ラビットハウスのパティシエさん   作:森フォレスト

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最近忙しく、じかんがなかなか取れません。
気長に書いていきます。

しかし書き方を忘れつつある現状。
どうにかしなければ……


デート?

「とり合えず公園を出たのはいいですが、どこに行きます?」

 

「そうですねー……カオルくんにお任せします」

 

「……小説のネタ探しですよね?」

 

「いつも気の向くままうろついていますので~」

 

 青山の小説のネタ探しのため、カオルは青山の散策に付き合っていた。待ち合わせ場所の公園で合流し、どこに行くのかと尋ねるカオルに青山はそう言って微笑んだ。

 

「それなら、気の向くまま歩いてみましょうか。二人だといつもの風景も違うように映るかもしれませんよ」

 

「ふふっ、そうかもしれませんね」

 

 いつもよりもゆっくりとした足取り、狭い歩幅でカオルは青山と並んで歩く。少しばかり上気した頬を掠める風は涼しく、カオルを冷静にさせた。青山も同じようで、いつの間にやらお互い、普段通りの平常心になっていた。

 

 そのまま大通りを歩くこと5分、市場のような露天売り場に到着する。日曜日の朝ということもあり、平日よりも活気にあふれており客を呼び込む声にも力が入っている。

 

「いつも賑やかですよね、ここ」

 

「凛ちゃんから逃げる時にはよくここに紛れ込みます~」

 

「……まじめに仕事してください」

 

「でも、そうなるとラビットハウスに行く機会も減っちゃうので……」

 

「抜け出してきてたんですか?」

 

「た、たまにですよ……?」

 

「……ほどほどに息抜きに来てください」

 

「ふふっ」

 

 カオルの言葉に青山は嬉しそうに微笑む。カオルはなんとなく気恥ずかしくなり顔を背ける。すると、露天の一つが目に止まる。

 

「豆が安いな」

 

「なんのことでしょうか~?」

 

「ああ、コーヒー豆です。5kgからしか買えないみたいですけど、その分安いですね」

 

 カオルの視線の先の露天は綺麗に積まれた袋詰めのコーヒー豆を販売していた。値段も普段買っているものよりも安価である。

 

「買いますか?」

 

「いえ、手荷物になりますし……それにあの豆の品質がいつものものよりもいいとは限りませんからね」

 

「覗いてみるだけならタダですよ?」

 

「しかし……」

 

「私に遠慮しなくていいんですよ? 小説のネタにもなりますから」

 

「どんな小説書くつもりですか……でも、ありがとうございます」

 

 カオルは青山に微笑み、お礼をいい目当ての露天へと進む。店員がカオルを見て声をかけてくる。

 

「いらっしゃい! 小分け売りはできないけど、味には自信があるよ!」

 

「一粒食べてもいいですか?」

 

「おっ、試食ってやつか? そんなこと言われたのは初めてだな。いいぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 店員が自分で挽いて飲んでいると思われるコーヒー豆が入っている袋から一粒取り出しカオルに手渡す。カオルはお礼を言うとそれを口へ放り込む。

 

「……美味しいな」

 

「だろ? 試飲もするかい?」

 

「いえ。このマンデリンを5kgください」

 

「品種がわかるのかい?」

 

「間違ってたらどうしようかと思ってましたけど喫茶店で働いてますから、ある程度は……」

 

「ははっ、将来有望だな。すこしまけてやるよ」

 

「ありがとうございます」

 

 代金を払い、店員からコーヒー豆を受け取り、戻ってきたカオルに青山は尋ねる。

 

「5kgのコーヒー豆ってコーヒーだとなん杯分なんですか?」

 

「1杯入れるのに挽くコーヒー豆は10g程度なので……大体、500杯ですね」

 

「コーヒーのお風呂に入れそうですね~」

 

「全然足りないと思いますよ?」

 

「あら?」

 

 その後も散策を続け、色々と歩いて回った二人はお昼を過ぎていることに気が付く。

 

「結構、歩き回りましたね」

 

「色々とネタができました~」

 

「よかったです。あとは……このあたりだと映画館とダーツバーしかありませんね」

 

「映画ですか……私は黙って映画を見る時間よりも、好きな人と一緒に話している時間の方が好きです」

 

「『うさぎになったバリスタ』の主人公の息子の奥さんのセリフですね」

 

「はい。実はあれ、昔マスターが奥さんのことを思い出しながら言っていたセリフなんですよ」

 

「じいさんが? ずいぶんと恥ずかしいセリフだな……」

 

「そうですか? 私は素敵だと思います」

 

「じいさんが言っていたと思うと、どうにも……」

 

「マスターが聞いたら怒っちゃいそうですね」

 

「絶対に怒りますね。何がおかしい! って」

 

「ふふっ」

 

「少し過ぎちゃいましたが、お昼、何か食べたいものとかありますか?」

 

「そうですね……」

 

 

 

「ウチのパスタなんかでよかったんですか?」

 

「美味しいですよ? デザートもありますし」

 

「スイーツはともかく料理は得意でなくて……」

 

 青山の希望で二人はラビットハウスで昼食を食べていた。ふたりはカウンター越しに会話をしている。

 

「カオルくんは、この町って好きですか?」

 

「そうですね……好きですよ。町の外と比べるとほんとに日本なのか不思議に思いますけど」

 

「それは私も思いました~ ビルがいっぱい建っていて、人がいっぱいいて……近くに人はいっぱいいるのに、自分ひとり取り残されたみたいに感じちゃって」

 

「ここから出たらそうなりますよね。ここってやけに人との距離が近いですから」

 

「そうですね~ でも、だからこそ私はここだと小説がかけたんだと思います。カオルくんは戻ってきてどうですか?」

 

「そうですね……いろいろな人と出会ったり再開したり、向こうにいたら経験できないようなことをたくさん経験しましたね。小さかった妹も気が付いたら中学生でしたし」

 

「時間が経つのはあっという間です」

 

「この町はほとんど風景が変わらないのでその感覚もにぶっちゃいますけどね」

 

 苦笑いをしながら、カオルは青山にコーヒーを差し出す。青山はそれを受け取ると、カップに口をつけた。

 

「この時間。私にとっては宝物ですよ」

 

「そう言っていただけると、店員としても、個人としても嬉しい限りです」

 

「ふふっ……いくつか小説を書いたら、また町を出ていこうと思っていたのに、ずっと居座っちゃいそうです」

 

「いくらでもお相手しますよ。じいさんみたいにはいかないと思いますけど」

 

「マスターはマスター、カオルくんはカオルくんですよ?」

 

「使い古された言葉ですね」

 

「使い古されているってことはそれだけ多くの心が詰まっているってことですよ?」

 

「小説家って感じがしますね」

 

「こう見えてもベストセラー作家ですから~」

 

 ゆったりとした雰囲気のなか、他愛ない話をしながらふたりは午後の時間を過ごすのであった。




カオル「ところでどんな小説のネタを探していたんですか?」

青山「これです!」

カオル「カフェインファイター……?」

青山「シャロさんがモデルなんですよ~」

カオル「(……どんなネタを集めていたんだ?)」

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