ラビットハウスのパティシエさん   作:森フォレスト

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この話を続きものにするか、このまま終わるか悩みもの。
このまま終わる場合は最後を少し変えて対処する予定です。
個人的には物足りない感じで終わるのがいいとは思うのですが……


デート?のお誘い

「うーん……」

 

 土曜日の夜。カオルは自分の部屋のベットで横になり、スマートフォンを見ていた。画面には一通のメールが表示されている。

 

「『明日、一緒に街中を散策して、小説のネタを探しませんか? 青山翠』……これは、もしかしなくても……」

 

 「デートの誘い?」メールを読み上げ、そんな言葉を飲み込み、カオルは枕に顔をうめた。高校生時代、密かに憧れていた人物からの誘い。嬉しくないわけがない。しかし、あの青山である。この誘いにメール以上の意味などなく、いざ行ってみればほかにも人がいた、なんてこともないとは言い切れない。

 

「……翠さんって昔からすごくマイペースで、よくわからないからな」

 

 そう言い、深い溜息をつく。スマートフォンを操作し文字を打ち込んでは消す。そんなことを始めてから早一時間。カオルは、ココアの部屋で面白いからと読まされた少女漫画の主人公を思い出していた。

 

「あの主人公。案外、こんな気持ちだったのかもな……」

 

 いつも店に来て話したり、簡単なメールをしたりしているだけだったので、プライベートな誘いが来るとは思っていなかった。カオル自身もそんな誘いは一切していなかっただけに、そのメールはカオルをひどく困惑させた。

 

「特別な意味はないのかもしれないが、こう、なんというか……どうにもやりにくいな」

 

 カオルは今まで青山にからかわれているだけだと思っていた。しかしこうなってくると好い仲になることを想像してしまうのが男の性。カオルは返信に困っていた。

 

「そもそも、俺、翠さんのことどう思ってるんだ……?」

 

 色々と考え、そしてそのいずれも答えは出ない。これ以上待たせるわけにもいかないので、結局カオルは無難に了承する文章を打ち込み、送信した。すると一分とかからずにカオルのスマートフォンが振動する。

 

「……返信早いな」

 

 その後もなんどかメールのやり取りを行い、待ち合わせ場所と時間を決めると、お互いに「おやすみなさい」と簡単なメールでを終えた。

 

「とりあえず、明日は何を着ていくか……ああ、なんでこんなに悩んでんだ、俺……?」

 

 一度意識をしてしまうと、いつも通りの対応など出来る訳もなく、カオルはこのまま夜を明かすことになるのだった。

 

 

 

「結局寝れなかった……」

 

「お兄ちゃん。ずいぶんと眠そうですね」

 

「ああ……少しな……」

 

「目の下にクマが出来てるよ!」

 

「寝てないからな……ん?ココアが休日の朝に朝食を食べてるなんて珍しいな」

 

「私、いつも寝てるわけじゃないよ!?」

 

「ほとんど私が起こさないといつまでも寝てるじゃないですか」

 

「う、うぅ……」

 

 ゆっくりと朝食を食べながら、雑談をする三人。カオルはあくびをするたびに二人に徹夜の理由を聞かれ、そして早く寝るようにと釘を刺されるのだった。

 

 朝食を食べ、家を出たカオルは、眠い目をこすりながら待ち合わせ場所を目指した。普段から待ち合わせ場所に使われており、何かと人と会うことの多い公園。今回も例に漏れず、そこが目的地だ。

 

「……今日はあったかいな」

 

 もうすぐ冬間近だというのに、今日は暖かく、風も冷たくなく心地よい。カオルはいつもと同じベンチに座ると空を見上げた。

 

「眠い……」

 

 この陽気もあってか、動きを止めたカオルは眠気に襲われる。徹夜明けのこの気候にカオルは目を瞑ると、意識を手放した。

 

 

 

「あらあら、どうしましょうか~」

 

 一睡もしていなかったカオルは規則的な寝息をたてながら、ベンチで眠っていた。そんなカオルを約束どうりの時間にやってきた青山は困ったように、そして嬉しそうに言った。

 

「カオルくんの寝顔ってこんな感じなんですね。なんか新鮮」

 

 青山はすこし前かがみになりながらカオルの顔を覗き込む。相手は寝ているというのに、青山はカオルを見つめていると、どこか照れくさく感じた。

 

「昔は今よりも近くで、そして多く話していたはずなのに、不思議ですね~」

 

 少しばかり顔を赤く染めながら、青山はカオルの横に座ると、カオルを観察しながら、時折何かをメモ帳に書き込む。

 

「ふむふむ……つぎは……あら?」

 

 そんなことをなんどか繰り返していると、カオルが青山の肩に寄りかかる。

 

「ど、どうしましょう……あっ! 今ならできるかも?」

 

 どうすればいいのかわからず焦ったあと、青山は何かを思い出したように声を上げ、カオルの頭を自分の肩から膝へと移す。

 

「膝に程よい重さを感じます。男の人って感じがしますね~ 顔もよく見えますし……見え……ど、どうしましょう……」

 

 カオルの顔を直視すると、どうにも恥ずかしく感じてしまい、青山は前を向く。メモ帳にせっせと何かを書き込むと、再びカオルを見て、慌てて前を向きまた書き込む。

 

「は、話のネタを探すのも、大変ですね~ でも、こんなにカオルくんのことを観察したのは初めてかもしれません」

 

 青山は優しくカオルの髪を撫でる。気恥ずかしくあるが、どこか満たされるような不思議な感覚を楽しみながら、青山は薫が目覚めるまで、カオルの顔をじっと見ていた。

 

 

 

「何だ、この状況は……?」

 

「おはようございます、よく寝れましたか?」

 

 目をあけたカオルが一番最初に見たのは、微笑む青山の顔だった。

 

「えーっと、状況が見えません」

 

「焦った時のカオルくんの顔はいつ見ても新鮮ですね」

 

「質問に答えてくださいよ……とりあえず、起きますね」

 

「あら、少し残念です」

 

 青山の膝から起き上がり、カオルは恥ずかしそうに目をそらした。そんなカオルに青山は微笑みそう言った。

 

「あのままでは、喋れる気がしません」

 

「ふふっ」

 

「……えーっと、小説のネタ探しでしたか?」

 

「ええ、もうこんなに集まりました」

 

「寝ている間に何が!?」

 

 びっしりと書かれたメモ帳を見たカオルは、驚きの声を上げる。その内容も膝枕、寝顔、髪を撫でる、などなどカオルが恥ずかしいと感じるものが多い。

 

「ま、まさか、これを全部やったわけじゃないですよね!?」

 

「やりましたよ?」

 

「な、なんだ、この、もったいないような、覚えていなくて安心したような……」

 

「今日のカオルくんはコロコロと表情が変わって新鮮ですね」

 

「翠さんのせいですよ!?」

 

 楽しそうに微笑む翠にカオルは声を荒らげる。

 

「ふふっ、始まる前から楽しいですね」

 

「あ、これから散策でしたか……」

 

 カオルは青山の笑顔を見てからため息をつく。色々と思うことはあるカオルであったが、付き合うと言った手前、帰るわけにはいかない。ベンチから立ち上がると青山に手を差し出した。

 

「行きましょうか、翠さん」

 

「エスコートしてくれますか? カオルくん」

 

「……善処します」

 

「ふふっ」

 

 多大な不安と退屈はしないであろう散策への期待を胸に、カオルは青山の手をとるのだった。




ココア「最近、カオルお兄ちゃん、カウンターに立ってないこと増えたよね?」

チノ「休日ですからね。平日はいつも働いてます」

ココア「うーん、一日中一緒にいれるから休日のお仕事好きだったんだけどなー」

チノ「私もです。でも、土日をいつも働けというのは……」

ココア「私も毎日、家で勉強なんて無理だよ~」

チノ「ココアさんはいつも家では勉強してないじゃないですか」

ココア「えへへー」

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