だが、グラエナが動き出すと同時に私も立ち上がって駆け出していた。
「リオル!?」
少年の横を通り過ぎてグラエナの前に飛び出す。そして、間髪入れずに≪はっけい≫を繰り出した。
私の渾身の一撃がグラエナに直撃し、吹き飛ばす。
「リオル……」
振り返ると少年が驚いた表情を浮かべていた。先ほどまでは顔は見えなかったが、人間の時とあまり変わらない。違いは目の色が青になっているところだけだった。
『私は逃げない。私のために体を張ってくれる人がいるんだ。だから、私も共に戦う!』
少年が一体、何者なのかはわからない。しかし、この人間は信じてもいいと思えたのだ。
「……ああ、わかった」
私を見ながらニヤリと笑う少年が頼もしく見える。もし、ゲットされるなら少年のような人間にゲットされたいと思った。
『まずはお前が使える技を教えてくれ』
口から血をペッと地面に吐きながら少年がテレパシーを使って伝えて来る。
『了解した。しかし、お前が普通の人間じゃなくてもどうやって、戦うのだ?』
『決まってるだろ? ポケモンバトルだ』
『……は?』
思わず、首を傾げてしまう。
『いいから教えろ。すぐにわかる』
『りょ、了解した……あ、その前に一つ質問いいか?』
『何だ?』
『名前を教えてくれ。まだ、聞いていなかったから』
私の質問を聞いて少年が目を見開く。
「俺は……トーマだ」
『……トーマだな。いい名前だ。よろしくな、トーマ』
『ああ、こちらこそ』
それからすぐに私たちはテレパシーを駆使して作戦会議を始めた。
やっと次回からポケモン?バトルです。
あ、主人公は人間であって人間じゃないちょっと曖昧な存在となっております。
後々、説明があります。