ごちうさ5巻を買ったのでやらなきゃいけないことはいっぱいあるのについつい書いてしまった。
後悔はしていない。
「最近めっきり寒くなったな……朝がつらい」
早朝、新聞を取りに家の外に出たカオルはいつもと違う景色の中にいた。
「……雪が積もったのか」
いつもの見慣れた町並みは遠い記憶の中にある白で塗りつぶされた景色へと変化していた。
「ほう、今年も積もったか」
「じいさんを外に放り投げたらどこにいるかわからなくなりそうだな」
「年寄りはいたわらんか!」
リビングで朝食を用意しながらカオルは頭の上に居るティッピーと話す。ティッピーはそわそわと落ち着きがない。
「なんだじいさん。年甲斐もなく雪にはしゃいでるのか?」
「ふんっ。そういうカオルはどうなんじゃ? 都会では雪なんて滅多に見なかったじゃろ」
「雪が降れば電車は止まるからな。駅が人で溢れるんだ」
「夢もなにもあったもんじゃないのう」
ティッピーは苦々しくそう呟いた。しかしすぐに興味は窓の外に移りそわそわと窓の外を気にしている。
「(そんなに気になるのか……)」
そんなティッピーの様子にカオルもつられて外を見る。最後に雪の中外で遊んだのはいつだっただろうかと。
「カオルお兄ちゃん! 雪だよ! 雪!」
「おはようございます。今日は寒いですね」
「おう、おはよう。ココアにチノ。今日は特別寒いからな。朝はあったかいコーヒーを飲んでいくといい」
「わーい、ありがとー!」
「いつも飲んでるじゃないですか……」
朝の挨拶も早々にチノとココアは席につく。テーブルの上にはトーストに目玉焼き、ベーコンとスクランブルエッグが人数分用意されている。
「モーニングセットだね!」
「いい匂いです」
「朝限定の朝食プレートだ。最近は割と注文されるから作る機会も多くてな。ベーコンの焼き加減とか全体の盛り付け方とかが上手くなった気がする」
たしかにカオルの言うとおり見栄えはよく。作りたての匂いも相まってチノとココアは食欲がそそられる。
「むむ、カオルお兄ちゃん。パンの焼き方も上手くなったね!」
「トースターではないのですか?」
「これはパン型を使って焼いたものだよ。冬場は過発酵の心配をあまりしないでいいから気が楽だよ」
「この綺麗なキツネ色……アルタイト製のパン型だね!」
「……なんかおいてけぼりです」
パンについて盛り上がるカオルとココアにチノはすこし疎外感を感じながらパンを口に詰め込んだ。
「……おいしいです」
「ふっ、いいかチノ。おいしいという言葉を何度言ったかでその人生の幸福度は変わるんだ。俺は自分の作ったもので人が幸せになって欲しいと思ってパティシエになったんだ」
「カオルお兄ちゃんの作るパンも美味しいよね!」
「コーヒーを美味しく淹れる腕もあります」
「でもパンのほうが美味しく作れてるよ? ウチ(ベーカリー保登)で出せるくらいだよ!」
「いえ、コーヒーです。なぜならウチ(ラビットハウス)のお兄ちゃんですから」
「「むー!」」
不満げに頬を膨らませるチノとココア。二人はカオルの方を向き、声を揃えて問いかけた。
「「パンとコーヒーどっちが好き(ですか)!?」」
「……なんかずれてないか? そもそも俺、パティシエなんだけどな……」
「あ、えっと、カオルお兄ちゃんのスイーツ、私好きだよ?」
「そ、そうです。お兄ちゃんの作るスイーツ、私も好きです」
「……ありがとな」
何とも言えない複雑な表情でカオルはお礼を言うのだった。
「カオル。外に出てみぬか?」
「なんだじいさん。ついに我慢できなくなったか」
「そ、そんなわけあるかい! じゃが、チノたちの帰りが少しばかり遅い。これはめずらしい雪にはしゃいで寄り道してるに違いない。ここは保護者として様子を見に行くべきじゃ」
「随分と流れるように出てくるな。まぁ、たしかにすこし遅いしあったかいお茶でも持って探してみるか。ちょうど客もいないし、今日の感じならバータイムまではほとんど人は来ないだろう」
時計をみると時刻は15時。今日は冬休み前ということで昼で学校は終わりのはずだ。ココアたちだけならば別段気にもしないのだが、チノもとなるとカオルは少し気になった。
「中学生が寄り道ってのはあまり感心しないからな。日が落ちるのも早いしさっさと探すか」
「ほれ、急がんか!」
「じいさん、隠しきれてないぞ」
頭の上で急かすティッピーにカオルはため息をつき、あったかいお茶を魔法瓶にいれカバンにしまうと店を出た。
「どっかで寄り道をしているとは思っていたが、ほんとに公園で雪遊びをしているとは思わなかったな……」
「ワシの言ったとおりじゃろ!?」
ティッピーが絶対に公園にいると騒ぐので仕方がなく公園へと向かったカオルはそこで雪合戦をして遊んでいるココアたちを見つけた。
「とりあえず声を掛けるか」
「あら? カオルさん」
ゆっくりとココアたちの元に向かうカオルに一番先に気がついたのは千夜だった。こちらへと走ってくる千夜をカオルは微笑ましく思い、片手を上げて挨拶をする。
「ん? 千夜のやつ逃げる気だな? 戦場で背中を見せるとは何事だ!」
「あ、靴ひもが……」
「ぐおっ!?」
「あら?」
そんな千夜に気がついたリゼが投擲した雪玉を千夜は意図せず避けた。そのまま雪玉はおよそ女子が投げたとは思えぬ直線を描き失速することなくカオルの顔面に命中した。
「か、カオル!? す、すまない。大丈夫か……?」
「いや、気にするな。しかし、この感情はどこにぶつければいい?」
どうしようもないモヤモヤを抱えるカオルにシャロが駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか!? わ、わたしのハンカチを……」
「ああ、ありがとうシャロ」
「はぅあ!?」
「シャロちゃんったら、まだ呼び捨てにされるのになれないのね?」
「私はちゃん付けされる方がむずかゆくて恥ずかしいが……あ、でもたまになら……」
「あー、もうシャロちゃんって呼ぼうか?」
「呼び捨てで大丈夫です!」
「そ、そう?」
力強く言うシャロに若干戸惑うカオル。そんなカオルとシャロの様子をみて千夜は微笑む。
「そうだ、これあったかいお茶だ。あとは手袋にマフラー、上着も持ってきた。制服の上に上着一枚じゃ寒いだろ。手袋もマフラーも濡れてるだろうし、あとは……」
「カオルさんってあれよねー」
「なんだ?」
「えっと……お母さんみたいです」
「なっ!?」
千夜とシャロの言葉にカオルはたじろぐ。リゼはいつの間に受け取ったお茶を飲んでいた。
「あったまるな。ほら、シャロも飲むといい」
「あ、ありがとうございます……ってええ!?」
「どうした? いらないのか?」
「(魔法瓶の蓋がコップになっているから、リゼちゃんとの間接キスを意識しちゃっているのね、シャロちゃん!)」
コップを差し出すが受け取ってもらえず、リゼは不思議そうな顔をする。
「飲まないなら俺がもらおう。少し冷えたし」
「わ、私はわざと当てたわけじゃないからな!?」
「わかってるって……シャロちゃんはいらないんだっけ?」
コップに入ったお茶を飲み干し、再び注いだあとにカオルはシャロに問いかける。シャロは消え入るような小さな声で答えた。
「……い、いただきます」
カオル「あれ? そういえばチノとココアは?」
千夜「二人なら向こうでかまくらをつくってるわよ~」
チノ「こ、ココアさん、このかまくら二人で入るには狭すぎます」
ココア「チノちゃんをいっぱいモフモフできるから私は満足~」
チノ「や、やめてください……!」
リゼ「仲がいいよな。こうして見ると本当の姉妹みたいだ」
カオル「本当の兄としては嬉しくもあり、妹を取られたみたいで複雑だ」
シャロ「むむむ……」
リゼ「シャロはいつまでコップを睨んでいるんだ? 冷めちゃうぞ?」
シャロ「はぅあ!?」
千夜「ふふっ……」