IS~人柱と大罪人~   作:ジョン・トリス
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第七話


フラッシュ

時には立ち止まる事も必要よ。
道が分からなくなったら無理をして進むことはないの。ゆっくりと考えなさい。貴方にはたくさんの時間があるのだから。



























----フラッシュ----



























「また俺の勝ちだな」

「むぅ・・・」

テレビ画面にはYOU WINの文字。
その手に持つはコントローラー。
片やガッツポーズを取り、片や項垂れている。

「お前たちも懲りんな」

さらに片や、お盆に麦茶を4つ乗せ運んでいる。

「当然だろ箒!これは男同士の真剣勝負だ!」

格好のいい事を言ってはいるが、彼等がしているのはただのテレビゲームであった。

『起動少女初春』

ゲームのタイトルである。

「いくら二人が戦えなかったとは言え、何もテレビゲームで決着をつける事はないだろう」

箒の言う事は正論ではあるが、男子たるもの勝負の方法は関係ないらしい。先程からかれこれ2時間はゲームに興じている。箒が麦茶を運ぶのも既に6回目となる。

「「箒!麦茶!」」

「・・・はぁ」

呆れながらもちゃっかり麦茶を配る箒の女子力と言ったらなん足るや。

先程麦茶の数が4つと言ったが、それはもう一人この場に居る事を表していた。

「私にもやらせろぉ~!」

二人の戦いが終わる度に秋終からコントローラーを奪おうとする茜が其所に居たのだ。毎度秋終に華麗な鼻フックを決められて撃退されてもめげずに立ち向かうその姿は、きっと見る者に勇気を与えてくれるに違いない。

「うっさい!邪魔すんな!」

「フンゴォ!?」

無慈悲な二本の指が的確に茜の鼻へと吸い込まれ、到底女子が出さないような悲鳴を上げのたうち回る。

「・・・はぁ」

箒さん、二度目の溜め息。

最近この二人のやり取りに妙に馴れてきたと箒は思う。
良いコンビだと思い、同時に少し羨ましくもある。
一夏と自分は幼馴染みだが、あの様に馬鹿をやる関係ではない。時々アホなことを言う一夏に対してツッコミを入れる事はあっても、二人とはどこか違った物だ。
そしてそれは一夏も考えていた事でもあった。

流石は幼馴染み、考える事が一緒である。

「二人ともどうしたの?」

そんな二人の切なげな顔を察したのか茜が鼻血を垂らしながら声を掛けた。
ポタッ、ポタッと確実に・・・しかしゆっくりと秋終と箒の部屋のマットに染みを作っていく。
これに気付いた秋終が再び茜の鼻に指を突っ込む事になるのだが、それは後の話である。

「いや・・・羨ましくてな」

「羨ましい?鼻フックが?」

「違う。それじゃない」

茜のアホ発言に対して珍しく冷静に突っ込む一夏。

「一夏もか?」

「箒もなんだな」

二人は思わず微笑んだ。
同じことを考えていたのだと。

「二人の関係が羨ましいと言ったのだ。そんな様に馬鹿をやれて・・・・・・私と一夏ではそうはならないからな」

「なら良かったね!」

「「良かった?」」

「うん。だって私と秋終が居れば二人も馬鹿出来るでしょ?」

まるで当然と言わんばかりに茜は笑顔でそう告げた。

「「・・・」」

何処か疎外感を感じていた二人にとってその言葉は青天の霹靂であり、驚いた表情を見せたが直ぐに

「そうだな」

「ああ」

頷き笑みを浮かべた。
共にいた時間こそ多くはないけれどそれでも、もこの瞬間だけは何にも負けない絆が四人を結んだのであった。

































そしてその良い雰囲気はもう暫く続いた。

部屋の至る所から「ウフフフフ」と気色の悪い声が聴こえんばかりの時を刻み、程なくして

「・・・あっ」

茜が声を上げたのだ。

そして何やら一夏と箒に目配せをしたかと思いきや

「「「・・・」」」

不意に皆が一斉に秋終を見た。

「ねぇ・・・秋終」

「何?」

「「「おめでとう!」」」

三人がまるで打ち合わせでもしたかのように声を揃えて言う。それはクラス代表に就任した事への賛辞であり、祝福であり、何より秋終が行った事への肯定であった。
彼等は気付いていたのだ。
茜は理由を知っていたし、一夏と箒に関しては知る筈もなかったのだが、それでも何となく察していた。
秋終のISに対する感情を。
だからこそ肯定したのだ。
それで少しでも心が晴れるならばと。
こうして集まった本当の目的は其処にあった。

「お祝い会の時に言わなかったのはこのためでしたー!どう?感動した!?」

「うっさい!」

「フンゴォ!?」

鼻フック炸裂。

「はぁ・・・」

箒さん三度目の溜め息であった。





----





それから暫くして秋終は独り寮の外で黄昏ていた。
その顔は何処か嬉しそうでもある。

「・・・乗って良かったのかな」

思い出すは先程の三人の言葉。

ーーーーおめでとうーーーー

その言葉がやけに心に響いた。
クラスの皆に言われた時よりも深く響いたのだ。

「何でこんなに嬉しいんだろう」

あれ程ISに乗ることを忌み嫌っていた秋終だが、その心には確かに満ち足りた物があった。

「あれー?なぎなぎだぁー」

そんな風に感傷に浸っていると、寮の入り口の方から声が聞こえた。
何処か間の抜けた様な軟らかな声。独特なアダ名。揺れるおっぱい。

「この声は・・・」

そう、布仏本音その子であった。

「やっほー」

通称のほほんさん。
その風貌と性格からそう呼ばれているのだ。
ちなみに余談だが、1組巨乳枠のダークホースでもある。

「おっぱ・・・コホンッ。のほほんさん。」

「今何か変な単語が聞こえたんだけど」

「え?き、聞き間違いだよ!」

危なかったと秋終は内心溢す。
いや、ジト目で睨まれているのでセーフとも言い難いのだが。

「そ、それで?どうかした?」

なんとも露骨な話題の変え方。
もしこの場に茜が居れば、

「下手スギィー!!!うひゃっひゃっひゃっ!!!」

と全力で煽りに来たであろう。

「・・・セクハラだよ?」

「あっ、ハイ。すみませんでした!」

秋終の素直な謝罪を受け、その表情が幾分か和らいだ様に見えたが・・・

「何か良いことでもあったの?」

「何で?」

「すごく嬉しそうな顔してたよ~」

「そっか。・・・まあ、ちょっとね」

「ふ~ん。・・・・・・『渚くん』はさ、この話知ってる?」

「え?」

和らいだ様に見えた顔が無機質な物へと変わった。
発する音も、何処か冷たく感じる。

「幸せになれる人の数には絶対数があるんだって。そしてそれ以上の人達は幸せにはなれないの。だから幸せじゃない人達は幸せな人達を蹴落として、その枠に入らないといけない。誰かが幸せになった分、他の誰かが不幸になる」

「・・・何が言いたいんだよ」

「『渚くん』はこの話の意味・・・分かる?」

何故彼女がこの話をしたのかは分からない。だが、意味は分かった。秋終もまた、その枠を奪われた側だったからだ。

「・・・分かるよ。嫌って程によく分かる」
秋終がそう答えると、彼女は一瞬驚いた顔をしたが直ぐに笑みを溢して、

「そっか・・・分かるんだ。変な事言ってごめんね」

謝罪を告げた。

それからの布仏本音はいつも通りの彼女であった。
ニコニコと秋終の話を聞き、時々心を抉る様なエグい発言を咬ます、先程の冷たさは微塵も感じられなくなっていた。

そうして他愛のない会話をして幾ばくかの時間が過ぎた頃。

「ねぇ、なぎなぎぃ。そろそろ寮に戻った方がいいよー」

時計を見れば時刻は19時を回ろうとしていた。
まだ夕食も食べていないし、シャワーも浴びていない。
シャワーはともかく食堂が閉まっては、ご飯抜きとなってしまう。育ち盛りの男の子にとって、それだけは勘弁願いたい物なのだ。

「そうだね」

頷きその場を後にする秋終。
そんな秋終の背中を布仏本音は、無機質な表情で見送るのだった。









続く






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