「あ! いたぞ!」
後ろから黒いスーツを来た外人二人が迫って来る(今度から左の外人をレフト。右の外人をライトと呼ぼう)。
「くそっ……」
少し、見つかるのが早かった。急いで目的地に向かう。
「クロバット! ≪エアカッター≫!」
クロバットと合流していたのかライトが叫んだ。その指示に従って、クロバットが技を繰り出す。
「うわッ!?」
何とか、頭を下げて回避した。だが、≪エアカッター≫が目の前の地面を抉り、石や土がこちらに飛んで来る。リオルを右腕だけで抱いて、左腕を顔の前に持って顔面を守った。しかし、体中に石が衝突して鈍い痛みが走る。
「ぐっ……」
痛みでこけそうになったが、何とか踏ん張って足を動かし続けた。
(あった! あの洞窟だ!!)
走る速度を上げ、洞窟の中に入る。
「待て!」
俺の後を追って外人二人も洞窟に侵入。
「≪ちょうおんぱ≫!」
ライトがクロバットに技を指示。洞窟の中なので音は反響する。それを狙ったのだろう。
「うおおおっ……」
その作戦は成功し、鼓膜が破けそうなほどの音に視界がチカチカする。でも、足は止めない。もう少しだ。
その時、洞窟の奥の方から何かがこちらに走ってくるような振動を感じ取った。すかさず、横穴に転がり込む。
「な、何だ!?」
レフトが足を止めてライトに質問するが、ライトもわからないようで首を横に振った。
(さぁ、来い……)
≪ちょうおんぱ≫のせいであまり、音は聞こえにくくなってしまったが振動はどんどん大きくなる。
「お、おい!? あれ、ダンゴロの群れじゃないか!?」
いち早く、気付いたライトが悲鳴を上げた。
ダンゴロは聴覚が発達しており、音がした方に歩く習性がある。そして、この洞窟にはたくさんのダンゴロが住んでいるのだ。
そんな洞窟で≪ちょうおんぱ≫などしてみろ。この洞窟に住むほとんどのダンゴロが音のした方向――つまり、クロバットに群がるに決まっている。
自分で大きな音を出してダンゴロたちをおびき寄せようとしたのだが、≪ちょうおんぱ≫はありがたかった。
「に、逃げるぞ!!」
「おう!」
慌てて、レフトがライトに叫ぶと二人とも洞窟を飛び出した。俺もダンゴロを宥めてから(ここのダンゴロたちとは友達なので少し話しただけでだいたい、俺の言いたい事は伝わる)洞窟の外に出る。そこには外人二人を睨みつけるガルーラがいた。すぐに岩の陰に
隠れる。
「くそっ! どうして、こんなところにガルーラが!!」
今の時間、ここはガルーラのお散歩コースなのだ。この山に住むポケモンや俺のように仲がいい人ならいいのだが、見知らぬ人がいると子供を守る為に攻撃する。
ガルーラが≪メガトンパンチ≫を繰り出す。
「クロバット! ≪くろいきり≫!」
すかさず、クロバットが黒い霧を放って身を隠した。
「そのまま、≪エアスラッシュ≫!」
クロバットを見失ったガルーラがキョロキョロと見渡している隙にクロバットがガルーラの背中に向かって≪エアスラッシュ≫で攻撃する。
背中に攻撃を喰らったガルーラはその場に倒れてしまう。
(ガルーラ……すまん)
実はこのガルーラはこの山で1、2位を争うほどの強さを持つポケモンだ。その実力を信じて外人二人とぶつけたのだが、予想以上にあのクロバットが強かった。
(急いで次の作戦に……)
まだ、≪くろいきり≫が充満しているのでその霧に紛れて移動しようとしたが、木の枝を踏みつけてしまう。
「っ!? いたぞ!」
「まずっ……」
俺と敵の距離は数メートル。クロバットは今、ガルーラの近くにいるので俺に攻撃するまでには時間がかかるだろう。そう思っていた束の間、レフトがボールを取り出す。
「グラエナ! ≪とっしん≫!」
ボールから飛び出したグラエナが俺たちに向かって≪とっしん≫を放つ。躱せない。
「がッ……」
リオルだけは守ろうと庇うためにグラエナに背中を見せた。グラエナの≪とっしん≫が直撃し、肺の中の酸素が口から漏れる。あまりの威力に地面を2回ほどバウンドしてやっと、止まった。
「はぁ……はぁ……」
何とか、立ち上がって前を見るとグラエナの隣にクロバットがやって来る。クロバットは素早いポケモンだ。逃げられない。
(戦うしかないか……)
まだ、気絶しているリオルを地面にそっと横に寝かせる。作戦は中途半端に終わってしまったが、仕方ない。俺は両手をギュッと握って構えた。