「リオル! <でんこうせっか>! チコちゃんは<つるのムチ>でガブリアスの足を引っ張って!」
リオルがストライクに向かってタックルし、ストライクの態勢を崩す。その隙を狙おうと接近して来たガブリアスだったが、<つるのムチ>で足を引っ張られ、転んでしまった。
「ガブリアス、ツルを逆に引っ張って<ドラゴンクロー>」
「ストライク、<つばさでうつ>!」
でも、相手も黙ってそれを見ているわけじゃない。眼鏡の人がガブリアスに、右の人がストライクに素早く指示を出した。
「チコちゃん、引っ張られた勢いで<たいあたり>! リオルは<こうそくいどう>で躱して!」
リオルの<でんこうせっか>でもビクともしなかったガブリアスに向かってチコちゃんが<たいあたり>する。今度は少しだけ効いたようだが、相手の攻撃を止めるほどではなかったようで、<ドラゴンクロー>をまともに喰らってしまった。リオルも直撃ではなかったようだが、掠ってしまったようで慌てて私の元に帰って来る。
(……よし)
「リオル! ストライクに向かって<ブレイズキック>! そのまま、<しんくうは>! チコちゃんは<つるのムチ>!」
<こうそくいどう>でスピードが上がったリオルがストライクの顎に炎の蹴りを入れる。そして、また近づいてきたガブリアスを<しんくうは>で牽制した。
「ガブリアス、<ドラゴンダイブ>!」
<しんくうは>を受けて怯んでいたガブリアスだったが、すぐに正気に戻りリオルに<ドラゴンダイブ>で攻撃する。
『ぐっ』
さすがに空中では躱せずに壁に叩き付けられてしまう。
「あ! おい! あのチコリータ、何か持ってるぞ!」
「っ……」
リオルが敵の注意を引いている内にチコちゃんが<つるのムチ>でトーマさんにモンスターボールを届けようとしたが、途中でばれてしまった。
「チコちゃん! 急いで!」
「ストライク! <つばさでうつ>!」
トーマさんまでもう少しというところでストライクにボールを弾かれる。
「リオル! <はっけい>!」「ガブリアス、<ドラゴンクロー>!」
リオルとガブリアスがほぼ同時にボールに向かって技を繰り出す。すると、ボールは私の方に飛んで来た。
「トーマさん!」
それを思い切り、檻に向かって蹴飛ばした。
「させるか! <きりさく>!」
「<たいあたり>!」
ストライクの鎌がボールに触れる前にチコちゃんがボールに体当たりする。その先にはリオルがいた。
「<ブレイズキック>!」「<アイアンヘッド>!」
また、リオルとガブリアスの技がボールに当たる。だが、今度は私の方ではなくトーマさんがいる檻の方へ飛んで行った。
「させるか!」
ポケモンに指示を出していたら間に合わないと踏んだのか、右の人がボールをキャッチしようと駆け出す。
「駄目!」
私も無意識の内に走り出していて右の人に飛び付いた。
「は、離せ!」
「嫌だ!」
必死になってしがみ付いていたが相手は大人の男。すぐに突き飛ばされてしまう。
「チコちゃん! っ……」
すぐに指示を出そうとしたが、チコちゃんの目の前にはストライクがいてすぐに動けない状況だった。リオルもガブリアスがいて駄目だ。
「くっ……」
悪態を吐きたいがそんな暇はない。右の人を追うためにボールの方を見て、私は目を見開いた。
「……よくやった、お前たち」
檻の中でボールを掴んでニヤリと笑っているトーマさんがいたからだ。縛られていたはずなのに隙を見て縄を解いたらしく、トーマさんの足元に縄が落ちていた。
「お、お前……起きてたのか」
「ああ、最初からな。でも、よくこのボールを持って来てくれた。ありがとう。ユカリ、リオル、チコリータ」
「よかった……」
緊張の糸が切れてしまい、その場でへたり込んでしまう。
「ガブリアス! <ドラゴンダイブ>!」
「っ!? リオル!」
『しまっ――』
リオルもトーマさんに気を取られていたのだろう。気付いた頃にはもう、躱せない距離までガブリアスは接近していた。
「頼む」
そんな中、トーマさんは手に持っていたボールを投げる。
その刹那――この部屋が揺れた。いや、揺れたのではない、威圧感が発生したのだ。
「<サイコキネシス>」
威圧感に圧倒されている中、トーマさんの指示が飛んだ。そして、ガブリアスが壁に叩き付けられた。
「が、ガブリアス!?」
眼鏡の人が叫んだ。右の人も目を見開いて唖然としている。
「リオル、檻を壊してくれないか?」
『あ、ああ……』
リオルが<はっけい>で檻を壊し、トーマさんが脱出する。
「ユカリ、チコリータと一緒に離れてろ」
「え? でも……」
「チコリータ、限界だ」
それと同時にストライクの前でチコちゃんがパタリと倒れてしまう。
「チコちゃん!?」
「す、ストライク! <つばさでうつ>!」
その隙を右の人に突かれてしまった。
「<10まんボルト>!」
チコちゃんに技が届く前にストライクを電撃が襲う。しかし、ストライクは寸前のところで回避した。
「と、トーマさん……」
「ほら、急げ。巻き込まれるぞ」
今度は素直にチコちゃんを回収し、部屋の隅に避難する。
「さてと……お前ら、やっちゃったな」
「は?」
右の人が目を点にした。
「いやぁ、俺だってこんなことはしなくないけどさ? 俺じゃ止められないんだわ」
『トーマ? 何を?』
「じゃあ、そろそろ。行こうか?」
そう言えば、トーマさんのボールに入っていたポケモンの姿がない。先ほど、ボールから出て来る音はしたから、外にいるはずなのだが。
「<ムーンフォース>」
ボソリと指示を出すトーマさん。その刹那――。
「ストライク!?」
突然、ストライクが吹き飛び、まだフラフラしていたガブリアスに衝突する。
「そ、そんな……」
「一体、何なんだ!?」
敵は呆然としていた。そりゃ、得体の知れない何かに攻撃を受けているのだから。
「お前、本当に俺が関わってると、とんでもないことになるよな?」
トーマさんは呆れ顔で私がいる場所とは別の方を見ながら呟く。部屋の隅なので暗くてよく見えないが何かいるのだけはわかった。
「出て来いよ」
そう言うと、隅にいた何かがトーマさんの傍に移動する。
「あ、あの子!?」
トーマさんのもう一匹の手持ち――それは、サーナイトだった。
そして、そのサーナイトに私は見覚えがあった。
『ポケモンリーグに出てた……子』
そう、ポケモンセンターのテレビでやっていた去年のポケモンリーグの再放送に出ていた子だった。それはつまり――。
「トーマさんは……去年のポケモンリーグ、優勝者?」
私の呟きに対して、トーマさんはただ黙っているだけだった。
ボールすっごい頑丈!と言うツッコミはなしでお願いしますw