ポケットモンスターブラッド   作:ホッシー@VTuber

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第14話

「ここって」

 リオルが一つの廃墟の前で立ち止まる。どうやら、ここにトーマさんがいるらしい。

『ユカリ、姿勢を低くして』

「え?」

『あそこから見張りが来る。急げ!』

「うん!」

 姿勢を低くし、茂みの中へ身を顰める。それとほぼ同時に黒いスーツを着た二人組の男たちが歩いて来た。

「……ふぅ」

 男たちが私たちの前を通り過ぎたのを確認し、ため息を吐く。

『さて、どうやってあの中に入ろうか?』

「まずは、この廃墟の周りをぐるっと一周しない? どこかに勝手口があるかも」

『わかった』

 一先ず、チコちゃんをボールに戻してリオルと一緒に移動した。しかし、どこにも勝手口などなく簡単に入れなさそうだ。

「ど、どうしよう……」

 唯一、入れそうなのは表面玄関。もちろん、そこには見張りの人たちがいて入るのは不可能だ。ポケモンバトルでも勝てそうにない。

『っ! あそこの窓から入れそうだ!』

 リオルが指をさした先には壊れた窓があった。

「でも、あそこまで結構な高さだよ?」

 リオルの身体能力なら登れそうだが、私には無理だ。

『……ユカリ、チコリータのボールを貸してくれ』

「え!? 急に何で!?」

『私がボールを持ってあそこまで登る。そして、ボールからチコリータを出して<つるのムチ>でお前を引っ張り上げるのだ』

 このリオル、人間より頭がいいかもしれない。

「わかった。チコちゃん、お願いね」

 ボールに話しかけると一回だけ揺れた。頷いてくれたらしい。

『では、行って来る!』

 周囲に人がいないか確認したリオルは壁を駆け上がり、見事に廃墟の中に侵入することに成功する。

『チコリータ、頼む!』

 テレパシーにとって距離は関係ないようでリオルの声が頭に響いた。

「よし!」

 窓から<つるのムチ>が伸びて来たのを見て私は茂みの中から飛び出し、チコちゃんのツルを手に掴んだ。

『引っ張れ!』

 そのまま、体が宙に浮き、私も廃墟の中に入る。

「チコちゃん、お疲れ様」

 少しだけ息を切らしたチコちゃんの頭を撫でてボールに戻す。やはり、人間一人をここまで持ち上げるのは大変のようだ。

「リオル、波動でトーマさんの居場所、わかる?」

『待ってくれ……まだ、反応は小さいが下から感じる』

「なら、そのまま周囲の波動を探ってて。私がトーマさんのところまで君を運ぶから」

 そう言いながらリオルを抱えた。こうした方が走りながら波動を探るよりずっと、効率がいいはず。

『頼むぞ』

「うん!」

 バッグの中に入っているトーマさんのボールをもう一度だけ確認した後、私は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 さて、今の状況を整理しよう。

 俺がいるのは檻の中。まるで、猛獣を閉じ込めておくために使われるような物だった。

 その次に俺を縛っている縄。俺の怪力でも千切れない。相当、頑丈に出来ているようだ。

 檻の隙間から出るのはまず、不可能。しかし、檻を破壊しようにも縛られているのでは全力の一撃を繰り出すのも難しい。つまり、脱出は無理。

 最後の頼みだったあいつもボールごとポケモンセンターに落としてしまったようで、万事休す。

「それで? こいつが例の?」

「ああ、ポケモンの技を使う人間だ」

「ふむ……見た目は普通だが?」

「今の状態は言うならば『ヒューマフォルム』。でも、『モンスフォルム』――つまり、怪物化したらとんでもない力を発揮する」

「なるほど……こいつはフォルムチェンジするのか」

「現段階でそれが一番、理解しやすいと思ってな」

 まだ、俺が目を覚ましている(顔を下に向けて薄目で周りの状況を確認している)ことに気付いていないのか白衣を来た二人の男が俺を見ながら相談している。どうやら、俺のことはばれているらしい。

(これは……ピンチって奴かな)

 自然と冷や汗が流れる。このまま、俺は解剖されてしまうかもしれない。

「しかし、こいつを捕まえたところまでは良かったものの……これからどうする?」

 意外に計画性のない奴で助かった。

「それなら、洗脳して我が組織の力にしようではないか」

 それだけは勘弁願いたい。

(……やっぱり、もうちょっとポケモン連れて来るべきだったかなぁ)

 元々、俺には6体のポケモンがいた。でも、色々あって今はリオルとあいつのみ。

 まぁ、それは過ぎたことなので無視する。

(洗脳するってことはこの檻から出すってことだよな? その時に化け物化して逃げるか)

 目を瞑って俺はチャンスが来るのを待つことにした。

 


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