ラビットハウスのパティシエさん   作:森フォレスト

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通常営業

「またお越しくださいませー」

 

 カオルは客が出ていくのを確認しながら、幾度となく言ってきた台詞を言う。

 

「昨日より、ちょっと人が少ないな」

 

「そんなもんじゃろ。基本は割高になるバータイムが主な収入源だからの」

 

「コーヒーに並みならぬこだわりを持つじいさんとしてはどうだ? この現状は」

 

「悔しいが、息子がいなければこの店はつぶれておったからな……」

 

「親父は多才だからな、そのいくつかが俺に受け継がれてればよかったんだけどねえ」

 

「なにもしなければその才も腐るだけじゃ。色々なことに取り組み、自身にどのような才があるのかを見極める。その過程で人は成長するのじゃ」

 

「才能がなければ?」

 

「そういうことを考えるからカオルはダメなのじゃ! やる前からやってダメならどうしようではなく、まずはやる! それでダメなら次の行動を起こすのじゃ!」

 

「……今でいうと?」

 

「はよ、次のコーヒーを入れるんじゃ」

 

「もう、飲めんわ! 胃の中コーヒーしかない入ってないぞ!」

 

 カオルは店を運営しつつ、ティッピーの指導のもと、一人で客に出せるレベルのコーヒーを出せるようになるための特訓に励んでいた。

 

「感覚てきなところもあるからの。一口にコーヒーと言っても……」

 

「あーはいはい。しかし、ほんとなんにもなく平和だな。人相悪い客がきて、店荒らしたりしないかな」

 

「な、何てことをいうんじゃ! ほんとに来たらどうする!」

 

「…………」

 

「レジの金を取り出すでない!」

 

「…………」

 

「土下座しようとするでない! なんで漫才しなきゃならんのじゃ!」

 

「なかなかいい、ツッコミだぞ、ティッピー」

 

「年よりはもっといたわらんかい!」

 

「ティッピーってたしかもう10歳くらいだよな?」

 

「そうじゃが?」

 

「死んだらどうなるんだろうな」

 

「なに?」

 

 カオルの突然の発言にティッピーは、くいいるように耳をかたむける。

 

「ウサギ的にかなりの長生きだよな。ティッピーって」

 

「まぁの」

 

「じいさんの魂がティッピーの中に入ってるわけだが、ティッピー自体が死んだらどうなるんだろうな」

 

「……考えたこともなかったの」

 

「それに、混ざってるわけだろ? 元々のティッピーとさ。それなのにじいさんの自我だけしっかりのこってて、むしろティッピーは消えている……ひょっとして、ティッピーはすでに……」

 

「や、やめるんじゃ! この話はいかん気がする!」

 

「いや、むしろ、死んだティッピーの死体にじいさんの魂が入り込み無理やり体を動かしているのかも……」

 

「そ、それじゃあ、わ、ワシは……」

 

「ゾンビってことになるな」

 

「い、いやじゃあぁぁあああああ!!!」

 

 店内を飛び跳ねながら叫ぶティッピーを見ながら、カオルが嘲笑をしていると、入店をしらせる鐘が鳴る。

 

「いらっしゃいませーっと、チノとココア……それに、千夜……?」

 

「「三名で!」」

 

「……はっ?」

 

「今日はお客さんだそうです。一応、私も……」

 

 帰ってくるなり胸を張って指を3本立てて、カオルへとつきだすココアと千夜。カオルが困惑していると、それを察したチノが説明する。

 

「あぁ、なるほど。では、コホン。お客さま、3名様ですね。こちらのテーブルへどうぞ」

 

「はーい!」

 

「し、失礼します」

 

「くるしゅうないー」

 

「千夜だけ殿様みたくなってるな。メニューはこちらになっております。ただ今、スイーツも提供しております。よろしければ、コーヒーと合わせてご注文ください」

 

「私はキリマンジャロと、ココア特製パンケーキ!」

 

「私はオリジナルブレンドとミニパフェをください」

 

「自分で自分の特製パンケーキ頼んでどうする。出せるわけないだろう。パンケーキな」

 

「てへっ!」

 

「かわいいから許す! えーっと、キリマンジャロにパンケーキ。オリジナルブレンドとミニパフェっと……千夜は?」

 

 チノとココアの注文をメモりつつ、カオルは千夜の注文を伺う。

 

「私は、スマイル1つ!」

 

「取り扱ってません」

 

「靴を磨いてくださる?」

 

「喫茶店に何を求めてるんだ?」

 

「このテーブルを……」

 

「売り物じゃねぇよ。もらっても困るだろ」

 

「じゃあ、水で……」

 

「ここまで引っ張って水!?」

 

「ナイスツッコミ!」

 

「ホントにどつくぞ!」

 

「私もオリジナルブレンド。あとは……モンブランをもらおうかしら」

 

「オリジナルブレンドとモンブランね……毎回ボケるのやめてくれ……」

 

「カオルさんにつっこまれるの、気持ちよくてクセになっちゃって……」

 

「誤解を生むような言い方やめてもらえるかなあ!?」

 

 カオルは疲れたように注文を確かめながらカウンターへと向かい、コーヒー豆を挽く。

 

「千夜ちゃんはカオルお兄ちゃんと通じあってるんだね!」

 

「お兄ちゃんと仲が良さそうで羨ましいです」

 

「カオルさんとなら、お笑いで天下をとれるわ!」

 

「す、すごい自信だよー!?」

 

「お兄ちゃん帰ってきてから3日なんですが、いったいこの短期間で何があったのでしょうか……」

 

「毎日メールもしてるのよ?」

 

「えぇー!? わ、私、カオルお兄ちゃんのメアドしらなないよ!?」

 

「そういえば、私も……で、でも、一緒に住んでいますし……そういう意味で言えばいらないといえばいらないのかもしれませんが、でもそういうのとはまた違くて……うぅ……」

 

「……あら?」

 

 ショックを受ける二人を前に首をかしげる千夜。

 

「なにしてんだ。注文のオリジナルブレンド2つとキリマンジャロだ。パンケーキとミニパフェ、モンブランは少し待っててくれ」

 

「「カオル(お兄ちゃん)!」」

 

「な、なんだ……?」

 

 コーヒーをテーブルにおき、戻ろうとするカオルをチノとココアが止める。

 

「追加注文、いいかな!」

 

「あ、あぁ……」

 

 身をのりだし言うココアとうんうんと頷くチノにカオルは動揺しながらも対応する。

 

「カオルお兄ちゃんのメアドちょうだい!」

 

「私もです!」

 

「……はい?」

 

「あらまあ……ふふっ」

 

 何をいっているのかわからないと言う表情のカオル。そして、早くと催促するチノとココアの二人をみて、千夜は小さく笑った。メアドの交換が行われ、それが終わるとカオルは厨房へと入っていった。

 

 

 

 カオルがチノたちの注文を作り終え、テーブルへと持っていくと、チノとココアが携帯とにらめっこしていた。

 

「注文のパンケーキとミニパフェ、モンブランだ。何をしてるんだ、二人は」

 

「メールの内容を考えてるんですって」

 

「誰の?」

 

「カオルさんへの」

 

「目の前にいるんだから直接言えよ」

 

「お兄ちゃんはわかってないよ!」

 

「そうです! 直接聞けないようなことや、お話ししたいことをメールでやり取りするんですよ!」

 

「お、おう……まあ、食べてくれよ」

 

 カオルは注文の品をそれぞれの目の前におき、自分も席に座る。

 

「コーヒーだが、味はどうだ? まだなれてなくてな……」

 

「はっ!」

 

 コーヒーについてカオルが尋ねると、チノは一心不乱にメールを打ち出す。まもなくしてカオルの携帯にメールが届く。カオルがメールを確認すると、感想、改善点、アドバイスと事細かにコーヒーに対することが書かれていた。

 

「……たしかに、これは助かるな。参考するよ。ありがとうチノ」

 

「い、いえ……」

 

「そういえば、カオルお兄ちゃん、少し話し方変わった?」

 

「あぁ、チノの兄だし、大人としてふるまわなきゃと思っていたんだが、自分から距離を作ってるんじゃないかと思ってな。自然体でいることにしたんだ。変か? 気になるんだったら、もとにもどすが……」

 

「ちょ、ちょっとまってね!」

 

 ココアもメールを打ち出し、まもなくしてカオルにメールが届く。確認すると、「そのままの君がオンリーマン(ハートマーク)」とかいてあった。

 

「オンリーマン?」

 

「ココアさん、オンリーワンです」

 

「でも、通じるわよね。意味もそれほど変わっていないし……」

 

「あれれ?」

 

 この日はチノとココア、ついでに千夜も手伝い、バータイムまで4人で働き、営業を終えたのであった。




タカヒロ「どうだった、今日の営業は?」

カオル「昨日もやってるから、なんとかって感じだな。あと、メアドが2件増えたよ」

タカヒロ「!? ……そうか……ところで……」

ティッピー「いやじゃあぁあああ! ワシは、ワシはゾンビなんかじゃないわーっ!」

タカヒロ「親父はなんで跳び跳ねてるんだ?」

カオル「……わからないなぁ」

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