ラビットハウスのパティシエさん   作:森フォレスト

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突撃! 職業インタビュー

 カオルは特にやることがない時は土曜日も喫茶店のカウンターに立つことにしている。この日は土曜日ということもあり、働いているのはカオルとリゼだけで、ココアはまだ寝ており、チノは部屋でマヤとメグと遊んでいる。

 

「やはり二人だと違うな。カウンターから動かなくていいから楽だ」

 

「そのためのバイトとはいえ、なんか釈然としないぞ……」

 

「リゼを信頼してるってことさ。いっそここに就職して二人で働くのはどうだ?」

 

「そ、そのにやけ面をやめろ! ほら、お客の注文だ行ってこい、私は、厨房に入る」

 

「にやけ面!? 料理の注文なら、俺が作るが……」

 

「私にも楽をさせてくれ……」

 

 出来上がった注文の品をテーブルにおいたあと、リゼは顔を赤くしながら「こんな顔で営業なんかできるか」と厨房へと入っていく。それを見届けてから、カオルはお客に注文を届けに行く。

 

「お待たせしました。サンドイッチとウインナーコーヒーでございます」

 

 お客に注文を届け、カウンターへともどってくるカオルをティッピーが迎える。

 

「カオル……あまり純心な娘をからかうでない」

 

「からかう? ……そういえばさっき、リゼは否定しなかったな……」

 

「……まさか本当にスカウトしておったのか?」

 

「一緒に働けるならいいよな。リゼとは気も合うし仕事も連携がとりやすい」

 

「天然でやっておるのか、あれは……」

 

「最近なら、ココアとも連携がとりやすくなってきたから、ココアでもいいな。チノはもうほとんど確定してるようなものだから……ココアかリゼ、どっちかだけでも残ってくれれば、回転率も上がるし……」

 

「カオル、いずれ誰かに刺されるぞ」

 

「な、なんでだ!?」

 

 不思議そうな顔をするカオルにティッピーは深いため息をついたあと、話を変えるように続けた。

 

「そういえばお主、仕事中の顔つきが息子に似てきたの……」

 

「親父のを立ち振舞いを参考にしてるからな。バータイムの制服だし」

 

「最近では、カオルを目当てに来る客も少なくないみたいじゃぞ」

 

「また来るよマスターの一言をもらったときは嬉しかったな」

 

「おぉ……ついにカオルも……ワシと同じことを……!」

 

「なんだ、気持ち悪いな……」

 

 おいおいと泣くティッピーを横目にカオルは洗ったカップを布巾で拭いていると、来店を知らせる鐘が鳴る。

 

「いらっしゃいませ」

 

「いらっしゃいました~」

 

「こんにちは、翠さん」

 

「はい、こんにちはです」

 

「もう、なにも言わずにカウンター席に座るんですね……」

 

「私とのお話はお嫌いですか?」

 

「まさか。ご注文は?」

 

「いつものを~」

 

「ブルーマウンテンとコーヒーゼリーですね」

 

「ふふっ、いつものをって注文するのって素敵だと思いませんか?」

 

「俺は提供する側ですからねー」

 

「カオルくんのいけずです……」

 

 青山はテーブルに「の」の字を書きながら言う。そんな青山を見ながら、小さくと笑うとカオルはブルーマウンテンを青山の前におく。

 

「……安心する味です」

 

「ありがとうございます。コーヒーゼリーもどうぞ」

 

「待ってました~」

 

 カオルはお礼を言い、コーヒーゼリーも青山の目の前におく。青山は目を輝かせながらスプーンを手に取った。それと同時に奥の方でお客がカオルを呼ぶ。

 

「すみませーん、お会計をお願いします」

 

「ただいま参ります」

 

 カオルは小さく「いってきます」と青山に言うとレジへと行き、お客の会計をする。

 

「680円になります。1000円お預かりしましたので320円のお返しになります。またのご来店お待ちしております」

 

 会計を済ませると、再びカウンターへと戻ってくる。カオルが戻ってくると青山はコーヒーゼリーを食べきっていた。

 

「カオルくん、私と話すときと、他のお客さんと話すときとで態度が変わりますよね~」

 

「知り合いですし……あっちの方がいいなら態度と言葉遣いも変えますが……」

 

「どちらのカオルくんも、素敵だと思います」

 

「そ、そんなことは……」

 

「昔と比べても成長しましたよね」

 

「あの頃は、高校生でしたし……」

 

「誰にたいしても取り繕わず真っ直ぐな人でしたよね~」

 

「や、やめてください!」

 

「ふふっ」

 

 カオルは顔を赤くしながら、青山を止める。そんなカオルを見て青山は微笑んだ。

 

「毎回、からかうのを止めてくれませんか……」

 

「カオルくんって、可愛い反応をしてくれるのでつい……」

 

「かわっ!? つ、ついじゃないですよ!」

 

「昔のカオルくんも好きですが、今のカオルくんはもっと好きです」

 

「で、ですから、好きとかそういうことは……」

 

 青山の言葉にどういう反応をしたらいいのかわからずに、カオルはうろたえる 。そしてその時、カオルは今の自分と、話しているときに時たま顔を赤くしてうろたえるココアとリゼの姿が頭の中で重なった。

 

「(……そういうことだったのか。ただ思っていることを口にしていただけだが、ココアやリゼはこんな思いをしていたのかもしれない……でも、俺はそういう反応を見たくてやってるわけではないぞ!?)」

 

「おや? どうかしましたか?」

 

「い、いえ……」

 

 不思議そうな顔でカオルを見る青山に、なんでもないと言いつつ、カオルは心の中で今後の行動には気を付けようと心に決めたのだった。

 

「(あれ? でもそうなると俺、ココアとリゼに割りと好意的な感情を持たれているのでは……?)」

 

「こんにちはーカオル兄!」

 

「こんにちはです~」

 

「おはよー」

 

「ココアさん、寝癖ついてます」

 

 カオルの思考は二階から降りてきた人たちによって打ち切られる。

 

「ん? ああ、こんにちはマヤにメグちゃん。そして遅いお目覚めだな、ココア。ねぼすけな姉をもつとチノも大変だな」

 

「うひゃ!? か、カオルお兄ちゃん、おはよう!」

 

「もう、12時近いぞ?」

 

「どうしようもないココアさんです」

 

 あわてて髪を直しながら挨拶をするココアにカオルは苦笑いを浮かべ、チノは呆れたようにそう言った。

 

「土曜日だから、油断してたよ……」

 

「だから言ったじゃないですか……」

 

「はいはーい、カオル兄、突然だけど!」

 

「こ、この仕事のやりがいはなんですかー!」

 

「な、なんだ、いきなり? しかし、やりがいか……そうだな、人の幸せな顔を見れることかな」

 

 唐突なマヤとメグの質問にカオルは意味をはかりかねるも、ちゃんと質問に答える。

 

「ほほう!」

 

「それはどんなことですかー?」

 

「そうだな……翠さん、コーヒーゼリーどうぞ、サービスです」

 

「「(翠さん!?)」」

 

「え? ありがとうございますカオルくん」

 

「「(カオルくん!?)」」

 

 チノとココアの心の声を知らずに、カオルは唐突に青山の前にコーヒーゼリーを置く。よくわからないといった感じで受け取り、青山はコーヒーゼリーを口にする。

 

「んん~ おいしいです」

 

「こんな顔だな」

 

「なるほど!」

 

「たしかに幸せそうだね~」

 

 コーヒーゼリーを食べて微笑む青山をみて、納得する二人。そんな青山にチノとココアが質問する。

 

「「(カオル)お兄ちゃんとはどんな関係ですか!?」」

 

「あ、あら?」

 

 二人に迫られ驚き困っている青山をみて、カオルは少しだけ仕返しをした気分になった。

 

「カオルくんとはここのマスターがご存命のころからの古い知り合いでして~」

 

「おじいちゃんのころからのお客さんでしたか」

 

「となると……いつくらいだろ?」

 

「私もカオルくんも高校生くらいのときですね~」

 

「(あ、やばい) それはそうと、マヤとメグちゃんは何でこんなことを聞いたんだ?」

 

 本能的に話の流れが自身の高校生時代の話になると悟ったカオルは強引に話を戻した。

 

「えっとねー、学校の宿題で職業調べがあってさ」

 

「この喫茶店にインタビューにきたの」

 

 メモ帳を片手に二人が答える。

 

「チノもインタビューか?」

 

「私は、青山さんとお兄ちゃんの関係を詳しく聞き-----」

 

「でもインタビューなら親父の方がいいと思うぞ?」

 

「……父にはすでに聞きました」

 

 チノの言葉を強引に遮るカオル。その行動から聞かれたくないのだと察したチノは不服そうではあるが、聞くのをやめた。

 

「個人経営ってたいへんなんだなー」

 

「この辺、喫茶店が密集してて競争が厳しいみたいだね」

 

「甘兎庵とフルール・ド・ラパンとか? 他にもあるけど……」

 

 メモを見返しながら二人が言い、ココアが喫茶店の例を挙げる。

 

「そうだな。それに対抗すべくちょいちょいメニュー追加したりとか、バータイムをやったりと工夫してるわけだ」

 

「ほうほう。さすがカオル兄だね!」

 

「大人の人って感じがするよー」

 

「もっと褒めてくれていいぞ、妹たちよ」

 

「お兄ちゃんの妹は私だけです」

 

 チノのちょっとした嫉妬を可愛いと思いながらカオルは話を続ける。

 

「フルール・ド・ラパンなんかはチェーン店だからな、店もでかいし人も入るしでうちとしてはお客をもってかれないようにと必死なわけだ」

 

「チェーン店は狼みたいに群がるからな!」

 

「マヤちゃん、どんなイメージもってるんだろー?」

 

「甘兎庵はこの洋風な街並みに和風の外見で店を構えている和菓子を専門に扱う老舗だ。固定客もいるし、何より目立つ」

 

「おおー! ラビットハウスピンチじゃん!」

 

「ど、どうやって対抗するのー?」

 

「ぶっちゃけ、できることがほとんどない。というのも、フルール・ド・ラパンはハーブティーを甘兎庵は和菓子をラビットハウスはコーヒーを専門に扱ってる喫茶店だから、ちゃんとすみ分けができてるわけだ」

 

「えぇーと、どういうこと?」

 

「気分でわかれるってことじゃないかなー?」

 

「メグちゃんの言う通りだ。ハーブティーを飲みたいならフルール・ド・ラパン、和菓子が食べたいなら甘兎庵、コーヒーを飲みたいならラビットハウスにくるわけだ。だから、お客が他のところにいっても、もううちには来ない、なんてことはないわけだ」

 

「「なるほどー」」

 

 カオルの説明に二人が声を重ねて納得する。

 

「しかし、個人経営だから、他の細かい問題が山ほどあるんだよね……親父がほとんど一人でさばいているけど……」

 

「チノとカオル兄の父親ってすごいんだね!」

 

「頭が下がるね」

 

「ほんとにな。親父はすごいよ」

 

 なぜかカオルの話を全員が食い入るように聞いており、それに気がついたカオルは照れくさそうに頭をかいた。

 

「あ、実際にみて回ったらいいんじゃないかな? 私の休憩時間に連れていってあげよっか」

 

「うん!」

 

「いいの!?」

 

 ココアの提案に二人が目を輝かせる。

 

「(ココアの休憩時間まで、あと30分もないんだけど……なんにも働いてないんだけど……まあ、お客もいないしな)」

 

「偵察か……気を抜いたら殺られるぞ」

 

「「「リゼ(さん、ちゃん)いつのまに!?」」」

 

 そんな話を厨房で聞いていたリゼが腕組をしながら壁に背を預けながら言った。

 その後、青山にインタビューをしたり、リゼに話を聞いたりしたあとにココアにつれられて、二人はラビットハウスを出ていった。三人が帰ってくるのは夕方ごろの出来事である。




リゼ「ココアたち、遅いな……」

カオル「そうだな。まあ、妹たちの面倒を見ているのだろう」

チノ「これでは私とココアさん、どちらが姉なのかわかりません」

青山「でも、ココアさんらしいと思います」

リゼ、カオル、チノ「(青山(翠)さんいつまでいるんだろう……)」

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