ラビットハウスのパティシエさん   作:森フォレスト

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プレゼントの準備

 カオルたちの住むこの街ではクリスマス一か月前からとても華やかになる。二階から外を見るとあちこちで飾り付けをされている建物が目に入る。そんな中、昨夜のうちに雪が降ったのか、ちらほらと雪かきをしている人が見受けられる。

 

「後で店の前の雪をどかさないとな……」

 

 午前一番にやらねばならない作業を頭の片隅においやり、上着を羽織る。そのまま居間へと向かい朝食の準備をするためにキッチンの冷蔵庫を確認する。

 

「おー、さむいさむい。最近一気に冷え込んできてるし、何か温まるものを……なんもないな。仕方ないコーヒーとトーストにするか。ジャムとバターもあと少しだし。あとは、サラダか」

 

 レタスを水洗いしながら、トースターを温める。ココアが前に焼いた食パンを用意してレタス、みじん切りにしたニンジン、コーンを盛り付けてサラダを作る。サイフォンを使ってコーヒーを淹れるのも忘れない。

 

「おはよう。今日は冷えるな」

 

「ん……おはよう、親父」

 

 しばらくすると新聞を片手にタカヒロが居間にやってきた。食卓に着き、新聞を広げるタカヒロの前にコーヒーとサラダを置く。

 

「悪いな。最近は朝にカオルの淹れるコーヒーを飲まないと一日が始まらない気がするよ」

 

「そりゃどーも」

 

「ふっ……」

 

 自分の分とタカヒロの分をもってカオルも席に着く。

 

「そういえばもうすぐクリスマスだな。プレゼントは用意したか?」

 

「いや、なんやかんやで用意できてないな」

 

「それはいけないな。チノやココアくんも言葉には出さないが楽しみにしているはずだ。きっと当日はパーティーも催されるだろう」

 

「確かにそんな気はするな。今週の仕入れは食材を多めにしとくか。そのついでにでもプレゼントを見繕うことにしようかな」

 

 タカヒロに言われ、カオルは簡単にスケジュールを整理する。プレゼントも小物系になるだろうし、何とかなるだろうと考えるが、同時に片手間で選んでよいものかと悩む。

 

「今日は休みにするといい。なに、親父は否定するだろうがカフェはそんなに人が入らないしな。仕入れもまだ先だ」

 

「そうか? すまないな、親父。それじゃ甘えてプレゼント選びをしてくるよ。ところで……」

 

「ん?」

 

「俺は、リゼやシャロ、千夜にもクリスマスプレゼントを用意すべきなのか……?」

 

「モテる男はつらいな、カオル」

 

「父親似だな」

 

「ふっ、違いない」

 

 カオルは皮肉交じりにそう返し、トーストをかじる。タカヒロはどこか嬉しそうにそれを肯定し、コーヒーに口をつけるのだった。

 

 

 

 午前中に簡単に店の前の雪かきを済ませてからカオルは街の中心付近にある市場へとやってきた。クリスマス間近ということもあり、クリスマスマーケットが開かれている。店に誘導するように旗が設置されていたり、野外にショーケースが並び販売しているものもある。さらには屋台まで出ている。

 

「屋台のいい匂いだな。本当にこの街の人たちはイベントが好きだよな」

 

 イベントごとに賑やかに、そして雰囲気が変わるこの街は住んでいて退屈しない。そんなことを考えながら一通り見て回る。ココアにはヘアピンとキーホルダー、リゼにはぬいぐるみ、千夜には髪留めと扇子、シャロにはティーカップとソーサーのセットをそれぞれ購入した。最後はチノのプレゼントだが、カオルはここで行き詰まる。

 

「(チノにはこの立体パズルなんてどうだろうか。いや、クロスワードなんかも捨てがたい。いっそ自作もありだな……どうも安価になってしまうな。そこそこいいものをプレゼントしてやりたいが……)」

 

 荷物を一度置きに店に戻り、再び市場まで来ても考えがまとまらない。ひとまずベンチに座り何を買おうかとカオルは頭を悩ませる。ふと前を見ると、マーケットにはしゃぐ子供がカオルの目に付く。チノと同じ制服を着た二人の中学生。

 

「ははっ、背の小さいほうがやんちゃしてるな。あんなにはしゃいで手を振り回したら露店のものに当たって……あれ、マヤじゃね?」

 

 たまたま振り返った中学生のその顔はカオルの良く知るものだった。はしゃぐマヤを止めようとおろおろするメグをみながら、カオルは軽い頭痛を覚えながらも止めに向かった。

 

「メグもこっちこいってー!」

 

「そ、そんなに動き回ったら人にぶつかっちゃうよ~?」

 

「大丈夫大丈夫! こんなところで私に当たる奴なんて相当どんくさい奴に決まってうわっと!? ご、ごめんなさ-------」

 

 振り返って前に進もうとするマヤが人とぶつかる。マヤはぶつかった人に謝ろうと相手を見てすぐに下を向いた。

 

「悪かったな。どんくさくてさ」

 

「ソ、ソンナコトナイデスヨ」

 

「あっ、カオルさん。こんにちは!」

 

 ばつが悪そうにマヤは視線をそらし、メグは嬉しそうにカオルに微笑む。

 

「あのな、マヤ。なにも品行方正になれと言ってるわけじゃない。ただもう少し周りの空気を読むというか、時と所と場合を考えて行動をだな……ん?」

 

「カオルさんが話してる間にマヤちゃん逃げちゃったよー?」

 

「マヤーーーーーーーっ!」

 

 カオルの声に何事かと周りの人の視線が集まる。カオルは気まずそうにすみませんとお辞儀をした後、メグと一緒に場所を移動した。噴水近くのベンチに座り、カオルは缶ジュースをメグに手渡す。

 

「メグちゃんもいつもマヤの相手をしていて大変じゃないか?」

 

「わわっ、ありがとうございます。そんなことないですよ。マヤちゃんといると楽しいし……」

 

「そうか……そういえば、落ち着いて二人で話すのは初めてだね。何かとマヤには気を使っているけど、メグちゃんはおとなしいし、やんちゃもしないからマヤと比べてそんなに心配してなくてね……」

 

「え、えへへ……たしかにカオルさんと二人で話すのは初めてですね~」

 

「まぁ、こんなのでも大人だからね。なにか不安とか相談とかあったらいつでも話してよ。いまさら何言ってるんだって感じかもだけど」

 

「そんなことないですよ! ありがとうございます~」

 

「そこで、まずは俺の相談を聞いてほしいんだけど、チノがほしがってるものとかわかるかな?」

 

「チノちゃんのほしいもの……ですか?」

 

 カオルはチノへのプレゼントを決めかねていることをメグに相談した。その相談にメグは考え込む。

 

「うーん……」

 

「ふっふっふっ! そういうことならこのマヤにお任せだよ!」

 

「ま、マヤちゃん!?」

 

「どこから湧いて出た」

 

「カオル兄ひどっ!」

 

 いつの間にやらきたのか、マヤがベンチの裏から声をかけてくる。

 

「ズバリ! チノはカオル兄からもらえるものなら何でも喜ぶよ!」

 

「はぁ?」

 

「そういえば、チノちゃんの使ってるランチマット、カオルさんからのおさがりだって大事に使ってるよね~」

 

「そ、そうなのか」

 

「おや? カオル兄ってば照れてる?」

 

「嬉しいだけだ」

 

「それを照れてるっていうんじゃないかな~?」

 

「……メグちゃんの言葉には悪意がないから突き刺さるな」

 

「ええっ!?」

 

 カオルの言葉におろおろするメグ。それを見てマヤは終始笑っている。

 

「とにかく! カオル兄の気持ちが大事! なのでぬいぐるみとかどう?」

 

「なにがなのでなのかわからんが、まぁ無難だな」

 

「こいつとかどう? 私は一目でこいつに決めたよ!」

 

 そういってマヤは鋭い牙を持つお世辞にもかわいいとは言えない、おどろおどろしいぬいぐるみを取り出す。

 

「完全に面白がってるだろ。それもらっても困るだけだと思うぞ」

 

「そ、そうだよ! クリスマスが悪夢になっちゃうよ! そ、そうだ、こうすれば可愛く……」

 

 メグはマヤから人形を受け取ると口の部分をリボンでぐるぐるに巻いて隠し、頭にもリボンを付けた。先ほどと同じ人形とは思えない変化を遂げる。顔の8割はリボンで隠されているが。

 

「もう、こいつにする意味なくね!?」

 

「今回ばかりはマヤと同意見だな。というかそれは買わんからな? マヤも他のを選ぶように」

 

「ちぇっ! 気に入ってたのにな~」

 

「あ! カオルさんも一緒にプレゼント買いませんか? どんなものを選ぶか私とマヤちゃんも協力します~」

 

「それは助かる」

 

「ふふっ、カオル兄。私は高いぜ?」

 

「よし、じゃあ行こうか、メグちゃん」

 

「あ、あれ~?」

 

「ちょっ、カオル兄! 無視はやめてよ~!」

 

 マヤを無視して先に進むカオルとそれに戸惑うメグをマヤは慌てて追う。その後、二人の協力で何とかカオルはチノへのプレゼントを買うことができたのだった。




チノ「お兄ちゃんはお休みですか?」

タカヒロ「今日は用事でね。外に出ているよ」

チノ「そうですか……(それならマヤさんとメグさんと一緒に出掛ければよかったです)」

タカヒロ「ふっ、チノはカオルが好きなんだね」

チノ「な、なんでそうなるんですか!」

ティッピー「(これで隠せてると思っとるのだからチノはかわいいのう)」

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