ポケットモンスターブラッド   作:ホッシー@VTuber

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第17話

「リオル、お前、まだいけるか?」

『え? でも、ガブリアスもストライクもすでに戦闘不能だぞ?』

 リオルの言う通り、相手は二匹をボールに戻している所だった。

「いや、多分、他にも持ってるはずだ」

『そんなこと、何でわかるのだ?』

「勘だよ。サーナイト、準備はいいか?」

 そう言いながらサーナイトの方を見ると、めちゃくちゃリオルのことを睨んでいた。

『な、何なのだ?』

 リオルもそのことに気付き、戸惑っている。

「おい、どうした?」

「……(ぷいっ)」

 ものすごく不機嫌だ。俺が捕まっていたからそれが理由だと思うが。

「いけ、ドンカラス」「頼むぞ! アギルダー!」

 眼鏡の奴がドンカラスを、蝶ネクタイ(ユカリはそこまで見ていなかったが、眼鏡の人はネクタイなのに対し、何故か右の人は蝶ネクタイだった)がアギルダーを繰り出した。

「サーナイト! <めいそう>! リオルはアギルダーに<ブレイズキック>!」

 <こうそくいどう>で素早さが上っているリオルは一瞬にしてアギルダーの前に移動する。

「アギルダー、<さきどり>!」

『ガッ!?』

 だが、2段階スピードが上っているのにアギルダーの方が速かったようで、リオルの顎を<ブレイズキック>が捉えた。

「ドンカラス、<わるだくみ>」

 サーナイトを見て眼鏡もドンカラスの能力を上げて来る。

「おらっ!!」

 その隙に俺自身がドンカラスに向かって<メガトンパンチ>を放った。

「なっ?!」

 まさか、俺が人間の状態でポケモンの技が使えるとは思っていなかったようで、眼鏡が目を見開く。そのまま、ドンカラスに<メガトンパンチ>が直撃する。

「サーナイト、<めいそう>! リオル、<つるぎのまい>!」

 二人が能力を上げている間、俺がドンカラスとアギルダーを何とかしなくてはいけない。

「ドンカラス、サーナイトに<シャドーボール>!」

「アギルダーはリオルに<きあいだま>!」

「うおおおおおおおおお!!」

 俺は人間の姿のまま、アギルダーの<きあいだま>に向かって<すてみタックル>を放ち、<きあいだま>の軌道を変えた。軌道を変えられた<きあいだま>はそのまま、<シャドーボール>に衝突し、大爆発を起こす。

(想像以上に、反動が……)

「「何!?」」

「リオル、俺と<バトンタッチ>!!」

 吹き飛ばされながらリオルに指示を飛ばした。

『ああ!』

 返事をしながらリオルは両手を叩き合わせる。すると、視界が変化した。

「今度はサーナイトと!!」

 体に起きている変化を感じながら命令する。パチンと音がして、リオルとサーナイトの立ち位置が入れ替わった。

「……ほう、それがモンスフォルムか」

 眼鏡が冷や汗を流しながらそう呟く。

 そう、俺は今、怪物化していた。眼鏡たちが言う『モンスフォルム』という奴だ。

 俺が『モンスフォルム』になるきっかけは大きく分けて二つ。

 一つは自分の意志でフォルムチェンジすること。

 もう一つは、俺がダメージを受け過ぎたら自動的にフォルムチェンジする。

 少し前にリオルを狙った黒いスーツ野郎たちからリオルを守り、攻撃を受けた時も後者の理由で『モンスフォルム』になってしまった。

「……トーマさん?」

 髪が長くなり、色も白くなった俺の姿を見て後ろからユカリの呟きが聞こえる。しかし、俺は何も答えずに敵をジッと見据えた。

「二人とも、準備はいいか?」

『ああ』「……(コクリ)」

 リオルとサーナイトが同時に頷く。

「リオルに<サイコキネシス>!」「<ヘドロばくだん>!」

 ドンカラスがリオルに、アギルダーがサーナイトに向かって攻撃。

「サーナイト、<サイコキネシス>!」「リオルはそのままだ!」

 サーナイトが<ヘドロばくだん>の軌道を変えて躱し、ドンカラスの攻撃をまともに喰らい、リオルは壁に叩き付けられる。

 だが、その間に俺はアギルダーの懐に潜り込んだ。

「<インファイト>!!」

「アギルダー、<さきど――」

 蝶ネクタイが咄嗟に指示を出そうとするが<こうそくいどう>と<バトンタッチ>の効果で素早さが上っている俺には無駄なことだった。更に<つるぎのまい>で攻撃力も上っているため、アギルダーは一溜りもないだろう。

「<は、どう、だん>!!」

 アギルダーに向かって攻撃している最中にリオルに向かって叫んだ。

『はあああああああっ!』

 <サイコキネシス>を耐え切ったリオルは絶叫しながら<はどうだん>をドンカラスに放つ。

「耐えたッ!?」

 眼鏡が驚愕している間にドンカラスに<はどうだん>が直撃。サーナイトの<めいそう>で特功と特防が2段階上っている。その結果、<サイコキネシス>に耐えることも出来た。

「サーナイト!! <ムーンフォース>!」

 <インファイト>も終わり、急いでアギルダーから離れながら最後にサーナイトに指示を飛ばした。唯一、能力が変化していないサーナイトだったが、最初の<ムーンフォース>よりも威力が上っている。<ムーンフォース>はドンカラスとアギルダーを巻き込み、そのまま眼鏡と蝶ネクタイも一緒に吹き飛ばされた。

 背後にあった大きなコンピューターに叩き付けられた二人は気絶してしまったようで、床に伸びている。

「……ふぅ」

 『モンスフォルム』のまま、ため息を吐いた。実は怪物化した後、体力が回復するまで元に戻れないのだ。

「リオル、サーナイト、お疲れさ――きゃあああああ!!」

 振り返りながら二匹を労うとサーナイトが飛び付いて来て思わず、悲鳴を上げてしまった。

「や、やめっ! 駄目! さ、サナっ! ああああああっ!!」

『と、トーマ!?』

 サーナイトの急変振りにリオルも驚いているようだが、早く助けて欲しい。このままでは色々な物を失ってしまう。

「り、リオ、ルッ……た、助け……駄目だってば!?」

「……(♪)」

「何、喜んでんだよ!?」

 だから、出したくなかったのだ。ご飯をあげる度にこうなるから。本当に、もう嫌だ。

「トーマさん!!」

「うおっ!?」

 突然、ユカリが大きな声を出したので吃驚してしまう。サーナイトも何事かと一瞬だけ、体を硬直させたが、気にせず続けた。

「てか、続けんなよ!! リオル、ボール持って来て!」

『わ、わかった!』

 慌てて、リオルがボールを取って来ようとするが、サーナイトは<サイコキネシス>でボールを宙に浮かし、天井付近まで上昇させ、そこで固定させた。

『ああ!? 届かないではないか!!』

 ピョンピョンとジャンプするリオルだったが、その苦労空しくボールには届かない。

「サーナイト……」

「……(もじもじ)」

 何か、物欲しそうに俺を見ている。

「駄目」

「……(プクー)」

 サーナイトは怒っている。

「トーマさん! 無視しないでくださいよ!」

 すると、ユカリが怒りながら俺に近づいて来た。

「あ、今は駄目だ!!」

「……(ギロリッ)」

 サーナイトが一瞬だけユカリを睨むと<サイコキネシス>を発動。

「え?」

 ユカリの体が浮かんでしまった。

「リオル!!」

『わかっている!』

 ボールを諦めたリオルが<でんこうせっか>でユカリの元へ急いだ。

「え? え? きゃ、きゃああああああああっ!?」

 戸惑っていたユカリだったが、凄まじい勢いで弾き飛ばされて悲鳴を上げる。

『よっと』

 だが、壁に叩き付けられる前にリオルがキャッチ。何とか、間に合ったようだ。

「あ、ありがと……」

『何、気にすることはない』

「チコリータ! <つるのムチ>!」

 俺の指示に素直に従ったチコリータはサーナイトのボールを回収し、俺の元まで届けてくれた。

「戻れ!!」

「……(フルフルフルフル)」

 首を振って拒否したサーナイトだったが、問答無用でボールに戻す。しかし、サーナイトは素早くボールから射出されたレーザーを回避し、俺から距離を取った。

「戻れって!」

「……(フルフル)」

 何度もチャレンジするが、サーナイトは躱し続ける。

「……サーナイト」

「……(?)」

 俺が呼びかけると『何?』と言いたげに首を傾げた。

「おいで」

 優しく、声をかける。

「……(きゅん)」

「ほら、怖くないからおいで?」

「……(もじもじ)」

 顔を紅くしてモジモジし始めるサーナイト。何を考えているのかは想像したくなかったので、考えないことにした。

「サーナイト、ほら」

「……(キュピーン)」

 サーナイトは変なスイッチが入ったようで息を荒くしながら俺に向かってダイブする。

「はい、戻れ」

「……(ッ!?)」

 さすがに空中にいれば咄嗟に躱せまい。サーナイトは目を見開きながらボールに戻って行った。

「……はあああああ」

 長くて深いため息を吐いてその場に寝転がる。本当にあいつは疲れる。

「えっと、トーマさん、もういいですか?」

 心配そうに俺を見下ろしながらユカリ。

「え? あ、うん」

「その姿は一体?」

「……まぁ、見られたからにはしょうがないか」

 アギルダーの<きあいだま>を受けてもこの姿にならないと高を括っていた俺の責任だ。

「でも、とりあえず、ここから離れよう」

「そうですね……ですが、その姿でも大丈夫なのですか?」

「あー……オレンのみとかある?」

 俺のバッグは今、ポケモンセンターにある。

「ありますよ。オボンのみでも構いませんか?」

「すまんな」

 バッグを漁っているユカリを見て、俺はため息を吐く。折角、仲良くなったのにすぐお別れしなくてはならない。やっぱり、それは悲しい事だった。

 


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