外に出ると日も傾いて街はオレンジ色をしていた。
「明日から寮入っていいってね」
学校側も大分手厚く接してくれるようで私としても嬉しい限りだ。
「そうだね。居候で迷惑かけちゃってるからありがたいよ」
あら意外、ユウも私と似た境遇なのかもね。
「ねぇねぇ、明日寮に荷物とか置き終わったらさ、一緒に学校探検しない?」
学校が始まるまでに色々見ておきたいしユウとももっと仲良くなりたいからね。
「うん、それいいね!行こう」
「やったー!じゃあまた明日ね」
「うん、また明日」
ユウと手を振って別れた。ふふふ、入学前から仲良くなれそう!ミリアといいユウといい私は結構運がいいのかな。出会う人みんなが親切だ。
早くも慣れ始めつつある道を行く。本当によく出来た街並だ。自分の居た星と比べると少し文明が遅れ気味にも思えるけど、足りないもの必要なもの。それら全てはしっかり魔法で賄われている。もしかしたら魔法文明だけで言えば私の星より上かもしれない。そんなことを考えているとあっという間にレマク邸に着いた。試験や面接で疲れていてボーッと歩いていたのか見上げれば、夜空には星が浮かんでいた。もう夜だ。
「ただいまー」
「おかえりなさいませフィーネ様」
セアンヌさんが優しい笑顔で迎えてくれた。「夕飯を残しております。こちらへ」
「ありがとう!」
彼女に案内されるままリビングの前まで誘導される。セアンヌさんは私の少し後ろについているんだけど、どこかすごく違和感があった。ま、いっか。私はリビングの扉をゆっくり開ける。
パァァァアン!
「魔法学校合格おめでとうございます!」「魔法学校合格おめでとー!」
爆発音と共に祝いの言葉が次々続く。驚いてセアンヌさんの方へ振り返るとセアンヌさんは、いつもより一層優しそうな笑顔で「おめでとうございます」と言った。
状況を察した途端、涙が零れそうになった。出会って間もない私にこんな…!こんな…!友達ってこんなに良いものなんだ!
「何よ、これ…ズルイって」
目尻から小粒の涙を零しながら笑う。笑いも涙も止まらなそうだった。するとミリアが悪戯な笑顔で近寄ってきた。手には、火と光を組み合わせたらしい魔法具の姿が見受けられる。さっきの爆発音を出したクラッカーのようなものだろう。
「ふふふ、学校からフィーネの合格の話を聞いちゃったので待ってました!今夜はちょっとしたパーティですよ」
「ありがとうー!」
ガバッとミリアに抱きつく。
「お疲れ様でした」
ミリアの優しさに直に触れているような気がして、ニヤけてしまう。
ふとテレリアさんの視線に気付いてそっちを向くとテレリアさんはお茶目にウィンクをした。
あぁ、このパーティの発案者はテレリアさんだったのか。
本当にただの居候にここまでしてくれるなんて優しい人ばっかりだ。
「昨日よりも豪華に作りましたからね!是非、召し上がってください」
「ケーキまであるんですよ!」
「うん!うん!ありがとう、ありがとう!」
ワイワイガヤガヤと、たった4人で行う小規模なパーティも気付けば終わっていた。
ふら〜と私は外に出ると二宿三飯の恩義にこの家、レマク邸の敷地全体に私の星に伝わる守りのおまじないを唱える。
「守りの神の願いはここに、永遠に守りの加護が与えられんことを」
守りの神たる私、直々の祈りだ。届かぬわけがない。すると光が念じた範囲一体を包み込んだ。優しい黄色の光が。しばらくそれを見ていると何事もなかったかのように光が消えた。いや、土地に吸い込まれていった。
「-特殊な能力と不死の引き換えに-」
エーナ先輩が言ってた特殊な能力。私には、ハッキリと私の能力はこれなんだと知覚出来た。
私の力は守ることなんだ。あの星にいても、サークリスに来ても、どんな星にいっても変わらずに何かを誰かを守る。それが私の力なんだ。【守護】守り護る力。私が一番望んだ物。
「願った通りになっちゃった」
そう思うとまたまた私は満ち足りた気持ちになって家の中に戻った。
途中、見上げた空は満天の星が散りばめられて煌めいていた。
******************
「これでこの星は保たれる」
「ダメッ、そんな誰かの犠牲の上に成り立つ秩序なんて偽物よ」
「理想だけで何ができる。この何百年とこの星は衰退していってるんだぞ!」
「でも、でも!」
「ううん。いいよ?私がやれば本当にみんな幸せになれるんでしょ?」
「あぁ、必ずな」
「ダメッ、フィーネ!」
「大丈夫だよ。じゃあ、始めよっか」
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カーテンの隙間から洩れる日差しがもどかしくて、私はぐるっと寝返りを打つ。
ガン!高さを付けて落ちた。
「痛ッ!」
勢いよく私は跳ね起きる。なんか懐かしい夢を見ていたような気もするけど全部今の衝撃で忘れてしまった。
ま、夢の内容なんて大したことじゃないもんね。さぁ、今日はユウと学校探検だ!張り切って行くぞ!
少し駆け足で朝食を済ませて荷造りをする。もともと所持品なんてなかったかので大した時間はかからなかった。
「2日間、お世話になりました。完全に不審人物だった私にここまで親切に接してくれたご恩は決して忘れません。ありがとうございました!」
私はテレリアさんに感謝の念を伝える。
「もっと長く居てもらっても良かったのに…」
テレリアさんが私の頬を指でツンツンつつく。なにか、くすぐったさと暖かさを覚えた。
「これ以上、迷惑をかけるのも気が引けますから」
「そんな、折角ミリアが心を開いた友達なんだもの。気にしなくてもいいのに」
「ありがとうございます。お気持ちだけ受け取っときますね」
「ふふ、それじゃあ学校生活も頑張ってね」
「はい!」
「ミリアのこともよろしくね!」
テレリアさんはパチッとウィンクをする。
「それは、任せてください!」
トンと胸を張ってそう言うと、私は部屋を出た。
ミリアとセアンヌさんは玄関まで送ってくれた。
「じゃあね、ミリア。また学校で!」
「はい、またよろしくお願いしますね」
「うん!」
手を振りながら感謝の意で一杯のこの家から一歩外へと飛び出した。また新しい日々の始まりだ!
女子寮に着くと私は純粋に驚いた。原因は新しくて綺麗な3階建の校舎、派手すぎない程度に豪華絢爛な内装だ。
なんでも男子寮にはない、強固なセキュリティにサウナや大浴場、マッサージチェアー付きのリラクゼーションルームと至れり尽くせりだ。
こんな豪華なのは女子の勧誘に力を入れているから好環境を整えたそうだ。女子の特権だね!やったー!
管理人さんに案内されるまま部屋に入る。するとそこには荷物を半分くらいしまい終えたユウがいた。
「おはよー!」
「おはよう。あれ、フィーネが同室だったんだ。知らなかったよ」
「うん、私も知らなかった!」
「じゃあ、改めてよろしくねフィーネ」
「うん。よろしくユウ!」
この後、どっちのベッドを使うかだとか各々の荷物をどこに置くかとかそんな取り決めを簡単に済ませた。言われた場所に荷物(ミリアのお下がりの服なんだけど)をしまった。
「それじゃあユウ、学校探検に行こうよ!」
「そうだね。まずはどこから行ってみる?」
「うーん…第一校舎の中をぐるーって見てみよ!昨日行った購買にはまた行きたいからお昼ご飯はそこで買ってさ」
「言ってた購買ね。なんだか私も楽しみになってきちゃった」
「ふふん、楽しまなきゃ損だよ。ほら行こう!」
私はユウの手を引いて歩き出した。振り返るとユウも楽しそうな顔で私の跡を追っていた。本当に楽しい毎日が始まりそう!
ご閲覧ありがとうございます!
遂にフィーネの能力がベールを脱ぎ始めました。
今回も感想、指摘、誤字報告、アドバイス等お待ちしておりますのでお気軽にどうぞ。