ネタがくどいとか色々ありますが、多目に見てください。なんでもしますから!
「最近、千夜ちゃん元気ないよね?」
「……そうかしら?」
学校でお昼を食べているとき、ココアはここ最近千夜の様子がおかしいことを指摘した。千夜は力なく聞き返す。
「私たち、友達じゃない! なんでも相談してよ!」
「ココアちゃん……実は最近、スランプで……」
「えぇ!? スランプ!? ……ってなに?」
「ココアちゃん……」
大袈裟に驚いたあとに首をかしげるココアに千夜は苦笑いを浮かべた。
「スランプっていうのは……やだわ、説明するの難しい」
「千夜ちゃん!?」
「え、えぇーと……ババ抜きとか」
「それはトランプだよ、千夜ちゃん!」
「はんこみたいな……」
「……スタンプ?」
「正解よ!」
「わーい!」
「「「(なんの話をしてるのかな……?)」」」
手を合わせてはしゃぐココアと千夜に周りの生徒は心のなかで疑問を浮かべた。
「スランプっていうのは……心身の状態が一時的に落ち込んでいて、実力が発揮できないこと、らしいわ!」
「なるほど~」
千夜はスマホでスランプの意味を検索しながらココアに説明する。
「千夜ちゃん、和菓子が作れなくなっちゃったの?」
「違うわ……実は……」
「実は……?」
「メニューの名前が思い付かなくなっちゃったのーっ!」
「そっち!?」
机に突っ伏して泣きながら言う千夜にココアがツッコミを入れた。
二人は学校終わりにフルール・ド・ラパンへと足を運んでいた。
「スランプ?」
来店するなり千夜がスランプになりメニューの名前が思い付かなくなったと言われたシャロは何をいっているんだといった表情をした。
「千夜ちゃんにとって、甘兎庵にとって死活問題だよ!」
「これを機にメニューの名前も普通にしたら?」
「ひどいわ、シャロちゃん! 私のことなんてどうでもいいのね!?」
「そんなこと言ってないじゃない!」
「このままじゃ、私……私……負けちゃうっ!」
「何によっ!?」
ココアが千夜をなだめながら席へと座り、気分の落ち着くハーブティーを注文する。
「はい、カモミールティーと、サービスのハーブを使ったクッキーよ。で、何でまたスランプなんかになったのよ?」
「実は昨日子どものお客さんが食べに来たの……」
「うんうん!」
シャロがハーブティーとクッキーをテーブルに置き、千夜に聞く。千夜はその原因と思えることを話始める。
「その子、メニューが名前負けしてるって……!」
「「(ばっさり言ったーーーっ!)」」
千夜は再びテーブルに突っ伏して泣き、ココアとシャロの心の声が重なった。
「ま、まぁ……子供って思ったことをすぐ口にして忘れるから、気にしなくても……」
「無理よ! 全てのお客さんにそう思われてると思うと……!」
「子どもに一度言われただけでしょ!?」
「でもでも、千夜ちゃんの考えるメニューの名前は可愛くて私、好きだな~」
「……本当に?」
「うん!」
千夜は涙目でココアを見つめて聞き返し、ココアは満面の笑みで肯定した。
「……やっぱりだめ! 私、メニューの名前が考えられないわーっ!」
「えぇ!?」
「(かつてないほどめんどくさいわね……)」
再び泣き崩れる千夜にココアは戸惑い、シャロはため息をついた。
「とりあえず、他の人にも話を聞いてみたら? それでだめなら、夜にいくらでも話を聞いてあげるから」
というシャロの言葉に、ココアと千夜はラビットハウスへと向かった。ラビットハウスに入るとリゼがカウンター席に座っており、カオルはカウンターでティーカップを拭いていた。
「いらっしゃいませっと、ココアに千夜か、おかえり」
「おかえりー」
「リゼちゃん、カオルお兄ちゃん、ただいまーっ!」
「お邪魔します、リゼちゃん、カオルさん……」
「なんだ、千夜? 元気がないじゃないか」
「言われてみればそうだな……私でよければ相談にのるぞ? こう見えても学校じゃよく相談されるんだ」
「うん、あのね……」
千夜の様子に気がついた二人は何があったのかと問いかけた。そして、千夜が今、スランプに陥ってることをココアが説明する。
「千夜がスランプね……」
「……地面たたくことだよな?」
「リゼ、それはスタンプだ。いや、普通は紙とかに押す方のスタンプを思い浮かべるだろ……」
「リゼちゃん……そんなボケはいらないわっ!」
「千夜は、人のボケには厳しいな!?」
千夜の真顔の発言にリゼは顔を赤くしながら叫んだ。
「スランプか……私にもあったな……」
「リゼちゃんにも?」
「ああ、一時期、射撃が全く的に当たらなくなってな」
「リゼちゃんは、武道派ね~」
「その時は的の大きさを普段の三倍にして射撃をしたよ」
「「力業で当てた!?」」
「(距離を縮めろよ……)」
リゼのスランプエピソードにココアと千夜が声を重ねた。カオルは冷静に心のなかで指摘した。
「しかし、悪いことじゃないぞ。それは」
「え? そうなの?」
「ああ、失敗が続くときは、何らかの方法で一度成功させて、自信をつけるという方法がある」
「そ、そうだぞ! 私もそういうことが言いたかったんだ!」
「……? 私はどうすればいいのかしら?」
「あー……とりあえず、メニューに名前でもつけてみればいいんじゃないか? リハビリで」
「カオルさん、ちょっと投げやりじゃないかしら!?」
千夜はカオルに抗議をした。そのままカオルは厨房に入ると、パフェを片手に戻ってきた。
「とりあえず、ほら。新製品の牛乳ソフトパフェだ。一番下に牛乳プリン、その上にフレークをのせて、一番上に牛乳ソフトをのせたパフェだ。厳選した牛乳使っているから一味違うぞ」
「おぉ~ 美味しそうだよ、カオルお兄ちゃん!」
「牛乳だから、コーヒーとも合いそうだな」
「これに名前をつけてみろ、千夜」
「わかったわ!」
カオルの持ってきたパフェを食い入るように見つめたあと、千夜は紙にすらすらとメニューの名前を書き出した。そして、書いた名前をみんなに見せた。
『白の濁流』
「「「(こ、これは……)」」」
「やっぱりダメなのね!?」
「まあ、スランプだしな」
「うわぁぁああああんっ!」
「り、リゼちゃん、言葉を選ばなきゃ! いま千夜ちゃんはすごく繊細なんだから」
「わ、私が悪いのか!?」
泣き出す千夜に寄り添いながらココアがリゼに注意をする。リゼは困ったようにそう言った。みんなで騒いでいると上で着替えていたチノがやって来た。
「皆さん、何を話しているんですか?」
「千夜がスランプって話だよ」
「スランプですか……昔、再放送で見たことがあります」
「チノ、それはドクタースランプだな。しかも新しい方。あぁ、懐かしいな……」
「「「?」」」
「まあ、そう言う反応だよな……知らないよな……世代か……俺が小さい頃のアニメーションだ」
しみじみとするカオルにチノ以外はよくわからないという顔をする。カオルは小さく「俺も歳とったよな……」と呟いてから、チノに今までの話を詳しく説明した。
「私も昔、スランプでコーヒーが美味しく入れれなくなったことがあります」
「チノもか?」
「その時はチノちゃん、どうやってスランプから抜け出したの?」
「初めてお客さんにコーヒーを出したときの気持ちを思い出しました。すると不思議と普段通りのコーヒーが入れれるようになりました」
「初心忘れるべからずってやつだな」
「初めてメニューに名前をつけたとき……」
チノの言葉に千夜は目を閉じて昔のことを思い出す。その様子に周りの皆は息を飲んだ。
「私、やってみるわ! 例え名前負けしていても、どれも私が一生懸命考えた名前だもの! それに、ココアちゃんみたく、気に入ってくれる人もいるわ!」
「その意気だよ、千夜ちゃん!」
「私も、千夜さんの考えるメニューの名前は、千夜さんらしくて好きです」
「うん、良し悪しとか関係なく、千夜らしいよな。それがいいと思う」
「まあ、千夜だけじゃなく、俺たちもちゃんとしなきゃな。とくにココア、最近ボーッとしてること多いぞ?」
「うっ……がんばります……」
その後はいつもの調子に戻り雑談をしながらも、ちゃんとラビットハウスを営業し、バータイムへと引き継いだ。千夜はスランプを抜け出し、また個性的なメニューの名前を考えれるようになったのであった。
リゼ「そういえば、カオルはスランプになった経験とかないのか?」
カオル「俺? んー……一度、何回やっても仕込みがおかしくなることがあってな」
リゼ「どうやって解決したんだ?」
カオル「同僚とお酒を飲んで一日寝たら治った」
リゼ「まるで参考にならないな……」
カオル「だから言わなかったんだ……」