ラビットハウスのパティシエさん   作:森フォレスト

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今日更新しないとは言っていない。

なんとか、バレンタインデーとリゼの誕生日の話を投稿できました。
辛い……

特別編の二話分は本編として組み込むか、番外とするか悩みます。
どうしようかな……


リゼ、誕生日おめでとう!


リゼ誕生日特別編 特別なあなた

「お、親父、あのさ……今日は、その、バレンタインだろ? それで……」

 

「ああ、すまんな、リゼ。お父さん、ちょっと手が離せない。屋敷の中も騒々しいのがわかるだろ? いま何よりも大事な作業をしなきゃならん」

 

「そ、その、ほんとに少しでいいんだ、だから時間を……」

 

「リゼ、済まないが無理だ。夜あたりまで外に出ていてくれ。今お前が屋敷内にいると、お父さんは気になって手がつかなくなってしまう……」

 

「っ! あぁ……わかったよ……仕事だもんな……」

 

「すまない、リゼ。でもこれだけはわかってくれ。お父さんはいつもお前のことを考えて……」

 

「わかってるって。気にするなよ親父! じゃあな、夕飯までには戻るから」

 

「ああ……」

 

 涙目で部屋を飛び出すように出ていくリゼを見て、リゼの父親は胸のあたりが痛むのを感じた。しかしそれもこれも、計画のためには必要なことだと自分に言い聞かせる。悟られては意味がない。

 

「しかし……いささかやりすぎた……か?」

 

 そのつぶやきに答える者は当然いなかった。

 

 

 

 パレンタイン当日だというのにも関わらずラビットハウスは平常運転である。さりげなくきた人にチョコレートケーキをサービスして、口コミによる集客を狙っているが、成果は感じられない。

 

「あーあ、ダメだ、こりゃ」

 

「虚しいのう……いやいや、隠れ家的喫茶店が理想じゃから、なんにも問題などないわい」

 

「虚しいってい言ったあとにそれは無理があるぞ、じいさん」

 

「ぐぬぬ」

 

 閑古鳥が鳴く店内を見渡し、二人(正確には一人と一匹)が深いため息をつくと同時に、カオルの携帯が軽快な音楽を鳴らす。

 

「ん……リゼの父さんか。いつの間に俺の電話番号を……もしもし」

 

「おう、カオルか。ちとすまんが、リゼのことを頼む」

 

「はぁ? なんだよいきなり」

 

「お前も当然知っていると思うが今日はリゼの誕生日なんだよ」

 

「ああ、そうだな。昨日ささやかなお祝いもやったよ。家族で過ごすだろうからって今日はバイト休みにしたしな」

 

「なら話が早いな。リゼを頼む」

 

「話が早すぎるわ。飛ばしすぎだろ。焦ってるのはわかるが落ち着いて説明してくれ。動くに動けん」

 

「ぐっ……カオルまでタカヒロみたいなことを……その、リゼの誕生日会の用意をするためにリゼを屋敷から出したんだが……やり方が悪かった」

 

「……悟られないようにと、有無を言わさぬ感じで追い出したな?」

 

「耳の痛い話だが、その通りだ。悟られてはサプライズじゃないからな」

 

「親なら、子どものことをもっと考えるべきだと思うがな。高校生なんだから尚さらだろ」

 

「考えてるからこうしてパーティーをだな……」

 

「真面目に言ってるなら、今日はリゼを家に帰さない」

 

「……いや、すまん。悪いと思ってるんだ。だからこうしてカオルに頭を下げてる」

 

「電話じゃねぇか。見えねぇよ」

 

「その、リゼのことをお願いできないだろうか。気になって作業が進まないんだ。このままでは共倒れする……っ!」

 

「後先考えないのは少し何とかしたほうがいい。あと、ちゃんとリゼに謝れ。一方的な思いの押し付けはは不和しか生まない」

 

「あぁ……」

 

「はぁ……まぁ、わかった。任せとけよ。あんたの代わりに慰めといてやるから」

 

「カオル、お前その言い方、いやらし------」

 

「ばっかじゃねぇの!?」

 

 リゼの父親が最後まで言う前に電話を切り、スマートフォンを叩きつけるようにテーブルに置き、カオルはそう叫んだ。

 部屋に戻り上着を取ると、それを片手にカオルはスマートフォンの近くに来て、一部始終を聞いていたティッピーに「そういうわけで行ってくるわ」と言い残しラビットハウスを出て行った。

 

「青春じゃのう……ところで、カオルはリゼがどこにいるのか知っておるのかのう……? それよりも息子を呼んでこねば、店がまわらぬわい」

 

 ティッピーはしみじみとそう言ったあとに、疑問を口にし、タカヒロを呼びに行くのであった。

 

 

 

「親父のバカ……そりゃ、仕事が大事なのはわかるけど、今日はバレンタインだし、私の誕生日でもあるのに……なんで、こんなとこでブランコこいでるんだろう……」

 

 リゼは公園でひとりブランコをこいでいた。頭ではわかっている。しかしリゼの心はそれで納得をしてくれない。手の中にあるみんなと一緒に作ったチョコの存在は、父親とのやりとりをリゼに思い起こさせる。

 

「こんなもの……っ!」

 

「それはやめとけ。リゼの肩の力なら多分ここから噴水まで届く」

 

 言いようのない感情に身を任せ、チョコを噴水へと投げ込もうと振り上げた手は何者かに掴まれ、止められる。

 

「何をする、離せっ!」

 

「おっと……」

 

 自身の行動を阻害されたことによる不快感から、リゼは掴まれている手を振りほどき、掴んでいた人物を睨みつける。しかし、その人物を認識した途端にリゼは頭に上がっていた血がすーっと下がっていくのを感じた。

 

「カオ……ル……?」

 

「おう、どうした?」

 

「い、いや……」

 

 リゼは今までの行動を思い返し、急に恥ずかしくなり、声が小さくなる。カオルは軽く微笑むと隣のブランコに腰を下ろした。

 

「で、こんなところで何してんだ? まさか緊張して渡せなくてチョコを捨てた。なんてことではないだろ?」

 

「あ、当たり前だろ! 私は、ただ……」

 

「ただ?」

 

「……チョコを渡しそびれただけだ」

 

「まぁ、そういうことにしておくか。じゃあ、行くか」

 

 俯きながらそう言うリゼ。カオルは深くは聞かずにリゼに手を差し出した。

 

「へっ? 行くって、どこに……?」

 

「どうにも気分がはれない。そんなときは体を動かすのが一番だ」

 

 そう言ってカオルはリゼに微笑みかけた。リゼはおずおずとその手を取るのだった。

 そのまま、歩くこと五分行き先も告げないカオルにリゼが尋ねる

 

「で、どこに向かっているんだ?」

 

「目的地はないな」

 

「な、なんだって?」

 

「言ったろ、体を動かすのが一番だって」

 

「運動する場所に行くんじゃないのか?」

 

「ここらへんだと温泉プールしかないからな。それに誰かと話しながら歩くって言うのもいいもんだぞ」

 

「そ、それは、まぁ……」

 

「新しい発見もある。そうだな……たまには違った格好をしてみるのはどうだ?」

 

「違う格好……? こ、ここは……!」

 

 そう言ってカオルが立ち止まったのは服屋だった。カオルは遠慮がちなリゼの手を引き、店内に入ると、リゼに似合いそうなものを手に取り、それと一緒に試着室へとリゼを押し込んだ。

 

「そ、その、どうだろうか……?」

 

「似合ってるじゃないか」

 

 着替えが終わり試着室のカーテンが開けられると、いつもの動きやすいボーイッシュな格好とは正反対な赤いワンピースをまとったリゼが出てきた。カオルは率直な感想を述べる。

 

「大変お似合いですよ。彼女さんですか?」

 

「かっ!?」

 

 いつの間にか近くに来ていた店員が二人に声をかけてくる。その言葉に何とも言えない表情のリゼをみて、カオルは少しからかうことにした。

 

「ええ、可愛いでしょう?」

 

「お二人とも大変お似合いだと思います。もちろん、彼女さんが着ていらっしゃる赤いワンピースも」

 

「店員さんは口がうまいなぁー」

 

「いえいえ、そんな………」

 

「じゃあ、乗せられちゃおうかな。これください。そのまま着ていっても?」

 

「ありがとうございます。当然大丈夫ですよ」

 

「お、おい、カオルっ! こんな高価なものを買ってもらうわけには……!」

 

「多少はカッコいいところ見せさせてくれよ。会計してくるから待ってろ」

 

「は、はぅ……」

 

「素敵な彼氏さんですね」

 

「……か、彼氏」

 

 トントン拍子に話が進み、リゼが来ている服をカオルが買う。接客していた店員はそうリゼに言うと、カオルの後を追いかけてレジへと向かった。後には顔を赤くしてその場にへたり込むリゼだけが残された。

 その後も喫茶店でお昼を食べ、デパートを見て回ったり、最近はやりの映画を観たりなどして二人で過ごし、気が付くと夕方になっており、二人は最初に会った公園へと戻ってきていた。

 

「こうして考えると、なんかあっという間の一日だったよ」

 

「気持ちは晴れたか?」

 

 今日会った時と同じようにブランコに座り二人で話す。カオルの問いかけにリゼはいつしか抱えていたモヤモヤが消え去っていることに気がついた。

 

「……そうだな。彼氏さんのおかげで良い一日だったよ」

 

「ふっ、彼女さんのお墨付きか」

 

「なぁ、カオル……」

 

「なんだ?」

 

「その……」

 

 からかってやるつもりだったリゼだったがカオルにあまりにも平然と返される。そのまま続けて言葉を紡ごうとする。

 

「いや、なんでもない。このチョコ、夕飯の時に親父に渡すことにするよ」

 

「ああ、それがいい。投げなくてよかったろ?」

 

「ふふっ、そうだな」

 

 リゼは会った時に来ていた服が入った袋からチョコを取り出し軽く振ってみせる。カオルは微笑みそうリゼに言い、リセもそれを肯定した。

 

「さて、そろそろ帰る事にするよ。今日はありがとう、カオル」

 

「気にするな。たまたま会っただけだしな」

 

「ふふっ、そういうことにしておくよ。あ、そうだ、カオル、ちょっと腕を見せてくれないか?」

 

「腕? 別にいいが……」

 

 カオルは袖を捲り上げ腕をリゼに見せる。リゼはカオルの腕を掴み、睨みつけるように眺めたあとにその腕にキスをした。

 

「……リゼ、なにしてんの?」

 

「は、ははは! じゃ、じゃあな、カオル! またバイトで!」

 

 顔を真っ赤にしながら大慌てで走って公園を後にするリゼ。その走り去る後ろ姿をよくわからないといった感じで見つめるカオル。

 

「……なんだ、あいつ? しかし……なぜ腕? 頬とかならまだドキドキもしたんだがなぁ……」

 

 少し残念、そんなこと考えている自分がたしかに居て、それを否定し追い出すようにカオルは頭を振り、帰宅するべく公園を後にした。




リゼパパ「リゼ、そのすまなかった。サプライズのためとは言え辛く言い過ぎた」

リゼ「本当だぞ!? 悲しかったんだからな!」

リゼパパ「知り合いに怒られたよ。もう少し子どものことを考えろってな」

リゼ「ま、まぁ、わかってくれたならいいんだけど。その、これ、渡せなかったバレンタインのチョコだ」

リゼパパ「り、リゼ……! お父さん嬉しいよ!」

リゼ「く、くっつくなぁ!」

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