私は今、私の旅の恩人ことミリアさんの家に向かっている。
「通りすがりの私が家に行ってもいいのですか?」
「あ、えっと…そんなお気になさらないでください…私も…落ち着いて話せる場所が、いいので」
とそういうことみたい。そういえば、あっさり服の代金を払ってくれたところかは薄々感じてたけどミリアさんって意外とお金持ちなのかな。進むにつれ街からちょっとずつ高貴な雰囲気を感じるようになってきて、そんなことを考える。
あ、これミリアさんは良いにしても私が落ち着けないパターンだ!あちゃー。
私はミリアさんに付いてさらに足を進める。私の心にあるのはこれ以上格式高くなるな、これ以上高級感出すな、の二つだけだった。やがて私の心の平穏がギリギリ保たれるくらいのところでミリアさんは足を止めた。
「着きました」
はいセーフ。やったね私!
それにしても以前は守りの神だなんだともてはやされてたけど貧乏性なのかな私。守り神フィーネ、プライスレス。
ハッ、シュラハティアも格が痴れるぜ。
いや、はい、調子乗りましたシュラハティアの皆さんごめんなさい。
そんな私の心境など構うものかと、ぐんぐん進むミリアに続き中に入るとメイド服の女性が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、ミリア様」
「ただいま」
「そちらの方はご友人でしょうか」
「……ゆ、友人…です」
あ、言葉に詰まってる。しかも、友人の単語の後にクエッションマーク付いちゃってるねアレ。そうは分かっても友人と言われたのは嬉しいな。よし、この星の第一友人はミリアさんで決定だ。もっと仲良くなるぞー!
「友達のフィーネといいます!」
声を1オクターブ上げて「友達の」の部分を強調して挨拶をした。
多分ミスした、露骨過ぎた。スゴいあざとい。
「そうでしたか!フィーネ様ですね」
彼女は表情をパァッと明るくしてそう言ってくれた。どこがヒットしたのかよくわからないけど、まぁ、いっか。
「彼女はメイドのセアンヌです。セアンヌ、私たちは部屋で少しお話をするのでユーフの準備を」
「かしこまりました」
ミリアさんは軽くメイドの紹介をすると自室があるのか奥の方へと向かっていた。私も慌てて追いかける。
ミリアさんに続いて部屋に入る。ミリアさんが折り畳み式の卓を広げてくれている。
「どうぞ」
言われた通りに座る。そして、私が座るのを確認してミリアさんも腰を下ろした。
「早速、本題に入りたいのですが。フィーネさんあなたはどこから来たのですか?住所と年齢と突然現れた経緯をお聞かせ願いたいのですが…」
うん、もっともな質問だ。だがどうしよう。正直に言うと実年齢は4ケタだし(肉体年齢は16だけど)、違う星からやって来ましたー!なんて話しても通じるとは思えない。
「うーん?私もよくわからないや」
嘘は言ってない。私自身、どういう力が働いてここまで飛ばされたかなんて説明できないし、この街を起点に自分の星の説明の仕方も検討もつかない。
「本当…ですか?」
「……うん…」
「それでは…記憶喪失なんですか?」
「いや、なんか土地勘とか地名に関する記憶、が抜け落ちちゃっててなんであんなとこに居たのかもよく…」
これは嘘だ。ただ真実を告げるのが一概に最善の手であるわけでもないからこれは方便だ。
「そう、ですか…」
困らせせちゃったかな。
「行くあては?」
「ない…かな」
んん?雰囲気に乗せられちゃった。
アレ、なんでここまでシリアスな雰囲気が漂ってるの?
「最後にフィーネさんの年齢を聞いてもいいですか?」
「16だよ!ミリアさんは?」
めっちゃサバ読み!
「私も、16です。…なので呼び捨てで構いませんよ」
「そうなんだ!同い年だね。改めてよろしくねミリア」
「…あぅ、は、はい…」
「ミリアもそんな気兼ねしなくていいんだよ」
「…はい、善処します」
よかった。友達へと一歩前進だ。
お互いにユーフと言われた飲み物に一口、口を付ける。
そしてまた重くなってきた空気の中でミリアが再び口を開く。
「以上を踏まえて考えたのですが、フィーネはサークリス魔法学校へと編入することをお勧めします」
「魔法学校?」
「そうです、ここ剣と魔法の街サークリスが誇る魔法学校。そこなら寮制ですし、食べものと住む場所には困らないかと思います。さっきの騒動の中でもフィーネが魔法を使っているのを度々目にしましたし、まったく魔力がないわけではないようなので…」
ミリアは饒舌になったかと思うと少しずつ語尾にかけて声が弱まってしまっていた。
まだ、距離を感じるなあ。
それにしても、魔法学校かぁ、ワクワクするな。友達が沢山できそう!
「うん、そうする!私はどうすればいいかな?」
「フィーネは自分の魔力値については把握していますか?」
「魔力値?」
「はい、魔素を受け入れる能力のことです。アレだけ強引に魔法が使えるのでしたらまぁ、2000、3000くらいは平気であってしまいそうですけどね。ちなみに役所に行くと測れるようになってます」
そんな数値があるんだ。初めて触れる概念だった。もしかしたら魔法の技術体系も私の星と異なっているのかも。
「わかった。役所に行って測ってみるよ」
「はい、5000を超えたくらいから魔法学校に特待入学の可能性も見えてくるので頑張ってください」
私はミリアに役所の場所を聞くとミリアの家を後にした。ミリアが言うには、2、3日なら私の面倒を見てくれるらしい。通りすがりにここまでしてくれるなんてなんていい子なんだろう。
教えてもらった道を進む。途中、例の服屋の最強店主に出会って再び、重力魔法付きの全力謝罪をしたり、動物が引く車にぶつけられたり、なんかよく分からない魔法具を子供に投げ付けられたり、紆余曲折あったが、なんとか無事に役所に辿り着いた。日が暮れて寂しげな役所の入り口を開けると中では退屈そうな顔をしたおばさんが座っていた。
「魔力を測りたいんですけど」
「チッ、この用紙に名前を書いてくださーい、証明書にそのまま使われるので間違えないようにー」
えっ、舌打ち⁉︎
態度悪いなこの役員さん。私こんなでも神様だぞ。不承不承だけど言われた通りに記入する。
「えーと、では此方の機械で測定してくださーい。諸々の指示は機械音声がやってくれまーす」
「はーい」
「チッ」
また舌打ち!
機械の指示に従って腕輪みたいな筒状の機械に腕を通す。ワクワクする。
ピーッと音がなる。どうやら終わったみたいだ。表示されてる68290と出ている。
「はいはい6万8千ね………えっ?6万8千!?」
あ、この人失神してる。彼女は瞼をピクピクと動いていた。私の才能に驚いちゃったかな?うーん人の意識を奪っちゃうなんて私はなんて、なんて罪深い。いや、なんでもないよ。ナイナイ。
うーんどうしよう…
「おーい、おばさん?」
ペチペチと受付のおばさんの頬を叩く。
反応がない。
「えーーーい」
ちょっと水魔法で彼女の顔を刺激する。冷たい冷たい水だ。
「わっ、えっ、あ、すみません!今直ぐに魔力値鑑定書を発行しますので少々お待ちを」
彼女は目の色を変えて仕事を始めた。もうなんか人が変わったようで動揺を隠せない。
「そんなに高い数値なんですか?」
「高いなんてもんじゃないですよ!こんな数値初めて見ました。恐らくフィーネ様と同格の魔法使いとなると歴史に名を刻んでいるレベルの人間しかいないかと」
へぇーそうなんだ。まぁ、私の半分は魔法で構成されているのだから魔法の資質が無いわけがないんだけどね。
『魔素操作』はこっちでも使えるみたいだから、私を神に仕立て上げたあの無数の魔法の数々もこの体に残ったままなんだろう。
これだけあれば魔法学校入学もなかなか有望だろう。
その後、私はあの受付さんに魔力値鑑定書を受け取るとキラキラした目線を背中に受けて帰路についた。
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「ただいまー!」
声高らかにミリアの家の門をくぐる。
するとセアンヌさんが「お帰りなさいませ」快く家へと入れてくれた。
「ミリアー!私、6万8千だったよ魔力値」
ドヤァと平たい胸を目一杯誇張する。
「えっ、6万8千?」
そう言うとミリアは、手にとっていたクッキーを床に落としてしまった。
ご閲覧頂きありがとうございました。
補足なのですが、フィーネの『魔素操作』はフェバルの能力ではないです。フィーネの能力はもう少し先で出るかと思います。
最後に
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