第1話
「……ん?」
今日も俺は家の近くにそびえ立つ山に来ていた。ここにはたくさんのポケモンが住んでおり、それを観察するのが俺の趣味だ。いつもの観察ポイントに向かっている途中、ふと茂みの中を見ると何かが動いたのを見つける。
(何だろう?)
気になったので茂みを掻き分け、覗くとポケモンが倒れていた。
「おい!? 大丈夫か!?」
小さな体をそっと抱き上げる。その瞬間、俺は目を疑った。
「こ、こいつ……リオルじゃないか!?」
この辺りには生息しないはずのポケモンだったので声に出して驚いてしまう。だが、今はそれどころじゃない。傷の他にも火傷を負っているようだ。
(俺が住んでいる町にはポケモンセンターはない……なら、俺の家に連れて行くしかないか)
「っ……」
その時、リオルがうめき声を上げる。考えている暇はない。
「すぐに手当してあげるからな!」
そう言ってリオルを抱きしめ、家を目指して走り出した。
「どう? リオルの手当、終わった?」
薄暗い部屋でリオルの看病をしていると後ろから母さんが話しかけて来る。
「ああ……って、何やってるの?」
振り向きながら頷くが、ドアの陰に隠れている母さんを見て質問した。
「だ、だって怖いんだもん……」
母さんが子供の頃、ポケモンに襲われた事があり、それ以来ポケモンが怖くなってしまったらしい。そのせいで俺もあまり、ポケモンと触れあえずに育った。
「あっそ。でも、リオルが元気になるまでは我慢してね?」
「わかってるけどぉ……」
涙目で答える母さん。その姿を見て溜息を吐きながらもう一度、リオルの様子を窺う。
今は布団で寝ているが、数日は安静にしていないと駄目だ。火傷もひどい。特に左頬に深い切り傷があり、傷は残ってしまうだろう。
「大丈夫。元気になるまで俺の家にいていいからな?」
リオルの頭を撫でながら、声をかける。それから、リオルの口元が緩んだ。寝ていても聞こえたのだろうか?
「貴方も無理しないようにね?」
「わかってるよ。眠たくなったら、母さんと交代するから」
「ちょ、そ、それは遠慮したいかな?」
「はいはい……」
冷や汗を掻いている母さんを見て呆れてしまった。
「じゃあ、おやすみ」
母さんはそう言って部屋を出て行く。俺も自分のベッドに入り込んだ。
(それにしても……どうして、あんなところにリオルが?)
インターネットを使って調べたところ、やはり俺が住んでいる地方にはリオルは生息していないようだ。
(野生ならともかく、人のポケモンだったらもしかして……捨てられた?)
実は傷の中には他のポケモンからの攻撃で出来た傷の他に人間が付けたであろう物もあったのだ。左頬の傷なんかナイフのような刃物で切り付けた傷だと思う。
「……おやすみ、リオル」
俺は目を閉じて意識を手放した。
『……い』
突然、声が聞こえて俺の意識が浮上する。
(何だ? 母さんが起こしに来たのか? でも、リオルを怖がって入って来れないし……)
疑問に思いながら目を開けると、絆創膏だらけのリオルがいた。起き上がれるぐらい回復したようだ。
『おい! 聞いているのか!』
「へ?」
また、声が聞こえてキョロキョロするがこの部屋にはリオル以外、いない。
『どこを見ている。こっちだ』
「こっち?」
声がした方を見るとやはり、リオルしかいない。
『お前が私を助けたのか?』
「……はい?」
『だから! お前が私を助けたのかって聞いている!』
「あ、ああ……山に倒れていたから――ってええ!?」
そう、この声はリオルの方から聞こえて来る。しかし、リオルはポケモンだ。喋るわけがない。
『ふむ……私が喋っている事に驚いているようだな。これはテレパシーだ』
「テレパシー?」
『こら、お前が喋ると不自然になるだろう? 頭の中で私に声をかけてみろ』
『こ、こう?』
リオルに話しかけるように頭の中で念じながら声をかけてみる。
『上出来だ。さて、本題に戻ろう……私は誰だ?』
首を傾げて問いかけて来るリオル。
「……へ?」
その問いの意味がわからず、俺も首を傾げてしまった。
なお、主人公が住んでいる地方はオリジナルの地方となります。
なので、生息するポケモンも色々な地方のポケモンとなっております。ご注意ください。