ラビットハウスのパティシエさん   作:森フォレスト

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お見舞い……あれ? お見舞いしてないぞ!?


お見舞い

 リゼが足を挫いて怪我をしたとチノとココアから聞いたカオルは、次の日の喫茶店の仕事を昼の三時から父親に変わってもらい、リゼのお見舞いに行くことにした。

 

「(まあ、遊んだらしいし、そこまで怪我も重くはないだろう……)」

 

 そんなことを考えながら、リゼの家へ向かっていると、目の前から見覚えのある女の子が三人カオルの方へ歩いてくる。

 

「あれ? カオル兄じゃん!」

 

「こんにちは~」

 

「リゼさんのお見舞いですか?」

 

「そうそう、リゼの家へお見舞いに行く途中だ。帰ってきた報告もしなきゃな。チノにマヤにメグは今帰りか?」

 

 チノ、マヤ、メグの三人はカオルの前で立ち止まり、カオルに話しかける。チノの問いかけに答え、カオルも三人に尋ねた。

 

「そうだよーってリゼになんかあったの?」

 

「風邪かなー?」

 

「いえ、足の怪我です」

 

「まあ、そういうわけでお見舞いだ。といってもたぶん大したことはないと思うけどな」

 

 マヤとメグの疑問にチノが答え、カオルが続けて言った。マヤはなにかを考えたあとに目を輝かせた。

 

「ほほう……よし、私たちもリゼのお見舞いに行こう!」

 

「えぇー!? いきなり行ったら迷惑じゃないかな?」

 

「私は昨日行きましたから……」

 

 マヤの突然の提案にメグは首をかしげ、チノは遠回しに遠慮した。しかしそこで引き下がるマヤではなかった。

 

「固いこと言うなよチノ、メグ! いこーよー」

 

「う、うーん……カオルさん、迷惑じゃないですか?」

 

「たぶんいいと思うぞ? リゼも嫌がりはしないだろう」

 

「リゼさんに確認はとっていないのですか?」

 

「メールはしたんだが、返信がなくてな……」

 

 スマートフォンを確認しながらカオルは答える。どうやら未だにリゼからの返信はないようだ。

 

「それじゃあ、リゼさんに聞かなきゃね! でもどうやって……?」

 

「それは、メグのテレパシーとかで!」

 

「また無茶苦茶なことを……」

 

「て、テレパシー!」

 

「やっちゃった!?」

 

「(微笑ましいな。チノは友達といるとこんな風なんだな)」

 

 カオルは目の前でわいわいと楽しそうに話す三人を見て微笑んだ。

 

「んー? カオル兄、なに笑ってんの?」

 

「楽しそうだなと思っただけだ。じゃあ、一緒に行くか。リゼが居なかったり、用事で出てこれなかったら帰りにアイスを買ってやろう」

 

「わーい、カオル兄太っ腹ー。 私はチョコレートがいいなー」

 

「私、味はストロベリーがいいな~」

 

「……なぜ、リゼさんが対応できないという方向で話をするのですか?」

 

「味を言っておけば買ってくれるかなーって」

 

「マヤ以外には買ってやろう」

 

「えぇー!? カオル兄の意地悪!」

 

「日頃の行いだ。いい子にしてたら買ってやろう」

 

「こ、子供扱いしないでよー!」

 

 

 

「おぉー……」

 

 リゼの家の前まで来ると、マヤが感嘆の声をあげた。メグも声には出さないが、驚いているようだ。

 

「リゼってひょっとしてお嬢様!?」

 

「お城みたいだね~」

 

「リゼさんは……考えたらお嬢様なのかもしれません」

 

「最初みたときは驚くよな」

 

 ある程度の距離までくると視界に入る存在感。そして、不法侵入を許さない警備体制。それらは初めて目にする者を圧倒する。

 カオルは前回来たときのように、ガードマンに声をかけようとしたが、その前にマヤがガードマンへと一目散に駆け出した。

 

「お、おい、マヤ!」

 

「勝負だ、黒服ーっ!」

 

「「っ!?」」

 

 二人のガードマンはとっさのことに身構えるが子どもが突っ込んでくるという状況に一瞬動きが固まる。直ぐ様カオルは走りだしマヤを捕まえ、抱き抱えた。

 

「あれ!?」

 

「馬鹿か!? 何をしてるんだお前は!?」

 

「門番を倒して中に入ろうかなーって」

 

「そのRPGみたく考えるのはやめろ! 色々と問題が起こる! 少なくとも俺といるときは俺の目の届く範囲にいろ。約束な」

 

「えぇー? でも……」

 

「なんだって?」

 

「サー。了解であります。サー!」

 

「マヤちゃんたのしそう~」

 

「マヤさんは、お兄ちゃんがいるといつもよりはしゃぐ傾向にあります」

 

 カオルは有無を言わさず雰囲気でマヤに言い聞かせる。そんなふたりを見ながらメグは微笑み、チノは冷静にそう言った。

 

「騒がしくてすみません…… リゼのお見舞いに来たのですが、メールに返信がなくてですね。リゼに確認してもらえませんか?」

 

 迷惑をかけたことをガードマンに謝罪したあと、カオルはガードマンに尋ねる。

 

「お嬢からはうかがっていますよ。合図があるまでは入れないようにとの御達しです」

 

「合図ってなにかな~?」

 

「電話とかだと思いますが……」

 

「いやいや、きっと花火とか空砲とかだよ!」

 

「おいおい、マヤ。いくらリゼがそういうのを好きだといっても-----」

 

 パパン!

 

 それは流石にないだろう、と言いかけたカオルの言葉は大きな音でかき消された。信じられないといった表情で、カオルは言う。

 

「スターターピストル……?」

 

「運動会で聞いたことあるやつだ!」

 

「派手だね~」

 

「リゼさん……」

 

 その一般的ではないリゼの合図に興奮するマヤとメグ、少し呆れ気味のチノとカオル。

 

「お嬢から合図があったので、どうぞ」

 

 一切表情を変えずにそう言うガードマンを見て、なれているのか、仕事だからなのか判断し兼ねるカオルだった。

 

 

 

「よく来たな、カオルにチマメ隊!」

 

「なんで、そんなに汗かいてるんだ……?」

 

「なっ!? ははは、大慌てで部屋の片付けをしたとか、そういうことじゃないからな!」

 

 リゼの言葉に四人が部屋を見渡すと、確かに部屋が綺麗になっていた。

 

「確かに昨日来た時より綺麗になっていますね」

 

「リゼは綺麗好きなんだなー」

 

「大人の部屋って感じだね~」

 

「リゼも女の子ってことだな」

 

「ななな、なにを……」

 

 四人のベタ褒めに目をぐるぐるにしながら顔を赤らめるリゼ。

 

「それよりもなんだ、あの合図は」

 

「あれって運動会のやつだよね? 私も撃ちたい!」

 

「大きな音でドキドキしちゃった~」

 

「リゼさん、あれは心臓に悪いです」

 

「ああ、あれはマヤが言うように運動会で使用するスターターピストルだよ。なぜか倉庫にあったんだ。つかってみたくなるだろ?」

 

 リゼは頬をかきながら恥ずかしそうにそう言う。その行動自体が恥ずかしいのではと思うカオルとチノであった。

 カオルは持ってきたお見舞いの品をテーブルに置いていく。フルーツにコンビニスイーツなどが目立つ

 

「おぉ! こんなにもらっちゃって……悪いなぁ……」

 

「怪我の具合はどうなんだ?」

 

「たまに痛むくらいでほとんど問題はないんだが、親父が学校に行かせてくれなくて……」

 

「リゼの親父さんは過保護だからな」

 

「ほんと、まいっちゃうよ」

 

「カオル兄とリゼ、なんか通じ合ってる感じの話し方だね!」

 

「羨ましいな~」

 

「お兄ちゃんは、リゼさんのお父さんと知り合いですからね。変なことではないです」

 

 そう言いながら、こっそりとカオルの方に近寄るチノ。そのささやかな嫉妬にカオルは微笑みながらチノの頭を撫でた。

 

「そういうカオルはいつ帰ってきたんだ? もっと遅いと思ってたよ」

 

「昨日だけど。大体一週間だって親父はいってなかったのか?」

 

「ココアさんの実家に行っていて、しばらくは帰ってこないと聞いていました。てっきりひと月くらい帰ってこないのかと思っていました」

 

「チノはため息ばかりついていたからな~」

 

「学校でも元気なかったよなー」

 

「うんうん」

 

「そ、そういうことは言わなくていいんです!」

 

 周りから指摘され、チノは顔を赤らめながらそう言った。とくにすることもなく暇だとリゼが言いだし、五人でボードゲームや、トランプなどをやって過ごすこと数時間、負けがかさみだしたマヤが急に立ち上がる。

 

「勝てなくて面白くない!」

 

「負けてばかりだもんね~」

 

「メグさんばっさり言いますね」

 

「そうは言ってもな……」

 

「マヤは顔に出やすいから、すぐにどんな状態かわかっちゃうんだよ」

 

 カオルの言葉にマヤ以外の全員が頷く。

 

「うぅ……不公平だ! 他のことがしたい!」

 

「他のことー?」

 

「なにかありますか、リゼさん?」

 

「あいにく、遊ぶものは……モデルガンとかしかないな。あとはうちの連中のスーツと、昨日のメイド服くらいか……」

 

「昨日のメイド服って、お見舞いに来て何をしたんだ、あいつらは……」

 

「それがいい!」

 

「「えっ……?」」

 

 目を輝かせながらマヤはそう言った。カオルとリゼの声が重なる。

 

「ハンドガンにスーツ! かっこいいじゃん! 着てみたい!」

 

「まぁ、マヤが着たいというのなら私は構わないが……メグとチノはどうする?」

 

「メイドさんやってみたい~」

 

「私は昨日、着ましたので遠慮します」

 

「カオルはどうだ?」

 

「俺? いや、俺もチノと一緒で別に……」

 

「お兄ちゃんは着てみてください」

 

「え?」

 

「着てみてください」

 

「……チノもメイド服な」

 

 ため息混じりにカオルはそれを条件としてチノの要望を受け入れたのだった。

 カオルを部屋の外に出し、着替えを済ます三人。カオルが呼ばれ、部屋に入るとメイド服に着替えた三人がいた。不思議なことにサイズがぴったりとあっているようだ。

 

「どうどう? カオル兄」

 

「えへへ~ 似合いますか?」

 

「昨日ぶりです」

 

「ははっ、随分と可愛らしいな。だがなぜ、そんな小さなメイド服があるんだ?」

 

「なぜかあったんだ。昔は背の小さな使用人もいたのかもしれないな。私の記憶にはないが」

 

「そうか……で、なぜリゼまでメイド服を?」 

 

「へ、変だろうか!?」

 

「いや、女の子らしくて可愛いと思うが……」

 

「なっ!?」

 

 カオルの言葉にリゼは顔を赤くした。そんな二人にマヤが声をかける。

 

「イチャつくのもいいけどさー、これを見てよ。じゃーん、仕込みナイフ!」

 

 マヤはメイド服のスカートをまくりあげ、太ももに隠してあるナイフをみせる。その行動にメグとチノがうろたえる。

 

「ま、マヤちゃん、下着が見えちゃうよー!?」

 

「そ、そうです、そういうのはいけません。だめです!」

 

「マヤはそういうの好きだよな。私も昔はそういう遊びをしたぞ」

 

「もう少し慎みをもて、マヤ」

 

「えぇー?」

 

「「(お、大人の対応だ……!)」」

 

「じゃあ、カオル。このスーツとサングラスな」

 

「……わかった」

 

 リゼはスーツとサングラスをカオルに渡し、三人をつれて部屋の外に出ていく。カオルは気が進まない様子で着替えを始めた。

 着替え終わり三人を部屋に呼ぶと、三者三様の反応をする。

 

「カオル兄、かっこいい!」

 

「大人って感じがするよ~」

 

「昔に写真で見たお父さんみたいです。かっこいいです」

 

「に、似合うな、カオル!」

 

「……なんか、落ち着かん」

 

 スーツをビシッと着こなし、サングラスをかけているカオルはガードマンに混ざっていても違和感が無さそうであった。しかし、慣れていない格好と、褒められるくすぐったさに、カオルは落ち着かない様子であった。

 

「じゃあ、勝負だ! カオル兄!」

 

「まてまてまて」

 

「なんだ、戦闘か!? よし、私も参加するぞ」

 

「私も~」

 

「え、いや、あの……そのために着替えたんですか?」

 

「リゼは止めろ!」

 

 軽い取っ組み合いのような遊びをしたため、そう長くは体力が続かずこの遊びは長続きしなかった。服はシワシワになったため、みんなで頭を下げて、使用人に預けることとなるのだった。




カオル「マヤは加減というものを知らんな……」

ガードマン「ん? お前、お嬢の部屋の前で何をしているんだ?」

カオル「え? ああ、着替えてるので出てくるのを待ってるところです」

ガードマン「なに? そんなものは使用人に任せればいいだろう。ほら、持ち場に付け」

カオル「え? いや、俺は……」

ガードマン「わかったわかった、話はむこうで聞くから。サボってると、どやされるぞ?」

カオル「ち、ちがっ、俺はここで働いているわけでは……ちょっ、引っ張らないでください!」



リゼ「おーい、カオル。次はそっちが部屋で着替えて……ん? いない?」

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