とある中佐の悪あがき   作:銀峰

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___大きらい、なんだ。

自分がフラナガン機関の研究材料だったこと。

別に研究材料と一言で言っても、人体解剖や脳を弄りまわされたりはしてないらしい。

 

「らしい?」

 

「そう。らしい。私研究所にいたころから後の記憶しかないから」

 

「・・・どうしてか聞いていいのか?」

 

「だから良いよ気にしないで、直ぐ終わるから」

 

気にするだろうと言いたかったが、話の腰を折りたくなかったので、黙って先を促す。

どうやら記憶が無いのは彼女の心の問題のほう・・・なんだそうだ。

 

「訓練が嫌に成ったとかそういうことじゃなくてね」

 

「私の性格って結構臆病だったみたいなんだよね」

 

訓練の方は、ビット操作や機体の操縦に耐えるための基礎体力訓練だったそう。

 

「私の体いくつぐらいに見える?」

 

急に手を軽く広げ、体をこちらに向けてきた。

女性の年齢をあれこれ言うのは、タブーだという言葉が浮かんできたが、素直に答えた。

 

「・・・中学生くらいか?いまはそうは見えないが」

 

「そう中学生。中学生ぐらいの女の子が、しかも臆病な子が突然、連れて行かれて軍事訓練の真似事をやらされたんだ」

 

「・・・」

 

「一応訓練自体は全員一緒でそんなに厳しくはなかった・・・という話らしいけど」

 

まぁたしかに、中学生ぐらいの女の子がいきなり知らない所に連れてこられて、あれこれやれ見たいなことをいわれたら困惑するのは当然だろう。臆病な子ならなおさら。

しかも同年代の相手がいなかったらしい。

頼れる相手も無く、友達も居らず、訓練ばかりの日々、よっぽど堪えたんだろう。

そこまで考えてふと気づく、

じゃあこの目の前に居るこの少女はいったい・・・?

 

「・・・・」

 

「じゃあお前は誰なんだっていう顔してるね。私は正真正銘本物のクーディ・アルミストだよ。体だけね」

 

「・・・体だけ?」

 

「そう体だけ」

 

そう少し微笑み、体を壁にくっつけて目を俺から外す。

その壊れけたエルメスを眺める目は、嫌悪?・・・それとも、後悔?

 

「そこの最後に写ってる一文に、クーディ・アルミスト曹長を搭乗させ、最終実験を実施って書いてあるよね」

 

「・・・あああるな」

 

薄暗く光るモニターにもう一度眼を向け、確認する。

最終テストは本日一一○○に開始予定である___

この後の記録は無い、多分この後に何かがあったんだろう。

こうなるような何か

 

「ここらへんはぼんやりだけど、覚えてる。その時点で彼女の心が結構、限界だったみたいでね。擦り切れかけていた彼女が・・・妄想、とでも言うのかな。頼れる存在を欲した少女が、自分を守るために生み出した。都合のいい幻想」

 

「・・・それが今の君だと?」

 

「そうなるのかな?」

 

そう言って肩をすくめて、よくわからないといったジェスチャーをしてくる。

動作こそ軽いものだが、表情は何処かぎこちない。

 

「正直、頭がどこか壊れてるんじゃないかと笑われても仕方がないけど・・・一応言っておくね」

 

「信じるさ」

 

「・・・どうして?ただの頭のおかしい子供の戯言かもしれないよ?」

 

「理由が必要か?一つ。大人びすぎていること」

 

その程度なら。と反論してくるクーディを手で制して続ける。

 

「二つ目。戦いに出て行った時落ち着きすぎている。艦橋が、というか艦橋だけが破壊されてるサラミス級があったな。直接その現場を見てはいない推測だが、あれは近くに接近して直接ライフルを撃ち込んであった。新兵であんな真似はできない」

 

教本では、まず戦艦などの船は懐に飛び込んで、敵が反撃できない位置から破壊するのがベストと書いてあるが新兵はそんなことはできない。

普通はビビッて、遠くから撃って破壊していくものだ。

それがあのサラミス級は艦橋だけを狙って撃っていた。

一般機のゲルググでそんな長距離射撃はできないし、あの艦橋の窓の割れ方は細い孔が開いているだけだった。遠くから撃ったならああはならない。

ビームがライフルから出て、目標に当たるまでに多少は拡散していき、近くで撃った時よりはるかに孔は大きくなるのだ。

到着したとき沈黙しているサラミスにまったく外傷が無いのが気になって、帰りにちらりと確認してきた時に見つけた。

 

「・・・あれは研究所で__」

 

「研究所で訓練したから?違うな。さっきおまえ自身が口を滑らせたこと___」

 

彼女の肩を両手でつかんで、その小さい体を回転させる。

 

「なにを__」

 

「首。厚くない」

 

抗議の声が途中でぴたりと止まる。

実戦なれしている?研究所で訓練した?

モビルスーツに長く乗っていると首の皮が厚くなる。

それは操縦時にかかるGに耐えるために使うのは、どちらかといえば首が一番負荷がかかる。

その影響で首がえらく厚くなるのだモビルスーツパイロットというのは。大なり小なり。

 

「じゃあ。なぜあんなに訓練してないのにできたのか?それはおまえが、いろいろな事に耐えかねてるクーディが精神的にどっしり構えてまったく動じないよな、そんな自分の理想を具現化したものだから。元のクーディの相談役みたいな事もやってたんじゃないか?」

 

「・・・・」

 

多分図星だったのだろう、黙り込んでしまった。

その姿を見てはっとする。

すこし熱くなりすぎていたかもしれない。

でもなぜこんなに熱くなってしまったのか・・・

頬をぽりぽりと掻きながら、考えるが・・・うーん。

とはいえこのままではあれなので、ずらしてしまった話の軌道修正を試みる。

 

「まあ。これは想像で合ってるかはわからないからな。すまん話の腰を折って続き、聞かせてくれないか」

 

「っ・・・そうだね」

 

振り向き、前の事を無かったかの事にするように話を再開する。

振り返りこちらを見てくる瞳は・・・かすかに潤んでいる?

 

「彼女が別その日付の日の午前中、急に呼び出されてこの機体に乗せられたんだ・・・乗せた後何処かに移動しているみたいだった」

 

「・・・」

 

「特殊なノーマルスーツを着せられてね。あの青くてきれいな球からふつふつと出てくる四角い的を打ち落とせって言われて、その通りにした」

 

青くて綺麗な球?出てくる的?何のことなんだ。

青い球・・・青い球・・・もしかして地球か!?

ならたぶん、出てくる的というのは連邦の攻撃艦隊だろう。

実験と実益を兼ねて上がってくる連邦軍を叩いたのか、それなら打ち上げ中の事故として片付けられるし、打ち上げを阻止しようとする部隊も居たはずだから、ビットの事がばれる心配も無い。

エルメスの存在が露出しない様にするには、相当の遠距離からの攻撃が必須なはずだが、劇中でララァもそんな事をやっていたし、たぶん可能なのだろう。

 

「それをやるだけで何か頭痛みたいな痛みが走っていたみたいでね。痛かったけど、訴えても意味がない気がしたからいわなかったんだけどね。でもそれ以上に気になったのはその実験の途中で、四角い的を破壊するたびに何か変な声がするんだ」

 

「声?」

 

「そう声。鮮明に言葉となって聞こえたわけじゃなかったんだけど、表現しがたいナニカ。強い感情の塊というのが近いかな」

 

「・・・」

 

頭にいろいろな波が流れ込んできて・・・苦しかったんだろうね。

必死にもがいてたそれを見ていられなくてね。彼女の辛さが少しでも和らげばいいと抱きしめようとした。

でも所詮は妄想の中の存在。必死に手を伸ばしたけど・・・ははっ想像の手が、届くわけ無いよね。

 

私が手をこまねいているうちに、彼女はどんどん息が荒くなって頭を抱え込んで・・・その後はあんまり覚えてない。

聞いた話だとその後は収納していた予備のビットがいきなり暴走して半壊。

今の状態に成ったらしいよ。

 

 

 

 

彼女はそう語り終えて、ふうと軽く息を吐いた。

なるほどエルメスのこの状態は、そういうことだったのか。

だがその話だと彼女がなぜこうなったかの話が抜けている。・・・・予想はできる気がするが・・・・

俺の言いたいことを察したのか、こちらを向いて続けてくる。

 

「私がこうなったのは彼女、本来のクーディ・アルミストが限界を迎えたから」

 

「限界?なにの」

 

「いろいろな、さ。彼女の人格は何処かに姿を消して、なぜか代わりに出てきたのが作り物の私・・・」

 

「・・・」

 

「彼女の居場所を奪って、何故かここにいる。私は、最低だよ・・・」

 

俯いて拳を握り締めるクーディ。

きっと元の彼女に戻れるようにいろいろやっては、みたのだろう。

それでも駄目だった。

きっと今彼女は本来の彼女に対しての後悔か懺悔で一杯なのだ。

だからこんな顔をする。

でも・・・

 

「それでも!お前のおかげで元のクーディがすこしでも救われたなら・・・頼ったのがお前だったんだろ!?」

 

「・・・救いなんかじゃないさ。私が出てこなかったらこの後にある戦後の人生だってきっと普通の女の子として楽しんでいたんじゃないかな」

 

「それはもしもだろう!必ずしもそうなると決まっているわけではないだろう!?悪くなる可能性だって__」

 

「私が出てきたから!そのもしもすら彼女から奪ってしまった!彼女の明日を!未来を!」

 

っ!

俺の言った言葉が彼女の触ってはいけない琴線に触れたのだろう、俺の言葉を遮ってきた。

襟を掴んで力をこめてくる。身長的が俺より低いので、足が付いていない。

そのせいで踏ん張れないのだろう。掴む力は少し弱かった。

それでも俺は思いっきり殴られたたかのような衝撃を受けた。

必然的に近くなった顔を見る、彼女は泣いていた。

 

「私にはどうすることもできないんだ!」

 

「・・・っ!」

 

「彼女に謝ることも!謝るだけで戻ってきてくれるなら何度だってするさ!何なら土下座だってしてもいい!それでも彼女は戻ってきてはくれない!!」

 

「・・・」

 

「ユーさんにわかるかい!?この喪失感!救いとして作られた存在が!頼ってきた人すら救えずに!挙句の果てにはその人の人生まで台無しにした!!」

 

「・・・・」

 

「・・・私は、どうしたら良いんだ・・・」

 

最後にぽつりと言葉を吐いて俯く。

その姿は今にも消えてしまいそうなほどに、脆く俺の目には映った。

 

「・・・ぁ・・・っ・・・」

 

そんな彼女に声を掛けようとするが言葉が出ない。

何を言えばいいのか、分らない。

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

その姿勢のまま薄暗い格納庫内が静まり返る。

何もしゃべらないまま、時間が過ぎる。

その時間が俺には、とてつもなく長いものに感じられた。

いや、実際には数分ぐらいだったのだろう。

彼女は、顔を上げて、こちらを見つめてくる。

 

「・・・ごめんね。変な話して・・・」

 

嗚呼。変わってない。初めにあったときからなにも。

話を聞いていて、ようやく分った。

 

彼女は自分が、嫌いなのだ。

彼女のために何もできなかった自分が_

 

「先に__」

 

でも、それでもここにいるお前は_

 

「戻ってるから」

 

嗚呼。良く分った。俺はこの少女が、クーディが_

 

「・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___大きらい、なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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