リオルを見つけてから早3日。リオルの記憶は戻って来なかったが、傷の方はだいたい、回復した。
「体の調子はどうだ?」
『少し、痛むが動けないほどではないぞ』
俺のベッドの上でジャンプしながらリオル。元気になった事をアピールしたいようだ。
「そりゃ、よかった……でも、左頬の傷は残っちゃったな」
まだ、絆創膏を貼っているので見えないが、左頬には痛々しい傷跡が残っている。
『まぁ、命があっただけマシだ。本当に世話になった』
そう言ってリオルは頭を下げた。
「元気になったのはいいけど……これからどうするんだ?」
『そうだなぁ……旅をしながら気長に記憶が戻るのを待つよ』
「そっか。一人で大丈夫か?」
『どうにかなるだろう』
リオルは少し、不安げに言う。
「……なぁ?」
リオルに声をかけた瞬間、チャイムが鳴った。
「誰だろう? ちょっと、待っててね」
『了解した』
生憎、母さんは仕事に出かけているので仕方なく俺が玄関に向かいドアを開ける。
「どちら様です……か?」
ドアの前にいたのは黒いスーツを来た二人組の外人だった。サングラスをかけていたので迫力があり、思わず言葉が詰まってしまう。
「こいつを探している。この家にいると言う情報を得てやって来た」
俺から見て左にいた外人が1枚の写真を取り出しながら、話してくれる。その写真にはリオルが映っていた。カメラには気付いていないようで、盗撮した事がわかる。
「……このリオルがどうしたんですか?」
「少し訳ありでな。説明できない」
怪しい。どうも、嫌な雰囲気だ。
「すみません。このリオルですが、昨日まではいました。ですが、今日の朝早くに出て行ってしまいましたよ」
気付いた時には嘘を吐いていた。
「……本当だろうな?」
「はい」
「じゃあ、家の中を調べさせて貰っても?」
「……どうぞ。ですが、家の物には触らないでくださいね?」
ここで断ってしまえば、逆に怪しまれる。
『リオル! 聞こえるか?』
外人二人を家の中に入れ、リオルに向かってテレパシーを送った。
『何だ?』
『今すぐ、部屋の窓から逃げろ。お前を狙ってる奴らが来た』
『私を……狙っている奴ら?』
『とにかく、逃げろ。何だか、嫌な予感がする。後、音を立てるなよ』
男たちが家の中を隅から隅まで探している。今なら、大丈夫だ。
『……ああ、わかった。今まで、世話になったな』
『元気でな』
そう言ってリオルの声が聞こえなくなる。どうやら、無事に脱出できたようだ。
「……2階も調べていいか?」
「ああ、あまり散らかすなよ」
外人が2階に上がって行く。俺もその後に続いた。
「この部屋は?」
「母さんの部屋」
そうか、と頷いた外人が部屋のドアを開ける。数秒ほど調べた後、部屋を出た。
「ここは?」
「俺の部屋」
「……」
黙った外人はそのまま、ドアを開ける。
「……これはどういう事だ?」
「は?」
外人に続いて部屋を覗くと額にたんこぶを作って気絶していたリオルがいた。窓が開いていて、床には野球ボールが転がっている。どうやら、窓から出ようとしたら、野球ボールが飛んで来てぶつかってしまったようだ。
「くっ……」
外人の脇を通り抜けてリオルを抱き上げ、窓から脱出する。
「おいっ! リオルが逃げたぞ! 追え!!」
2階から飛び降りて、着地と同時に転がって受け身を取った。下が庭でよかった。芝生がある程度、衝撃を吸収してくれたのだ。
(とにかく、逃げなきゃ)
あいつがいればまだ、何とかなったのだが、ボールが付いたベルトは部屋に置きっぱなしだ。俺一人でどうにかしないといけない。俺が窓から飛び出した時に部屋の物がいくつか落ちてしまったが、その中にベルトはなかった。
「行けっ! クロバット!」
2階の窓からクロバットが飛び出して来る。すぐに庭にいた俺を向かって≪エアカッター≫を放った。
「くそっ!」
右に転がって≪エアカッター≫を回避。考えている暇はない。靴下のままだが、俺は走り出した。その後をクロバットが追いかけて来る。このままでは追い付かれてしまう。
(山だ……あそこなら隠れる場所もある)
そうと決まれば早い。右に曲がって山に向かった。
「……ふぅ」
クロバットが通り過ぎて行くのを見て俺は溜息を吐く。無事に山に辿り着き、クロバットを撒く事に成功したのだ。
「おい、起きろ」
俺の腕に抱かれているリオルに声をかけるが、反応がない。
(どうしたもんかなぁ……)
敵は2人。しかも、クロバットを持っていたと言う事は他にもポケモンを持っていてもおかしくない。
対するこちらの手持ちはゼロ。リオルも気絶中。それにクロバットは毒・飛行タイプ。格闘タイプのリオルは不利である。例え、リオルが目を覚ましてバトルしても勝てる見込みは薄い。
考えろ。この状況を打破する方法を。
「……よし」
作戦も思いついた。まずは敵をあそこにおびき寄せないといけない。俺は立ち上がって行動を開始した。