ラビットハウスのパティシエさん   作:森フォレスト

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毎回おもう。サブタイトル考えるのが辛い。
そして時間が全然取れなくて辛い。

この話も本当はシャロの誕生日に投稿するつもりだったのです。
しかし8割書き上げたところで力尽き……

大した文字数じゃないんだけどなぁ。

全部消そうとも思ったのですが、せっかくなので完成させて投稿します。
時系列的にはシャロ誕生日→カレーパーティーです。


誕生日会

 7月15日金曜日、いつものようにカオルは業務に励んでいた。

 午後、そろそろチノたちが帰ってくる頃だなと考えていると、店の扉が勢いよく開かれ、千夜が店内へと入ってきた。

 

「ん? 千夜か。今日はココアと一緒じゃないんだな」

 

「カオルさん!」

 

「な、なんだ?」

 

「シャロちゃんとデートして!」

 

カオルが千夜に話しかけるが、千夜はそれには反応せずカオルの手を握りそう言った。

 

「……は?」

 

 突然のよくわからない千夜のお願いにカオルは間の抜けた声を上げる。

 

「今日がシャロちゃんの誕生日なのは知っているでしょ?」

 

「ああ、ケーキなら既に作ってあるぞ。あとで届けに行こうと……」

 

「そんなことはどうでもいいの!」

 

「どうでもいい!?」

 

「シャロちゃんが、シャロちゃんが帰ってきちゃうのよ!」

 

「そりゃ、学校が終わったら帰ってくるだろう。疲れているだろうから甘めのショートケーキを……」

 

「ケーキはどうでもいいのよ!」

 

「……どうでもいい……そっかぁ……」

 

「シャロちゃんの家で誕生日会の準備をしているのにシャロちゃんが帰ってくるのよ!」

 

「ちょっとまて不法侵入者」

 

 千夜のケーキはどうでもいい発言に若干ショックを受けていたカオルだが、我に返り千夜を止める。

 

「一回落ち着け。もうめちゃくちゃで何が言いたいのかわからん。それになぜ勝手にシャロちゃんの家で準備をしているんだ」

 

 カオルはそう言って手近にあったオレンジジュースをコップに注ぎ、千夜に手渡す。

 

「私、緑茶か抹茶がいいわ」

 

「お前、本当は全然焦ってないだろ」

 

 律儀に緑茶を厨房からとってきて手渡し、カオルは千夜の話を聞いた。

 

「まとめると、シャロちゃんが今日はバイトがないってことを忘れて家で用意してたところ、シャロちゃんが帰っているのをたまたま見かけたココアに連絡をうけてここまで来たと」

 

「ええ。なんでこんな時にバイトがお休みなの!」

 

「こんな日ぐらい休ませてやれよ」

 

「用意しているのに台無しになっちゃうわ!」

 

「見られたぐらいじゃ台無しにはならないだろ。大切なのは想いだ」

 

「プレゼント用のびっくり箱もあるのに……」

 

「それは絶対に渡すなよ?」

 

「カオルさん、臭いこと言うのね」

 

「時間差で傷をえぐるな! 恥ずかしくなるだろう!」

 

「ナイスツッコミ!」

 

「こんな時ぐらいボケるのやめてくれないかな?」

 

「ということでカオルさん。シャロちゃんとデートして時間を稼いできて! 私はおうちで用意をしてくるわ!」

 

 いい終るや否や、千夜は店を出ていこうとする。

 

「……慌ただしいやつだな。そんなに走り回って体力持つのか?」

 

「……きゅう……」

 

「ち、千夜ーーーーーーっ!」

 

 店の扉に手をかけ、そのまま前のめりに崩れ落ちる千夜。

 

「シャロちゃんのことを……おねがい……ガクッ」

 

「……自分でガクッとか言うもんじゃないぞ」

 

 か細い声でカオルにそう言うと千夜は気を失う。いままで倒れても気を失うことはなかったので、それだけ焦っていたのだろう。

 

「仕方ない。千夜を送ってから行くか」

 

 カオルは店の扉にかかるプレートを裏返して"clause"に変えてから千夜の家を目指した。

 

 

 

「……なぜかあんみつを頂いたぞ」

 

 カオルが千夜の家に行くと、千夜のおばあさんが厨房におり引き渡すと同時にテーブルの上にあんみつを置かれたのだった。美味しくいただいたあとカオルは店をでた。

 

「あれ? カオルさん?」

 

「本当にタイミングがいいな、シャロちゃん」

 

「な、なにがですか!?」

 

 店の外に出たカオルはたまたま帰ってきたばかりのシャロと鉢合わせたのだった。

 

「あれ? リゼは一緒じゃないのか?」

 

「あ、はい。リゼ先輩は部活の助っ人です。カオルさんはなぜここに?」

 

「ああ、千夜がうちに来てたんだが外を走りまわってたらしくてな。来るなり倒れたんだ」

 

「千夜、なんのようだったんでしょうか?」

 

「わからん。まあ、そんなわけで仕事抜け出してこっちに来てるんだ。せっかくだし少し一緒に歩かないか?」

 

「か、カオルしゃんとですか!?」

 

「なんだ、嫌か?」

 

「と、とんでもないです!」

 

「じゃあ行くか」

 

「は、はい!」

 

「(とはいったものの、だれも準備してないならこれ無駄だよな)」

 

「(か、カオルさんと二人きり……!)」

 

「まぁ、ずっと歩くわけにも行かないし、適当な喫茶店でも入ろうか」

 

「お供します!」

 

「そんな力強く言わなくてもいいぞ?」

 

 そう言って微笑む、カオルはゆっくりと歩き出し、シャロもそれに続いた。他愛ない話をしながら街を歩き、うっすらと汗がにじみ出したあたりでふたりは喫茶店へと入った。

 

「流石に夏だし、少し暑いな」

 

「そうですねー……アイスティーがおいしいです」

 

「やっぱり冷たいものが美味しい時期だよな。最近はアイスコーヒーの売れ行きが良くてな」

 

「あ、うちでも冷たいハーブティーが好評です」

 

「……なんか、落ち着くなー」

 

「ですねぇ~」

 

 冷房がきいた店内で冷たい飲み物を飲みながらまったりとするふたり。基本的には働き詰めなので、自然とこういう時はだらけてしまう。

 

「しかしこうして対面で座っていると逆に話すことがなくなるな」

 

「外を歩いているときは話題が尽きることなんてないんですけどねー」

 

「ちょうどいいし、なんか聞きたいこととかない? 答えれることなら何でも答えるぞ。節約の豆知識とか、簡単なスイーツの作り方とか、コーヒーの入れ方とか。なんでもいいぞ、聞いてくれ」

 

「えぇ!? いきなり言われても……え、えっと……いい天気ですね?」

 

「うん。いきなり言われても何も思いつかないよね」

 

「す、好きな食べ物は何ですか?」

 

「……ケーキが好きかな。こう見えても甘いものは嫌いじゃない」

 

「す、好きな色はなんですか!?」

 

「(食べ物の話おわりなのか!?)……え、えーっと、青かな」

 

「……えーっと、お、お年はいくつですか?」

 

「シャロちゃん話を広げようよ。話を……」

 

「年と言えばカオルさんって結構大人の男性って感じですけど、付き合っている人とか経験とかって--------」

 

「そっち方向では広げないでくれないかな!?」

 

「す、すみません……」

 

「い、いや、うん。なんか、ごめんね」

 

「いえ、私こそ……いつもツッコミなのでボケもやってみたくて……」

 

「わざと? ねぇ、わざとやっていたの、シャロちゃん」

 

「えへへ……」

 

「うん、まぁ、楽しそうで良かったよ。最初はガチガチに緊張していたし」

 

 カオルはため息をついたあとに、若干疲れ気味にそう言うと自分の飲み物に口をつけた。シャロは少し恥ずかしそうに頬をかく。

 

「その、最近はバイトが忙しくて、みんなにも会えていませんし。カオルさんとも久しぶりにあったので色々と思い出したり葛藤したりで緊張が……」

 

「あぁ、経験あるなぁ、それ」

 

「カオルさんもですか?」

 

「ああ、昔よく店に来てくれていた人が急にひと月くらい来なくなっちゃって。あらためて来た時は色々と話したりしたかったんだけど、何故か声をかけられなくてね。ぶっきらぼうに注文だけとった記憶があるよ」

 

「な、なんかいいお話ですね!」

 

「いい話なのか……?」

 

「はい! 微笑ましいです」

 

「まぁ、その、このことは言いふらさないでね。なんか恥ずかしいし」

 

「もちろんです」

 

「結構長居しちゃったね。そろそろ戻ろうか」

 

「はい、ありがとうございました!」

 

 カオルは伝票を取るとカウンターへ行き、代金を払う。そのままふたりは喫茶店をでた。

 

「ごちそうさまでした」

 

「いえいえ。さて、そろそろいい頃合かな」

 

 気が付くと日が落ち出している。暗くなる前に戻ろうかとカオルはシャロの手をとった。

 

「えぇ!? カ、カオルさん、な、なぜ手を!?」

 

「暗くなると危ないからね。家まで送るよ」

 

「は、はわぁ~」

 

「だ、大丈夫か?」

 

 なんともわかりやすい子だなと苦笑し、そのままシャロの家へと向かう。しばらく歩き、家の近くにつくと、何やら明かりがついているのがわかる。

 

「あ、あの、私の家、電気がついているのですが……」

 

「……付いてるな」

 

「ど、泥棒!?」

 

「いや、千夜だろ。店のほうも電気消えてるし」

 

「あ、そ、そうですよね! あ、よかったらお茶でも飲んでいきませんか? ここまで送っていただいたお礼で-------」

 

「「「「誕生日おめでとう!シャロ(ちゃん、さん)!」」」」

 

「へっ?」

 

 照れ隠しからかシャロは思いっきり扉を開け放つ。それと同時にパパパンとクラッカーが鳴り響き、ココア、チノ、リゼ、千夜がシャロにお祝いの言葉をかける。

 

「え、えと、え、えぇーー!?」

 

「サプライズ大成功だな」

 

「いやあ、準備した甲斐がありますな」

 

「ココアさんはほとんどつまみ食いしかしてないじゃないですか」

 

「うふふ、さぁ、シャロちゃん、こっちきて」

 

「ほら、いってこい。シャロちゃん」

 

 腕を組み、頷くリゼに、得意げなココア、それを呆れたように見るチノ、手招きする千夜にうろたえるシャロ。それをみたカオルは声をかけ背中を軽く押した。

 

「さて、ケーキをとってくるか……」

 

 賑やかになるシャロの家を少し名残惜しそうにあとにし、早足でカオルは店へ誕生日ケーキをとりにいくのであった。

 

「あ、チョコプレートに何も書いてないな……」

 

 そして、その途中、カオルは自分の失態に気がつくのであった。




リゼ「ん? チョコプレートに何も書かれてないじゃないか」

カオル「気がついたか。そう、これはみんなで完成させるケーキなんだ」

ココア「おぉ! みんなでメッセージを書くんだね!」

チノ「お兄ちゃんのことです。書くのを忘れていただけだと思いますけど……」

シャロ「な、なんか目の前でそういうことされると恥ずかしいのだけれど……」

千夜「ふふっ、シャロちゃんの照れ屋さん?」

シャロ「やめなさいよ!」

ココア「よし、かんせい!」

リゼ「あ、ココア、お前一人で書いたな!」

チノ「抜けがけです……」

ココア「えへへー」

千夜「さすが、ココアちゃん。魔性の女ね!」

シャロ「またそれ?」

カオル「まぁ、なにはともあれ、シャロちゃん」

みんな「誕生日おめでとう!」

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