ご了承ください。
「記憶がない?」
『そうなのだ。私は何故、大けがを負っていたのか? どうして、あそこにいたのか? 全く、覚えていないのだ』
腕を組んで唸るリオル。もしかしたら、怪我を負った時に頭を打って記憶が飛んでしまったのかもしれない。
『でも、どうしてテレパシーなんか使えるんだ? 普通、使えないと思うけど……』
『それがわかれば苦労はしない。私もよくわかっていないのだ。だが、何故か出来るって思ってな』
リオルがはてな顔で教えてくれた時、ドアをノックする音が聞こえた。
「そろそろ、起きなさい」
俺が返事をする前に母さんがドアを開けてしまう。そして、俺のベッドに座っていたリオルを見てビクッと肩を震わせる。
「あ、あら……リオル、起きてたのね。じゃあ、朝ごはんはテーブルの上に置いてあるから食べてね。私、仕事に行って来るから!」
慌てて母さんが言うとすぐに出て行ってしまう。
『誰だ?』
『俺の母さんだよ』
『ふむ……何故、私を見て逃げたのだ? そんなに怖い容姿ではないと思うのだが』
『母さん、ポケモンが苦手なんだよ』
なるほど、とリオルが頷く。そして、リオルのお腹からぐぅ、と言う音が聞こえる。
『こ、これは違うぞ!? 決して、お腹が空いたと言うのではなく、えっと……』
「今、持って来るね」
顔を紅くして言い訳するリオルの頭を撫でて、俺は部屋を出た。すぐに俺の朝食とポケモン用の食べ物を持って部屋に戻って来る。
『お前もここで食べるのか?』
『母さんは仕事だからね。君は怪我で動けないしここで食べるよ』
『そ、そうか……ありがとう』
そっぽを向いてお礼を言うリオル。その姿が可愛らしくて微笑んでしまった。
『な、なんだ!? その顔は!』
『いいから早く食べよ?』
リオルの前にご飯を置く。それから、俺の机に自分の朝食を置き、『いただきます』と言ってパンを齧った。
『……美味しいな』
「俺が作ったしな」
テレパシーを使うのが面倒になり、声に出して説明する。因みに俺が作ったのはリオルのご飯で俺が食べているのは母さんが作ったものだ。
『何!? これをお前が作ったのか!?』
目を丸くしてリオルが驚愕した。
「そんなに驚く事か?」
『いや、だって……お前の母さん――母上様はポケモンが苦手なんだろう? なら、どうしてポケモン用のご飯があるんだ?』
俺の家にはポケモンがいないと思っていたようだ。
「俺だってトレーナーの端くれだぜ?」
少し訳があって滅多にボールから出さないけど。それに今は一匹しかいないし。
『そうだったのか……どんなのだ?』
「秘密」
『むぅ、教えてくれてもいいだろう……』
俺が黙秘権を使用するとリオルは頬を膨らませて拗ねてしまう。だが、あいつの事はあまり話したくないのだ。
「ご馳走様……じゃあ、包帯を変えるか」
そう言いながら救急箱から消毒液と包帯を取り出す。
「ふも?」
口いっぱいに食べ物を詰め込んでいたリオルがこっちを見ながら首を傾げた。可愛い。
「お前は食べてていいよ。右腕上げて」
口を動かしながら右腕を上げるリオル。その腕に巻いてあった包帯を外す。
「よかった……化膿はしてないみたい」
『お前の手当てが良かったんだな』
左手で食べ物を口に運びながらリオルが言う。
「まぁ、慣れてるしな」
昔から山に行って野生のポケモンたちと遊んだり、戦ったりしていたので怪我が絶えなかったのだ。
「はい、今度は両腕上げて」
腰に巻いた包帯を取る為にそう指示するがリオルが目を見開いて
『何!? それでは食べられないではないか!?』
と、文句を言って来た。
「今の内にいっぱい、口の中に詰め込め」
『了解した』
頷いたリオルは次から次へと食べ物を口に運ぶ。しかし、その動作がピタリと止まる。
「どうした?」
『の、喉に詰まった!?』
「は、はい!?」
『み、水! 水をください!!』
リオルの顔がどんどん、青くなっていくのを見て急いで水を取りに行った。