「『……』」
見張りの男が通り過ぎるのを待って私たちは廊下を駆け出す。
『次、右から来る!』
「あそこの角に!」
そして、また止まる。これを何度も繰り返して来た。さすがに体力が底を尽きそうだ。
『大丈夫か?』
息を荒くしている私を見てリオルが問いかけて来る。
「うん、大丈夫だよ」
『……見張りの奴らに聞かれるかもしれないからお前もテレパシーを使え』
『こ、こう?』
『そうそう、上手いぞ。さて、どんどんトーマの波動が大きくなっている。もう少しだ』
『うん!』
私とリオルは頷き合ってまた、走る。
『ここだ!』
リオルが一つの扉の前で立ち止まった。だが、その扉にはドアノブがない。電子扉だ。
『これは壊すしかないのか?』
悔しそうにリオルが呟いた。
「待って」
確かにこの電子扉は扉の横にある端末にパスワードを入力しなければならない。普通の人には無理だろう。でも、私になら――。
「チコちゃん!」
ボールからチコちゃんを出す。
『ユカリ、何を?』
『リオル! 中に人は?』
『トーマの他に2人』
『なら、戦闘になるかもしれないから準備しておいて!』
そう言いながらバッグからとある機械と色々な工具が一緒になっている私お手製の便利ツールを取り出す。それをチコちゃんにツルで持ってもらい、次に端末のネジをドライバーで取って蓋を開けた。すぐにチコちゃんが持っていた機械からケーブルを伸ばし、端末のいたるところに繋ぐ。
「これでよしっと!」
次に機械に情報を入力。すると――。
――ピー
軽快な音を鳴らした端末。扉のロックが解除されたのだ。
「リオル! 開いたよ!」
機械とツールをバッグに仕舞って電子扉を開けた。
「「なっ!?」」
中に入ると私を見て驚愕している白衣の二人組を見つけた。
「リオル! 扉に向かって<はっけい>!」
『はあっ!』
すかさず、リオルに指示を飛ばす。リオルはトーマさんのポケモンだが、今はそれ所じゃないと私もリオルもわかっていたのでリオルは扉に向かって<はっけい>を繰り出す。扉はひしげてしまった。これで、向こうから敵がやって来ることはない。少なくとも時間は稼げるはずだ。
「トーマさん!」
部屋の隅に置いてあった檻の中にトーマさんの姿を見つけ、叫ぶ。しかし、彼からの返事はなかった。気絶しているらしい。
「あの電子ロックを破ったって言うのか!?」
「リオル……なるほど、こいつを助けに来たってことか」
白衣の二人はそれぞれ、違った反応をする。
(右はともかく、左の眼鏡の人はヤバそう……)
「丁度、2対2だな。おい、バトルするぞ!」
「え? あ、ああ!」
やはりと言うべきか眼鏡の人は我に返るのが早く、すぐにボールを投げて来る。右の人は慌ててボールを投げた。
「ガブリアスに……ストライク」
ボールから出て来たのはトーマさんを連れて行った時に現れた二匹だった。
「……ああ、そうか。さっきはこの二匹を違う人が使っていたから不思議に思っているんだな? まぁ、簡単なことだよ。貸していただけさ」
ならば、この二匹は眼鏡の人と右の人の物。
(さっきより、手強いかも……)
その時、ガブリアスが吠える。空気がビリビリと震えた。
「チコちゃん! リオル! 行くよ!」
『おう!』
リオルはテレパシーで、チコちゃんは葉っぱをブンと振って答えてくれる。
問題はトーマさんにどうやって、モンスターボールを返すか、だ。