「ほへー想像してたよりも広いなぁ」
間抜けた声を出してしまう。学校の案内図を見て私はそんな感想を抱いた。案内図によると第一校舎は主に教室棟で私たちが試験、面接を受けた部屋があった。
やっぱり国の全力を挙げた魔法教育機関の名は伊達じゃないらしい。
「うーん、こっちは結構単純な作りになってるんだね」
隣でユウがそういった。
「そうだね。あ、第二校舎の方とかすごそう」
「えーどれどれ?おぉ、魔法実験室が三つも!」
魔法実験室か。どんなことをするんだろ?そういえばなんだけどサークリスって平和なんだよね。
私の星は争いのために魔法の発明に躍起になってて攻撃用途の魔法ばっかりが発達していたのに、ここは生活の助けになる魔法みたいなのが、いっぱいいっぱい発達してる。ここもそんな魔法を作り出しているんだったら素敵だな。
私自身使える魔法は人を害するものばかりだから、そういう人の益になる魔法を学べたらいいな。
「行ってみる?」
「うん、行こう!」
第二校舎前まで歩いて進む。ずっと軽いステップ。
「ねぇねぇ、ユウ。ユウはどうして魔法学校に入ったの?」
「えー面接の時に言ってたじゃん殆どその通りだよ」
「あの時は頭真っ白で他に気をくばらなかったんだよぉ」
「えー。なにそれー」
歩きながらユウとたわいもない会話を交わす。こういうのが友達同士のやることなんだろうな。ふふふ、嬉しくなってきた。
「私はね。ただ強くなりたいんだよ。それだけ。そのためには努力を惜しまないつもり」
ユウがそう言った。少し顔に翳りが窺えた気がした。
「フィーネはアレでしょ?食住の安定を求めて」
ふふとユウが笑う。
「そうだよ、今無一文だもん実質」
「へぇーフィーネも大変なんだね」
「ううん、会う人会う人みんなが親切にしてるから全然困ってないや。もちろんユウもね!」
そういうとユウは照れたのか、少しだけ俯いてしまった。
「あっ、昨日の特例試験の子だー!」
この声は!私は声の方へ振り向く。すると、そこには昨日の購買のお姉さんがいた。見ると私たちは購買のすぐ側まで来ていた。
「あ、購買のお姉さん!」
「おぉ、覚えてくれてる。お姉さん嬉しいぞー!今日もここに居るってことは無事合格かな?嬉しい限りだ!うんうん」
な、なんか嵐のような人だなこの人。よーし負けないぞー!
「そうだよ、無事合格。すごいでしょ。それで今は一緒に合格したユウと一緒に校内探検なんだ!」
「へぇ、ユウちゃんね。よろしく。私はリフィー!これから学校始まると思うけど、そこの購買で職員やってます。どうぞご贔屓に!」
リフィーさんっていうんだ。思えば初耳だ。
「ユウ・ホシミです。この度サークリス魔法学校に入学することになりました。よろしくお願いします!」
ユウも快活に返事をした。
「うーん堅いな〜うりうりー!」
「ちょっ、ひゃっ…」
リフィーさんがユウのほっぺたを弄りだす。それにしてもユウの反応あざとい。眼福だなぁこりゃ。うんうん。
私が勝手に納得しているとリフィーさんはユウ弄りを止めて右手の人差し指と中指を合わせてユウに向けて差し出していた。えっなにあれ?
どうすのかなとユウの方を見ているとユウも同じように右手を差し出していた。すると2人は指同士をぎゅっと絡めた。
えっなにこれ握手の派生か何か?
そしてリフィーさんはにっこり笑うとこっちに振り向いた。
「あ、そういえば君の名前を聞いてないや!教えてくれない?」
あ、そうだった。いけないいけない。
「ふふん、私はこの学校を代表する天才になるはずの女フィーネよ!よろしく!」
少しバカっぽいかもしれない自己紹介をするとリフィーさんは君達面白いやと笑いながら言った。
さっきと同じように握手(いや握指っていうべきかな)の構えをしてきたので私もぎこちないながらもそれに応じる。
「そうだ、これ揚げたてのカレーパンなんだけどお近付きの印にあげるね。はい!」
そういうと私とユウに湯気が漏れ出てる紙袋を渡してくれた。
「ありがとー!」
「ありがとうございます!」
しっかり2人でお礼をするとリフィーさんは「じゃあ、仕事があるからまたね」と言って購買の中へ入っていった。
「ね、言った通り元気で面白い人だったでしょ」
「ふふ、本当ね。フィーネと同じくらい」
えっ、私もあんな感じなの?
「あー!言い忘れてたけどユウちゃんもそんな堅苦しくなくって平気だからね〜」
そんなことを考えているとリフィーさんがそう言いながら購買から手を降っていた。
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カレーパン美味しいなぁ。
そう考えて歩いていると第二校舎や図書館、なんだか強力な結界が張られていた大きな演習場を見回り終わっていた。
時間の流れは早いね。
「行く先々、結構剣術学校の影が見れたね。そっちも見てみたいや」
そういえば今も剣術学校寄りの道を歩いている。
「そ、そだねー校章も意識してるみたいだし何より隣だもんねー」
ある知識だけで答える。み、見てないなんて言えない。
「剣術かぁ…そっちもいつか学んでみたいなぁ」
「うげぇ…アレはもういいや。厳しいし疲れるし何より、おぇぇ」
「えっ、フィーネ剣術も学んだことあるの?」
ユウが驚いた顔でそう聞いてくる。
「う、うん。一応…修めるものは修めたかな…うっ…オロロロロロロ」
「へ、へぇーそうなんだ。じゃあ今度時間があるときにでも教えてくれないかな?」
げ、げぇ…そんな返しがくるとは…仕方ない適当にボカしちゃえ!
「う、うん、き、機会があれば…ね?」
「本当?ありがとう!」
えぇぇ、そんな目をキラキラさせないでよ。
「おい」
そうやって苦笑いを浮かべながら歩いていると、背後からドスの効いた声が聞こえた。今日は突然声をかけられることが多い日みたいだ。
振り返るとそこには、金髪を後ろに束ねた若く見えるけど、どこか達観している大人のような女性が立っていた。もの凄い迫力を伴って。そんな眼光は明らかに私たち2人を捉えていて、どこか警戒しているようにも見える。
「お前等は何者だ」
唐突に空気が冷えた気がした。
彼女の纏う張り詰めた雰囲気が一層強まる。少しずつ私の本能が警鐘を鳴らす。敵意のような物を感じ始める。どうしてだ?わからない。だけどこの人多分、強い!
隣のユウを見ると言葉に詰まってしまっているようだった。私も少しパニック気味だ。うーんどうしよっか。こういう時私の星なら…
そう考えると私は独断専行を決意した。
「ッてい!」
風魔法を纏って飛び出す。この星では宣言魔法が主流のようだが、魔法仕掛けのこの体は念じるだけである程度なら事足りる。
「捉えた!」拳に炎を集めて殴りつける。風魔法の勢いと相まって凄い威力が発現されている。
「ッ…」
だが、金髪の彼女はそれをしっかりと片手で受け止めていた。その手には久方ぶりに感じる強者特有の強いエネルギーを感じた。
この人、強い…本気でやらなきゃ!
魔素操作を加えて魔素を掌握する。魔法が上手く出せない今、手法は変えていかないと。
「なんのつもりだ」
そのとき金髪の彼女は静かに、力強くそう言った。有無を言わさぬ様子に私も正直に応じる。
「敵意には敵意を。これ私の常識!」
正確には私の星のだけど。
「そうか、悪かったな。争うつもりはなかったのだが…」
そういうと意外なことに彼女の警戒心や戦意がふっと緩んだ。どうやら私の早とちりだったらしい。反省反省。
「こちらこそごめんなさい」
「いや、気にするな。私も正直慣れている」
やれやれ顏でそういった彼女が話を続ける。
「私はイネアだ。サークリス剣術学校気剣術科の講師を務めている。といっても名前だけの講師だがな。それはいいがいい加減私の問いにも答えてくれないか。お前達は何者だ?」
「私はフィーネ、こっちはユウ!2人とも今年からあっちの魔法学校に通うことになったんです」
ユウの方を指差して紹介するとユウもやっと口を開く。
「私たちはサークリス魔法学校の新入生です。ユウ・ホシミと言います。すみませんここは剣術学校の敷地でしたか?」
「いや、そういうことを聞きたかったワケではないのだがな」
いよいよ話がよく分からなくなってきっちゃったな。
「それはそうと、イネアさんって強いですね」
多分この星で頭一つ二つ抜けるぐらい。
「ガキが。上からモノを言うな。私はネスラだ。こう見えても永い年月を修行と鍛錬に注いでいる」
いや、ほら星規模の話なんだけど…
「ネスラって何ですか?」
隣でユウがそう言った。確かに、何だろう?
「ん?ネスラを知らないのか。まぁ、普通に生活してると縁もないだろうからな。ネスラというのは人間が長命種に分類している種族だ。平均寿命は1200年程で普段は森の奥深くで暮らしている。滅多に人前に姿を見せることはないというわけだ」
「へぇーそんな変わった人もいるんだね〜」
「うん、驚いた。長命種なんていたんだ」
私とユウは顔を見合わせる。イネアさんの方を見ると彼女はなんとも言えないしかめっ面をしていた。
「変わった人か、それを言いたいのは私の方なのだがな。お前等も大概だぞ。正直、我が目を疑っている」
「私達が」
「変わってる?」
「そうだ。お前達は一体何者なんだ?お前達2人からは一切の気を感じれないのは何故だ?生物であるならそんな事は絶対にあり得ないはずだ。しかもそんな特異な人物が2人もいるだと?」
そんな事があるはずがないと断言するイネアさん。私はその発言になんとも言えない恐怖を覚えた。何故それが恐怖だと思ったのかはわからないんだけど。
ユウの方を見ると彼女も彼女ですごい衝撃を受けたような顔をしていた。
「む、2人とも無自覚か。不思議な事もあるんだな。少し調べさせてもらうぞ」
返答も待たずイネアさんはユウの頬に手を添えると何やら集中し始めた。
暫くすると、驚愕の表情を見せイネアさんはこちらへと向き直る。ボソッと「まさかそんなことが…」とつぶやいてもいた。一体ユウの中に何があったんだろう?少し不安だ。
「悪いな」
一言そう告げるとイネアさんはユウにやったのと同じことを私にした。
イネアさんの集中力を肌で感じ始める。
すると急にイネアさんは頭を抱えて崩れ始めた。
「ガアッ…ゲハッ……フィーネお前…」
彼女の顔が途端に色を失い始める。私の中に一体何が?
「大丈夫ですかイネアさん!」
ユウが急いで介抱しようとイネアの元へ駆け寄る。
「ああ、なんとかな…生きた心地はまだしないが…」
ふぅーと息を整えてイネアは続ける。
「すまないが場所を移してもいいだろうか?長話になりそうだ…」
彼女の真剣な表情に私もユウも首肯した。
最近、ユウの影が薄い気がする…書き方の問題かな。考えねば。
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