今回は導入話ということでオリ主のフィーネを全面に押し出して書いています。ユウがでるのはもう2、3話先と思いますがご理解を。
それでは作品の方をどうぞ!!
第1話 星の守り神
神が人々を創ったのではない、人々が神を造ったのだ。
少なくともこの星、『シュラハティア』ではそう言い伝えられている。
この星の人々は絶えることなき戦火に疲弊し、縋り付くような思いで魔法や禁呪、科学技術、それに関する知識を元として数多の犠牲の上に、ある一人の少女を神へと転化させた。
人々はその少女に平和を、安寧を、そして秩序を求め、その少女は民草の望みを叶えるべく神として成長を重ねた。
やがて、戦乱の時代は終わりこの小さな星、『シュラハティア』は惑星の歴史で初めての平和が訪れた。
人々は至る所で少女を祀り、少女に祈った。
長き眠りにつき、星を悠久の時とともに見守る定めとなったその守り神に感謝と敬意を持って。
その守り神の名はフィーネといった。
以上が神話『シュラハティア創世記』の一説である。
神話同様、依然としてフィーネという少女は守神としてシュラハティアを守り続けている。
かの星で新しい暦が始まって幾星霜。
誰一人として彼女の孤独には気付くことなく。
その平和は続いている。
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夢を見ていた。とっても楽しい夢。それはずっと昔のことのようで、でもこれから先で起こるような、そんな気がする不思議な夢。
夢で私は、私より少しだけ背の高い男の子と見たこともないような場所を冒険して、たくさんの優しい人に出会って、色んな景色を見て、一緒に笑っていた。
あぁ、いいなぁ……
思い出すと今とのギャップに悲しくなってしまう。
自分で見た夢なのに羨むなんて変わってるかもしれない。
そんなことを考える。でも夢ぐらいしか楽しみのない私はきっとどこか壊れてしまっているのかも。
全く、無敵の守り神が情けない。
誰かがそう私に告げた気がした。
でも、夢の中の私は楽しかった。少なくともこんな所で停滞してしまっている私よりはずっと輝いていた。
はぁ、本当、なんで神様になんてなっちゃったんだろ…
今になってちょっとだけ後悔をした。
心中で深々と溜息をつく、息を八分ほど吐き切ったぐらいそんなときだった。
星に繋がる地脈から私へ向けて妙な緊張感が走った。
異変の知らせだ。久しぶりの仕事の時間みたいだ。
異変の原因は少しずつ、ここへと近づいてくる。
それに合わせて私の肉体が再び時を刻み始める。
微睡みの世界から一歩、また一歩。
風の音が聞こえる。
聴覚が戻ってきた。
また一歩。
森の匂いが鼻を抜ける。
嗅覚が戻ってきた。
また一歩。
眩しい光が瞳を突き刺す。
完全に目が覚めた。
「んーおはよう!」
久々の外だ。元気を出そう!
伸びをしながら広く辺りを見渡す。ここは『星の要』だ。辺り一帯に鬱蒼とした木々が広がり、風の音と木々のざわめき以外は何も聞こえない閑散とした場所。そして星の守り神たる私、フィーネを祀る為の大樹『世界樹』の聳える神佑地だ。
ここで星の守り手たる私は悠久の時を眠り、時々意識だけ目覚めては星の営みを見守る。そして更に極稀に、どうしようもないくらいの星の危機を感じると今のように肉体ごと完全に覚醒する。
現にこうして私が目を覚ますのは眠りについて以来4度目だ。
こういう小難しいお勤めもなんとも私には向いていないのに、なんて日々思うんだけど…
「こんなんでも神様始めちゃったからなぁ…」
周りを見渡せども何一つ、いつもと変わらない空気だったので少し肩の力を抜く。
危険因子の影響はまだまだ微々たるものらしい。
とりあえず安心した。ほっと一息。
遠くへと向いていた視線を少しずつ自分の体の方へと戻す。
「くっ…寝る子は育つって誰が言い出したんだろ。殴り倒しに行きたいな」
足の付け根まで伸びた茶髪、生まれたてのように真っ白い肌、女子としては平均的な背丈、それに全く伴わないどころか一向に成長が見受けられない胸部。生まれたままの一糸纏わぬ自分の姿を見て嘆息。
「あなたがフィーネ?」
突然声をかけられた。少し驚いてたじろぐ。声の方向へ振り向くとそこには黒い杖を携えあたかも魔女のような服装をした金髪の女性が立っていた。
「そうだよ」
「そう」
魔女のような女性は短く言葉を切る。
「-------」
彼女が何かを呟く聞き取れなかった。が、反射で私はそれを何かと理解する。魔法だ。その認識とほぼ同時に風の刃が9本私に向かって吹き荒ぶ。
「もうッ、散々なご挨拶なんだから!」
これでも神様だぞ!礼儀を少しは弁えろやい!
私は身を捩って一番速い風の刃を躱す。続け様に残りの刃に相手と同じ要領で生み出した風をぶつけて相殺する。
「そんな格好して魔女みたいって思ってたけど。まさか、いきなり襲ってくるなんてね」
「全裸のあなたに私の格好がどうとか言われたくないわよ」
「しょうがないじゃん!」
私の意思じゃないし。世界樹に異物は持ち込めないんですー。心の中で弁明、いーっと舌を出す。
「それで、貴女は誰で私になんの用なの?どうせ貴女も真っ当な人間じゃないんでしょ?」
私が起こされるくらいだもん。この星に危機認定された人物なんてまともじゃないに決まってる!
「へぇ、察しがいいじゃない。もしかしてあなたフェバルと関わりでも持ってるの?私はエーナ、フェバルよ」
「フェバル。フェバル?なにそれ、聞き覚えがないよ?」
「えっ、そうなの?ふーんますます不思議ね。それじゃあ教えてあげるわ。
フェバルっていうのは星々を渡り歩く定めを負った者。彼らは特殊な能力と不死という体質と引き換えに永遠にその義務を負う。何千年でも何億年でも。その間ずっと宇宙を彷徨うの」
エーナは険しい表情でそう語ったけど、私に芽生えた感情は全くそれにそぐわないものだった。
「星々を渡り歩くの⁉︎なにそれ楽しそう!」
素直な感情だった。こんな閉塞的な星に永遠に縛られる私なんかよりフェバル達の方がずっと輝いているように聞こえた。
住めば都っていっても限度があるよね、そりゃ楽しかったよ最初の300年くらいはさ、でも2000年近く住んだ都なんてもう早く滅んで欲しいぐらいだよ!
遷都しろー!都落ちじゃーい!
「そう…楽観的なのはいいことよね。でもよく聞きなさい!色んな星の辛い様子を見ていかないといけないし、何より一生開放されない、救いなんてないのよ!」
エーナの声は少しずつ大きくなっていた。自らの運命を嘆くかのように。でも、それでも私の思いは変わらない。永遠にこの星に縛られるくらいだったら星々を渡り歩いた方が楽しいに決まってるじゃん!
エーナの話は続く。
「そして、一つ忠告よ。あなたももう直ぐフェバルとして覚醒してしまう。そうなってしまうと救いなんてないの、だから私にあなたを殺させて」
なんて、ひどく切なそうにエーナは言うけど、私の未来がやっと輝き始めたんだ。エーナの思う通りになるなんて堪ったもんじゃないよ。貴女の苦労なんて知ったことじゃないんだから。
「ごめんね。私、もうフェバルになることに希望を抱いちゃったから」
「そう…。それなら仕方ないわね。力づくで殺らせてもらうわよ。あまりフェバルをナメないことね」
そう言い放ちエーナは魔法の詠唱を始めようとする。その表情や一挙手一投足から本当に私を殺めようとしてるのが通じてくる。
そこには私をその力で殺すのは当たり前で、どうしたって私じゃ彼女に及ばないのだと、それがフェバルの実力なのだとそういう前提を感じがあった。
ナメてるのはどっちよ。この星の事情も知らない部外者のクセに。
貴女は今、何と相対してるかってことを教えてあげる。
「魔素操作《許容性擬似調整》」
「エッ、魔法が発動しない?」
「《エアリアル》」
暴力的な空気の流れが一身にエーナを殴りつける。
「ガハッ…」
衝撃を受けエーナが吹き飛ぶ。彼女の体は木を3本ほどへし折った所で止まる。
「《グラヴィット》」
加重力魔法でエーナを動けないように圧迫する。
「口程にもないね。差し詰め非戦闘型といったところ?」
「……何をしたの、あなたは」
強い驚きをの籠った声でエーナが問いかける。
「エーナの取り込める範囲にありそうな魔素の流れを操作してそこら一帯から魔素を奪ったんだよ」
私の周りに濃密に漂う魔素を結晶化させて見せる。
「そ、そんなの人間技じゃないわよ!フィーネ、あなた本当は何者よ?」
「何者か、ね。難しい質問だね。うーん、この星の人だったら私のことを『神様』って呼ぶかな。部外者風に言うなら『異常生命体』」
「へぇー、私とんでもないものを相手にしてたのね。飛んだ皮肉ね【星占い】の能力使いの私が一番、運が悪いなんて。全く、星海ユウも仕留めそこなっちゃったし自信なくすわよ本当ッ!」
「そう、ごめんねエーナさん。別に貴女を害する気はなかったんだよ。でも、私はどうしてもずっと縛られてきたこの星から飛び出したいから…」
「いいわよ別に。でも、フェバルになったってどうせ縛られてるのは変わらないわよ。その内あの時死んどけばって思っても知らないわよ」
「うん、ありがとう。大丈夫だよ。じゃあね、また逢える事を祈ってるよエーナ先輩」
きっと彼女はまだ戦えるのだろうけど結局、私の考えを尊重してくれるみたいだ。彼女からはもう戦意を感じない。非道になれない甘い人。きっと根が優しいんだろう。手を掛けてしまう手前勝手なことは言えないけど、心中でありがとうと囁いて– –
– –私は彼女を消し飛ばした。
最期は一流らしく無詠唱でただただ暴力的な量の魔素をエネルギーに変えて彼女にぶつけて。
トドメを刺すとエーナは光となって虚に消えた。
殺したくはなかったけれど、これはこの星の守り神としての私の責務だ仕方がない。
刹那、私自身の体にも光が溢れてくる。本能的にこの星と別れる時なのだと感じる。
じゃあね、私の星。
思い入れや昔の記憶とか色々しがらみは残るだろうけど、私はここから旅立つよ。
「せめて、1日でも長くこの星の平和と安寧が続きますように」
守り神として、せめてもの祝福を与える。これでこの星と私の関係もようやく終わりだ。私の、私だけの旅がこれから始まる。期待に胸を膨らませ私は光の流れへと身を委ねた。
かっこいい感じだしてるけどこの間、主人公全裸です。
誤字報告、アドバイス、ご指摘等ありましたらお気軽にしてくださると嬉しい限りです。